ママは同級生



「少し寒いかもしれないけど、我慢して、お洋服を脱いで汗を拭きましょうね」
 美也子は茜の胸の内などまるで知らぬげに、整理箪笥の引出から取り出したベビードールをベッドの端に置くと、茜の体を覆っている掛布団をさっと捲り上げた。それから、茜の背中に右手を差し入れて上半身を抱え起こし、
「はい、お手々を上げてちょうだい。茜ちゃん、上手にできるかな」
と、わざとのような甘ったるい声で囁きかける。
「よしてよ、そんな……子供に言うみたいに……」
 熱のせいで力の入らない声を振り絞るようにして、茜が美也子に不満そうに抗議する。
「あら、いいじゃない。私は茜ちゃんのママなんだし、今の茜ちゃん、私が手伝ってあげないとパジャマにも着替えられないのよ。茜ちゃんは子供なの。それも、一人じゃ何もできない小っちゃな子」
 穏やかな笑みを浮かべ、けれど瞳の中には微かに妖しい炎を揺らめかせて、たしなめるように美也子は言った。
「ほら、こんな薄着で夜までお出かけしてるから熱が出ちゃうのよ。これからは茜ちゃんの着るものはママが選んであげるから、ちゃんと言うことをきくのよ」
 抗議の声などまるで無視して、美也子は茜の着ているトレーナーを半ば強引に脱がせた。いくら生地が厚手とはいえ、庭に水撒きをしていた時のトレーナーにキュロットという格好のままで早春の夜露に濡れれば、誰だって熱を出してしまうだろう。もともと体が強くない茜なら尚更だ。
「あらあら、こうすると、見た目も子供ね、茜ちゃんは。73のAAカップくらいかしら?」
 脱がせたトレーナーを無造作に床の上に放り投げ、ブラだけになった茜の上半身を無遠慮に眺めまわして、美也子は勝ち誇ったような表情で言った。
 それに対して、茜は無言で唇を噛みしめるだけだ。時おり聞く父親の思い出話から類推すると、亡くなった母親は背が高く、スタイルも良かったらしい(悔しいけれど、父親が再婚相手に選んだ美也子もそうだ)。けれど、茜は母親から、そのスタイルの良さを受け継ぐことはできなかったようだ。童顔で背が低く、有り体に言って幼児体型。クラスメートの中にいても、一人だけ低学年の生徒が混じっているようにさえ見えてしまう。お世辞にも胸の発育しているとは言い難い。そんなだから、ブラにしても、成人女性用のサイズから自分の体に合う物を買い求めるのは難しく、ついつい女児用の中から探すことになるから、カップに小花の刺繍をあしらったようなデザインの物ばかりになってしまうのだ。日頃から気にしているそのことをあからさまに指摘され、しかし返す言葉を口にすることもできない茜だった。
「でも、気にしちゃ駄目よ。おっぱいなんて、今は小っちゃくても、大人になったら大きくなるんだから。茜ちゃんはまだ子供だから小っちゃいけど、ママくらいの年齢になればおっきくなるからね。ほら、こんなに」
 美也子は、整理箪笥の一番下の引出からベビードールと一緒に持ってきたタオルを茜の体に押し当てながら、わざと大げさに自分の胸を突き出してみせた。
「な、なに言ってるのよ。わ、私、美也子さんと同い年なのよ。子供なんかじゃないってば……」
 屈辱にまみれて一度は力なく伏せた顔を慌てて上げ、茜は美也子の顔を睨みつけた。
「あ、そうだったわね。茜ちゃん、春休みが終わったら、私と同じ高校三年生だったね。ごめんね、つい忘れちゃってて。でも、同い年でも、私がママで茜ちゃんが娘なのは変わらないのよ。だから、茜ちゃんがこんなに可愛い子で、私、とっても嬉しいの。だって、娘の方が発育が良くてなんでもできたら、ママとしての楽しみがないんだもの。だから、パジャマの着替えも自分だけじゃできない茜ちゃんが可愛らしくて仕方ないの」
 わざとらしく、うふふと笑いながら、美也子は茜の上半身を濡らす汗を綺麗に拭き取った。それから、両手を茜の背中にまわして、
「ブラも汗を吸って濡れちゃってるわね。おねむの時は窮屈だから、もう外しちゃおうね」
と言うが早いか、さっさとホックを外してブラを剥ぎ取り、さっき脱がせたトレーナーの上にぽいっと放った。
「へーえ、思ったより可愛いおっぱいなのね、茜ちゃん。とてもじゃないけど、高校三年生とは思えないわね、やっぱり」
 美也子はくすっと笑って言い、茜の体を元のようにベッドに横たわらせて、今度はキュロットのボタンを外し始めた。
「さ、今度はこっちの汗を拭いておきましょう。ほら、パンツもぐっしょり。このままだと熱が余計にひどくなっちゃうものね」
 熱で体の動きが鈍く手足に力の入らない茜が止める間もなく、美也子はさっとキュロットを脱がせ、次にショーツのウエストに指を掛けた。
「や、やめて……そのあとは自分でする。だから、やめて……」
 茜が大きく両目を見開いて、弱々しいながら切羽詰まった声で訴える。
「いいのよ、恥ずかしがらなくても。私たち、母娘なんだから」
 唇の端を少しだけ吊り上げるような意味ありげな笑みを浮かべた美也子が、力まかせに茜のショーツを膝まで引きずりおろしてしまった。
「だめ。見ちゃ駄目だってば……」
 茜は幼児がいやいやをするように頼りなげに首を振り、両手の掌で股間を隠そうとする。
 それを美也子が振り払い、丸裸になった茜の下腹部をしげしげと眺めて面白そうに言った。
「あら? 茜ちゃん、おっぱいが小さいだけじゃなく、こっちもまだ生えてなかったの? うふふ、これでいよいよ小っちゃな子供ね、茜ちゃんは」
 美也子の言う通り、茜の下腹部には黒い茂みがなく、童女のようにすべすべした肌が剥き出しになっていた。
 だが、生まれながらの無毛症というわけではないようで、注意深く観察すれば、飾り毛を剃り落としたらしき跡がうっすらと見てとれる。
「ふぅん。ちゃんと手入れしてるんだ。えらいわね、茜ちゃん。自分でお手入れできるなんて」
 茜の下腹部が童女と同じなこと、そしてそれが生まれながらのものではないことに驚くふうもみせず、むしろ興味津々といった感じで、美也子は尚も茜の秘部を覗き込む。
 その様子に不安を掻きたてられる茜。
「し、知ってたの……!?」
 不意に何か思い当たったのか、茜は、はっとした表情で美也子の顔を見上げた。
「知ってたですって? 私が何を知っていたと思うの、茜ちゃん?」
 美也子はすっと目を細めて茜の顔を見おろした。
「そ、それは……」
 茜は言いかけた言葉を途中で飲み込んで、拗ねたようにぷいと顔をそむけた。
「そう、私が茜ちゃんの何を知っているのか、それは言いたくないのね。でも、ま、そうよね。自分の口からは言いにくいわよね」
 美也子はそう言いながら、つっとベッドの横から離れた。
 横目で茜が追う中、美也子は、整理箪笥のネグリジェを取り出した段のすぐ下の引出をすっと引き開けた。中には、色とりどりのショーツや小さなカップのブラといった下着類が綺麗にたたんでおさまっている。そんな下着の山に美也子は右手を突っ込んでしばらく手首から先でごそごそ何やら探しまわるような動きをした後、目的の物を探り当てたのか小さく頷くと、右手を引出から抜いた。
 美也子の右手は、少しばかり厚ぼったい、あまり見慣れない感じの生地でできた白い下着らしき物をしっかり握っていた。
「茜ちゃんは、おねむの時は普通のパンツじゃなくて、これを着けるのよね? これじゃないと困ったことになっちゃうもんね?」
 美也子は厚ぼったい下着らしき物を両手で優しく抱えるようにしてベッドの側に戻ってくると、それを茜の目の前にこれみよがしに突き出した。



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