ママは同級生



「ええ、そうですよ。そのガラガラも、私の両親から可愛い初孫の茜ちゃんへのプレゼントです。――よかったわね、茜ちゃん。おじいちゃまとおばあちゃまから貰ったガラガラで薫先生にあやしてもらえて」
 美也子は、足首を高々と差し上げられ肛門に体温計を突き立てられたお尻を丸見えにした姿の茜と薫の顔とを交互に見て言った。
「茜ちゃんのお熱を測っている体温計は3分計だから、もう少しおとなしく待ってましょうね。ほぉら、からころ〜」
 薫は腕時計にちらと視線を走らせてから、プラスチック製のガラガラを何度も振った。薫が持ってきた小児用の体温計は本当は1分間で体温を測れるようになっている。もうその時間は過ぎているのだが、薫はわざと時間を長びかせているのだ。その理由が、少しでも長い間に渡って茜に恥ずかしい姿をさせておくためだということは言うまでもない。

 からころ。
 からころ。
 部屋中にかろやかな音が何度も何度も響き渡って、ようやく3分間が過ぎた。
「あら、思ったよりも高いじゃない? これじゃ、当分の間は安静にしとかなきゃいけないわね」
 薫は、美也子から受け取った体温計の目盛りを覗き込み、それを美也子と茜自身にも見せて言った。体温計が示しているのは38.7度。ほぼ正常に見える茜の顔色からは想像もできないような、予想外の高熱だ。
 が、実は、それも茜と薫が仕組んだ結果だった。今の電子式体温計と違って、昔ながらの水銀式体温計は、体温計を何度か振って水銀を水銀溜まりに戻してやらないと、以前に測定した体温がそのままずっと表示され続けるような構造になっている。薫は予めぬるめの湯に体温計をつけて水銀柱が38.7度の目盛りを指し示すように設定してから、美也子に手渡していたのだ。こうすると、体温が平熱に戻っていても、いかにも発熱が続いているように見せかけることができる。
「うわ、本当だ。でも、こんなに熱が高いんじゃ、階段の昇り降りなんてできませんよね? 途中でふらっとして階段から落っこちちゃうかもしれないから」
 美也子は確認するように目盛りを覗き込むと、薫に目配せしながら言った。
「そうね。この高熱だと歩行中に意識を失う危険性も充分に考えられるから、階段の昇降は絶対に駄目よ。とすると、一階のダイニングルームへ行くことはできないから食事もこの部屋で摂らせることになるし、体に負担がかからないよう消化のいい柔らかな食べ物ばかり用意しなきゃいけなくなるけど、美也子さん、ちゃんとお世話してあげられる?」
 薫もそっと目配せを返して応じた。
「それは大丈夫です。離乳食がたっぷりありますから。あ、でも、茜ちゃんは離乳食が苦手だったっけ。だったら、お熱が下がるまでずっと哺乳壜のミルクにしなきゃいけないかな」
「でもミルクだけだと必須栄養素が何種類か不足するのが心配ね。念のために栄養補給の補助添加剤を持ってきたから、それをミルクに溶かして飲ませてあげるといいわ。後で、他の薬と一緒に渡すわね」
「はい、お願いします」
 美也子はにこやかな顔で頷き、一糸まとわぬ状態でおむつカバーの上に直にお尻を載せている茜の姿をちらと見て言った。
「もう、おむつをあててあげてもいいですよね? いくらお部屋には暖房が入っているといっても、裸んぼうのままだと余計に熱が出ちゃいそうだから」
「あ、そうだったわね。いいわ、おむつをあててあげてちょうだい。で、おむつといえば、トイレも一階にあるから行くのは無理で、茜ちゃん、ずっとおむつのままいなきゃいけないわけね。そうすると、おむつかぶれになる心配があるんだけど、何かお薬は用意してあるの?」
「いいえ。おむつかぶれにならないよう、あそこは茜ちゃんが自分で綺麗に処理してベビーパウダーを使っているけど、ちゃんとしたお薬は持っていません」
 美也子は、新しい布おむつを10枚、茜のお尻の下に敷き込みながら、思案顔で応えた。
「じゃ、それも渡しておきましょうか。おむつかぶれになってからだと茜ちゃんが可哀想だから、おむつかぶれにならないよう前もって予防しておく塗り薬を持ってきたの。一日三回、忘れずに塗ってあげてね」
 薫は意味ありげにウインクしてみせた。実は、薫が持ってきたのは、おむつかぶれを予防する薬などではなく、強力な脱毛剤だった。皮膚に悪影響を及ぼす危険は全くない割に効き目は優れていて、日に三度塗布し続けると、四日ほどで毛根が完全に除去され、それ以後は毛根が再生する可能性はほぼゼロになるという強力な薬だ。今は剃毛によって擬似的な無毛状態にしている茜の下腹部を完全に童女のそれに変貌させることもたやすい。
「わかりました、絶対に忘れません。それから、あと何か気をつけなきゃいけないことはありますか?」
 美也子は茜の下腹部を布おむつで覆い、おむつカバーの横羽根と前当てをマジックテープで留めながら薫の顔を見上げた。
「そうね、ちょっと気になるのは茜ちゃんのパジャマかしら。さっき脱がせたのは丈の短いベビードールだったでしょ? ああいうパジャマだとどうしてもお腹が冷えるから体によくないのよ。何か別のパジャマはないかしら」
 薫は顎先に人差指の背を押し当てて言った。
「あ、それなら大丈夫です。これも私の両親からのプレゼントなんだけど、ベビー箪笥の下から二段目の引出を開けてみてください。お腹が冷えないようなパジャマもたくさん入っているから。――はい、できた。おとなしくしてていい子だったわね、茜ちゃん。おとなしくしていたご褒美に、オシャブリはずっと吸っていていいわよ」
 美也子は薫に向かって返事をした後、ぷっくり膨れたおむつカバーを優しく叩くと、茜が口にふくんでいるオシャブリをぴんと指で弾いた。
「あら、よっかたわね、ご褒美をもらえて。これからもずっといい子でいましょうね」
 薫が目を細めてそう言い、茜の頭を撫でた。
 そんな赤ん坊扱いに抗議の声をあげかけた茜だが、遂にそれはかなわなかった。へたに口を開いてオシャブリを落とそうものなら、冷たく光る圧舌片の容赦ない仕打ちが待っている。いや、それだけではない。美也子からもお仕置きを受けるかもしれないし、携帯電話に記録した恥ずかしい写真や動画映像をクラスメートに見られるという羞恥に満ちた責め苦さえ覚悟しなければならないのだ。今の茜にできるのは、オシャブリが口から離れないよう気をつけることと、オシャブリを咥えているために際限なく口の中に湧き出てくる唾を飲み込むことだけだった。
「へーえ、可愛いのがいっぱいあるじゃない。茜ちゃんに着せるパジャマ、私が選んでいいの?」
 茜がオシャブリを吸う姿をしばらく満足げな表情で眺めてから、薫はベビー箪笥の前に膝をついて美也子の言う引出を引き開けたが、途端に感嘆の声をあげてこちらに振り向いた。
「はい、お願いします。なるべくお腹が冷えにくそうなのを選んであげてください」
 美也子は、オシャブリを吸うたびに僅かに膨らむ茜の頬を人差指の先でつつきながら軽く頷いた。
「そう。じゃ……これがいいかな。あ、でも、暖房の利いた部屋だから長袖だと暑そうだからこれくらいで……うん、これにしましょう。吸水性の良さそうな生地でできているから汗も吸ってくれそうだし、これがいいわね。それで、このトレーナーに合うのは……」
 薫はしばらくあれこれと迷った後、レモン色のトレーナーと、それよりも濃いレモン色の生地でできた、大きな胸当ての付いたジャンプスカートのような衣類を持ってベッドのそばに戻ってきた。
「あ、いいですね。おむつカバーの生地がパステルピンクだから、レモンイエローが映えそう。それに、トレーナーとロンパースでグラデーションになるし、ただでさえ可愛い茜ちゃんがもっと可愛らしくなっちゃう」
 薫から衣類を受け取った美也子は顔を輝かせ、ことさら『ロンパース』というところを茜にはっきり聞こえるようわざと声を大きくして言った。
「でしょ? ロンパースは本当は遊び着なんだけど、吸水性のいいトレーナーなんかと組み合わせると、お腹のひえないパジャマとして使うこともできるのよね。ほら、こんなふうにお尻のところにボタンが付いていて、これを外すと大きく開くからおむつを取り替えるのも楽だし。いつまでもおむつ離れのできない茜ちゃんには本当にお似合いのパジャマだわ」
 薫は茜の目の前で、美也子が両手で捧げ持つロンパースの股間の部分に五つ並んでいるボタンを手早く外し、ボトムを大きく広げてみせた。



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