キミとならいつだって お出かけ日和

 

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ブッダがどうして、
まだ出掛けてもない、しかもちょっと遠くに所在する
『ノイエ・ネーデルランド』とやらの
園内のお花の咲き具合に通じていたのかと言えば。
彼に備わる神通力の“千里眼”を発揮なされた訳じゃあなくて、
もしかしてサイトがないものかと素早くスマホで検索し、
開花状況がUPされていたのをチェックしていたからだとか。
さすがの聡明さをこういう方面でも発揮されちゃうと、
イエス様、立つ瀬がなくなりゃしませんかね…なんて
場外からついつい案じてみたが、

 「枝垂れ桜も八分咲きなんだってvv」
 「そうなんだvv」

枝垂れ桜や山桜、八重桜は、
種類によってはソメイヨシノより早く咲き始めるのだそうで。
桜はまだ観られないかも知れないよと語っていたイエスに、
大丈夫だよ・ほらと 早速それを話してくれる伴侶様の寛容さへ、

 「楽しみだねぇvv」
 「うん、きっと綺麗だよ?」

玻璃色の双眸を弧にたわめ、わくわくっと満面の笑みを見せている辺り。
自分の方がずんと得手だった分野、
ネット利用の達人になられても、さして困りはしないらしく。

 “だって、こんなに嬉しそうなんだものvv”

それこそが何よりなのであり、
この笑顔がたくさん見られるならば、
自分の“えっへん”な分野が多少脅かされても構わないらしい。
ついでに言えば、
先日 PCからメールを送るなんていう
ややこしい悪戯をイエスから仕掛けられ、

  『あ〜、やったなぁvv』 と

可愛らしく怒ってしまった彼だったのへ。
ごめんね、お詫びにならないかもしれないけれど、と、
お役立ちアプリを幾つか教えたりもしたので、それで
そういえば調べものに使えるツールなんだったと思い出したなら、なお重畳。
聡明透徹な如来様には、
図書館に行かずともというライブラリを充実なさればいいのであって。

 “その分、おウチに居てくれようしねvv”

  ……こらこら、イエス様。(苦笑)

ともあれ、
消費税へのこだわりからという、
ややもすると現実的すぎる理由からの強行とはいえ。
ここ数日は勢いよく暖かさも増しているので、
草木の芽吹きも健やかに、
それを愛でにゆく行楽に持って来いには違いなく。
天気予報でも、雨がついて回ったのは昨晩までとのことで、
どこの局の予報士さんも
声をそろえて、久々の快晴になろうと仰せだし。

 『あ、ちょっと待って。』

明日が楽しみだねとし、それじゃあ寝ようかと構えた昨晩も、
用法に書かれてあったのでと、寝る直前に鼻炎薬を飲んだブッダ様。
そうしておけば、朝一番からすっきり爽やか、
何の異状も無いままで過ごせるとのことで。
さあ準備万端だと、
大仰な言い方をすれば、打つ手はすべて打ったお二人だったが。

 『……。』

一旦座りかかった布団の上からキッチンへと立ってゆき、
カプセルを口にし、水でごくんと飲んでおいでの
そんな様子を見てしまっては、

  何か余計な興奮とか
  しちゃったらいけないんじゃないのかなぁ、と

いや別に今 病気なんじゃないんだしと思いはするのだが、
薬品を服用した以上、安静にするのが一番だろなと。
寝床へ戻って来、明かりを消して自分の布団へ収まった彼なの、
何とはなし音無しの構えで見やっておれば、

 『…いえす?』

お隣からの、ささやかな不審を問うよな声が立ち。
え?と身じろぎをすると、布団のカバーが擦れる音の陰で、

 『えと…。//////』

ためらうような小声と含羞むような気配とが
微かにこちらへ届いたので。

 『あ、うん。/////』

ハッとし、ごめんねと軽く身を起こしたイエス様。
自分がくるまっていた布団の端を、内から“ほら”と持ち上げる。
いつもと違う段取りを、それもまた明日への準備とし、
ならばと案じて、いつもの甘えんぼを控えかけたのも本心からだが。
そんな想いを向けた当のブッダから、
おいでと呼ばれないの おかしいなと思われたらしいのが。
何と申しましょうか、

 “うあぁ、かわいいぢゃないですかvv///////////”

呼ばれない以上、自分から押しかけるのは図々しいと思うのか、
それとも、そんなするのは大胆すぎて
彼には まだまだ恥ずかしいということか。
肘を使い、身を浮かせて、
来ちゃったと寄り添う嫋やかな肢体と
ふわり頬笑むお顔への愛おしさもなお増してのこと。
おでこの白毫とそれから、あ…と薄く開いたふわふわの口許へ。
遠慮しかかった分も丁寧に、やさしい接吻を贈ったヨシュア様だったようで。

 窓の外からは、時折静かな雨音が立ちもして

 明日は上がるよね? うん、大丈夫と
 訊かれるたび、頬やまぶたへキスを降らせて…

いいお天気の前触れの、ちょっぴり冴えた朝が来たのへ、
珍しくもお寝坊しちゃったブッダ様だったのは、
果たして慣れない鼻炎薬のせいだったのか。それとも……?(…笑)




     ◇◇



寝坊したのか、それとも陽の昇るのが一段と早まっているものか。
すっかり陽が上ってしまっていた明るみの中、
ほのかにバラとオレンジの匂いがする
ぬくぬくの温もりにくるまれて、ありゃまあと眸を覚ましたブッダ様。
まま、どうせジョギングは休むつもりでいたのだし///////と、
何故だかお顔を赤らめつつ、
ほどけたままだった深色の髪でイエスをくすぐらぬよう用心しながら
その身をもそりと起こしてのまずは。
顔を洗うと洗濯物を抱えて表へ出る。
手早く洗濯機をセットして、
新聞片手にキッチンへ戻ると
朝ご飯の支度と同時進行でお弁当を用意しておれば、

 「おはよー。」

そういや昨夜は興奮もせぬまま すんなり寝たからか、
起こす前という まだ早くにイエスが目を覚ましたようで。
いつもと違う朝の、ちょっぴり楽しい興奮に、
特に何をと言い合うまでもなく、
ふふーと似たような笑い方してお顔を見合わせた二人。

 あ、洗濯機止まったんじゃない?
 うん、お願いできる?
 任せてvv

カーディガン代わりのジャージを羽織ったイエスが、
つっかけ用のサンダルに足を突っ込み、
表へ出てったのを見送って。
こちらは炊飯器がアラームを鳴らしたのへ“はいはい”と応じ、
シャモジでさくさくほぐしてから、
そりゃあ手際よくおむすびをえいえいと量産する。
オカカと昆布と、イエスにはイカナゴの佃煮も。
中身の違いが判るよに、
表へもちょんと少しまぶしておいて握り分け。
卵焼きにブロッコリーの塩茹でと、
小口厚揚げのあっさり煮をタッパウェアへ詰めてから。
朝ご飯は小松菜のおみそ汁に
春キャベツの味噌炒めとキュウリの浅漬け。
昨夜の高野どうふの卵とじを温め直してコタツへ並べれば。
一緒に食べる人が戻って来たので、
向かい合っての手を合わせ、

  いただきます、と

ふたたびの笑顔がほころぶ。
淡い色だからあれれと心配したけれど、
空には雲もほとんど無かったよとイエスが報告すれば、
それは良かったとブッダが目許をたわめたが、

 「あ、イエス。キミ、酔い止めは持ってるの?」
 「? ああ、前に買ったのがまだあると思うけど。」

でも、今日は要らないと思うよ? 私 電車では酔わないもの、と。
けろりと言ってのけるので、ああとブッダも思い出す。
でもまあ、持って出た方がいいかなと、
こそり思ったところが、さすが慎重な如来様。
食事も片付けも終え、少し休んでから、ではと。
お弁当や保温ボトル、小さめのレジャーシートに
買い置きしていたチョコにキャンディー。
忘れちゃいけない優待券一式などなどを
それぞれのカバンへ詰めて。
スマホもデジカメも充電完了、
暖かくなるとのことなので、軽いめのパーカーやブルゾンを羽織って、
いざとアパートを後にするお二人で。




  …………………で。

思えば電車を利用したのも久々で、
それでちょこっと読み間違ったかというところか。
通勤時間は避けたつもりだったが、そういや学生さんは春休みなので、
自分たちと同様に、平日に時間の出来た皆さんのうちの、
ややお寝坊して出てくるクチが、
丁度この時間帯に出掛けるものであるらしく。
繁華街や都心を目指す路線じゃあない、
郊外方面行きだというに、結構な乗車率だったのが意外や意外。

 「まあ、いいお天気になりそうだからしょうがないね。」
 「うん。」

都心へ向かう方向ではないから、
もしかしたら同じところへ向かう顔触れもいるのかも。
座席が埋まっていたため、ドア付近に立って
段々と長閑なそれへ変わってゆく景色を眺めていたら、
何駅目かで結構な人数がどっと乗り込んで来て。
向かい合ってたそのまま、
ブッダがまずは背中をドアに押し付けられてしまい、
彼を押した格好になったのへイエスがあわわと焦って、
これ以上はという 突っかい棒のように、手をついたのが、
そんなブッダの肩の上辺りという やはりドアの窓の上。
むぎゅうっと押し込まれてからでは何言っても遅いのじゃああるけれど、
さほど長い距離ではなし、大丈夫と苦笑交じりにいたものの、

 「…あ、でもこっちのドアって開かないのかな。」
 「あ…。」

快速だが停車駅がないじゃなし。
次で がばぁっと開いたら真っ先に押し出されないか、
それより何より、
この体勢を保つので精一杯、立て直しとか何ともし難いイエスなので、
ドアが開くと同時、外へ一緒に転げ落ちないかと危ぶめば、

 「…あのぉ。」

すぐの傍らから小さな声がして。
え?と見やれば、
マスクをかけた小柄な女の子たち2、3人ほどがこちらを見やっておいで。
制服こそ着てはいないが、女子高生のグループらしく、
その端っこにいた子が声を掛けてくれての曰く、

 「もしかして終点まで行かれるのなら大丈夫ですよ?」
 「え?」

聞き返したのが、日本語が分からなくてだったと思ったか、
前髪を丁寧にカーブさせて下ろしていた最初の子が
ひゃっと首をすくめたものだからか、
隣の子が えとえっとと小さな手を小さく振り回すジェスチャーをしつつ、

 「シューテン、えと…エンヅ・オブ・ターミナルまで、
  ディスdoor なっとオープンです。///////」

 「さっこ、そこは“ドント・オープン”だよ。」

もーりんも英会話は全くのダメダメで。
そして、
得意じゃないけど それでもと物おじしなかった、
頑張って見せたお嬢さんたちのほうが、
イエスやブッダより上手だったかも知れぬ。
辞書を引いたら厳密には“end of line”だが、
危なっかしい同士では むしろこの方が通じたようで、

 「そっか、終点までこっちは…。」
 「あ〜、えっと ゴメナサイ。//////」

視線でブッダが寄り掛かるドアを示しつつ、
ディスdoor ナット・デンジャラス、OK?と、
こっちからも何だか怪しい言い回しで返したイエス様。

 《 …何でそんな、日本語が分からない振りするの。》
 《 だって頑張ってくれたのにサ。》

私のほうだけでも覚束ないってことにしようよと、
心のうちでのやり取りにて さっさかと打ち合わせておれば、

 「はいvv」
 「イエスイエスvv」

朗らかに笑ってくださった素朴な笑顔が、まあまあ何て目映いことよ。
キャアやった通じたよvvと、
やや興奮しておいでなのも可愛くて、

 “…あ、そっか。”

さすがは神の子、人心掌握…なんて大仰に構えずとも、
このくらいはさらりとこなせる。
確かに、
実は日本語の方が良く理解できますと、
こんな衆目の中で言っちゃったら、
せっかく勇気を振るってくれた彼女らも ばつが悪いに違いなく。

 《 このままずっと一緒に過ごすわけでなし。》
 《 どうかな。同じ公園に行くんだったりして。》

ちょっと意地悪なんてつもりじゃあなくの、
これまたあり得ることを思いついたまま告げたブッダなのへ、

 《 別に構やしないさ。
   だったらだったで、その時に“実はね”ってバラせばいい。》

ふふーと、目許口許 お揃いの弧にたわめて笑うのがまた、
先程のお嬢さんたちのそれに負けぬほど、
何とも罪のない朗らかな笑顔だったもんだから、

 “〜〜〜〜。///////”

そっか、イエスが女子高生たちと仲良くなるのは、
例えばこんな風になんだねと。
先だって微妙な縁のあったお嬢さんたち、
フミちゃんとレイちゃんたちから訊いた馴れ初めとやらを思い出す。

 『イエスさんたら、
  コンビニのくじで化粧ポーチを当てちゃって。』

割とメジャーなコスメの会社が協賛していたせいだろう、
基本のメイクセットも入った、買えば結構いいお値段のだったのに。
持って帰って知り合いの人とかへあげればいいものを、
妙に舞い上がってしまって、
誰か要りませんかって、居合わせた私たちへ差し出したんですよね。

 『だって女の子用でしょ?これ、って。』

穢らわしいっていうのでもなくて、でも
触っても持っててもいけないものみたいに、
そりゃあとっても慌てていて、と。
くすすと微笑った二人だったが、

  それが何だか、凄く可愛いなぁって思えて
  そうそうvv

じゃあ貰いますって声を掛けたのが馴れ初めだったとか。
結構年嵩で、上背もあるし、
しかもしかも、どこから見ても立派な異邦人だというに。
ガイジンには及び腰になる人の多い日本人でさえ、
あっさりと、抵抗もなく惹きつけてしまう彼であり。

  “…うん。いちいち嫉妬してたらキリがないよねvv///////”

むしろ誉れと思わねばと、
やや満員電車の車中にて、
間近になった愛しいお人のお顔、
あらためて惚れ惚れと見やるブッダ様だったそうな。





   お題 6 『いい子、いい子vv』








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  *あれ? おかしいな。
   書きたかったところへ届かなかったぞ。
   お支度に時間掛け過ぎちゃったかな?(笑)

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