キミとならいつだって お出かけ日和

 

     5



ホントは日本語が堪能なことがバレないかなんて、
微妙なことをちょっとだけ案じたものの。
親切をして下さったマスクのお嬢さんたちは、
若い人向けの穴場でもあるものか、途中の駅で“それじゃあ”と降りてゆき。
よいしょよいしょと混んでる中を掻き分けてって、
目的の駅で無事に降りると、ホームでぴょんぴょんと飛び上がりつつ、
上背があったこちらを見つけ、
バイバイと手を振ってくれたのが何とも可愛くて。

  今回はそういえば ちりとも嫉妬の感情は沸かなかったなぁ、なんて

こちらからも、手が空いてたブッダが和やかに手を振り返したものの。
此処で降りてった人と変わらないほど乗り込んで来た人も結構多く、
ぎゅぎゅうっと押し込まれる圧は、さっきとあんまり変わらない。
後で判ったのが、
ほんの直前の連休を遠出して帰還して来た顔触れと、
連休を避けてお彼岸の墓参りを構えた顔触れとが合体し、
選りに選って今日という日に重なってしまったらしく。

 『そかー、郊外には墓地公園もあるんだねぇ。』
 『徳の厚いことだよねぇ。』

とはいえ、
そんなこんなが判明するのは、終点の駅へ着いてからであり。
さっきまでと変わらぬ乗車率の高さにあって、
快速でさほど揺れないとはいえ、むぎゅうっと押し込まれている圧はひとしお。

 《 ごめんよ、イエス。私がそっちだったら良かったのにね。》

どちらが頼もしいかどうかではなく、
純粋に腕力の差を持ち出してのお話で。
根気が続くことも考慮すれば、
自分が支え役になってた方が…と感じてしまったブッダだったらしいが、

 《 何 言ってるの。》

さすがに“平気”…とは言い難いらしい踏ん張りぶりながら、
それでもあのね?と心の声は続き、

 《 自己満足と言われればそれまでだけど、
   こういうことへは
   私みたいに非力な男でも頑張れちゃうもんなの。》

好きな人のためならっていうのは、物凄い呪文なんだからと。
涼やかな目許をたわませ微笑うイエスなのへ、

 《 …いえす。//////////》

優しい心遣いは嬉しかったが、

 《 …あのね?》
 《 うんvv》

もじもじと仄かか含羞みを見せた如来様、
やや俯いたままで ごにょりと告げたのが、

 《 表向き何も言い合わないままでいるんだから、
   そんないいお顔で笑わないでよぉvv》

 《 ……おや。》

別にもう日本語でつらつらと会話して良かったのだけれど。
相手へのいたわりみたいな文言だってこともあり、
ついつい胸のうちで済む伝信で、語り合い続けていたもんだから。
内容はともかくとして(笑)会話があっての笑顔ならまだ、
こちらが含羞みを見せても、
ああそういう流れがあってのことなのねという納得も呼ぼうが。
何も言い合わぬまま、ふっと微笑んだイエスと
それに反応して含羞みを見せたブッダという構図は、

  どこの少女まんがでしょうかという
  眸と眸だけでの以心伝心(しかも超甘口・笑)に見えるので

そういえば、やや大人世代に入れ替わった感のある周囲の皆様、
微妙に見ぬ振りを決め込んでか、揃って外側を向き始めてもいるような。

 《 ありゃ。》
 《 〜〜〜〜。////////》

外人さんだからオープンだねぇとでも思われたのかなぁ、
違うって、////////と。
やっぱり心の声にての
ネタ合わせのようなやり取りを挟んでから。(笑)
ブッダが恥ずかしいのならばと、
口許をやや引き締めたイエス様、
ついついうっとりしてしまうからこその 甘い眼差しを向けるのは
何とか差し控えることとしたようで。
とはいえ、

 「…おっと。」
 「わ☆」

全く揺れない訳じゃなし、
そのたび ちょっとのしかかり気味になって押してしまうのへは、
ちゃんと声を出して“ごめんね”と
間近になったお耳へ告げるイエスだったりしたもんだから。

 「〜〜〜〜。////////」

ああしまった、イエスったら声をひそめると、
少し低めの、しかも響きのいいお声になってしまうんだった。
しかもそれを、
自分の一番の弱点かもしれない耳元へ吹き込まれてしまうなんて。
これはこれで思わぬ格好での苦行になってしまい、

 《 えと、あの、いえす…。///////////》

さっきは勝手なこと言ってごめんなさい、
もういいから心づたいに話してと言いかかり。
今また 揺れた弾みで密着せんとの勢い、
間近へ寄って来ていた相手をちらと見上げたところが、

 「ぁ……。/////////」

丁度、伝信のお声への応じだったのだろう
んん?と小首を傾げていた当のイエスと、視線が鉢合わせてしまい。

 茨の冠が巡る 聡明そうな額の下、
 切れ長の双眸は、玻璃色の瞳を据えての涼やか。
 細い鼻梁は繊細で、薄い頬は優しい輪郭に縁取られ。

きちんと揃えられているからか、
男臭さより むしろ線の細さを押し出すお髭の下、
表情豊かな薄い口許が、
恐らくは“どうしたの?”と言いかかって薄く開いたのへ、

 “………あ。/////////”

その一声の、最初の吐息を感じ取ってしまったのもあってのこと、
震えたくなるような痺れに、総身がぎゅぎゅうと竦み上がるのを自覚する。
少しでも強くくっつけば、骨格を探れてしまうよな痩躯の君だが、
それがまた何とも男らしい要素のように感じられ。
女性の蠱惑には一切動じぬ身だったはずが、
何でだろうか、彼からのそんな頼もしさを拾ってしまうと、
すぐさま心が騒いでしまって落ち着かぬ。
その心根も考えようもようよう認めた上で、
ずっとずっと共に居たいとするほど大好きな相手なのだから。
その本人を強く感じれば、そのまま胸が躍るほどとなるのは、
むしろしょうがないことなんだろけれど。

 “〜〜〜っ。////////”

こちらを潰さぬようにと四肢へ力を込めたのだろう、
その雄々しさが尚のこと伝わり、
踏ん張っておいでのやや険しいお顔が、
何とも男臭く感じられては もういけません。
きゅうきゅうと甘く締めつけられつつあった心持ちが、
含羞みと動揺でのぼせるほどに追い上げられて。
ああ嬉しいなと、いっそ堪能出来るような豪気さが培われておればともかく、
まだまだそこまでの余裕なんてなかった釈迦牟尼様。
むせ返るような羞恥心に煽られ、行き場をなくした極度の興奮が、
ふるるっとそのまろやかな四肢を震わせ、

 「………あ。ブッダ?」

その口許から、短い吐息を急くように零した彼なのへ、
おやと顔を上げたイエスが“あっ”と現状に気づいたときはもう遅く……






 【 終点 ◎◎◎、◎◎◎でございます。
   ご乗車ありがとうございました。
   お忘れもののないよう、お気をつけてお降り下さい。】

丁寧なアナウンスが流れる中、
背後のドアが大きく開かれたそのまま、
目的地のホームへ、半ば押し出されるようにして降り立った最聖二人。
勝手の判る人が多かったものか、
ほとんどの人が迷うこともなく改札口方向へ流れて行く中、
そんな流れを自然と遮り、そのまま二手に分ける格好になっていた
大きめの柱の陰へ一旦退避すると、

 「〜〜〜。//////////」

真っ赤になったまま俯くブッダへ、
それへと向かい合うイエスが、

 「大丈夫だって。」

心配は要らないってと、
いたわるように励ますように掻き口説く。
というのも、今のブッダ様、
乗り込んだときとその姿が大きく違っておいでであり。

 「きっと“あらあの人ニット帽かぶってなかった?”くらいにしか
  思われてないって。」

これが通学通勤の電車なら、
暇を持て余して周囲を観察って人も多少はいるかもしれないし、
日頃は見かけぬイレギュラーへの違和感にも敏感かもだけど。
こんな遅い時間帯の、しかも郊外方向への快速電車。
しかもしかも ずんと込み合っていたその上、
直前の妙なオーラ(?)への慎ましさが出てか、
そっぽを向いてた人が大半だったし、と。
一応はその辺りを踏まえていたらしいイエスの言いようへ、

 「……キミの楽観主義が、時々とってもおっかないよ、私。///////」

今回ばかりは それで済むとは到底思えないと。
ますますと俯くその頬に、
さらさらと流れ落ちて来るのは、深色した長い髪。
それはそれはしっとりとつややかで、しかも
触れた水滴が最速で足元まで落ちようほども真っ直ぐな。
そのままシャンプーのモデルとして引っ張りだこになりそうな、
そりゃあ見事な髪を膝下まで垂らした人物とあって。
それへこそ“あら”と視線を寄越す人もあり。

  そう、日頃とは微妙に運びが異なったものの、
  イエスの存在感に思わずときめいたあまり、
  追い詰められた挙句、
  その螺髪がこうまで衆目のあった中でほどけてしまったようで

せめてこれ以上お顔が指さぬよう、
真っ赤のお顔をなお伏せていたブッダだったのと向かい合い、

 「でもねぇ。」

イエスは小首を傾げると、周囲の皆様をこそりと視線だけで見回す。
それから、

 《 あのね、ブッダ。
   キミは気づいてなかったのかもしれないけど、
   髪がほどける瞬間に、キミ、
   それは眩しく光ってもいたんだよ?》

 《 ………え?》

それってまさか…と、
ようやっとお顔を上げたブッダ様。
彼が何へと やっと至ったのか、その態度から拾ったのだろう、
イエスは深々と頷いて見せて、

 《 そう。間近に居合わせた人たちほど、
   何が起きたか具体的には覚えてないみたいだよ?》

イエスが嬉しさの余りに引き起こす数々の福音、
バラが咲いたりお皿がパンに転変したりといった“奇跡”に負けず劣らず。
実はブッダも結構な奇跡を引き起こすことがあり、
徳のある有り難いことを言ったり、はたまた逆に怒かったりすると、
御仏の威光が文字通り溢れ出し、
何百m先からでも判るほど光ったりする身であらせられ。
また、その力をのせた崇高なる笑顔には、
どんな状況も説き伏せてしまえる影響力もあったりするので、

 《 自覚なしでの“仏スマイル”が、放たれちゃったようなものみたい。》
 《 〜〜〜〜〜〜。/////////》

言われてみれば、成程、
好奇心の目を向ける人がもっと居たっていいほどの現象だったろに、
何事もなかったというのの見本のように
それは穏やかなホームの風景が広がっているばかりであり。
これから向かうお花畑の公園をこそ楽しみにしてのものだろう、
朗らかな笑顔や笑い声しか拾えない和やかさを感じるばかりで。

 「……良かったって思ってもいいのかな、これ。」
 「仏としてのオーラ云々って話になるのはやめてよね。」

ネガティブ・スパイラルは無しと、
双眸をやや座らせ、メッと言いたげなお顔になったイエスに、
そこはさすがに諭されて。
苦笑という格好ながらも、安堵しつつの笑顔がようやっと戻った如来様。
あわわと慌てず、はたまた揺るぎもせずに、
きちんと言い諭してくれたイエスだったのへ、
あらためて甘く和んだ眼差しを向け、

 「ありがとね。////////」

こちらはただただ混乱しっぱなしだったのに、狼狽えもせずにいてくれて。
大したことない事象へほど あっさり慌てるキミなのに、
こういう時は何て頼もしいことかと。
イエスが気に入りの深瑠璃の眼差しを柔らかくたわめ、
ほっこりと微笑ったブッダなのへ、

 「いや、うん…だって、私にも責任はあったのだし。////////」
 「…………はい?」

さすがに照れてか、お鼻の先を軽く曲げた指の節で摺り、
だってサと彼が言うには、

 「何てのか、ちょうど“壁ドン”の態勢になってたじゃない。」
 「かべどん?」

何ですかそれ、新しいゆるキャラですかと、
意味が判らぬらしいブッダがおうむ返しに訊き返せば、

 「ほら、少女まんが原作のドラマなんかでよくあるシチュエーションで。」

主役の女の子を意中の男の子が、ちょっと強引に壁際へ追い込むアレだよと。
丁度 今も向かい合ってたのをいいことに、
ブッダのお顔の間際、この場合は柱へトンと手を突いて見せ、

 「こうしてるひじを緩めると すごく間近になるから、
  よほど露骨にしないと逃げられないその上、
  視野には逃れようもなく相手の顔があったりするでしょう?」

 「う、うん。//////////」

何を避けてるんだとか、話を聞けよとか、
相手はやや怒ってるからこうなる訳だけど。
だからこそ本人も無自覚にって格好での このシチュエーションを、
十代女子の間では“壁ドン”と呼ぶそうで。
イケメンとか好いたらしく思う人からされちゃったら、
萌えること請け合いだよねぇって、
いつだったか、映画紹介の番組で話題になってたらしく。

 「さっきの体勢ってこれに近かったから、
  もしかしてって…。//////」

しかも、ある意味衆目の中でのことだもの、
ドキドキがつのってだったなら自分にも責はあると、
言い出したらしいイエスなのだと話が通じ、

 「…そっか。//////////」

言われるまでもなくの正しく仰せの通り。
こちらの視線を逃しはしないよと言わんばかりの接近ぶりだったその上、
通せんぼでこそなかったけれど
顔や肩へ触れんばかりという間際へ手も突いていて。
頼もしい手や肉づきが雄々しい腕の温みが、
こちらの頬に限りなく近かったあの空間は、
確かにイエスがいうところの“壁ドン”とやらと
大きに重なるシチュエーションに違いなく。
うわ、どうしよう筒抜けだったんじゃないのと、
不甲斐ない気分であらためて恥ずかしくなったブッダが、
ぷっくりした口許を軽く咬みしめ、うにむにとたわませておれば。

 「でも、私の場合だと、
  押し潰されないかなぁって方向でのドキドキだったかもだけどもね。」

あっはっは…っと朗らかに笑ったヨシュア様だったのへ、

 「ち〜が〜う〜っ

そこで何でネタにする必要があるのと、
ついつい、その綺麗な御手を堅いこぶしに握り締めてしまった、
ややこしい恋人をお持ちの釈迦牟尼様だったのでありました。





   お題 4 『そんな眸で見ないで』







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  *はいvv
   女子が胸キュンするという、壁ドンをやらせてみました。(笑)
   ただ、ウチのイエス様は松潤でも小池徹平くんでもないので、
   胸がキュンと来て、ごっつ萌える人は限定されてますが…。
   だからってオチをつけてどうするか。
   そんなお茶目な〆め方も問題ですぞ、イエス様。(大笑)

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