ママは同級生



「……く……む、ああ……」
 ひくひくと震える茜の唇から漏れ出る喘ぎ声。
「あらあら、どうしちゃったの、茜ちゃんてば? ママにベビーパウダーをはたいてもらうのがそんなに嬉しいのかしら?」
 茜の呻き声を耳にした途端、加虐的な悦びが美也子の胸を満たした。自分のものにしようとしている男とこれまで18年近くに渡って生活してきた茜を自分の思うように律することができそうだと確信すると、茜に対して抱いていた嫉妬が妖しい悦びへと変貌してゆく。
「ち、違う……そんな。そんなじゃない……」
 かろうじてそう言うのが茜には精一杯だった。年齢相応に性欲も発育していながら自慰の経験など一度もない身が、思いがけない形で秘部を責められているのだ。何をどうしていいのか、どうやってこの場から逃れればいいのか、そんなことを考えることなどまるでままならない。
「ふぅん。じゃ、これは何かし? いやらしいおつゆみたいなのが溢れてるんだけど、これは何なんでしょうね」
 美也子はあらためてパフで秘部を擦りあげるようにして、そのパフを茜の目の前に差し出した。パフの縁がてらてらと濡れている様子が茜の瞳に映る。
「そ、それは……」
 それが自分の恥ずかしいところから溢れ出た愛液だということは茜にもわかっている。わかっているが、まさかそれを口にできる筈もない。
「ママにベビーパウダーをはたいてもらうのが嬉しくてこぼしちゃった恥ずかしいおつゆじゃないのかな?」
 美也子はベビーパウダーのパフを更に茜の顔に近づけて、少し意地悪な口調で言った。
「……ちがう、そんなじゃない……」
 茜はおどおどと視線をそらせて弱々しく否定した。
「そう、違うの。じゃ、何なのかしら――」
 美也子はわざとらしい思案顔になったが、すぐに何か思いついたようにぽんと手を打つと、決めつけるように言った。
「――あ、そうか。茜ちゃん、おしっこが出そうなのね。それで、我慢できなくなりそうでパフを濡らしちゃったんだ。なぁんだ、そうだったのか」
 そう言って美也子はパフをベビーパウダーの容器に戻すと、たしなめるような口調で続けた。
「そうだとすると、茜ちゃん、おねむの時のおねしょだけじゃなくて、おっきしている時のおもらしの心配もあるわけね。茜ちゃんのパパ、おねしょのことは教えてくれたけど、おもらしのことは教えてくれなかったのよ。男親は肝腎なことに気づかないから駄目ね。でも、今日からはママが一緒だから安心よ。おねむの時だけじゃなくて、おっきしている時もちゃんとおむつのお世話をしてあげるから、茜ちゃんは何も心配しなくていいのよ」
「そんな……おもらしだなんて、私、そんなの……」
 一度はそむけた視線を慌てて戻し、茜は、美也子の思いもよらぬ言葉に抗弁した。
「あら、おしっこじゃないの? でも、さっき、いやらしいおつゆなんかじゃないって言ったわよね。あれは嘘だったのかしら。そうだとすると、パパに報告しなきゃいけないわね。茜ちゃんはママにベビーパウダーをぱたぱたしてもらうのが嬉しくて思わずおつゆを溢れさせちゃうようないやらしい子の上に、ママに嘘をつくようないけない子だってことを」
 美也子は、絡みつくようなねっとりした口調で言った。
「いや! そんなこと、パパに言っちゃいや!」
 茜が悲鳴じみた声をあげた。
「じゃ、いやらしいおつゆなんかじゃないのね? だとしたら、やっぱり、おしっこだってことね? 茜ちゃん、おっきしてる時もおもらししちゃうのね?」
 美也子は容赦なくたたみかけた。
「……」
 それに対して、茜は口をつぐむしかなかった。どちらかを選びなさいと言外に強要されても、そんなの選べるわけがない。
「ま、いいわ。これがいやらしいおつゆなのか、おしっこなのか、ゆっくり考えてみなさい。時間はたっぷりあるんだから」
 美也子はベビーパウダーの容器の中におさまったパフを指差して皮肉めいた口調で言った。
 そう、時間はだっぷりある。いつのまにか美也子の仕掛けた罠によって茜は、美也子と父親との結婚に異を唱えることなどできなくなってしまっていた。もう美也子は完全に茜の弱みを握っているのだ。これから先、茜が美也子と義理の母娘として一緒に暮らしてゆかざるを得なくなったのは火を見るよりも明らかだった。
「じゃ、これでぱたぱたも終わったし、ちゃんとおむつをあてようね。いつまでも裸んぼうだと熱がひどくなっちゃうから」
 唇を噛みしめるばかりの茜の顔を満足げに見おろした美也子はベビーパウダーの容器をサイドテーブルの上に置くと、茜の膝より少し上に引っ掛かったままの状態になっている紙おむつを両手でさっと引き上げた。
「あ……」
 茜の口から再び喘ぎ声が漏れた。長い間に慣れ親しんだ筈の紙おむつの肌触りなのに、他人の手であてられると、いいようのない羞恥を掻きたてられる。
「はい、次はパジャマのボトム。ほら、あんよを上げて」
 美也子は紙おむつのウエスト部分のよれを直し、腿のギャザーを整えてから、レモンイエローのベビードールのボトムを茜に穿かせた。ボトムが幾分ぷっくり膨らんでいるせいで、その下にショーツではなく厚ぼったい紙おむつを着けていることが一目でわかる。
 それから美也子は茜に両手を上げさせてベビードールを着せ、あらためてベッドに寝かしつけると、サイドテーブルに置いたままになっていたマグカップに触れ、
「あ、せっかく作ってきたけど冷めちゃってる。ちょっと待っててね、温かいのを作り直してきてあげるから」
と言い残し、すっかり冷めてしまったミルクのマグカップを持ち上げて、何事もなかったかのような軽い足取りで部屋を出て行った。




 しばらくして、温かく作り直したミルクの入ったカップを持って美也子が部屋に戻ってくると、茜は体を丸めるようにして頭から掛布団をかぶっていた。よく見ると、掛布団が小刻みに震えている。
「どうしたの、茜ちゃん? 具合が悪いの?」
 美也子はミルクのカップをサイドテーブルに置き、少しだけ掛布団を捲り上げて茜に声をかけた。
「……さ、寒い。寒いよぉ……」
 美也子の声に、茜はうわごとみたいに応えた。捲り上げた掛布団の隙間から、茜の体がぶるぶる震えているのが見える。
 熱が出ると、体がほてって意識がぼんやりする場合と、体温は異様に高くなっているのに本人はひどい寒気を覚えて震えが止まらない場合とがある。さっきまでは体をほてらせていた茜だが、目を離している間にますます熱が高くなって悪寒を覚える状態になってしまったようだ――咄嗟にそう判断した美也子は、茜の耳元に唇を寄せて、ひとことひとことを区切るようにして言った。
「茜ちゃん、熱を出すことが多いんだったら、いつもお薬を準備している筈よね。どこ? 解熱剤はどこに置いてあるの?」
「……机。机の一番上の引出に入って……」
 茜はそれだけ応えるのが精一杯だった。真っ赤な顔色をしているくせに、唇が妙に蒼褪めて見える。
「わかった。机の引出ね」
 美也子は確認するように言って、窓際にある机に駆け寄り、急いで一番上の引出を開けた。
 引出には茜の言う通り薬が入っていた。経口薬と坐薬で、どちらも解熱剤だ。普通の発熱なら経口薬で間に合うが、熱がひどい時は坐薬の方が即効性だし効き目も強い。
 美也子は微塵も迷うことなく坐薬の方をつかみ上げてベッドのそばに戻った。



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