サンモリッツからツェルマットへ氷河急行の旅

 9時25分発の電車に乗るため、朝は余裕を持って6時に起床。窓を開けると今日もいい天気。朝焼けで建物がピンク色に染まっていて、なんとも幻想的な風景だ。この景色とも今日でお別れだと思うとちょっと淋しい。すっかりお気に入りのミューズリーとグラウビュンデン地方ならではのビュンドナーフライシュの朝食のあとは部屋に戻ってパッキング。チェックアウトを済ませると、いつもお世話になってた運転手さんが言っていた通り、別の運転手さんがいて、駅まで送ってくれた。このホテルはとても気に入ったので、今度またサンモリッツに来ることがあったらぜひ滞在したい。

サンモリッツのこの風景とも今日でお別れで
す。
今朝もフルーツをたっぷり乗せたミューズリー
なんだかんだと欠かさないチーズとビュンド
ナーフライシュ(薄切りの肉を乾燥させたもの)

 さて、ついに氷河急行での7時間半の旅が始まろうとしている。実は今回の旅行中最も楽しみにしていたのがこれなのだ(別に鉄道マニアじゃないんだけどね…)。この日に備えて氷河急行沿線の見所がわかるガイドブック類を数冊用意していたので、途中で寝てしまって見逃したりしないように頑張らなきゃ!

電車に乗る前に、食堂車の予約が取れなかった場合のことを考えて、滞在中何度もお世話になった駅のキオスクで、水とお菓子を買っておいた。車内販売もあるだろうから、食事の心配は要らないんじゃないかな、とは思ったんだけど…(私は基本的に心配性である)。既に1番線に停車している電車の車体の側面には「氷河急行」のプレート。ツアー等で団体予約の入っている車両には主催旅行会社名が書かれたプレートがついている。私のような個人客は、自分の乗る車両を号車番号で探すことになる。黄色いラインの入った1等車の車両の中から自分の乗る021号車を見つけ、今度は予約済みを表す黄色いカードの入った自分の座席番号46番を探す。私の席は4人がけのボックス席の窓際だった。他の3席のところにはカードは入っていない。予約でいっぱいなのかと思っていたが、周りを見ると黄色いカードはあまり入っていないようだ。もし混んでいるようだったら、自分の席の反対側の車窓から見える見所は見れないかもしれない、と思っていたのだがこれなら大丈夫そうだ。同じ車両に乗っているのは私の他には日本人の4〜50代くらいの夫婦が2組ともう1組の外国人の夫婦だけだった。

 電車が発車してまもなく、車掌さんが食堂車の予約を取りに来た。ガイドブック等には「指定券の予約以上に食堂車の予約はとりにくい」などと書いてあったので半分くらいは諦めていたんだけど、「一人なんですが、予約できますか?」と聞いてみると「できますよ」との返事。「11時に食堂車に来て下さい」と車掌さんは緑色の予約券をくれた。…やったぁ〜〜♪

何度もお世話になった駅のキオスク 9時25分発のツェルマット行きの表示 私が乗る車両はここです
食堂車 この黄色いカードが予約済みの席の表示
このカードが入っていない席は自由に座って
構わないというシステムです
食堂車の予約をしました

時刻表と手元のガイドブックを見ながら、まずは最大の名所、ラントヴァッサー橋までの車窓の風景を眺めていた。幸い空席がたくさんあったので、通路を挟んで右の座席に行ったり、左の座席に行ったり、進行方向を向いたり逆を向いたりしながら。電車が発車して1時間半ほどでついにラントヴァッサー橋に差し掛かった。進行方向左側に寄って窓を全開にしてカメラを構えた。(行きもここは通過しているのだが、サンモリッツへ向かう時の方が車窓からの眺めはいいようだ)

スピナス付近 横を流れているのはベヴェリン
プレーダ付近 この先はスパイラル線といって
急勾配を克服するために線路を螺旋状にして
400m以上の標高差を登っていくんだそうで
フィリズーア付近 まもなくラントヴァッサー橋
にさしかかります
前方にラントヴァッサー橋が見えてきました! ラントヴァッサー橋を通過する氷河急行の動画
です。画像をクリックするとスタートします。
(488KB)
ラントヴァッサー橋を通過しました
ティーフェンカステルのサンクト・シュテファン
教会
ラントヴァッサーがあまりにも有名なので注目
されてないそうですが、実は一番水面から高
いところにかけられているソリス橋を通過中
水面からの高さはラントヴァッサー橋の65m
に対してソリス橋は89m!

 ソリス橋を通過した頃にはちょうど11時になっていた。まだそれほどお腹は空いていないんだけど、食堂車へ移動する。私の乗っている車両は結構後ろの方だったし、食堂車はかなり前。一体この電車は何両編成なのか知らないけど、ひたすら歩いた。通過した2等車はほぼ満席状態。ちょっと余計にお金を払っても1等車にしておいてよかったかも…。ようやく食堂車に辿り着き、スタッフに予約券を見せると席に案内してくれた。食堂車はちょっとレトロな雰囲気。国内外含めて食堂車なるものに足を踏み入れたことがなかったのでなんだかわくわくする。食堂車のスタッフが飲み物の注文を取りに来たので、ビールを注文。ガイドブックで見た通り、テーブルの横の窓際には瓶の転倒防止用のフォルダーが付いていて、ビールはここにセットしてくれた。さっそく乾杯! 車窓からの景色を眺めながら、ちょっと優雅な雰囲気の食堂車でのランチが始まる。ああ〜こんな贅沢が許されるんだろうか? ビールに続いてサラダとパン、サラダを食べ終わった頃に大きなお皿にご飯、ビーフストロガノフ、付け合せのにんじんのグラッセが別々にサーブされた(希望すればおかわりもできる)。最後はデザート。ティラミスかチーズの選択だったのでティラミスを、そして追加でコーヒーを頼んだ。味に関しては正直なところ、お値段に見合うとは思えないけど、雰囲気を味わうということに関しては大満足。

食堂車 まずはビール!(CHF4.6/420円) 瓶が倒れないようにこんなフォルダーが付いて
ます
ランチはコースメニューのみです。(混雑してる
時期だから?)
グリーンサラダとパン
こんな風にサーブしてくれます ビーフストロガノフ
デザートはティラミスかチーズの選択でした
このコースでCHF36(約3310円)
食後のコーヒーは別料金です
(CHF3.7/約340円)

 食事が済んで30分ほどでディセンティス・ムステア駅に到着。この駅を境に鉄道会社が変わるため、先頭の機関車の交換作業が行われる。停車時間が長いので電車を降りてホームを少し歩いてみた。やがて交換作業が終わり、再び発車。まもなく下の方から「ガチャン」という音が聴こえ、振動が伝わってきた。これは、2本のレールの間にギザギザのラックレールというレールがあり、これに機関車の歯車をかませて急勾配を登るというシステムのためなのだそうだ。電車はゆっくりとした速度で、坂を登っていく。ふと見ると、斜度がきついため、禁煙席と喫煙席を隔てるドアが手前に開いていた。そして、登りはじめて50分ほどで氷河急行が通過する最高地点である、オーバーアルプパス駅を通過。ディセンティス・ムステア駅からここまでの標高差は約900m。距離にして20kmほど。それを1時間かけて登ってきたのだ。このあたりからしてもこの氷河急行が「世界一遅い急行列車」と言われるのがよくわかる。ここから先はひたすら下り。次に停車するアンデルマット駅まで10km、標高差は600mだ。まもなく下の方に街が見えてきた。ジグザグに坂を下り、約30分でアンデルマット駅に到着したが、なんと、さっき真下に見えていた街がこのアンデルマットだった。これにはびっくり。

前ライン川に沿って進みます ディセンティス・ムステア駅 ここから先は鉄道会社が変わるんだそうです。
そこで、先頭の機関車もこの駅で交換します
作業中 急勾配を登っているため、扉が開いてしまって
います
氷河急行が通過する最高地点あたり
(標高2033m)
この真下に見えている街がアンデルマット アルプスの十字路と呼ばれるアンデルマット
この駅に着く直前、急坂をジグザグに降りてき
ました
ジグザグに見えている線路

 アンデルマット駅を出て20分ほどすると、氷河急行が通過するトンネルの中で最長の新フルカトンネル(全長15.442km)に入った。このトンネルができる前、氷河急行は峠越えのルートを通っていたため、冬になると豪雪のため運休せざるを得なかったのだそうだ。トンネルを抜け、ここから標高650mのフィスプ駅までひたすら下っていく。このフィスプ駅は3日後にツェルマットからジュネーブへ移動する時に乗り換えをする駅だ。さすがにこの辺は気温が高く、少々暑く感じる。フィスプを過ぎると進行方向右側に1544年にかけられたというアーチ型の石橋が見えた。そこから30分ほど進むと1991年に2回に渡って崩落したビス氷河の雪崩跡、そしてビス氷河が見え、20分後についに7時間半の旅の終着点、ツェルマットに到着!

ブリーク駅 1544年にかけられたというアーチ型の石橋 1991年の大規模なビス氷河の雪崩跡 
この雪崩によって、線路も埋まってしまったん
だそうです
そのビス氷河 7時間半の旅を終え、ツェルマット駅に到着!

 ツェルマットは小雨が降っていた。当然ながらマッターホルンは見えない。イメージ的にはツェルマット駅に降り立った途端にマッターホルンが出迎えてくれる、だったんだけどなぁ…。駅前にホテルの送迎用の電気自動車が止まっていたので、運転手さんに声をかけて乗せてもらう。駅前通りはものすごい人出で、なかなか車が進まない。それでも車は無理矢理追い越したりせず、あくまで人優先。そういえばクールでもサンモリッツでも感じたことだけど、横断歩道の前に立つと100%車は止まってくれたし、この国では人に優しい運転をするドライバーが多いのかな?

 ツェルマットでのホテルはモンテ・ローザ。本当はモン・セルヴァンに泊まりたかったんだけど、改装中で宿泊不可だったので、姉妹ホテルであるこのホテルに決めた。外観はなかなか可愛らしい造り。そして案内された部屋もとっても可愛らしい。部屋に案内してくれた女性スタッフは窓を開けて、「晴れていればこっちの方向にマッターホルンが見えるんですよ」と教えてくれた。残念ながら今は完全に雲がかかっていて何も見えないけれど、マッターホルンが見える部屋だなんて、嬉しいなぁ…。

ツェルマットではガソリン車の乗り入れが禁止
されているため、街を走っているのは電気自
動車か馬車のみです
今日から3泊するホテル「モンテ・ローザ」は
ツェルマット最古のホテルです。マッターホル
ンの初登頂に成功した登山家、ウィンパーも
定宿にしていたんだそうです
館内のあちこちにこのような登山関係の道具
がディスプレイされています
かわいらしい部屋です
テレビは向きが変えられます ベッドはシングルサイズだけど、寝心地はよか
った!
モジュラーの形状がいろいろあります 壁の模様はこんな感じです
ミニバー
クローゼット なんともかわいらしい窓でしょう?
窓を開けるとバルコニーがあります バルコニーからは教会が目の前に見えます
晴れていれば画面中央よりちょっと右寄りあた
りにマッターホルンが見えるはず…
バスルームも可愛い!
石鹸やシャンプーはとてもいい香りです

 さっきから雨が降ったりやんだり、不安定な天気だ。雨がやむのを待って晩ご飯を食べに出かけることにした。行き先は、サンモリッツ滞在中から夢見ていた(笑)日本食レストラン! サンモリッツにいる間からチェックしていたお店「妙高」だ。お店に入るとはっぴ姿の従業員が「いらっしゃいませ!」と日本語で迎えてくれた。案内されたテーブルのセッティングも完璧。まずはビールを注文。なんと、アサヒビールがある! 少々高いけど和食にはやっぱり日本のビールでしょう! つまみには冷奴。これも日本円で約1100円と信じられない超高級冷奴だけど、本物の豆腐の味だぁ〜(当たり前?) メインは生姜焼き定食。これまた日本円で3000円近くするという、ありえない値段。ちょっと味が濃すぎるけど、ここがスイスだということを考えれば合格点かな? なんといってもお味噌汁がおいしいのが嬉しかった。

にぎやかな駅前通り どうしても和食が食べたくて、「妙高」という和
食のレストランへ
どうして「妙高」なのかと思っていたんだけど、
後日理由がわかりました
おお〜完璧! アサヒビール(感涙)!!!
レシートには「ASAI」と書かれていたけど(笑)
(CHF6/約550円)
冷奴 めちゃうま〜〜(感涙)
(CHF12/約1100円 …高いなぁ…)
生姜焼き定食(CHF30/約2760円) 生姜焼きはちょっと味が濃いけど、ここがスイ
スだということを考えれば合格!
ご飯もジャポニカ米がまざってるのでまあまあ
おいしいです
この味噌汁、すっごくおいしい(感涙)!!

 久々の日本食ですっかり満足してホテルへ戻る。ツェルマット滞在は3日間。動けるのは正味2日なので、明日は何がなんでも晴れて欲しい…。

ターンダウン後のベッド 天気予報カードが添えられてました ベッドサイドにお水も!




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