ママは同級生



「い、いや……赤ちゃんみたいなおむつなんて、そんなの、いやなんだから」
 茜は思わず身をよじってその場から逃げようとした。
 それを、美也子が両足の足首を左手でぐっと握って離さない。
「茜ちゃんは赤ちゃんなんでしょう? 赤ちゃんなんだから、赤ちゃんのおむつでいいのよ。なんの模様も入っていない可愛くない紙おむつなんかより全然こっちの方がお似合いなんだから、ほら、おとなしくなさい。それとも、携帯電話の写真をパパやクラスメートに見てもらいたいの? あ、ひょっとしたらお仕置きが気持ちよくなっちゃって、またママにお尻をぶってもらいたいのかな?」
 美也子は茜の足首を高々と差し上げると、右手で携帯電話の動画録画ボタンを押してベッドの端に置いた。
「おとなしくしてたらすぐにすみますからね。ほら、ふかふかのおむつをあててもらうところもちゃんと録画しておきましょう。録画しておいて、おじいちゃまやおばあちゃまに見てもらいましょうね。それに、録画しておけば、何かあった時にはクラスのみんなにも見てもらえるし」
 美也子が昨夜の内に撮影した写真で茜をいたぶっているのは明らかだった。言うことをきかないと恥ずかしい写真をみんなに見せちゃうわよと脅しているのは茜にもすぐわかった。最初は数枚の写真のために美也子の命令に従わざるを得なくなり、その命令によって更に恥ずかしい格好をさせられ、それをまた撮影されて、ますます美也子の言いつけに逆らえなくなってゆき、ついには逃げ道を完全に見失ってしまう羞恥の無限迷路に足を踏み入れてしまったことを茜は痛いほど思い知らされた。
 美也子は茜の足首を高々と差し上げたまま、おむつとおむつカバーを茜のお尻の下に敷き込んだ。
「あ……」
 これまで身に着けたことのあるどんな下着とも違う感触に、思わず茜は喘ぎ声を漏らしてしまった。思っていたよりもずっと柔らかでふかふかした肌触りが思わぬ羞恥を掻きたてる。
「どう? 新しい布おむつは気持ちいいでしょう? ママが丹精込めて縫ってあげた布おむつは、とっても優しい肌触りでしょう?」
 おむつがお尻の下にちゃんと敷き込めたのを確認してから、美也子は茜の足首をおろした。
「はい、あんよを広げて。そう、そのままにしているのよ」
 美也子は茜に左右の膝を少し立てさせるようにして強引に両脚を押し広げると、おむつカバーの上に重ねた布おむつの端をつかんで、太股と太股との間を通してお臍のすぐ下あたりまでを包みこんだ。それも、何枚もの布おむつを同時にそうするのではなく、わざと時間をかけて一枚ずつゆっくり両脚の間を通していった。パンツタイプの紙おむつを身に着けるのなら、さっと引き上げてしまえばすぐにすむ。材質の違いさえ気にしなければ、ショーツを穿く感覚とさほど違いはない。しかし、今の美也子がするみたいに、仕立てて水通しをすませた柔らかな布おむつを一枚ずつ丁寧にあてられると、左右の太股の内側を何度も何度も布おむつのふんわりした感触に撫でさすられて、それが決して普通のショーツなどではないことを身にしみて思い知らされるのだった。
「うん、おむつはこれでいいわね。あとはおむつカバーの横羽根をこうして、と」
 美也子は布おむつの上から茜の下腹部をぽんと叩いてから、おむつカバーの左右の横羽根を持ち上げてお臍のあたりで互いに重ね合わせ、マジックテープでしっかり留めた。それから、小熊のアップリケをあしらった前当てを、さっき布おむつをそうしたように両脚の間を通して持ち上げ、横当てに重ねる。おむつカバーの前当てを両脚の間に通される時には、バイアステープのすべすべした感触が内腿をくすぐって、本当に赤ちゃんみたいなおむつをあてられているんだと実感させられる茜だった。
「もうすこしで終わりますからね。ちゃんとおとなしくしていて、本当に茜ちゃんはいい子だわ」
 美也子は、おむつカバーの裾からはみ出ている布おむつを親指の腹でそっとおむつカバーの中に押し込んだ。横当ての布おむつを使う昔ながらのあて方とは違って、股当てだけを使う今ふうの股おむつのカバーは見た目がすっきりしている。ただ、とはいっても、本当の赤ん坊なら布おむつが2枚か3枚くらいですむのに対して茜は実際は高校生でおねしょの量も多いから10枚くらいあてることになって、おむつカバーはどうしてもぷっくり膨らんでしまう。
「はい、できた。新しいおむつはふかふかでしょ? うふふ、可愛いお尻になっちゃったね、茜ちゃん」
 美也子は、たっぷりあてた布おむつのせいでもこもこに膨らんだ茜のお尻をおむつカバーの上からぽんぽんと優しく叩いた後、ベッドの端に置いておいた携帯電話を持ち上げて、茜の下半身を嘗め回すように撮影した。その恥ずかしい動画映像もまた、茜が美也子の命令に従わない時、強引に言うことをきかせるために使われることになるのは言うまでもない。
 美也子が携帯電話のカメラを向けるせいで、茜としても自分の下半身に意識が向いてしまう。ことさら、意識しないでおこう、気にしないでおこうと思いつつも、おむつに包み込まれた股間からお尻、お臍のすぐ下あたりが妙に敏感になってしまったような気がして、おむつの感触を意識せざるを得なくなるのだ。薬局で買ってきた純白のパンツタイプの紙おむつなら、夜尿症という病気に対する一種の対症療法だと思えなくもない。けれど、可愛らしい柄の布おむつにアップリケの付いたおむつカバーだと、とてものこと、そんなふうに自分を納得させることもできない。夜尿症ではなく、おねしょ。尿失禁ではなく、おもらし。リハビリ用のパンツではなく、赤ちゃんと同じおむつ。全ては微妙に言葉の響きと意味合いを変えて、これでもかと茜の羞恥をくすぐるのだった。
「これでいつおもらししても大丈夫だから、ゆっくりねんねなさい。後かたづけが終わったら今夜もママが添い寝してあげるから、熱にうなされて怖い夢を見ても大丈夫よ」
 ようやくのこと携帯電話をエプロンのポケットにしまった美也子は、茜の体に布団を掛け、汚れた紙おむつを丸めてテープで留め、サイドテーブルに上に置いたままになっていたトレイを持って部屋をあとにした。
 一人残された茜は、羞恥と屈辱のために感情は高ぶっていたものの、昨夜も途中で熱がぶり返してきて熟睡できずにいたこともあって、いつしか目元がとろんとしてきて意識が途切れがちになり、遂にはうとうとし始めたかと思うと、しばらくして美也子が様子を見に戻ってきた時には、やすらかな寝息をたてて眠りこけていた。




 翌朝、誰かの話し声が耳に届いて茜は目を覚ました。一人は美也子だが、もう一人は、中年というにはまだ若いものの、けれど、美也子と同年代くらいの若さとも思えない、どこか冷たい感じのする落ち着いた女性の声だった。
「あ、おっきしたのね、茜ちゃん。ゆうべもママにしがみついてねんねしてたのよ」
 おずおずと瞼を開き、まだ焦点の合わない茜の瞳に、軽く腰をかがめてこちらを覗き込む美也子の姿がぼんやり映った。そうして、美也子に寄り添うようにして立っている、30歳台半ばくらいの、髪をアップにまとめた女性。その女性の視線に射すくめられた途端、茜の体がびくんと震え、なぜとはなしに激しい不安を覚えた。
「はじめまして、茜ちゃん。あらあら、何をそんなに怖がっているのかしら?」
 茜の顔に浮かぶ不安の色を読み取ったのか、優しげな声で女性は言った。
「怖い人じゃないから大丈夫よ、茜ちゃん」
 美也子は茜をあやすように掛布団の上からお腹を優しく叩いて囁きかけた。
 見ず知らずの他人が見ている前でそんなふうに子供扱いをされて、茜の頬がかっと熱くなる。



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