ママは同級生



「ほら、鏡を見てごらん。茜ちゃんとお姉ちゃまが映ってるでしょう? 茜ちゃんはどんな格好をしているかな? そうね、茜ちゃんはお姉ちゃまに後ろから抱きかかえてもらっているわね。わかる? おしっこを教えられるようになった赤ちゃんはね、こんなふうに抱っこしてもらっておしっこをするのよ。茜ちゃん、まだおむつにちっちだけど、ちゃんと教えられるようになっておむつが外れたら、こうやっておしっこするのよ。だから、そのお稽古だと思って、鏡に向かって元気よくおしっこしてみようね。さ、ちゃんとできるかな」
 弥生は、茜の背後から甘い声で囁きかけた。
「そ、そんな……そんな恥ずかしいこと……」
 鏡に映る自分の姿にかっと顔をほてらせて、茜は幼児がいやいやをするように首を振った。
「だから、ちょっと恥ずかしいオマジナイだって言ったでしょ? でも、恥ずかしがらずにちゃんとできたら、その時から茜ちゃんをお姉ちゃまの赤ちゃんにしてあげる。うふふ、どうする?」
 弥生は、茜の耳元に熱い吐息を吹きかけて言った。
「……で、でも……さっき、ち、ちっち出ちゃったから……」
 茜は赤い顔で口ごもった。
「そうね、茜ちゃんは晩ご飯の最中にちっちでおむつ汚しちゃったね。だから、ちっち出ないって? じゃ、こうしてあげる」
 弥生は、洗面器に浸しておいたタオルをつかみ上げると、軽く絞ってから、タオルの隅を手早くコヨリのように丸め、茜の尿道にそっと押し当てて、こちょこちょとくすぐった。
「や、やだ……そんこと、そんなことしたら……」
 夕食の最中のおもらしから、まだ一時間も経っていない。けれど、膀胱にはそれなりの尿が溜まっている上、薫の薬のせいで膀胱の締まりが弱くなってしまっている茜のオシモだ。尿道口を湿ったタオルの先で刺激してやれば、簡単におしっこが溢れてくる。それも、膀胱がいっぱいになった後のことではないから、勢いよく迸るのではなく、じわじわと溢れ出てくる感じが、意識しての『放尿』ではなく自分でも意識しないままの『おもらし』に近く、余計に茜の羞恥をくすぐる。
「そう、それでいいのよ、茜ちゃん。ほら、鏡を見てごらんなさい。お姉ちゃまに抱っこしてもらっておしっこをしている赤ちゃんが映っているでしょう? あれが茜ちゃんなのよ。自分できちんとおしっこできるお姉ちゃんじゃなくて、誰かのお世話にならないとちっちもできない赤ちゃんの茜ちゃんなのよ」
 弥生が甘い声で言って聞かせた。
「……あ、赤ちゃん……茜は赤ちゃん……」
 無意識のうちに呟きながら鏡に目をやる茜の胸の中を羞恥が満たす。けれど、強要された恥辱ではなく、どこか甘酸っぱく気恥ずかしい感じだ。
「そうよ、茜ちゃんは赤ちゃんなのよ。お姉ちゃまに抱っこしてもらっておしっこさせてもらう赤ちゃんなのよ。恥ずかしい? でも、よく頑張ったわね。これで、赤ちゃんになるための恥ずかしいオマジナイはおしまい。これからはお姉ちゃまの可愛い赤ちゃんよ。だから、ちゃんとちっち出しちゃおうね。お姉ちゃまに抱っこしてもらって、ちっち、たくさん出しちゃおうね」
 弥生の囁き声が茜の心にじわっと滲み込んでゆく。
「……うん。茜、ちっち出しちゃう。茜、赤ちゃんだもん、弥生お姉ちゃまに抱っこしてもらってちっち出しちゃうの」
 うっすらと頬をピンクに染めながらも、茜は鏡に映る恥ずかしい自分の姿を見つめたまま、こくりと頷いた。
 けれど、茜が甘酸っぱい気恥ずかしさに浸っていられるのもほんの短い間だけだった。茜がおずおずと首を巡らせて弥生の顔を見上げかけた時、がらっと音がして浴室と脱衣場とを隔てるガラス戸が開いたかと思うと、靴下を濡らさないようバスブーツを履いた美也子が入って来たのだ。
 それに気づいた茜は怯えの色を浮かべ、思わず顔を伏せた。と、まだじわじわとおしっこが溢れ出ている自分の下腹部が瞳に映る。
「ふぅん、自分から赤ちゃんになる気になったんだ、茜ちゃん。だったら、もうお仕置きの必要はなくなるのね。可愛い茜ちゃんにお仕置きするのはママもいやだったから、これで一安心だわ。でも、赤ちゃんになりたいんだったら最初からママにそう言えばよかったのに。そうしたら、要らない手間をかける必要なんてなかったんだから」
 浴室に足を踏み入れた美也子は、茜の体を後ろから抱きかかえておしっこをさせている弥生のすぐ横に立つと、うすら笑いを浮かべて言った。
 それに対して茜は顔を伏せたまま力なく首を振って
「……ち、違う。茜、赤ちゃんになりたいんじゃない……」
と抗弁するのだが、弥生に抱っこされてちょろちょろとおしっこを漏らしたままではまるで説得力がない。
「でも、弥生お姉ちゃまにそう言ってたじゃない。ほら、これ」
 美也子は、弱々しく首を振る茜の耳元にコンパクトサイズのオーディオプレイヤーを近づけて再生ボタンを押した。
 スピーカーから自分と弥生の声が流れ出した途端、茜は、はっとした表情になって美也子の顔を振り仰いだ。
「最近は、いろんなメーカーがiPodみたいなプレイヤーを出してるのよ。これは衝撃とか水濡れに強いのが売りのモデルでね、お風呂に入りながらでも音楽を楽しめるようになっているの。しかも、録音機能まで付いてるから便利なのよね。このプレイヤー、予備のシャンプーとか石鹸とかを置いてある棚に置いてみたんだけど、感度もすごくて、ちゃんと録音できているみたいね。本当、いくらでも便利になってくわ」
 予備のシャンプー等を置いた棚は、シャワーの湯がかからないよう、ガラス戸のすぐ近くに造り付けになっている。そこからだと弥生と茜がいる場所までは幾らか距離があるのだが、美也子の言う通り、再生される二人の話し声は極めて鮮明で、会話の内容だけでなく、茜が弥生に甘えている様子まで、その場にいたかのように聞き取れた。

「ほら、やっぱり、弥生お姉ちゃまに赤ちゃんになりたいって言ってたのは茜ちゃんでしょ? それとも、茜ちゃんの声によく似た誰かがお風呂場にいたのかしら?」
 美也子は、録音した内容を一通り聞かせ終えると、今度は少し音量を下げ、リピート再生にして二人の会話を繰り返し聞かせながら、少し意地の悪い口調で茜に問い質した。
「……そ、それは……」
 そんな物が浴室に仕掛けてあるとは思ってもみなかった茜は、美也子の問いかけに対して曖昧に言葉を濁すだけだった。
「茜ちゃんは優しい弥生お姉ちゃまの赤ちゃんになりたいのね? そんなに仲よしさんどうしだと、ママ、妬けちゃうわ。でも、仕方ないわね、可愛い茜ちゃんの願いだもの、ママはそれで我慢するわ。これから、できるだけ弥生お姉ちゃまに茜ちゃんの面倒をみてもらうようにする。それでいいわね?」
 オーディオプレイヤーに録音した茜と弥生の会話をBGMのように再生し続けながら、美也子はそう決めつけた。
「……」
「私はそれでいいわよ、お姉ちゃん。故郷に残してきた妹の代わりだと思って、茜ちゃんのこと、うんと可愛がってあげる。妹は小学生で、茜ちゃんはまだおむつの赤ちゃんでだから、ちょっと年は違うけど、妹が小っちゃかった頃のことを思い出して、たっぷり可愛がってあげる」
 こわばった表情で押し黙ってしまった茜とは対照的に、弥生が顔を輝かせて大きく頷いた。
「そう、頼もしいわね、弥生は。じゃ、お願いするわよ。本当はママとして私も茜ちゃんのこと可愛がってあげたいけど、無理強いして嫌われちゃたまらないもの。小っちゃな赤ちゃんの茜ちゃんも、もう少しお姉ちゃんになれば私にもなついてくれるでしょうから、ゆっくり待つことにするわ。たっぷり時間はあるんだから、あせることもないしね」
 美也子は相好を崩して弥生に言った後、腰をかがめて、弥生に背後から抱きかかえられたままの茜の顔を覗き込むと、一言一言をゆっくり区切るようにして言い聞かせた。
「ママや弥生お姉ちゃまが言わせたんじゃない、これは茜ちゃんが自分で言いだしたことなのよ。茜ちゃんが自分から赤ちゃんになりたいって弥生姉ちゃまにお願いしたのよ。そのことはちゃんと憶えておきなさい。――ま、もしも忘れちゃったとしても、この録音を聴けばすぐに思い出せるでしょうけど」



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