スネガ展望台へ

 当初の予定通りスネガ展望台に行くつもりで5時半起床。晴天を祈りつつ窓を開けると外は濃い霧に包まれていた。当然ながらマッターホルンは見えない。もしかして、ツェルマットまで来て、このままマッターホルンを見ることなく帰ることになってしまうんだろうか…と思うと悲しくなってきた。それでも、もしかしたらこの後晴れるかもしれない、と一縷の望みをかけて朝食をとるためにレストランに向かった。

朝食のレストラン バラの花が各テーブルに活けてあって、テー
ブルが華やぎます。
このパンがおいしかった! すっかりお気に入りのミューズリー オレンジジュースもおいしいです
 
 例によってミューズリーとチーズ、ハムの朝食を済ませ、部屋に戻り、再び窓の外を見ると…青空がのぞいている!! それまで動きが遅かった私、急にスイッチが入ったようにてきぱきと出かける仕度を始める。これから行こうとしているスネガ展望台の標高は2288m。この間行ったディアヴォレッツァ展望台より600mほど低いが、天候の回復の様子次第では更に上のウンターロートホルン(3100m)まで行ってみるつもりだったので、ディアヴォレッツァに行った時と同じ服装と持ち物で出かけることにした。

 外に出てみると更に天気は回復してきている。まだマッターホルンの姿は見えないけれど、これなら展望台からの景色もそこそこ期待できるかもしれない。スネガ展望台へ行く地下ケーブルカー乗り場まで何度も空を見上げながら歩く。スネガまでにしようか、それとも思い切ってウンターロートホルンまで登るか? ケーブルカー乗り場に着く頃には青空の面積もかなり広くなってきていたので、意を決してウンターロートホルンまでのチケットを買うことにした。帰り道はスネガからハイキングをするつもりなので、ウンターロートホルンまでの片道チケットを買って、下りはウンターロートホルンからスネガまでの片道チケットを買えばいいだろう。窓口でスイスパスを提示してチケットを購入。25%の割引でもCHF27(約2480円)とかなりのお値段。改札を抜けて、長いトンネルを抜けると、ケーブルカーの乗り場。ケーブルカーの角度からしてかなりの急勾配であることは想像できるけど、約600mほどの標高差をわずか4分で登ってしまうのだそうだ。ケーブルカーが動き出すと本当にあっという間に終点のスネガ展望台に着いてしまった。

起きた時よりは少し霧が晴れて、青空が見え
てきました。さっそく仕度をして出かけます。
これは教会の前のマーモットの泉
かわいらしい街並み 川沿いの道を歩いていきます
スネガ展望台へ行く地下ケーブルカーの
乗り場
思ったよりは天気がよくなってきたので、スネ
ガの更に上のロートホルンまで行ってみること
にしました。帰りはハイキングをするつもりなの
で、片道のチケットを買いました。
(スイスパスの割引でCHF27/約2480円)
この改札にチケットを差し込むと通過できます
長いトンネルを抜けると… そこはケーブルカーの乗り場だった(笑)

 ここからまずは4人乗りのゴンドラに乗る。下から見上げた時よりも更に青空が広がってきている。どうやら雲の上に抜けたようだ。もしかして、とふと後ろを振り返ってみた瞬間、思わず息を呑んだ。雲の上に三角形の頭を覗かせているその姿は…マッターホルンだ!! ツェルマットに来て、初めてマッターホルンと出会えた瞬間だった。ついにこの目でマッターホルンを見ることができたんだ! 感動のあまり口をぽかんと開けたままその雄姿に見とれていた。

 ゴンドラを降りて今度は空中ケーブルカーに乗り換える。ケーブルカーの中には係員の男性が同乗していて、車内のお客さんの国籍を見て、その国の言葉で車内放送をしてくれる。もちろん日本語でも放送してくれた。ケーブルカーを降りて「写真を撮ってもいいですか?」と声をかけると満面の笑顔で撮影に応じてくれた。「ちょっと雲がかかっていますね」と私が言うと、「大丈夫! すぐに晴れてきますよ!」とのこと。毎日ここを見ている人がそう言うのなら間違いないだろう、と思いつつ、お礼を言って展望台の方へ移動した。

地下ケーブルカーを降りて、更に上のウンター
ロートホルンまで登ります
まずはゴンドラに乗ります ふと後ろを振り返ると、マッターホルンの頭が
見えました!! 初めてマッターホルンが見
えた瞬間です! もう、感動!!
空中ケーブルカーに乗り換えます この係員のおじさん、お客さんの国籍を見て、
いろんな国の言葉で車内放送をしてくれるん
です。もちろん日本語放送もしてくれました。
そして、帰り道には私を助けてくれました

 展望台まで来てみると、係員のおじさんの言った通りだった! 雲が下がっていったお陰で山々の頂上部分が青空にくっきりと映えているのだ。もちろん、マッターホルンもくっきりと見えている。目の前に広がる4000m超の高さを誇る山々が連なる景色はまさに絶景。自分がこんなところにいることが、なんだか信じられない心境だ。

ついに展望台に到着!!
左からモンテ・ローザ(4634m)、リスカム
(4527m)、カストル(4228m)、ポルックス
(4092m)
左からリスカム、カストル、ポルックス、ブライト
ホルン(4160m)、クライン・マッターホルン
(3883m)
左からブライトホルン(一部)、クライン・
マッターホルン、テオドルクル氷河をはさんで
マッターホルン(4478m)
ポルックス、ブライトホルン、クライン・マッター
ホルン
モンテ・ローザ リスカム
カストルとポルックス クライン・マッターホルンは「小さなマッターホ
ルン」という意味です。三角形に尖った形が
マッターホルンに似てるでしょう?
マッターホルン ちょっと雲がかかってるのが
残念だけど、朝の天気から考えたら、ここまで
はっきり見えるとは思いませんでした

 すっかり上機嫌で、さあ、ハイキングにでかけるぞ!と下りの空中ケーブルカーに乗ろうとして気付いた。帰りは途中下車するので、チケットは上で買おうと思ってたのに、チケット売り場らしきものがないのだ。そこで、ケーブルカーの到着を待って、さっき写真を撮らせてもらった係員のおじさんに「すみません、下りのチケットを持ってないんですが、どうしたらいいでしょうか?」と声をかけてみた。すると「大丈夫、いいから乗りなさい。チケット代は下で精算するから」との答え。無事ケーブルカーには乗れたけど、私と同じような人、他にもいないのかなぁ?

 途中駅のスネガで降りて、料金を精算し(ウンターロートホルンからスネガまでCHF17・約1560円)、そこからツェルマットの街まで歩いて下山する。まずは、すぐ下の方に見えている湖、ライゼーを目指す。目的はもちろん、湖に映る逆さマッターホルンを見るためだ。朝の天気からは想像もつかないほど天気は回復して、ほとんど快晴。今にして思うと、午前中に一気にウンターロートホルンまで上がってしまったのは大正解だったようだ。いつの間にか低く立ち込めていた雲もすっかり取れている。湖へは5分ほどで到着。少しでもマッターホルンがよく見える角度を探して湖の周りを歩き回ってみたが、風があることに加え、湖に流れ込む小さな流れがあるために水面には常に波が立っている状態。しばらく待ってみたけれど雲も多く、きれいな逆さマッターホルンを見ることはできなかった。20分ほど粘ったところで諦めて下山することにした。

 ライゼーからフィンデルン方面へ下りて行く。このハイキングコースは常にマッターホルンと向かい合って歩くことができるコース。同じコースを下から登ってくるのが一般的のようだが、マッターホルンを背に歩くのはもったいない気もする(…というのは根性なしの負け犬の遠吠えか…?)。どんどん雲が晴れていくマッターホルンを見ながらのハイキングは最高の気分だ。

ハイキングコースの分岐点にはこんな標識が
出ていてわかりやすいです
湖面に映る逆さマッターホルンが見れるライ
ゼー
ちょっと風があって水面が揺れているので、
マッターホルンも揺れてます…
だいぶその姿がはっきり見えてきました
フィンデルンを目指して歩いていきます このハイキングコースは常にマッターホルンと
向かい歩きながら歩いて行けるんです
シレネ・ブルガリス
フィンデルンまでもう少しです
ルーテン・ギンスター(だと思う) 集落が見えてきました
ハイキングコースはひたすら下りの道です
フィンデルンに到着 マッターホルンにかかる
雲がだいぶ晴れてきました

 ライゼーからフィンデルンの集落までは30分弱。ちょうど正午をまわった頃の到着だったのでここで昼食をとっていくことにした。マッターホルンが見えるテラス席を陣取り、ハイキング中なのでアルコールは自粛し、リベラの青で乾杯。日差しはかなり強いけれど、風は涼しくて気持ちいいし、目の前にはマッターホルンが見えるし、まるで夢のようで、こんなところで食事をしている自分がいることが信じられない感じだ。

「フィンドラーホフ」という名前のこのレストラン
で昼食にします
テラス席からはマッターホルンが見えます ハイキング中につき、リベラの青で我慢(笑)
(CHF4.8/約440円)
ベーコンとチーズのレシュティ
(CHF19.5/約1790円)

 1時間弱の休憩の後、ツェルマットを目指してハイキング再開。午前中はかなり雲がかかっていたマッターホルンもほぼ完全な姿を見せつつある。ここから先は分岐点が何箇所かあるので、標識を見間違えないよう気をつけながら先へ進む。コースの後半は林間コース。日陰も多いし、緩やかな下りなのでとても歩きやすい。

ますますはっきり見えてきたマッターホルン! ツェルマットを目指してハイキング再開 この赤いベンチのある分岐点は3方向のうち
2方向がツェルマットに続く道なんですが、よく
みると、片方のコースは所要時間が30分、も
う一方は1時間かかります
コースの後半は林間コースです
あと20分でツェルマットの中心部に到着しま
ツェルマットの街に戻ってきました

 ほぼ、標識に書かれていた時間通りにツェルマットの街に戻ってくることができた。昨夜ハイキングコースをガイドブックで確認している時には「本当に一人で道に迷うことなく歩けるんだろうか?」と一抹の不安を感じていたのだが、標識はわかりやすいし、天候にも恵まれたこともあり、気持ちよく歩くことができて、大満足。まだ元気があったので帰りがけにホテルのすぐ前にある教会の敷地内にある、スイスアルプスの山々で命を落とした登山家たちが眠る墓地へ立ち寄った。ずらりと並んだ墓標にはいつ、どこで、どんな状況で遭難したのかなどが書かれているもの、愛する家族や友人を失った悲しみの言葉を刻んだものなどがあり、涙を誘う。今、私の目の前に美しい姿でそびえ立っているあの山が、ここで眠る登山家たちに牙を剥いたのかと思うと複雑な心境だった。

 墓地をあとにし、メインストリートを駅方向に向かい、駅前のCOOPで水とビール、リベラを調達し、パン屋さんで明日の朝食用のパンを買っておく。明日はホテルの朝食の時間より前に出発しなければならないからだ。買い物を済ませるとホテルに戻り、バルコニーでマッターホルンを眺めながら買ってきたビールで乾杯! このままずっとこうしていられたらどんなに幸せだろう…。

ドルフ広場に隣接する教会の敷地内には、
スイスアルプスの山々で命を落とした登山家
たちのお墓があります
墓標にはいつ、どこで、どんな状況で事故に
遭ったのかなどの他、愛する人を失った悲しみ
が切々と綴られているものもありました
ツェルマットと妙高高原が姉妹都市だったん
ですね! 知らなかった!
バーンホフ通りを走る馬車 この建物はマクドナルドです
ツェルマット駅 バルコニーから見たマッターホルン
バルコニーでマッターホルンに乾杯!

 部屋でひと休みした後、夕食をとるために出かける。出発前から絶対ここだけは行こう、と心に決めていたレストラン、「スターデル」。このお店のベリーのグラタンがとてもおいしい、という評判だったからだ。しかし、メニューを見た私の目に留まったのは「チーズコース」なるセットメニュー。どうやら一人分でもラクレットが食べれるらしい。ついに、ラクレットにありつける!! 迷わずこれを注文。お店のスタッフはとても感じがよくて、注文を取る時も、食事を運んできた時にも必ず一言二言話しかけてくれる。デザートが運ばれてくる前にはお店のシェフがテーブルにやってきて、空いている私の前の椅子に座り、「こんばんは。今日はどこへ行って来たんですか?」と話しかけてきた。「スネガ展望台に行って、そこからツェルマットまでハイキングしてきました」と答えると、「どうでした?」「もう最高でした!」と興奮気味に話す私に、「明日の予定は?」「ゴルナーグラートか、クラインマッターホルンか、どっちにしようか迷ってるんです」と答えると、「それなら、おすすめのハイキングコースを紹介しようか?」とシェフは紙とペンを持ってきて、図を描きながら説明してくれた。その間も別のスタッフがテーブルにやってきて話に加わってくれたり、なんとも温かい雰囲気のお店だ。デザートを食べ終え、シェフに書いてもらった地図を大切に折りたたんでバッグに入れ、お店のスタッフ達に何度もお礼を言って店を出た。…そうだ、明日も絶対このお店に来よう。せっかく親切にいろいろ教えてもらったんだから、報告をしなきゃ!

晩ご飯はホテルのすぐ近くにあるレストラン
「スターデル」で これはラクレットを作るため
の釜(?)です
スイス産の白ワイン(CHF6.6/約610円)
チーズコース、というのにしてみました。まず
はビュンドナー・フライシュなどの盛り合わせ
ラクレット 追加注文したわけじゃないんですが、もともと
2皿がコースになってるようです。さすがに食
べきれませんでした
デザートはシャーベットにしました。
このコースでCHF34.5(約3170円)

 今日は最高の一日だった。一日中マッターホルンを眺めて、おいしい空気をたくさん吸って、そしてまた、温かい人たちに出会えた。体は結構疲れているはずなのに、感激のあまり神経が高ぶってしまい、なかなか眠くならなかった。シェフに書いてもらった地図、そしてガイドブック類を広げて、明日のコースを真剣に考える。なにしろ、ツェルマット滞在はあと1日しかないんだから、少しでも時間を有効に使いたい。シェフに教えてもらったコースもかなり心惹かれたのだが、このコースを歩くとゴルナーグラートとクラインマッターホルンの両方は無理だ。今日の夕方の空を見る限り、明日の晴天はほぼ間違いない。…それなら… 考えた末、口コミ情報にあった通りに7時10分の始発電車に乗ってゴルナーグラート展望台に行き、簡単なハイキング、その後クラインマッターホルンへ行って、元気があったら軽くハイキングをして帰ってくる、というプランに決定。さあ、明日は早起きだ!




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