キミの匂いがする風は 緑

      *後半回想部分に、
       微妙ながらR指定に相当しそうな表現が続きます。
       そこからは自己判断にて読み進みください。
     


         6



    前に来たときも そうだっただろか、
    いやいや、案外と早く帰宅したんじゃなかったか。
    花の種類も多く、あちこちと観るところも多かったその上、
    それらへ見入るブッダへ、
    すすすと寄って来ては 赤くなるよなお惚気もどきを囁く、
    性懲りのないイエスだったりもしたせいか。(おいおい・笑)

     「何か いい時間になっちゃったねぇ。」
     「うん。」

    遊園地でもこうまで堪能出来たかどうか、
    充実した観覧でしたと胸いっぱいな心持ちにてゲートを出た頃合いには、
    ずんと長くなったはずの陽が、
    それでも夕方を思わせる色合いで早くも傾き掛けていて。

     そういや雨催いになるとか言ってたから それでかな。
     いやいや、結構いい時間だって、と

    こんなはずではと言いたげなブッダのお声へそうと応じてから、
    あまりのいい陽差しに負けてのこと、
    途中に売店で買ってしまったキャップを団扇代わりにしつつ、

     「でも、凄い楽しかったぁvv」

    にっこり微笑うイエスの言へは、さすがに同感しきりだったか、

     「そうだねvv」

    ブッダも ふふと口許ほころばせ、そのまま眸と眸を見交わして。
    来たときとは逆向き、バス停に向かっての道を辿ることとなり、

     買い物して帰るの?
     そうだね。何か食べたいものある?
     う〜ん、すぐには思いつかないなぁ。

    あ・でも、暑いから揚げ物は辞めとこうねと、
    それは朗らかなお顔で言い立てるイエスなのへ。

     「……うん。///////」

    食べるのがというより作るのが大変だろうからと
    気遣ってくれたのがありあり判って…くすぐったくて。

     “これだから…。///////”

    どんな至らぬことをされようと、あっさりと許せてしまうのだと。
    ついのこととて口許や頬がほころんでしまうのを、
    我がことながらも“甘いよなぁ”と実感しておれば、

     「…あのね?」

    同じように帰宅の途につくお人が間近に何人か居合わせる中だからか、
    ちょっぴりひそめられた声で囁いて来るイエスであり。
    すぐのお隣りからのそんな内緒話モードへ
    “んん?”と小首を傾げつつ視線を振り向ければ、

     「今日はごめんなさい。」
     「? 何が?」
     「だからあの、
      私ったら、ちょっと調子に乗ってたというか。////////」

    おやおや、自覚あってのあの絡みようだったのかと、
    ブッダがその双眸を やややと見張ってしまう。
    さすがに悪ふざけが過ぎたと、
    聖なる御心が黙ってはおれなくてのこと、
    懴悔ではないが、自分から白状しちゃったイエスであるらしく。
    お出掛けとあって浮かれていたのだろと酌量し、
    わざわざ叱るまでもないかと思っていたほどのことだけに、
    可愛いなぁとの感慨から“くすす”と苦笑するばかりなブッダであり。

     「うん、ちょっと羽目を外し気味だったかな?」

    そんなことはないというフォローも白々しいかと、
    苦笑混じりに そう応じれば。
    あやや…という含羞み半分、肩をすくめる様子が、
    この男ぶりでやるからこそのギャップが出てか、
    ますますのこと微笑ましくて。
    口許ほころばせ、問題はないないと見やっておれば、

     「だって…ブッダってば気づいてなかったから。//////」
     「? 何に?」

    聞き返すと“ほらやっぱり”と、
    今度は薄い唇をやや尖らせ、
    もうもうもうという仄かな焦れったさを覗かせて。

     「バラ園では
      アーチのつるバラが キミへちょっかいかけてたし、
      お昼を食べたカフェでは
      足元にいたスズメが懐いてたでしょ?」

     「……☆」

    言われるまで気がついていなかったのも事実だが、
    そんなこんなへ彼なりに焦れての
    それでの所業だったとは想いもつかなんだものだから、

     「あ…えと、そそ、そうだったんだ。////////」

    お出掛け中とあって、ちょっぴり羽目を外していただけだと、
    それゆえの悪戯心からのものと思い込んでたブッダとしては。
    ホントの原因とやらをあらためて知らされ、
    ありゃまあと意表を衝かれるばかり。
    とはいえ、

     「もうもう、相変わらず自覚ないんだもの。」

    人の気も知らないでと、つーんとそっぽを向かれてしまうと。
    そこは 口許にお髭もあろう 結構な偉丈夫の所作だけに、
    近づきつつあるバス停に立っていた、
    高校生だろ制服姿の女の子たちが、
    互いに肘でつつき合い、ほら見て見てとこそこそ注目して来るのが
    今度はブッダにとっての“やれやれ”と来る現象だったりもして。

     “これもまた、お互い様なのかなぁ。”

    素敵な人だものしょうがないと、内心にて吐息つきつつ。
    口を利き、自分から近づくことも出来る
    そんな“お花”たちから懐かれることへこそ、
    是非とも自覚してほしいものだと痛感しておれば。

      ♪♪♪♪♪〜♪♪、と

    風の中に聞こえたのは、いつものイエスの子守歌。
    知らないもんねというお顔は大仰な演技で、
    本音はやはり よほどにご機嫌なのだろう。
    ところどころがハミングになるのは相変わらずで、
    なぁんだと口許が再びほころびかかったブッダだが、
    これを一番最後に耳にした、そう、昨夜の寝しなをふと思い出し、

     「……。////////」

    ありゃりゃと赤くなった釈迦牟尼様だったりする。




         ◇◇



    ふかふかに乾かした布団は、
    早めに取り込んだので籠もった熱に蒸されるようなこともなさそうで。
    そちらも洗いたてのカバーやシーツを掛ければ、
    何とも心地の善さそうな寝床が出来上がる。

     「えっと…。///////」

    素肌同士での触れ合いは、やはり特別なことゆえに、
    いかにも秘事だという匂いがし、
    それだけでも気持ちが高ぶるものだが。
    不思議と…触れ合ってぎゅうと互いを抱きしめ合うと、
    頼もしい、若しくは柔らかな、
    相手の身の充実や感触をその腕へ肌へと感じ取ることで、
    それでもう過剰なときめきは鳴りをひそめてしまい。
    お顔を見合わせ、くすすと微笑って、
    それまでと変わらぬ軽やかなキスをし、
    何かしら話し込んでいる内に眠りにつくのが、あれからの常となっており。

     何をしようと拒みはしないというブッダの泰然とした落ち着きようが、
     イエスの側にも 無用な焦りを誘わないようになって来ていたのだが

    それでも昨夜は、昼のうちに微妙な齟齬があったせいだろうか。
    閨の中での距離を詰めるところからして ややぎこちなく。
    ブッダを不安にさせたことへの罪悪感が
    イエスの側へもそれなりの陰を落としたからだろう。
    案じるあまりの不安が彼の内へも嵩じてしまったか、

     「……あの、あのね? ブッダ。////////」

    まだお互いにパジャマシャツ同士のまま、
    まずはと懐ろへ掻い込んで抱きしめた愛しい人へ、
    イエスが ややおずおずとした声を掛けて。

     「?」

    なぁにと見上げて来た気配へ向け、

     「あの…ね、キスしてもいぃい?////////」
     「…、……。///////」

    あらためて訊くなんてと不審に思ったのも一瞬のこと。
    訊くからにはと、そこは思考がするすると働きもする。
    泳ぎのぼって辿り着いた“想い”へ、
    もっと大胆になっていいことだのにねと思えばこそ、

     「…うん。うん、いいよ?/////////」

    言葉を重ねてまで頷いたのに。
    僅かほど挟まった含羞みの理由へと、
    今度はイエスの側でも さすがに想いが至ったからか、

     「ご…。」

    唐突でごめんねと言いかかるイエスの口許を、
    指先を延ばした手で塞ぐ。

     「今日のイエスはそれ言い過ぎ。」
     「…っ。////」

    そこまで及び腰にならないでと眉尻を下げてから、
    シャツの襟ぐりへ両手を差し入れてたわめさせ、
    軽く背中を浮かせながら引き上げる格好で、
    それは手際よくシャツを脱いでしまったブッダであり。
    そこはそれこそ察してだろう、
    掻い込んでいた腕を緩め、侭が利くようにした呼吸が働いたくせに、

     「ぁ…。////////」

    小さなものとはいえ感嘆の声を聞いてしまい、
    何よそれと、含羞み半分に睨みかけたものの、

     “あ…。////////”

    そんな視線の先で、
    半ば身を起こしかけるほど高々と身を浮かせると、
    がさがさ慌ただしい所作でもって
    首からではなく 胸元へ腕を交差させての腹から引き上げ、
    がばりとかなぐるように自分のシャツを脱ぎ捨てたイエスであり。
    大急ぎという素早い動作だったのは、
    気が逸ったのは勿論だが、それ以上に、
    ブッダを一人半裸にしておくなんてという想いもあったのだろう。
    先に肌を晒していたブッダがその素肌への空気を感じたほど
    大きに身を剥がした格好となったところから、
    やはり大急ぎで戻って来たものだから。
    再び触れて来た腕や胸元の感触は、
    どこか“捕まえられた”ような格好となったせいもあってか、
    随分と乱暴をされたような扱いともいえたが。なのに、

     “な、なんだろ。凄いドキドキするよぉ。/////////”

    そんな、私、乱暴にされる方がいいのかな。//////
    いやいや それはないって。だって、

     「ぶっだ?//////」

    愛しさがつのっての性急さだろうに、
    それへと やや驚いたように目を見張ってしまったブッダに気づくと、
    大丈夫?と問いかけて来る、やっぱりどこか臆病そうな彼なのへ。
    より一層、きゅうんと懐ろ掴まれてしまい、

     「何でもないよ、大丈夫。///////」

    ああそれよりも、
    肌と肌が合わさった瞬間にふわりと淡い熱が起きたのへ、
    やはりまだまだ慣れなくてか、ひくりと肩先が震えてしまう。
    一旦離れてから戻って来た格好のイエスは、
    軽くのしかかるよに折り重なって、上から覗き込んで来ており。
    ううんとかぶりを振った愛しの君が、まだちょっぴり緊張しているのへ、
    冠は外したおでこを同じ額へくっつけ、
    もう一度その眼差しで“いぃい?”と訊いてからのこと、
    瑞々しい口許へ触れるだけの軽い口づけを二度ほど降らせ。
    そのまま抱きすくめた嫋やかな肢体を堪能するかのように、
    頬と頬を寄せた格好のまま、
    まだ螺髪のままの髪へ鼻先をつけると大きく息を吸い込んで見せる。

     …なぁに?//////////
     うん。いい匂いだなぁってvv

    知ってた?
    あじえんすの匂いの中から ブッダのあんずの匂いを探すの、
    私 凄っごい得意なんだよ?と。
    素敵な秘密を特別に明かすよに
    ぼそぼそっと囁いてから、くつくつ微笑う彼だったものだから。

     「あ、や…。///////」

    決して耳へ触れたお髭がくすぐたかっただけじゃなく、
    そんなお言いようが胸へと届いたその作用もあってだろう。
    その髪があっと言う間にほどけてしまい、
    床の外側とはいえ、枕元がさらさらとした髪で埋まってしまい。
    そんな自身の反応がさすがに恥ずかしかったのか、
    大きく目が泳いで戸惑いを見せたその表情を隠すよに、
    向かい合ってたイエスの懐ろへ、
    自分から飛び込むようにして“や〜ん”と顔を伏せるのが、

     “あ…。///////”

    彼の側から密着して来たのが 嬉し恥ずかし。
    続いて、不遜かも知れないがとしつつ、可愛いなぁと思えて止まぬ。
    これだから、
    頼りになるのに でもでも守ってあげなきゃと感じられてしまうのだと。
    目の前になったまろやかな肩の線をうっとり見つめ、
    そこへそおと口許を押し当てる。
    すると、

     「…、あ。///////」

     ごめん、くすぐったかったね。
     …ううん違うの。////////

    やっとお顔を見せてくれた伴侶様。
    明かりを落とした薄暗がりの中でもその輪郭が見て取れるほど、
    神々しいばかりに白いお顔を、でも今は かっかと火照らせて、
    それでも“違う違う”と、瞼を伏せつつかぶりを振って見せてから。

     「……。////////」

    するりと伸ばされた腕が、イエスの背へと回されて、
    再び見上げて来た深瑠璃の眼差しは、
    気のせいでも思い上がりでもなく、
    イエスへ“いいよ?”という誘いをかけており。

     「あ…、うん…。////////」

    潤みを帯びた一途な眼差しへ、ああ何て愛しいと感じいりつつ、
    今度は敬愛を込めて、それは丁寧な口づけを贈る。
    そっと近づき、ゆるりと触れ合ったそのまま、
    そのしっとりとした感触を取り込みたいように互いに食み合って。
    幾度か離れかかっては、だが、
    まだいやいやと言いたげな、細くて微かな声を織り交ぜた吐息が立ったり、
    背へ回されていた手がきゅうと握り込まれたりするものだから。
    離れかけては角度を入れ替え、
    愛しくてならぬとの情を吹き込むようにむさぼり合って。

     「ふ、ぁ…。/////////」

    慣れぬこととて 息が続かぬかと、何度目かに唇を離せば、
    切れ切れな呼吸を洩らすのがまた健気でならぬが。
    上下する胸元なのが間近なればこそ感じられると、
    最初にねだったことが思い出されてしまい。
    まだいけないと思いはするが、
    熱い頬を撫でていた手が降りかかってハッとする。
    そんな震えが伝わったか、
    離しかかった罪深い手をブッダが捕まえ、

     「ここ、でしょ?///////」

    導いてくれたのが、
    みぞおちの上、鎖骨の合わせの真下という胸元で。

     「…っ。//////」

    ああ、何でもお見通しなんだねと。
    あんなことがあっても関係ないかのように
    あらわな欲心が出てしまったこと、恥じ入るイエスなのを感じとったか、

     「そんな顔しないで。」

    か細いながらも静かな声が届く。
    うつむくことで顔を隠すよに降りていたイエスの髪を、
    もう片やの手で優しく掻き上げて。
    まだ消えない含羞みを滲ませてではあったが、
    それでも愛おしむようなお顔となり、

     「私を…好きでいてくれるのでしょう?」

      うん。

     「誰にもやらぬと、抱きしめたかった?」

      うん。//////

    だったらと、続きかけた声ごと塞いで飲み込んで。
    柔らかな唇を蹂躙すると、
    そんな強引さにもかかわらず、
    強い拘束に襲われ抱きしめられたブッダのほうからも、
    すがりつくよな求めがあって。

      いいの?
      うん…。//////

    それを導きとするように、そこから続く絹のような肌目を辿るよに、
    首元深く、なめらかな喉の輪郭をなぞってゆく。

     「…っ。」

    くすぐったいか、時折震えるのがまざまざ伝わって来たけれど。
    息を詰め、こらえる気配も届いたけれど。
    それを拾ってこちらが臆すと、

      …ダメ。///////

    やや荒くなった吐息の下から、細い声がし。
    片方だけ、敷布を掴んでいた手が伸びて来て、
    やめちゃダメだと肩へと触れる。
    なまめかしい熱をおびた肌は、
    そちらから吸いつくような しどけなき甘えを見せていて。
    そんな誘いを振り切れぬまま、
    鎖骨の合わせを通り過ぎ、
    柔らかな肉付きの胸元へまで降りたって。

     「  …あっ。///////////」

    静かな中にぴんっと弾けた声は、
    聞き慣れた彼のそれと同じとは思えぬほど 高くて甘くて。
    それでももはや疚しさは感じられず、
    こんな自分を受け止めてくれる愛しき人よと高ぶりながら。
    最愛の如来様の胸元深くへ 自分の印を刻むよに
    強くて深い口づけを降らせたヨシュア様だったのでありました。



    お題 6 『何か思い出しそうな唄』






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      *タイトルは もちっとほんわかしたものを
       求めてそうなそれでしたが……。(ホンマにな・苦笑)

       どうにも眠くなったので、
       いちゃいちゃの後半部は 今朝の涼やかな時間帯に仕上げました。
       スズメの声も清かに壮健な空気の中、
       何てもん書いてたおばさんでしょうか。(大笑)

      *それはともかく。(おいおい)
       楽しかった植物園観覧でしたが、
       こっそりとはいえ、相変わらずにいちゃいちゃしていたものだから、
       彼らが帰った後の点検では、
       あちこちで…今はまだ季節じゃないのに
       マンゴーからキウィからメロンから、ブドウに桃にと、
       ありとあらゆる果樹に実がついてたら一大事でしょうね。

       「こ、これは報告すべきでしょうか。」
       「どこへだね。」
       「いやあの えっと。///////」

       学界も今はすったもんだしてるだろうし、(おいおい)
       ここは皆さんで食べて証拠隠滅してほしいものです。(こらこら)

    ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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