ママは同級生



 途端に、熱にほてって赤くなっている茜の顔がますます赤く染まる。
「茜ちゃんが言った通り、私はこのことを前もって知っていたの。だって私は茜ちゃんのママになるんだから、どんな小さなことでも知っておかなきゃいけないものね。それで、茜ちゃんのパパ――勇作さんからいろいろ教えてもらったのよ。茜ちゃんはおねむの時にはパンツの代わりにこれを着けるんだってことも。そうしなきゃ、おねむの間にベッドがびしょびしょになっちゃうってことも」
 美也子は両手で捧げ持った物を茜の目の前で軽く振ってみせた。それから、しばらく間を置いて、茜の下腹部に目を向けて続ける。
「ただ、あそこをこんなふうにちゃんとお手入れしてるってことは知らなかったけど。でも、ま、ひょっとしてって予想はしていたわよ。毎日のことだもの、ちゃんとしておかないと、おむつかぶれになっちゃう心配があるものね」
 美也子は『おむつかぶれ』というところを強調して言い、たたんで持っていた厚ぼったい下着らしき物をさっと広げた。
 そう、美也子が整理箪笥の引出から取り出して持ってきたのは、茜が毎晩お世話になっているパンツタイプの紙おむつだった。
 もともと茜は同年代の子供たちと比べておむつ離れが早い方で、トイレトレーニングも殆ど母親の手を煩わせずに済ませるような子だった。それが、茜が幼稚園の時に母親が亡くなった後、週に一度くらいの割合でおねしょをするようになってしまい、その後、中学生の時に、面倒をみてくれていた祖母が亡くなると、ほぼ毎晩のようにベッドの布団を濡らすようになってしまっていた。多感な年頃の少女である茜はその事実を父親にも知られまいとしたが、いつまでも隠しおおせるものではない。何度かの説得の末、父親に連れられて泌尿器科の医院を訪れたのだが、身体的には問題なく精神的な要因によるものだろうと診断され、投薬や外科的な治療を受けられないまま、その状態が今まで続いていたのだ。そして、毎晩のように布団を濡らすのは後始末も大変だということもあり(祖母が亡くなってからは、父親が乗船勤務で長い留守が続くこともあり、家事の一切は茜が自分でしなければならないから、その大変さは身にしみて知っている)、泌尿器科の医師のそれとない勧めもあって、眠る時にはパンツの代わりに紙おむつを着けるのが習慣になっていたのだった。ちなみに、下腹部の飾り毛を処理するようにアドバイスしたのも、その医師だった。アンダーヘアがあるとどうしてもおしっこの雫が残りやすく、そのために肌荒れになりやすいからだ。年頃の少女としては随分と迷ったものの、肌荒れと言えばまだ聞こえはいいかもしれないが、つまるところ、おむつかぶれということで、赤ん坊のようにおむつかぶれになる屈辱よりは飾り毛を失う恥ずかしさを結局は受け容れざるを得ない茜だった。そうして何度か医師の指導を受けた後、今日まで自分で自分の下腹部の茂みを処理する日が続いたのだった。
 美也子は、茜のそんなおねしょ癖のことを前もって勇作から聞かされて知っていた。だからこそ、茜が家を飛び出してしまった時も、帰ってくるのを悠然と待っていたのだ。おねしょ癖があって眠る時には紙おむつを着けるのが習慣になっている茜だ、昼間は友達の家に身を寄せることはできても、そのままその家で眠ることはできない。夜になれば家に帰ってくるしかないのだから。

「昨日までは自分でおむつをあてていたのね、茜ちゃん。でも、今日からはママがあててあげるわね。もしもおしっこがおむつから滲み出してシーツを汚しちゃっても、それもママがちゃんと片づけてあげる。だから、もう何も心配しなくていいのよ。さ、おむつをあてなきゃいけないから、パンツを脱ぎ脱ぎしましょうね」
 美也子は幼児をあやすような口調で言って、さっきは膝までずりおろしていた茜のショーツを今度は最後まで脱がせ、紙おむつの片方の股ぐりに茜の右足を通させた。
「いや。お、おむつは自分でする……自分でするから、だから、いやなの!」
 茜はかぶりを振り、両足をばたつかせて抵抗を試みる。今はすっかり慣れてしまった紙おむつだが、自分の手で着けるならともかく、誰かにあててもらうとなると、それまで感じたことのないほど激しい羞恥が湧きあがってくるのを止められない。
「自分でするから、もう部屋から出てってよ。お、お願いだから……」
 茜は繰り返し懇願した。
 けれど、美也子の返答はにべもない。
「あらあら、何を言ってるの。おねしょの治らない娘にママがおむつをあててあげるだけのことなのに、何をそんなに恥ずかしがらなきゃいけないのかしら。ほら、茜ちゃんはママの言うことをちゃんと聞くいい子なんだから、そんなに暴れないの」
 完全に主導権を握ったことに満足しつつ、そんなことはおくびにも出さず、わざとらしく母親ぶってみせる美也子。
「はい、次は左のあんよ。ほぉら、つかまえた」
 いくら足をばたつかせても、小柄で非力な茜が大柄な美也子の手から逃れるのは難しい。しかも、発熱のせいで体の動きは鈍いし、ベッドの上に横たわった姿勢だから尚更だ。美也子はいとも簡単に茜の足首をつかむと、右足に続いて左足も紙おむつの股ぐりに通して、パンツタイプの紙おむつを膝の少し上まで手早く引き上げてしまった。そうして、いかにも優しげな笑顔になると、
「せっかくちゃんとお手入れしてるのに、このまま紙おむつをあてちゃ駄目よね。毎晩おむつのお世話になっている茜ちゃんの可愛いお尻がおむつかぶれにならないようしてあげなきゃね」
と言いながら、もういちど整理箪笥の前に立ち、紙おむつが入っていた引出から丸い小振りの容器をつかみ上げて戻ってきた。
 美也子が容器の蓋を外すと、どこか懐かしい感じのする甘い香りが部屋を満たす。
「はい、これでお尻がさらさらになりますからね。茜ちゃん、ベビーパウダーも自分ではたいていたんでしょ? でも、今日からはママがしてあげる。おむつかぶれにならないよう、おむつをあてる前には忘れずにベビーパウダーをはたいてあげるからね」
 美也子は茜の両足の足首をまとめて左手でつかむと、そのまま高々と差し上げ、右手に持ったパフでベビーパウダーをすっと掬い上げた。
「いや、いやだったら、いやなんだから……」
 抵抗する術を持たない茜は、両目をぎゅっと閉じて首を弱々しく振るだけだ。初めて会った時は母親の面影に心惹かれたものの、その年齢を知った途端にいいしれぬ反発を覚え、自分と同い年の少女に父親を奪われることに対する憤りと、そんな少女からあからさまに子供扱いされることに羞恥に胸を震わせる相手である美也子の手でおむつをあてられる屈辱。身を焼かれるほどの思いを抱く茜だが、恥ずかしい粗相の癖を前もって知られていたのかと思うと、抗う気力も萎えがちになってしまう。主導権は最初から相手が握っていたんだということを痛いほど思い知らされ、惨めな無力感に包まれてしまうばかりだ。
「少しの間、おとなしくしていてね、茜ちゃん。ほぅら、ぱたぱたよ」
 美也子はわざとのような幼児言葉を口にしつつ、ベビーパウダーを掬い取ったパフを茜の下腹部に押し当て、肌の上をつっと滑らせ始めた。

 やがて茜の顔に赤みが増してくるが、呻き声が喘ぎ声に変わってゆき、小刻みに体が震え出すところをみると、どうやらそれは熱のせいばかりではなさそうだ。
「ちゃんとしておかないと、茜ちゃんの大事なところが真っ赤に腫れちゃうから、しっかりぱたぱたしておこうね」
 茜の様子が変わってきたのは、美也子が操るパフのせいだった。丸くて柔らかで僅かにすべすべした感触のベビーパウダーのパフが下腹部の肌を撫でまわすように這うだけでなく、時おり、茜の感じやすい部分を狙いすまして責めていた。けれど、それは決して偶然などではない。美也子がこれと狙いをつけて、柔らかなパフの縁で責めているのだ。童顔で幼児体型の茜も、同年代の少女と同じくらいには性感帯が発達している。まるで同い年の美也子にしてみれば、どこをどう責めれば茜が感じるのか手に取るようにわかるのも不思議ではない。



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