ママは同級生



「いいのよ、そんなに恥ずかしがらなくても。だって、茜ちゃんは赤ちゃんでしょ? 赤ちゃんがママのおっぱいを欲しがるのは当たり前よ。それに、おっぱいを吸ってちょうだいって茜ちゃんにお願いするお姉ちゃまもとっても恥ずかしいのよ。恥ずかしいけど、どうしても茜ちゃんにお姉ちゃまのおっぱいを吸ってほしいの。だから、恥ずかしいのはおあいこ。ね、だったらいいでしょ? お姉ちゃま、小学生の時に、赤ちゃんだった妹に自分のおっぱいを吸わせたことがあるの。お姉ちゃまのお母さんが仕事に忙しくて、なかなか妹にかまってあげられなくて妹はいつも泣いてた。それで、ぱいぱいなんて出るわけないのに、お姉ちゃま、自分のおっぱいを妹に吸わせてたのよ。そしたら、妹も泣きやんでくれて。あの時の幸せな気持ちが忘れられないの。だから、ね?」
 弥生は、首筋にすがりつく茜の後頭部を両手の掌で包み込むようにして、茜の顔を自分の胸元に押しつけた。
 美也子に比べれば年下でも母性溢れる弥生が相手で、しかもどうしてそんなことを言い出したのかわかりやすく弥生本人が説明してくれたということもあって、茜はしばらく迷ったものの、やがておずおずと唇を開いて弥生の乳首をそっと口にふくんだ。同時に弥生が、茜のお尻を自分の太腿の上に載せ、右腕で茜の背中を支えるようにして、茜が乳首を吸いやすいように抱き直す。
 それは、奇妙な光景だった。大柄とはいえ高校の入学式を明日に控えたまだ十五歳の弥生の膝に、弥生が入学する高校の先輩でしかも入学式には生徒会長として演壇で挨拶をすることになっている茜がちょこんとお尻を載せて二つ年下の弥生の乳首を口にふくんでおずおずと唇と頬を動かしている光景は、奇妙ななまめかしさに満ちていた。
「お姉ちゃまのおっぱいから本当にぱいぱいが出ればいいんだけどね。そしたらもっと茜ちゃんに喜んでもらえるのに、ごめんね、ぱいぱいが出なくて」
 弥生は、自分の乳房に顔を埋めるようにして乳首を吸う茜の背中を優しく撫でさすりながら声をかけた。
 それに対して茜は、一度だけ上目遣いに弥生の顔をちらと見上げたが、すぐに、はにかんだような表情で再び乳房に顔を埋めてしまい、何も応えない。
 それからしばらくの間、二人は無言だった。
 浴室に響くのは、弥生が茜の背中や首筋を優しく撫でる手の動きに合わせて浴槽の湯面に小さな波が立ち、その波が浴槽の内側を叩く小さな水音だけ。
 けれど、決して重苦しい沈黙ではない。
 弥生は自分の乳首を無心に吸う茜の様子をいとおしそうに見守り、茜は弥生に何か言いたそうにするのだがなかなか踏ん切りがつかないようで、気恥ずかしそうな顔で弥生の乳首を吸い続ける。それは、息詰まるような沈黙ではなく、互いに言葉を発することさえ躊躇われるような癒しの時間なのかもしれない。弥生は言葉を発する代わりに茜の背中を撫でさすり、茜は言葉を発する代わりに弥生の乳房に顔を埋め。

 おそるおそるといった感じで茜が弥生の顔を見上げたのは、そんな穏やかな時間がどれくらい流れた後だったろうか。
「……お姉ちゃま、茜、茜ね……」
 乳首を咥えたままだから少しくぐもった声だけれど、茜の言葉は弥生の耳にはっきり届いた。
「どうしたの、茜ちゃん? お姉ちゃまに何かお話があるのかな?」
 弥生は、おどおどした上目遣いで自分の顔を見上げる茜に向かって、すっと目を細めて言った。
「……茜、赤ちゃんになりたいの。このままずっとお姉ちゃまに甘えていられる赤ちゃんになりたいの……」
 小さな声でそう言う茜の顔に朱が差したのは、温かなお湯のためだけでは決してない。生徒会長をつとめる高校三年生の年ごろの多感な少女が自分よりも二つ年下の少女に甘えながら赤ちゃんになりたいと口にするその気恥ずかしさは他にたとえようもないだろう。けれど、その恥ずかしさにもかかわらず、とうとう茜は胸の内を吐露してしまったのだ。
「そう、茜ちゃんは赤ちゃんになりたいの。でも、茜ちゃんはもうずっと前から赤ちゃんよ。ママやおばあちゃまやお姉ちゃまにおむつを取り替えてもらって、哺乳壜でぱいぱいを飲ませてもらっている赤ちゃんなのよ。なのに、それだしゃ駄目なの?」
 弥生は茜の髪をそっと撫でつけて訊き返した。
「……茜、弥生お姉ちゃまの赤ちゃんになりたいの。弥生お姉ちゃまだけに甘えたいの!」
 茜は思いのたけをぶつけるように言って、弥生の首筋にまわした両腕に更に力を入れた。そうして、弥生の乳首を咥えたまま、くぐもった声で続ける。
「茜、本当は高校生だよ。弥生お姉ちゃまより年上の高校生だよ。だけど、美也子ママがこのお家に来て、茜、赤ちゃんにされちゃったんだよ。本当は高校生なのに、おむつをあてられて哺乳壜でぱいぱい飲まされて、おねむの時はおっきなベビーベッドに寝かされて、サークルメリーであやされる赤ちゃんにされちゃったんだよ。……こんなの、恥ずかしいよ。春休みが終わって、今日からおむつで学校へ連れてかれたんだよ。恥ずかしくてたまんないよ。でも、茜、もう高校生に戻れないんだよ。だって、ちっち我慢できないんだもん。ちっち我慢できなくて、おむつあててないと教室でも公園でもバスの中でもお家の廊下でも、いつおもらししちゃうかわからないんだもん。だから、赤ちゃんになりきっちゃいたいの。ママもお姉ちゃまも言ってたでしょ? 赤ちゃんだったらおむつも哺乳壜も恥ずかしくないよって言ってたでしょ? だから、心の底から赤ちゃんになりきりたいの。ずっとじゃなくていいから、怖いママじゃなくて、優しい弥生お姉ちゃまの赤ちゃんになりたいの!」
 こんなことを口にできるのは、美也子の監視の目が届かない浴室くらいしかなかった。とうとう胸の内を吐露してしまった茜は、弥生がどんな返事をするのか激しい不安に包まれ、その不安から逃るために、これまでよりも激しく弥生の乳首を吸い始めた。
「駄目よ、茜ちゃん。そんなに強くおっぱいを吸ったら痛いんだから」
 弥生は茜の背中をとんとんと優しく叩いてたしなめ、すっと息を吸って言った。
「そりゃ、お姉ちゃまも茜ちゃんがもっと赤ちゃんになってくれたら嬉しいわよ。でも、本当にそれでいいの? 年下のお姉ちゃまの赤ちゃんになっちゃっていいの?」
 弥生の問いかけに、茜は言葉では応えなかった。言葉では応えずに、弥生の胸元に顔を埋めたままこくりと頷いて、改めて乳首にむしゃぶりつく。
「わかった。茜ちゃんがそれでいいなら、茜ちゃんをもっと赤ちゃんにしてあげる。恥ずかしさも忘れるくらい、もっともっと赤ちゃんにしてあげる。それでいいのね?」
 弥生は、自分の首筋にすがりついて離れない茜の体を優しく揺すり上げた。
 茜は応える代わりに、公園で出会った恵美が母親にそうしていたように、更に力をいれて弥生の首筋にすがりついた。
「そう、そんなに赤ちゃんになりたいのね。じゃ、茜ちゃんがお姉ちゃまの赤ちゃんになるためのオマジナイをしようか」
 弥生は、茜が乳首を口にふくんでいる方の乳房を自分の手でそっと支え持って言った。
「オマジナイ……?」
「そうよ、オマジナイ。ちょっと恥ずかしいオマジナイだけど、これをちゃんとできたら、茜ちゃんが本当にお姉ちゃまの赤ちゃんになってくれるんだってわかるオマジナイ。試してみる?」
「……うん。弥生お姉ちゃまの赤ちゃんになれるオマジナイだったら、茜、頑張る」
「そう。じゃ、ちょっとの間だけお風呂から出るから、おっぱいを離してね」
 ひとしきり言葉を交わした後、弥生は茜の体を横抱きにして浴槽を出た。
 そうして、体から湯の雫を滴らせながら浴室の壁に填め込みになっている鏡の正面にバスチェアを置くと、大柄な体格を苦にするふうもなく軽い身のこなしでその上にお尻をおろし、自分の膝の上に茜のお尻を載せさせて茜の背中に自分の乳房を押しつけるようにして座らせた。そうしておいて弥生は、茜の両脚の付け根あたりを掌で支えるようにして、そっと体を持ち上げた。こうすると、ちょうど弥生が茜を後ろから抱え上げた姿勢で鏡と正面から向き合う格好になる。



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