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神妙だったかと思や、
やっぱりお茶目な悪戯も発揮したイエスだったのは さておいて。
(答え合わせは無しです)おいおい
さすがにこの暑い中を
すぐさま も一度外へというのは酷だったので、
丁寧に淹れた美味しいアイスティーを出して差し上げ、
一息ついてる間に仕上げた夕食を、
ちょっと早いがまずは食べることにして。
「わぁい、美味しそうvv」
イエスからのリクエスト、
大豆ミートをからりと揚げて夏野菜と炒め煮にした酢豚風甘酢煮と、
歯ごたえが絶妙な、若ごぼうを使った きんぴらごぼう。
レタスの葉触りがしゃくしゃく軽妙な、
スライス玉ねぎとゆで卵入りのポテトサラダと、
茶わん蒸しが好きなイエスが これも大好物としている、
ブッダ特製の玉子どうふも付いた奮発メニューであり。
もやしのお澄ましをそそいだ椀を手渡して、
一緒に手を合わせて“いただきます”と箸をつける。
「今日は何してたの?」
「内緒。」
素知らぬお顔でお澄ましに口をつけてる
ブッダからの思わぬお返事に、
“あ、ずるい〜”と駄々をこねかかったイエスだったものの、
「な〜んて。訊かなくてもある程度は分かるけど。」
「…え?」
今度はブッダがギョッとしたのは、
Tシャツへのプリント作業がとうとうばれたか、と感じたから。
インクの匂いとか残ってたのかな、
ああいや、でもでも
今日は具体的には何もしてないのにと、
言うに言われぬまま ドキドキしておれば、
「お掃除に励んでたでしょ。」
ほっこり微笑って辺りを見回し、まだ明るい窓辺に視線をおくと、
「カーテンからいい匂いがするし、畳も凄くさらさらだし。」
どうやら別なことへ気づいてくれたらしく。
血圧が一気に乱高下してののち、
あああ良かったぁとばかりにホッとしてから。
今度は別口のドキドキが沸いてくるゲンキンさよ。
「何だよそれ。お掃除くらい毎日してるじゃないか。」
気づいてくれたの 正直嬉しい。
でもでも、そんなのあまりに単純すぎて。
さっきちょっぴり動揺したのを隠したくもあってのこと、
可愛げなくもつんとお澄ましして通そうとしたものの、
「でも、畳への雑巾がけと窓ふきは
何日かに1回でしょう?」
ふふーと微笑うイエスの言う通りなものだから、
そこも加算されて何だかますますとドキドキ恥ずかしい。
さりげなくこなしていたのに、実はあからさまだったとか?
これみよがしな、若しくは
“ほらそこ退いて”とまで強引な格好でのお掃除なんて
してはないつもりだったのに。
「…。///////」
それは鮮やかに“お見通し”をされたのへ、
ブッダがちょっぴり面食らっておれば、
「こんな美味しいご飯の支度もこなして、
キミは本当に働き者だよね。」
スプーンですくった淡い色合いの玉子どうふ、
ぱくりと嬉しそうに堪能したイエス。
つるりとした感触と上品なお出汁の風味を
ギュッと目元を食いしばるようにして
“う〜んvv”と存分に味わってから、
「そんなつもりからのバイトじゃなかったけど、
私が居ない間は、
のんびり羽が伸ばせるんじゃないかって思ったのに。」
聡明で器用で、初めてなことでも すぐに勘よくこなせるブッダ。
そんな彼だというに、
いやいや そんな彼だからこそだろか。
勝手も違えば従者もいない このバカンスで
ブッダばかりが それは忙しい身の上になっており。
いつも自分が何かと手を焼かせてばかりいるという
お恥ずかしい自覚も重々とあるものだから、
そんな自分が居ないときくらい
息抜きすればいいのにと、暗に言いたいイエスであるらしく。
ありゃまあと、それこそ勘よく気がついたブッダとしては、
「何 言ってるの。」
ごめんなさいと打ち萎れてしまったからか、
お箸が止まったイエスの前へ、
色よく漬かったなすの浅漬けを
“これも食べてね”と鉢ごと差し出しつつ、
「お掃除もご飯の支度も、
私には そりゃあ楽しいことなんだよ?」
嫋やかでやさしい笑みをイエスへと向ける如来様。
ふにゅんとしたままのお顔をイエスが上げて見せれば、
「そりゃサ、掃除してたなってすぐさま当てられちゃったのは」
ちっと悔しかったけどなんて ごにょりと付け足してから、
「イエスに気持ちよく過ごしてほしいとか、
美味しいって微笑ってくれるかなとか、
そうと思って手掛けるからこそ楽しくて。」
白い指先を綺麗に揃えて摘まんだスプーンの先、
会心の出来栄えな玉子どうふを掬い上げると
ふふvvとやんわり微笑ってから、
「居ないなら居ないで、
帰って来たときにビックリさせてやろって
そう思うのもまた楽しいんだよねvv」
詳細までは言えないけれど、
Tシャツへの新しい意匠を考えてるのだって
それと同んなじお楽しみであり。
「せっかくのバカンスなんだもの、
何につけ、イエスがいてこそ楽しいんだからね?」
「…っ。////////」
長いまつげに縁取られた双眸に、
潤みも清かな深瑠璃色の瞳が瞬いて。
螺髪としているせいで 輪郭もあらわになってのすっきりした風貌、
賢そうな額もすべらかな頬も、
柔らかそうな福耳も繊細そうな輪郭の首条も、
やさしい笑みをふわりと滲ませた途端に、
ますますと優しい印象を増してしまい、
ああ もうっ///////となるほどに
イエスの胸元へ焦れったいよな熱を投じるから困りもの。
何てことない一言で あっさり舞い上がるお手軽さは、
偉大なる神の子にしては単純極まれりかも知れないけれど。
あのね? 判るかな?
例えば、あのね?
伝えたいけど言葉に出来ない、
微妙なんだけど大切なことだから
これでいいやなんて中途半端な言いようで伝えたくはない。
そんな我儘で曖昧な想いが沸いて、
あのねそのねって しどもどしちゃっている、とんだ未熟者へさえ。
優しい眼差しで見つめつつ、
形になるまで いつまでもいつまでも待っててくれる慈愛の人。
代替となる言葉も考えようもたんと蓄積があって、
ほんの小さなかけらからでも察してくれよう聡明さと慧眼を持ち、
でもでもそれを押し付けないで、
ゆっくりと、気が済むまで答えを探していいんだよって、
そんな約束を、そんな話をしたことを
いつもいつまでも覚えててくれる、
それはそれは懐ろの尋が深い人。
こんな素敵な、こんな素晴らしい人が、
こうまでの思い入れを
自分みたいな未熟者なんかにしてくれてるなんて
まろやかな風貌には やや意外なくらい
正邪を見清まし、頑迷なまでに芯が強いところとか、
特に自分へ厳しい真摯な姿勢も丸ごと全部、
敬愛の対象であり憧れの的だった人だけに。
そんな人との思いがけない“相思相愛”という現状は、
いまだに夢心地な気分さえ呼ぶほど甘美でならず。
こぉんな嬉しい言いようを、
ちょっぴり含羞みつつ、上目遣いで言われたら。
“もうもうもうっvv////////”
私をこんな沸騰させたりして、
一体どうしたいのよ・もうっと。
いつにもまして、総身に何かが駆け巡り、
勢い余って地団駄踏みたくなるほどの
得も言われぬ興奮状態が押し寄せるから困りもの。
それでも何とか、うぐぐぐと飲み込み、
「…あのね、あのね、私もね。」
「? なぁに?」
ブッダばかりが想ってばかりじゃないんだからと、
想いの丈のお返しを忘れないイエスであり。
「バイト先で手が空くと、
気がついたらブッダのことばっかり考えてるんだよ?」
いま何してるのかな、
今日はお布団干してないから裏返しにとかで出てないよね。
どうしてかな、ぼんやりテレビ観てるとかは思いつけないなぁ。
観てたとしてもお料理番組をメモ取って観てるとか、
高校野球をはらはらしながら観てるとか、
そういう姿しか思いつかないなぁ。
ああそうだ、妙なセールスマンとか来ないといいけど。
ブッダは確かに追い返すの上手だけれど、
りりしい態度でのそういう会話さえ何だか神々しいからって
味をしめる不届き者が出たらどうすんの、とか。
「普段からも働き者なんだからって、
だから バイトなんかしないで家にいてと思ったのはホント。
でもね、別の本音は、
それは懐ろが広い人だけに、
誰とでも親しくなっちゃうキミなのが落ち着けないの。」
「…っ。///////」
恥ずかしくも疚しい想いの告白だからか、
彫こそ深いが繊細な作りのお顔、神妙にやや俯けてしまい、
「そんな我儘を思うのを許してね。」
お留守番を強いた我儘を、ごめんなさいと改めて謝る彼なのへ、
「あ…う、えと…。/////////」
そんなフェイントは無しだよぉと、
今度は如来様のほうが返り討ちにあっている辺り。
相も変わらずの相思相愛、
しかも余熱 ちいとも冷めやらぬといった、
甘いわ熱いわなお二人であったようでございますvv
◇◇◇
そんなこんなで始まった、1週間だけの一時的離れ離れな日々であり。
昼下がりという出勤時間へ合わせて
自分も商店街までお買い物に出るブッダだというのは、
ある意味 ついでのようなものであって
バイト中のイエスの様子まで見に行くことはなく。
それでも時々…ついのこととて、帰り際のブッダが
ちらりとでもという窓越しという見方にて、
雑貨屋さんの店内にイエスの姿を探してしまうのはしょうがないこと。
カウンターにいたりして、向こうも気がつき手を振ってくれることもあれば、
隣りの文房具屋への搬入の助っ人にと出ていて見当たらないこともあり。
はたまた、
『今日は メガネかけてなかった?』
『あ。観ちゃった?』
所謂“アイウェア”というやつで度は入っていないのだけれどと、
日頃全く縁のないツール、こそり掛けてたことへ あははぁと笑って見せて。
PCやスマホやテレビのヘビーユーザー用のでね、
バックライトから出てる青い光線を遮る効果があるんだって。
おしゃれなデザインのを幾つか、
仕入れたんだけどって言われて試しに掛けてみてたのと。
そんな風に説明してくれたので、
『じゃあ、イエスも普段から掛けなきゃ。』
『え〜?』
だって何だか 知的な色香があってカッコよかったし…とまでは
残念ながら口に出して言えなかったのが、今更ながら ちと口惜しい。
“日頃は相変わらずに甘えん坊なくせに…。/////”
ようよう見やれば、目許も鼻梁の細さも繊細だし、
肉薄な口許も表情豊かで人懐っこくて、いかにも優しげな人なのにね。
時々 ドキッとするほど男臭いお顔になったり、
物言いが頼もしかったりするのは狡いなぁと思うのの、
延長みたいなものかも知れぬ。
“も一回言えば、
ノリがいいから掛けてくれるかなぁ♪”
なんて思いつつ、
今日も今日とて、お買い物を冷蔵庫などへ片付けてから
シルクスクリーンの型紙や枠なぞ用意しつつ、
何日目かの留守居の最中、
今日はいよいよのプリントだと
半袖だけども腕まくりして張り切っておれば、
♪♪♪♪〜♪
不意にスマホから聞こえたのが、
イエスからの着信にと設定していた某海賊映画のテーマソング。
なんだなんだと出てみれば、
【ブッダ、雨降ってるよ?』】
切迫したよな彼の声がそうと告げる。
とはいえ、朝から怪しい空模様だったから
ブッダにしてみりゃ それは想定内だったことでもあって、
「ああうん。洗濯物は早めに取り込んだから大丈夫だよ。」
【そうじゃなくて。】
凄い雨脚だし、雷も鳴ってるし。
心細くない? 私、戻らなくていい?
あ…。//////
朝見ていた天気予報でも用心をと呼びかけていたほど
想定してはいた急変だったが、
不意で、しかも強い雨。
時折 窓の外で、
お隣のキョウチクトウの生け垣が激しく揺れる音がする。
風も出て来たようであり、のたうつ影はいかにも激しい。
ざあざあという雨脚は、
こないだの台風催いの大雨を思い出させるほどのそれで、
きっと路面は白い雨脚に蹴立てられてもいるのだろう。
【大丈夫? 父さんが怒ってるってワケじゃなさそうだけど。】
言い終わらぬうちにも ぱしんという乾いた音がして、
空が光ったすぐさま直後に ぱりぱりがららという雷鳴が鳴った。
高性能のスマホはそんな音も向こうへ伝えたようで、
【ぶっだぁ〜。】
どっちが恐れ慄いているのやらという声を出すものだから、
「あのねぇ。」
私が生まれ育った所は、
もっと激しい雨が連日降るよな“雨季”もあった土地だったんだよと。
今更なことを言ってやり、
だから大丈夫、怖くなんかないよと諭すように言ってから、
「この嵐に、すぐさま案じてくれたのはとっても嬉しいよ。」
こうまで幸せを感じているのだ、
アパート自体が吹っ飛び出もしない限り、私は無事だからと。
奇跡さえ起きそうな幸せが、
私を守ってくれているのだと言わんばかりに仄めかし、
お仕事を終わらせてから戻っておいでと、
何とか宥めて通話を終えて。
「……。」
思いがけなく聞けた愛しい声だったの、
噛みしめるよに感じ入ってから。
シャツの胸元辺りをふと見下ろし、襟元にそおと手を添えると、
いかにもこっそりと、その縁を少しほどずり下げる。
イエスが白さとなめらかさを褒めてくれる肌のうえ、
女性なら胸乳への盛り上がりが始まろう辺りに、
小さな小さな赤いアザ。
ちょっぴり はしたないその跡は、
誰にも内緒という ちょっぴり疚しい、
でもでも自分には 何より誇らしくて愛しい印。
『一緒に居られなかった分も充電しなきゃね。』
自分がそうなるよう持ってってるくせに、そんな可愛らしいことを言い、
殊更念入りに 睦みの愛咬を降らせてくれて。
その結果として肌に刻まれたこれは、
言わずもがな、愛されていることへの確たる痕跡だと、
やや伏せた格好の眸でじいと見下ろし、
やはりうっとりと感じ入る。
雨のせいか、少し暑さの引いた気がする空気はまるで、
昨夜の、まるで微熱が潜んでたような夜気と
すぐ傍にあったイエスの温みとを彷彿とさせ。
悩ましげな、だが それでいて
幸せを目一杯頬張った末のよな含羞みの滲む笑みを
困ったように口許へと浮かべた、釈迦牟尼様だったりするのである。
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*一緒にいるのがもちろん一番の幸せだけれど、
離れてしまう時間を持つことで、
更に互いのことを想うお二人らしいです。
あ、もしかしてこれって新しいプレイだとか。(黙れ
めーるふぉーむvv 


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