ママは同級生



「何を言ってるの、茜ちゃんてば。自分でおむつを取り替える赤ちゃんなんて見たことも聞いたこともないわよ」
 美也子はくすっと笑って、茜の目の前で人差指をちっちっと振ってみせた。
「それに、茜ちゃんは『おむつを外す』って言ってるけど、私は『おむつを取り替えてあげる』って言ってるのよ。おむつを外せるようになるのは、ちゃんとおしっこを言えて自分でトイレへ行けるような大っきい子になってからよ。茜ちゃんは離乳食もまだの小っちゃな赤ちゃんなんだから、ずっとおむつなの。赤ちゃんだから、ママがおむつを取り替えてあげるのよ」
「だって……だって、ほら、もう目が覚めてるのよ、私。……そりゃ、眠ってる時には失敗しちゃうけど、でも、起きている時はおむつなんて要らないんだから……」
 茜はおどおどした様子で美也子の顔を見上げた。怯えているのか、哺乳壜を持つ両手が小刻みに震えている。
「だけど、茜ちゃんは赤ちゃんでしょ? さっき自分で言ったこと、忘れてなんかないわよね? 赤ちゃんだったら、おっきしている時もおもらししちゃうんじゃないかしら? おもらしでお部屋を汚さないようにおむつが要るんじゃないかしら?」
 そう言いながら美也子は茜のベビードールのボトムを完全に脱がせてしまうと、右手の甲を自分の腰に押し当て、丸見えになってしまった紙おむつと茜の顔とを交互に見比べた。
「で、でも……」
「やれやれ、しようのない子ね、茜ちゃんは。こんなに強情で、自分で言ったことも忘れちゃうような嘘つきの悪い子だとは思わなかったわ。パパに叱ってもらう前にきちんとお仕置きしておかなきゃいけないみたいね」
 美也子は強い調子でそう言うと、素早い動作でベッドに上がりこみ、茜のすぐそばに膝をついた。
「え……?」
 思わず身を退く茜。けれど、ベッドの一方の端は壁に沿っているから逃げ場はない。
「こっちへいらっしゃい、茜ちゃん。ほら、お腹をママの膝の上に載せるのよ」
 美也子は茜の体を両手で抱え込むようにして引き寄せ、うつ伏せにして、腹部を自分の膝に載せさせた。
「い、いや! ぶっちゃ駄目だったら……」
 何をされようとしているのか直感した茜は両足をばたつかせて逃げようとする。
「おとなしくしてなさい。逃げちゃ駄目よ」
 美也子は茜の上半身をうつ伏せで膝の上に載せたまま、左右の膝を敷布団につかせ、お尻を突き出すような姿勢を取らせた。そうしておいて、パンツタイプの紙おむつを太腿と膝の間くらいの位置まで引きおろした。こうすると紙おむつが茜の両脚の自由を奪うため、それ以上は抵抗できなくなる。
「ほら、この紙おむつだって茜ちゃんのおしっこで汚れちゃってる。おっきした時には、おむつが汚れてることがわかっていたんでしょ? どうしてその時すぐママに教えなかったの? おねむの間なら仕方ないけど、おっきしてもおむつが濡れてることを教えられないような子はずっとおむつに決まってます。いいわね? 茜ちゃんはママに口応えするし、嘘をつくような悪い子なのよ。その上、ちっちを教えられないようないけない子なのよ。そんな茜ちゃんがいい子になるよう、ママがお仕置きしてあげます。パパが帰ってきた時に茜ちゃんが悪い子だと、パパが悲しむんだから」
 美也子は茜の太腿の下まで引きおろした紙おむつの内側に目をやり、吸収剤のあたりが黄色く染まってぷっくり膨らんでいるのを確認すると、叱りつけるような口調で言って大きく右手を振り上げた。
「やめて、ぶたないで! 私、悪い子じゃない。おむつが濡れてるの、わざと隠してたんじゃない。目を覚ましたらすぐにご飯だって言われて、それで……」
 茜は悲痛な声で叫んだ。毎晩のおねしょがすっかり習い性になってしまっているため、目を覚ました時に紙おむつが濡れていても、今ではあまり気にならなくなってしまっている。そこへ加えて、美也子の手でおむつをあてられたことの羞恥や赤ん坊が使う食器で離乳食を食べさせられそうになったことの屈辱で、下腹部のじくっとした感触のことなど気にするゆとりもなかったのだ。しかも技術の進歩で最近の紙おむつは吸収剤も改良されて、尿で濡れた不快感を覚えさせないようになってきてもいるから、ついついそのことを気に留めないでいた。
「言い訳をしても駄目よ。ちゃんと体で覚えるまでお仕置きを受けなきゃいけないんだから」
 茜の言葉を遮った美也子が右手を振りおろした。
 ばしんっという肌を打つ音が部屋の空気を震わせた。
「やめて、お願いだから、もうやめて……」
 涙声で茜は懇願した。力いっぱいお尻をぶたれる痛みに加えて、まるで本当の幼児のようにお尻を突き出したうつ伏せの姿勢でお仕置きを受ける屈辱と羞恥。
「まだ駄目よ。茜ちゃんが本当に心からごめんなさいするまで許しません」
 美也子は続けて四度五度と右手を大きく振り上げては力まかせに茜のお尻を叩き続けた。そのたびに肉の弾けるぴしゃっという音が部屋中に響き渡る。
 そうしているうちに、痛みと屈辱に耐えるためだろうか、茜はうつ伏せの姿勢のまま両手で哺乳壜をぎゅっと握ってゴムの乳首を唇に押し当てるようになっていた。惨めな呻き声を洩らさないようにするためと、痛みを堪えるために何でもいい力いっぱい両手で握りしめる物が欲しくてそうしているのだろうが、大柄な美也子の膝の上でお尻をぶたれながら哺乳壜の乳首を口にふくむ小柄な茜の姿は、それこそ年端もゆかぬ幼児そのままだった。

「じゃ、ごめんなさいしてごらんなさい。ちゃんとごめんなさいできたら、今日のお仕置きはもうおしまいにしてあげるから」
 美也子は茜のお尻を十度ぶってからようやく手を止め、茜の顔を斜め下から覗き込むようにして言った。
 それに対して茜は、哺乳壜の乳首を咥えて両目の瞳を涙で潤ませ、顔をうなだれるばかりだ。
「ごめんなさいできないのね? じゃ、仕方ないわ。ごめんなさいできるまでお仕置きを続けましょう」
 美也子はすっと息を吸い込んで右手を振り上げた。
 その途端、蚊の鳴くような茜の弱々しい声が美也子の耳に届く。
「……ご、ごめんなさい。いい子にします。いい子にするから、もうぶたないで……」
 うなだれたままの茜の口が微かに動いて赦しを乞う。
「そう、いい子にするのね。もう嘘はつかないし、ママの言いつけはちゃんと守るのね?」
 美也子は念押しするように問い質した。
「……いい子にします。言いつけは守ります。いちど言ったことは忘れません……」
 打ちひしがれた茜の右目から涙の粒が一滴つっと溢れ出して頬を濡らした。
「おむつが濡れたら真っ先にママに教えるのよ。いつまでも濡れたおむつのままじゃ体に悪いから。約束できるわね?」
「……約束します。すぐに教えます……」
「誰に何を教えるの? ちゃんと言いなさい」
「……お、おむつが濡れたら……ママに……すぐにママに教えます……」
「ママに教えて、おむつをどうしてもらうの?」
「……教えて、お、おむつを……はずし……」
「もういちど訊くわよ。おむつをどうしてもらうのかしら? ちゃんと言いなさい」
「……と、取り替えてもらいます。新しいおむつに取り替えてもらいます……」
「はい、よく言えました。じゃ、これでお仕置きはおしまいにしましょう」
 茜を完全に自分の支配下に置いたことを実感した美也子は満足そうな笑みを浮かべた。
 屈辱と羞恥にまみれながらも、ようやくお仕置きから解放されると知って茜の顔に安堵の色が浮かぶ。
 が、その直後、美也子の右手が不意に大きく動いて、これまでになく強く茜のお尻を叩いた。
「いい子になる約束を忘れないためよ。約束を破りそうになったら、この痛さを思い出しなさい」
 激しい痛みに体をのけぞらせる茜の耳朶を美也子の声が打った。



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