ママは同級生



「ふうん、そうなんだ。よしみちゃんっていうお友達もまだパンツじゃなくておむつなんだね。それで恵美ちゃん、みんなと遊ぶ時、よしみちゃんが一緒だと恥ずかしくないんだ。だから、茜お姉ちゃんもおむつだってわかって嬉しかったんだね。変なこと訊いたのにちゃんと応えてくれてありがとう、恵美ちゃん」
 美也子は確認するように恵美の言葉をなぞって言い、恵美に向かって両手を差し出した。
「じゃあさ、茜お姉ちゃんの隣に座ってお花を見ようか。すごい風が吹いたけど、散っちゃわないでまだまだ頑張ってる桜の花びらさんを茜お姉ちゃんと一緒に応援してあげようよ。恵美ちゃんと茜お姉ちゃん、きっと仲よしさんどうしになれると思うんだ。だって、お揃いのおむつカバーだもん」
 両手を伸ばした美也子はそう言って恵美の体に腕を絡めた。
「うん、いいよ。茜お姉ちゃんと一緒に花びらさんに頑張れ言ってあげる」
 恵美は、『お揃いのおむつカバー』と言われた時には少し恥ずかしそうにしたが、けれどすぐに顔を輝かせて母親の手を離れ、美也子の胸に飛び込んだ。
「はい、ここに座って。ここだと、桜の木がすぐ近くだから」
 美也子は胸元に飛び込んできた恵美の体を軽々と抱いて茜のすぐ横に座らせ、正面に植わっている桜の木を指差した。樹齢は何十年にもなるのだろう、幹は太くて枝も多く、咲き乱れる花の数も数え切れないほどで、穏やかな春風が吹き渡るたびに際限なく花びらが舞い散る。
「わ、すっごーい。ね、綺麗だね綺麗だね、茜お姉ちゃん」
 風に乗って舞う桜の花びらが自分の掌に落ちてくると、恵美は嬉しくてたまらないというふうに声を弾ませて、隣に座る茜の顔を見上げた。
「う、うん……」
 一方、茜の声にはまるで張りがない。もっとも、初めて出会った親子連れに恥ずかしい秘密を知られてしまったのだから、それも当たり前のことだろう。ここは、顔見知りのご近所さんではなかったことがせめてもの救いだと自分に言い聞かせるしかない。
「あら、駄目じゃない。せっかく恵美ちゃんが話しかけてくれてるんだから、もっと元気よく応えてあげなきゃ」
 恵美をベンチに座らせ、母親の横に立って二人の様子を見ていた美也子が茜をたしなめた。
 それに対し、恵美の母親は茜の胸の内を慮って、美也子の肘を軽く引っ張りながら言った。
「いいのよ、美也子さん。だって、あの、茜さんにしてみれば、とてもじゃないけど、そんな気分にはなれないだろうし」
「ううん、大丈夫ですよ。恵美ちゃん、お友達のよしみちゃんが一緒なら恥ずかしくないって言ってたでしょ? それと同じなんです。茜ちゃんだって、恵美ちゃんみたいなおむつ友達と一緒なら恥ずかしくないに決まってます。だから、恵美ちゃんに茜ちゃんの隣に座ってもらったんです」
 美也子は、自分の肘を引っ張る母親の手をそっと抑えつけ、すぐ目の前にある茜の顔を見おろした。
「そ、そんな……」
「それに、お母さんは恵美ちゃんがおむつのことを少しくらい恥ずかしがった方がいいんだっておっしゃいましたよね。それ、茜ちゃんにも当てはまるんだと思います。本当なら使い捨ての紙おむつの方が楽だけど、少しでも早くおむつ離れできるようにわざと布おむつにしているんです、茜ちゃんも。それで、おむつの濡れる感覚を味わって、それがとっても恥ずかしいことなんだってわかるようになれば、ちょっとでも早くおむつ離れできると思うんです。ううん、濡れた感覚だけじゃなくて、高校生にもなっておむつのお世話になっていること自体の恥ずかしさをたっぷり味わった方がいいと思うんです。だから、おむつカバーを誰かに見られるんじゃないかってどきどきするのも、茜ちゃんにとってはいい経験だと思います。――おもらしの原因が肉体的なものだったらそうも言っていられないんでしょうけど、お医者様の診たてだと、茜ちゃんのおもらし癖は精神的な要因が主だということですから、尚更そう思うんです」
 茜が言い返そうとするのを制止して、美也子は母親にそう説明した。精神的な要因もなにも、茜が昼間もおむつを手放せない体になってしまったのは美也子の企みが原因なのに、そんなことはまるでおくびにも出さない。
「……そうなのかな。私は茜さんがどんな事情でおむつが必要になったのか知らないからなんとも言えないけど、でも、一緒に暮らしている美也子さんがそう言うならそういうことなのかな……」
 女子高生のスカートの下からあらわになったおむつカバーを目の当たりにした驚きはなかなか収まらず、美也子の説明をそのまま信じていいものかどうか咄嗟には判断することもできずに、母親は言葉を濁らせて曖昧に頷いた。
「ね、恵美ちゃん。せっかく茜お姉ちゃんと並んで座ってるんだから、ちょっと競争してみない?」
 母親が考え込んでいる間に、ひょいと話題をはぐらかすように、美也子は恵美と目の高さを合わせて言った。
「競争? どんな競争?」
 好奇心旺盛な年ごろ子供のごたぶんに漏れず、恵美はすぐに顔を輝かせて美也子に訊き返す。
「あのね、お手々を伸ばしてスカートの端を持ってごらん。うん、そうそう。それで、そのままお手々を右と左にうんと広げて、それから、ほら、こうやって持ち上げるの。あ、そうよ、そんな感じ。上手ね、恵美ちゃん」
 美也子は自分の手を恵美の両手に添えてゆっくり動かし、スカートの裾をお腹の高さまで持ち上げさせて、そのまま両手を左右に広げながら斜め前方へ伸ばさせた。こうするとスカートが広がって、風に散る桜の花びらがふわふわと舞い降りてくるのを受け止めることができる。
「あ、恵美のスカートに桜の花びらが積もってく。すごい、美也子お姉ちゃん、すごい」
 恵美は自分のスカートの上に舞い落ちるピンクの花びらに歓声をあげ、きらきらと瞳を輝かせた。
「恵美ちゃん、スカートをそのままにしておくのよ。スカートを元通りにしたら花びらがみんな落ちちゃうからね。じゃ、次は茜ちゃんね。ほら、茜ちゃん、恵美ちゃんみたいにスカートを広げて桜の花びらを受け止めるのよ。いい、恵美ちゃんと茜ちゃん、どっちがたくさん花びらを集められるか今から競争だからね。ほら、よーい、どん!」
 美也子は大声で号令をかけると、恵美にそうしたのと同じように茜の両手に自分の手を添えた。
 けれど、茜は願として手を動かそうとしない。美也子のなすがまま恵美と同じようにスカートの裾をお腹の高さまで持ち上げて桜の花びらを受け止めようとすれば、おむつカバーがあらわになってしまう。現に、さかんに体を左右に揺らしてスカートで花びらを受け止めることに夢中になっている恵美の下腹部はまるで無防備で、わざわざ覗き込もうとしなくても、パステルピンクのキルティング生地でできたおむつカバーが丸見えだ。
「ほら、恵美ちゃんはもうあんなに集めてる。茜ちゃんも早くしないと負けちゃうわよ」
 美也子は、スカートを捲り上げることを頑なに拒む茜にそう言って促した後、耳元に唇を寄せて囁やいた。
「いつまでも駄々をこねていると、困ることになるのは茜ちゃんの方よ。ママの言うことをきけないなら、携帯の写真を藤崎さんに見せてもいいし、薫先生に恥ずかしい診察をしてもらってもいいし、教室でおもらししちゃっても保健室へ連れて行かずに放っておいてもいいのよ。なんなら、茜ちゃんがママのおっぱいを吸ってる写真、今すぐ恵美ちゃんと恵美ちゃんのお母さんに見てもらおうか?」
 そう脅されると、茜にしても両手を動かさざるを得なくなる。それまでスカートが風で舞い上がらないように押さえていた両手を太腿の上を這うようにして伸ばし、躊躇いがちにスカートの裾を持つと、何度も息を吸ったり吐いたりを繰り返してから、下唇を噛みしめて、その手をそろそろと持ち上げた。そこへ暖かな春風が吹きつけて、風をふくんだスカートがふわっと膨らみ、普通なら下から覗き込まない限り見えない太腿のあたりまでがあらわになった。もちろん、恵美のお尻を包み込んでいるおむつカバーをそのまま大きくしたようなデザインのおむつカバーも、前当てにあしらったアニメキャラの刺繍も含めて丸見えだ。



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