ママは同級生



「あ、そうそう。お着替えの前におむつを調べておかなきゃいけないんだったわね。茜ちゃんは、今朝はちっち大丈夫かな? それとも、いつもみたいにおねしょしちゃったかな?」
 そう言う弥生の口調には、美也子と違って、まるで悪意が感じられない。けれど、その優しい口調が却って茜の羞恥を切なくくすぐる。
 大きなベビーベッドの上で両手の拳をぎゅっと握り体を固くする茜のロンパースの股間に並ぶボタンに弥生の指がかかった。
「おむつ調べるから、ちょっとの間だけおとなしくしていてね。すぐにすむからね」
 弥生はそう言って五つ並ぶボタンを手早く外し、ロンパースのボトムの生地をさっと前後に広げて、右手の中指と人差指をおむつカバーの中に差し入れた。じっくり時間をかけて様子を探るまでもなく、ぐっしより濡れた布おむつの感触が指先に触れる。
「ちっち、たくさん出ちゃったみたいね、茜ちゃん。これじゃ、先におむつを取り替えてあげないとお尻が気持ち悪いわね」
 おむつカバーの中から抜き取った指先をウエットティッシュで拭いながら、弥生はにこやかな笑顔で言った。けれど、茜がおねしょでおむつを濡らしてしまっていることを弥生は今になって初めて知ったわけではない。夜中に茜のおむつの具合を調べるのが習慣になっていてるから、おねしょのことは予め知っている。だから、その時におむつを取り替えてもいい筈なのだが、実際にはそうしなかったのは、朝になって茜が目を覚ましてから改めておねしょのチェックとおむつの交換をするよう美也子から命じられていたからだ。そうして、美也子が弥生にそう命じたのは、言うまでもなく、茜の羞恥をこれでもかと煽るためだった。夜中、ぐっすり眠りこけている間におむつを取り替えてしまったのでは、茜自身はそのことにまるで気がつかないまま済んでしまう。けれど、朝になって目を覚ましたのを確認した後でおむつを取り替えてやれば、想像もつかないほどの屈辱と羞恥を茜に与えることができる。そうやって茜に、自分が美也子の支配下に置かれていることを身をもって思い知らせるのが目的だった。
「じゃ、そのままおとなしくしていてね。すぐに済むからね」
 弥生は、控えめに開いていたロンパースのボトムの生地を、今座はさっと大きく広げた。
「あ……」
 改めて内腿を撫でる柔らかなロンパースの生地の感触に、茜は思わず喘ぎ声を漏らしてしまう。
「そうそう、オシャブリがころんしちゃってるんだったわね。はい、茜ちゃんの大好きなオシャブリよ。これを吸っておとなしくしていてちょうだいね」
 茜の喘ぎ声を耳にした弥生は、今になって気づいたように、枕元に転がっているオシャブリをつかみ上げて茜の唇に押し当てた。学校へ行く時の他はずっとオシャブリを咥えさせられている茜は、すっかりそれが習い性になってしまったようで、まるで抵抗するふうもなくゴムの乳首を口にふくむ。
「うふふ、オシャブリを吸うのがとっても上手になったわね、茜ちゃん。でも、そうよね。春休みが始まってすぐ赤ちゃん返りして二週間以上も経つんだもの、すっかり赤ちゃんになっちゃってもおかしくないわよね」
 弥生は右手の人差指で茜の頬をつんとつついてから、おむつカバーの前当てに指をかけた。
「あらあら、本当にぐっしょりだこと。おねしょ、たくさん出ちゃったね、茜ちゃん」
 おむつカバーの前当てを開き、横羽根を左右に広げた弥生は、あらわになった布おむつを目にするなり、にっと笑って言った。昨日から新学期が始まって学校へ行き、その帰りには公園で遊ばされたため、家に閉じこもっている時と比べるとすっかりお腹も空いて喉も渇いていたということもあって、昨夜の夕飯ではいつもよりたくさん離乳食を口にし、いつもよりずっとたくさん哺乳壜のミルクを飲んだせいだろう、おねしょの量も半端ではなかった。もう少しおしっこが多かったら、おむつカバーから横漏れしていたかもしれないほどだ。
「こんなにたくさんちっちしちゃうんだったら、おむつ、十枚じゃ足りないかもしれないわね。それに、教室でおもらししちゃったら、保健室へ連れて行くのに長い廊下を歩いて階段もおりなきいけないって美也子ママが言ってたから、その途中で横漏れしちゃうかもしれないから、今日からおむつを少し増やしておこうか。その方が茜ちゃんも安心だものね?」
 おむつの濡れ具合を見てとった弥生は、もうすっかり手慣れた様子で、ぐっしょり濡れた布おむつをポリバケツの中に滑り込ませると、ベッドの隅に置いておいた藤製のバスケットを手元に引き寄せ、予め十枚を一組にして重ねておいた布おむつの上に動物柄の布おむつを更に三枚重ねてから、茜のお尻の下に敷き込んだ。
「でも、困ったわね。今でもおむつが足りないかもしれないのに、取り替えるたびにこれまでよりもたくさん要るとなると、こまめにお洗濯しても間に合わないかもしれないわ。学校が始まっても最初のうちは私も早めに帰ってこられるからお洗濯の回数を増やしてもいいけど、本格的にクラブ活動が始まるとそういうわけにもいかないし。このままだと、美也子ママのお下がりのおむつだけだと本当に足りないかもしれない。西村の大奥様にお願いして生地を送っていただいて新しいおむつを縫わなきゃいけないかしら。あとでお姉ちゃんに相談してみなきゃいけないかな」
 おむつを取り替えるためにてきばきと手を動かし続けてそう言う弥生の呟き声がいやでも茜の耳にも届く。その言葉に、茜の顔がかっとほてった。
「だけど、仕方ないわね。茜ちゃんは赤ちゃんなんだから。赤ちゃんはおしっこでおむつを汚すのが仕事みたいなもんなんだから。何枚も何枚もおむつを汚しながらおっきくなるのが赤ちゃんなんだから。そうだよね、茜ちゃん?」
 茜は、ベビーパウダーで茜の股間をうっすらと化粧し、新しいおむつで茜の下腹部を包みこむと、茜の顔を正面から見おろして、笑いを含んだ声で言った。
 けれど、茜は何も応えられない。熱くほてった顔をますます赤く染め、オシャブリをきゅっと噛みしめて瞳を頼りなげに震わせるばかりだ。
「いいわよ、無理に応えなくても。言葉で応えなくても、茜ちゃんは赤ちゃんよ。お風呂場でお姉ちゃまの赤ちゃんになってくれたんだものね、茜ちゃんは」
 弥生は優しそうな表情で微笑むと、手早くおむつカバーの横羽根と前当てを重ね合わせてマジックテープで留め、おむつカバーの裾ゴムからはみ出している布おむつをおむつカバーの中に丁寧に押し入れて、これまでより枚数を増やしたおむつのせいでますます大きく膨らんだ茜のお尻をおむつカバーの上からぽんぽんと叩いた。
「さ、できた。おむつはこれでいいから、今度はお着替えしようね。パンツは赤ちゃんのおむつのままだけど、お洋服は高校生のお姉ちゃんになりましょう」
 弥生はもういちどおむつカバーの具合を確かめてから、茜の体を抱き起こして床に立たせた。その拍子に、お腹の上まで捲れ上がっていたロンパースのボトムがふわっと舞いおりて、水玉模様のおむつカバーを隠してしまう。けれど、いつもよりたっぷりあてたおむつのせいで丸く膨らんだおむつカバーのラインはロンパースの上からもはっきりわかる。
「じゃ、制服を持ってきてあげるから、ベッドにお座りして待っててね」
 いったん床に立たせた茜をベビーベッドの端に座らせててから、弥生は廊下に足を踏み出した。向かう先は、『育児室』の隣にある、もともと茜が使っていた部屋だ。育児室には茜を赤ん坊扱いするための衣類や小物が置いてあるばかりで、普通の洋服や通学鞄といった茜の実際の年齢をしめす物は全てそちらの部屋に置くようになっているため、制服を着せるには、そちらへ取りに行く必要がある。

「はい、高校生のお姉ちゃんの制服を持ってきてあげたわよ。さ、赤ちゃんのお洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」
 待つほどもなくブレザーの上着とチェック柄のスカート、丸襟のブラウスを両手に抱えて育児室に戻ってきた弥生は、運んできた衣類をベッドの隅に置くと、茜の手を引いて再び床に立たせた。



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