戸 隠 山 TOGAKUSHIYAMA
戸隠山 (1904m)

八方睨 (1900m)

九頭龍山 (1883m)
  鏡池から望む、戸隠山(戸隠表山・全景)
平成24年 8月26日(日), 現地日帰り
   ★ 総所要時間:7時間 30分
   ★ ハイキング標高差: 734 m
   行程行程・ハイキング
   行程ルートマップ


 北信濃を代表する名山 「北信五岳」 のひとつであり、他の四山とは異質の峻険で厳しい岩
稜が連なる 「戸隠山」(1904m) の登頂を目指した。 戸隠山は25kmに及ぶ 「戸隠連峰」 の総
称でもある。 この連峰は、同じく北信五岳に数えられる 「飯縄山」(1917m) と「黒姫山」(2053m)
の西側に位置し、大きく分けて3つの山域から成っている。 連峰の中央に位置しているのが、
主峰の戸隠山を含む通称 「戸隠表山」 で、今回の登山対象とした山塊である。 その南西側
に 「西岳」(2053m) を中心とした 「戸隠西山」、さらに北側 (裏側) には連峰の最高峰であり、
日本百名山にも選定されている 「高妻山」(2353m) を擁する 「戸隠裏山」 と呼ばれる山塊が
連なっている。
        切り立った岩壁が続く 

 戸隠連峰は全山が凝灰岩質集塊岩からなり、特に表山から西山に連なる東面は鋭い懸崖や
絶壁となって切れ落ちており、まるで巨大な屏風のようにそそり立つ岩稜は 麓から見ても圧巻
だ。 この為、険しい岩場が多く毎年遭難者が出るほどの "恐れ山" でもある。
実際に今回チャレンジする 戸隠表山の縦走コース (稜線上) は、幅の狭い断崖絶壁の縁を歩
くので、一歩間違えば "転落" や "滑落" ではなく "墜落" となり、生存している確率は極めて
低い。 他にも垂直に近い岩場の登降、長い鎖場の連続、カニの横這い、沢・滝の登降など 盛
りだくさんである。 そして極め付けは、最大の難所 「蟻の塔渡り(とわたり)」 と 「剣の刃渡り」と
呼ばれるナイフリッジの通過であろう!! スリリングではあるが 非常に危険でもあるので、細心の
注意と緊張が強いられる。
…というわけで、今回はインチキ屋さんにはちょっとキツイ (笑)、中〜上級レベルに相当する山
登りに挑戦である (汗)。

           垂直に近い鎖場を登る

ちなみに、裏山に当たる 高妻山は 「戸隠富士」 とも言われるほど秀麗でピラミダルだが、標
高差が大きく所要時間も長い為、表山とは違った意味で上級者向けの山岳だ。 …なので、あ
まり登る人はいなかったという事だが、近年は百名山効果 (?) のせいか… 登山者が増えてい
るそうだ。 そして、表山同様の岩稜で屏風の片翼を構成する西岳については、本格熟達者向
きの登山路となるが、現在はコースの崩壊が著しく一部通行禁止となっているそうだ。
 なお北信五岳とは、先の飯縄山, 黒姫山の他に 「斑尾山」(1381m) と 「妙高山」(2454m) を
含めた五山を指す。 このうち、インチキ山屋では2006年にすぐ隣に聳える飯縄山に登頂して
いる。
               断崖絶壁の縁を歩く 


 戸隠山への登山道は、「戸隠神社・奥社」 の脇から登って表山の稜線を縦走し、一不動の
分岐から 戸隠牧場に下るコースの一本のみだ。 それも一方通行が基本で、逆ルートでは岩
場の下りなどで危険性が高いので一般には勧められないとの事だ。 ここは基本に忠実に従う
のが賢明であろう (笑)。
 善光寺の脇から戸隠バードラインに入り、蕎麦忍者で有名な戸隠高原に向かう。途中、
隣接する 飯綱高原と 飯縄山の登山口を通過して、戸隠神社の 「宝光社」 と 「中社」 を越
えて奥社へと至る。 奥社の参拝・観光用の大駐車場(有料) に車を停め、その脇から直通して
いる奥社の参道を歩く。 入口から奥社までは約40分も歩かなければならないが、この日も朝か
ら沢山の観光客(参拝者) が訪れており、それらに混じって戸隠山へと一直線に続く参道を歩
いた。 中間点の 「随神門」 あたりから先は、参道両脇の杉並木が特に見事だ。 樹齢600年
以上といわれる無数の杉の大木が、天に向かってまっすぐに林立している様は圧巻で、近年
パワースポットとしても注目されている。 登山口は 奥社・本殿に上がる石段の手前 (社務
所の脇) にあるが、せっかくなので休憩を兼ねて、本殿とその左側に建つ 「九頭龍社」 に一
礼してから登山口に戻る事にした。

               戸隠神社奥社・参道の杉並木

 登山口を入ると、イキナリの急登が始まる。 小さな沢を渡り、ジグザグに急勾配の尾根を30
分ほど登ると尾根上に出る。 さらに20分ほどのキツイ登りで、「五十間長屋」 と名付けられ
た岩壁の下部に出る。 そこを左に回り込んで先に進むと、さらに長い 「百間長屋」 が現れ
る。 巨大な岩壁の下部をくり貫いたような回廊を抜けて、続く尾根を登ると 右側の岩壁上
に 「西窟」 が見える。 それを過ぎると最初の鎖場が現れ、いよいよ核心部に突入する。
幾つもの鎖を辿り、5m以上ある長い鎖場をクリアすると 「天狗の露地」 と呼ばれる支尾根
上に出る。 ここからは 隣の西岳に続く山並みが間近に望める。 そこから右に続く鎖場を
越えると、先の西窟があった巨大岩の上部に回り込んで出たことになる。

             百間長屋 

   
      垂直に近い、胸突き岩をよじ登る           カニの横這い で尾根上へ

さらに数ヶ所の尾根を越えると、前方を遮るようにそそり立つ 「胸突き岩」 が現れる。 ほぼ
垂直に感じられる岩壁に架けられた鎖を直登し、連続する "カニの横這い" を辿って岩場
を登るが、ここでは脚力と同時に 腕力も必要となる。 登り切ったところが尾根上の稜線であ
り、本コース最大の難所である 「蟻の塔渡り」 が直前に現れ、初の御対面となった (汗)。

               稜線上に登る、最後の岩場

 蟻の塔渡り とは、両側が深く切れ落ちた 幅50cm足らずの狭い岩尾根の事で、実際に現
場を目の当たりにすると さすがに足が竦む。 写真やネット上で流されているビデオ映像な
どでは、その "怖さ" がよくわからない。 2D映像 では立体感が充分に伝わらないからであ
ろう。 登山者が多い時は、当然の如くここで渋滞が発生するが、この日は我らの前に2人組
の登山者がこの難所に挑んでいる最中だった。 後方で彼らが通過する様子を息を呑んで
見守ると同時に、大いに参考とさせていただく (汗)。
ここで滑落…、いや墜落したら 100%助からないのは明白だから、もしも 無理と感じたり 高
所恐怖症の人は、迷わず 引き返すことを強くお勧めする。 毎年のように痛ましい事故 (遭
難) が発生しているという事だし、この岩場の下に  『○○さん、やすらかに……』 なる札が
置かれているのも 垣間見た。

   
      蟻の塔渡りに挑む登山者            蟻の塔渡り と、八方睨(上のピーク) 

蟻の塔渡りには、右側の下方に 鎖の付けられた巻道 (迂回路) も存在しているのだが、足元
が滑るし その後の岩登りがかえって危険な部分もあるので、あまりお勧めできない。 ここは岩
を跨いだり 這ったりしてでも 慎重かつ確実に (まさしく、アリの如く…) 渡るべきである。
間違っても、立って歩いて渡る などの冒険をしてはならないし、ここでは恥や外見などを気に
している場合ではないのだ!! それから、渡っている時は絶対に下を見ない事も 重要なポイン
トだ (汗)。
                                 
                              剣の刃渡り (真上からの写真、先端の幅は15cm程)

これをクリアすると、次は 長さこそ短いものの 更に幅が狭くなった 「剣の刃渡り」 へと続く。
ここも両側が 100m以上も 切れ落ちている超難所である。 同様に馬乗りスタイルで岩を跨い
で、すり足 ならぬ "すり尻" で慎重に渡り終えて、前方に聳える小高い岩峰へと一投足に前
進する。 緊張が解けて振り返ると、通過してきた 塔渡り〜刃渡り の細い岩尾根の全貌を眺
める事ができ、無事であったことに安堵する (笑)。 そして最後の岩場をひと登りすると、コー
ス上 最高の展望ピークである 「八方睨」(1900m) に躍り出る。

   
     八方睨の手前から、塔渡りを見下ろす          八方睨(1900m)

方位案内盤が設置してあり、その名の通り 全方位が見渡せて気持ちがいい。 難所を越えて
きたここまでの苦労が報われた気がする (笑)。 特に東方面には、すぐ隣に聳える 飯縄山と
戸隠高原が雄大な姿をみせている。 北側には高妻山が (この時は頂部にガスがかかってい
たが) 見られ、西側には表山から続く西岳の稜線が これまた険しい姿を見せている。

 さて、一休みした後は ここから「一不動」 まで、ギザギザした鋸刃のような表山稜線の縦走と
なる。 最大の難所は過ぎたものの、まだまだ油断は禁物だ。…というのは、この稜線(尾根) の
左側 (西面) は比較的に緩やかであるが、右側 (東面) はほぼ全線に渡って垂直に切れ落ち
た断崖絶壁となっているからだ。 しかも歩道の幅が 50cm位しかない場所も多いので、足元の
注意は怠れない。 八方睨から一旦下って振り返ると、今度は 蟻の塔渡り を横方向から眺める
事ができる。
そこから更に 10分ほど進んで登り返したピークが、主峰・戸隠山の山頂 (1904m) だ。 八方睨
ほどではないものの、ここからの展望も素晴らしいものがある。 同じく北信五岳の仲間である 黒
姫山と 妙高山も一部が重なって姿を見せている。 ここで、適当な場所を見つけて昼食休憩を
取ることにした。

     
     戸隠山・山頂(1904m), 後方は 高妻山          飯縄山(奥) と、戸隠高原

 戸隠山・山頂から先も 幾つかのアップダウンと樹林帯への出入りを繰り返して稜線を辿り、中間
地点である 「九頭龍山(くずりゅうやま)」 の山頂 (1883m) に到着した。 三角点が目印だが、あま
り山頂らしくなく、展望も特筆するほどではない。 小休止だけして先へと進む。
相変わらず右側は 断崖絶壁の縁なので足元に注意しながら、アップダウンを繰り返してゆく。 途
中 何ヶ所か現れる樹林の切れ目から、右側に大きく裾野を広げた飯縄山の雄姿が見られて気
持ちがいい。 しかし同時に、足元には 深く切れ落ちた絶壁の底も覗いているのだが… (汗)。
やがて尾根道が やや広くなり、右側に 「屏風岩」 を見て西側に巻く。 更にひと登りすると、一気
に下り坂となり 表山の終端 一不動 に至るが、この途中に 百名山である高妻山の ベスト・ビュー
ポイントがある。 まさしく 戸隠富士 の名が相応しい、と思える端正な姿で美しい。

     
        妙高山 (左側) と、黒姫山                高妻山 (戸隠富士)

 一不動には、ブロック造りで15名位は収容できる立派な避難小屋がある。高妻山や「乙妻山
(2318m) への登山では、この分岐を直進して裏山へと進むことになる。 一休みして この分岐を
右折し、いよいよ戸隠山の下山に取り掛かる。
ササの間を抜けて 涸れ沢の道を15分ほど一気に下ると、待望の水場 「氷清水」 が現れる。そ
の名の如く、とっても冷たくて美味しい水だ。 そして、この場所から 涸れていた沢に水が流れ始
め、次第に水量が増してくる。 しばらくは沢沿いに下り、所々で水の上を歩かなければならない
部分もあるが、靴の中に浸水するほどではない。ただし、勾配もきついので滑らないように注意
が必要だ。やがて 「不動滝」 の脇を鎖で降りて滝の落ち口に出ると、いったん沢を外れて 右
側にある大きなスラブ状の 「帯岩」 と呼ばれる一枚岩をトラバースする。急傾斜の岩には小さな
ステップが刻まれており、鎖も架けられているので安心だが、表面は滑りやすいので ここも要注
意だ。

                 不動滝を迂回する鎖場 

 ふたたび白い岩のゴロゴロした沢沿いに戻って更に下ると、今度は 「滑滝(なめたき)」 と呼
ばれる、大きな平面岩上を流れる滝の横に付けられた 長い鎖場が現れる。 つまり、鎖を頼り
に滝を下るという訳だ!! (笑)。 まあ、滝の水は 岩の表面上を浅く滑るように流れる程度の量な
ので、靴がビショ濡れになる事はないが…、非常に滑りやすいので 転倒すれば当然! ビショ濡
れである (笑)。 この辺りが 最後の難所となり、もうしばらく 「大洞沢」 と共に降りてゆくと、やが
て 沢を離れて右側の樹林帯に入り、ようやく傾斜が緩む。 薄暗い樹林帯から、突然のように明
るくなって視界がひらけ戸隠牧場へと辿り着いた。

       
      長い鎖を頼りに滑滝を慎重に降りる             戸隠牧場 入口

   戸隠山の登山道と牧場を仕切るゲートを越えると 長閑な光景が広がり、振り返ると背後に
は遠く離れた 戸隠山の巨大な岩壁が立ち塞がるように聳えていた。 また、対照的に 左側に
は、なだらかな黒姫山が 長い裾野を広げて大きな山体を見せている。 牧場の側道を通過す
ると 再び牧柵を越えて、続く戸隠キャンプ場の中を抜けて車道へと向かう。 途中に、戸隠神
社奥社参道の中間点にあった 随神門へと至る遊歩道 「ささやきの小径」 の入口がある。
当初は その小道を歩いて駐車場所である奥社参道入口・Pに戻るつもりでいたが、所要時間
は約90分! 正直言って、もう一歩も歩きたくない!! (笑)。 …という訳で、車道に出て路線バスを
利用して帰る事にした。 八方睨からの稜線歩きが長かった事と、その後の 沢下りも足腰にか
なりの負担がかかったようだ。 エアコンが効いた快適なバスで奥社・Pに戻ると、時刻はすで
に16時、所要時間は 7時間を越える長丁場となっていた。

 戸隠山は、本格的な鎖場や、岩登り、沢下りなど 変化に富んでいるので、中級クラス以上の
健脚者にはそれなりに楽しめる山だと思うが、初心者や小さな子供を連れたファミリー登山で
は興味本位で安易に入山してはならない。 また、高齢者や体重が多めの人も この山は控え
た方がいいだろう。 標高が さほど高くないからといって、決して甘く見てはいけないのだ。

                  戸隠牧場より望む、黒姫山  

 戸隠連峰は 晴天でも雲がかかっている事が多い (特に夏場は…) ので、全容をクリアに眺め
られるチャンスには中々めぐり逢えないが、この日は 山頂部に時折ガスが通過したものの、終
始その姿を見せていたので (我らとしては珍しく) 超ラッキーであった。 下山後もクリアな状態を
保っていたので、本来ならば 直行で温泉に向かうところだが、少し寄り道して 山の全景写真を
撮りに行くことにした。 戸隠連峰のビューポイント として上位にランクされる場所の一つに 「
」 がある。 奥社から (温泉のある) 中社に至る道路の途中から分岐して、片道15分程の所に
位置しているのでちょうどいい (笑)。 そこは先の 遊歩道 (ささやきの小径) のルートにも含まれ
ている静かな池で、戸隠連峰の表山と西山、つまり 険しい岩壁をむき出しにした "屏風の両翼"
が池越しに一望できる場所なのだ。
しかも、それが池に 鏡のように映り込む !  (ただし、無風で池が波立っていない時に限る) 
…そう、鏡池の名の由来である。 特に紅葉のシーズンは 大人気の観光スポットとなっている。
夕方で逆光だったので 山はシルエット状態に近く、池も少し波立っていたので 完全ではなかっ
たが、しょぼいカメラにしては まずまずの絵が撮れた (笑)。

                           
                  鏡池より、戸隠連峰・表山(右) と西山(左)を一望

 温泉は戸隠神社・中社から脇道に少し入った所にある 「戸隠神告げ温泉・湯行館」 を利用
した。 ここは、飯縄山に登頂した後に立ち寄った温泉と同じ施設だ。 郷里に近い戸隠は (蕎
麦を目的に) たびたび訪れているので、この温泉施設も これまでに何度か利用している。
(我らの評価は低いのだが、近くには他にないので…、まっ! いいか…) 汗, 笑 !?

                                                                             ( 2012.9.5記)

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