偽りの幼稚園児





               【十三】

 羞恥と屈辱に肩を振るわせて力なく立ちすくんでいた葉月が、気配を察して、はっと顔を上げた。
「だけど、スカート丈が短い理由、それだけじゃないんだよ。たとえば、スカートが短いと、こういうことを調べる時も便利なんだ」
 皐月は、葉月の太腿を半分ほどしか隠していない制服のスカートの裾に右手をかけた。
 葉月は慌ててスカートを押さえるが、間に合わない。皐月が右手を振り上げると、スカートがぱっと捲れ上がって、アニメキャラのパックプリントがあらわになった。
「やだ……!」
 思わず悲鳴じみた声をあげてしまう葉月。
 しかし、皐月は澄ましたものだ。葉月の金切り声などまるで耳に届いていないかのような涼しい顔で、あらわになったショーツに包まれたお尻の膨らみに冷ややかな視線を向けたかと思うと、
「少しの間だけ、腰を曲げて前屈みの姿勢になりなさい。それから、お尻を後ろに突き出して」
と有無を言わさぬ口調で命じるのだった。
「な、何を……」
 何をするつもりなのさと葉月は尋ねたいに違いない。けれど、その声さえ出てこない。
「お尻を後ろに突き出しなさいと言った筈だよ。ぐずぐずしてないで、早くしなさい」
 スカートの後ろを捲り上げられた姿で身を固くするばかりの葉月に向かって皐月は冷たく言い放った。決して乱暴な口調ではないものの、なかなか言いつけを守ろうとしない園児を叱る時の、威厳に満ちた声だ。
 もうすっかり精神的に屈服してしまいそうになっている葉月が、体をびくんと震わせ、涙目になりながらも、命じられるまま、のろのろと腰を折り、体を前屈みにして、おそるおそるお尻を後ろに突き出す。
「そう、それでいいんだよ。パパの言うことがきけて、葉月はお利口さんだね。でも、これからは、パパに叱られる前に言いつけを守るようにしなきゃ駄目だよ。葉月だって、パパに叱られるのはいやだよね?」
 両手を自分の膝について腰を折り脚をぷるぷる震わせながらようやくのこと後ろに突き出した葉月のお尻の膨らみを空いた方の手でぽんぽんと叩いて、つい今しがたの冷たい声が嘘みたいなわざとらしくも優しげな声で皐月は言った。
「じゃ、今からパンツが濡れてないかどうか確かめてあげる。そのままじっとしているんだよ。暴れたりしたらお尻たたきのお仕置きだからね」
 皐月は、スカートの後ろを捲り上げられた状態でお尻を後ろに突き出すという惨めな姿で体を固くする葉月に対してそう言い聞かせてから、にこやかな笑顔で薫に向かって言った。
「スカート丈が短いと、捲り上げる時に脚に絡まないからいいんだよ。ほら、これなら、葉月がおもらしでパンツを汚しちゃってないかどうか調べるのも楽ちんだよ」
「お、おもらしだなんて……」
「しくじっちゃった子はね、誰でも最初は、自分がおもらしでパンツを汚しちゃったことをなかなか認めようとしないんだ。でも、ちょっとパンツを見ればすぐにわかる。その時になってやっとのこと、おもらしを認めて、ごめんなさいするんだよ。葉月も、そんな子たちと同じなのかな。他の子供たちと同じで、自分から進んでごめんなさいできないのかな」
 皐月は、片方の眉をぴくんと吊り上げて、葉月の弱々しい抗弁を遮った。
「ち、違う……そんなじゃ……」
「ふぅん、何が違うの? 僕は本当は十八歳です。十八歳の大学生だからおもらしでパンツを汚したりなんてしません。ひょっとすると、そう言いたいのかな? だけど、大人になってもパンツを汚しちゃうこともあるよね。あんた、眠っている間に汚しちゃったパンツを恥ずかしがって、ちゃんと洗濯カゴに入れてなかったことがあるんじゃなかったっけ。そんなパンツを私がみつけて内緒で洗っておいてあげたことが何度もあるんだけど、気がついてないのかな?」
 瞬間、何を言われているのかわからない。けれど、ややあって、夢精で汚してしまったパンツのことを皐月は言っているんだ。そう気づいた途端、葉月の顔がこわばる。
「あらあら、びくびくした顔しちゃって。でも、私は――パパは、葉月がおねむの間にパンツを汚しちゃったことを叱るつもりはないよ。こんな格好をしているけど、葉月は本当は大学生の男の子なんだから、いやらしい夢を見て夢精でパンツを汚しちゃうなんて自然な生理現象だよね。だから、それはいい。ただ、おもらしでパンツを汚しちゃうのは小っちゃな子供だけじゃないんだってことを言いたいだけ。現に、葉月も汚しちゃったんだからね? ま、透明なおしっこか白いおしっこかっていう違いはあるし、昼間のおもらしなのか夜のおねしょなのかっていう違いもあるけど、でも、子供でも大人でも女の子でも男の子でも、パンツを汚しちゃうことがあるってことには違いがないんだよ」
 そこまで言って、ほんの少し間を置き、
「だけど、パンツを汚しちゃって、それを黙ったままにしとくのは感心しないな。濡れたパンツを穿いたままだと、せっかくのすべすべのお肌がただれて真っ赤に腫れちゃうんだよ。だから、調べてあげるんだよ。葉月がパンツを汚しちゃってないかどうか。汚しちゃって、なのに恥ずかしがって隠しているんじゃないかって。叱るためなんかじゃないんだってこと、お利口さんの葉月はわかってくれるよね?」
と、最後の方は優しい口調でそう言う皐月。その優しさが葉月を却って不安にさせる。
「このままスカートを捲り上げているから、ママ、その間に葉月のパンツを調べてあげてよ。特に、クロッチの部分、両脚の間から後ろにかけてのあたりを念入りに」
 言葉を失った葉月のお尻にちらと視線を向けてから、皐月は薫の方に向き直った。
「そうね、葉月ちゃんが濡れたパンツのままでいてお肌が荒れちゃったなんてことになったら可哀想だものね。これも娘の健康管理の一環なんだから、ちゃんとしとかないとね」
 こくりと頷いた薫が、葉月の正面から背後に場所を変え、両膝を床について葉月のお尻を斜め下から見上げるような姿勢をとった。

「どう?」
 葉月の身を包む制服のスカートの端を持ち上げたまま、軽く腰をかがめて皐月が薫に訊いた。だが、そこには、葉月のパンツが濡れている筈だという確信めいた様子がありありと見て取れる。
「ちょっと待っていてね。今、上の方から見ているから。――あら、これは……」
 腰を曲げて後ろに突き出した葉月のお尻の膨らみの真ん中あたりからゆっくり視線を下におろしていた薫だが、葉月の両脚の後ろがわ、ちょうどペニスの先とおぼしき僅かな膨らみがあるあたりに目をやった途端、声を弾ませて
「そんなに大きくはないけど、滲みがあるわね。よく見ないとわからないほど薄い色だけど、封を開けたばかりの新しいパンツにこんな滲みがついているわけなんてないから、葉月ちゃんが汚しちゃったものに間違いさなそうよ」
と、すぐそばにある皐月の顔を見上げて言った。
「そう、やっばりね」
 薫の返答に、けれど、皐月が驚く様子はまるでなかった。保育園に通う女の子そのままの格好をさせられた実の弟が穿いている女児用ショーツのクロッチに滲みがあると聞かされても、全く動揺するふうもなく、まるでそのことをあらかじめ知ってでもいたかのように平然とし、あまつさえ、うすら笑いの表情さえ浮かべる。
「やっぱりねって、パパ、知っていたの? ぐっしょりってわけじゃないけど葉月ちゃんがパンツを汚しちゃっているのを、確かめる前から知っていたの?」
 僅かに首を反らし、皐月の顔と葉月のショーツとを見比べながら、薫が怪訝そうな顔で聞き返した。
「うん、とっくに知っていたよ。ずっと一緒に暮らしていると、細かなところまで観察が行き届くものでさ、子供の頃、それこそ生まれたての赤ちゃんの頃から両親の代わりに私が面倒をみてきて、私が大学を卒業して一人暮らしを始めてから今年の四月まではマンションと実家とで離れ離れで住んでいたけど、この春からまた一緒に暮らすようになった血のつながった弟のことだもの、私が知らないことなんて一つもないよ。夢精で汚しちゃったパンツをどこに押し込んでいるのか、こっそり買ってきたエッチな本をどこに隠しているのか、オナニーでティッシュを一日に何枚くらい使っちゃうのか。そんなことも、好きな食べ物が卵焼きだってことやお気に入りのアイドルが誰かってことと同じくらい、よく知っているよ。葉月と私とのそんな間柄だもの、葉月がパンツに恥ずかしい滲みをつくっちゃったことなんて、とっくにお見通しだよ」
 薫に向かってそう応える皐月の声は、もちろん、葉月の耳にも届いている。
 皐月の顔に浮かんでいたうすら笑いが、いつしか、艶然とした笑みに変わっていた。
「田坂先生と私とで制服を着せてあげようとした時、短い間だったけど、あんたの体から力が抜けたことがあったよね? あの時に出しちゃったんだよね? ああ、ううん、きちんと言うと、それまでもじわじわ溢れ出てたのが、その時に一番たくさん出てきちゃったんだよね? でも、田坂先生がみつけた滲み、眠っている時に夢精でこぼしちゃったり自分で自分を慰めてティッシュを汚しちゃう精液なんかじゃなくて、その前にじくじく溢れ出してくる、我慢汁とかいうヤツなんだよね? もしも精液まで出しちゃってたら、その時にはあんた、うっとかいう呻き声をあげて体をのけぞらせて、その後、へなへなになって床にへたりこんじゃってた筈だもん。いくらなんでも私たちの目の前でそこまでいやらしいことはできなかったみたいだけど、でも、我慢汁を溢れ出させちゃうほど気持ちよかったんだよね。――小さな女の子みたいなお股に可愛いバックプリントのショーツを穿かせてもらったことが、胸にカップのあるキャミソールを着せてもらったことが、特製の園児用セーラーワンピースを着せてもらったことが、それに、年少さんの女の子扱いしてもらったことが、とっても気持ちよかったんだよね? 気持ちよくて気持ちよくて、そのたびに少しずつ我慢汁を溢れさせて、とうとうパンツに、表側からもわかるほどの我慢汁の滲みをつくっちゃったんだよね? でも、知ってる? 我慢汁はねばっこいから、すぐには乾かないんだよ。穿き替えないと、いつまでもべとべとしたパンツを穿いてなきゃいけないんだよ? ま、明後日から年少クラスの女の子の葉月ちゃんも、本当は大学生の男の子なんだから、そんなこと、とっくに知ってるに違いないけどさ」
 それまで薫と並んで葉月の真後ろにいた皐月だが、スカートの端を持ち上げたまま葉月の体の横に場所を移して、羞恥のために真っ赤にほてる葉月の耳元にねっとりした声で囁きかけた。
 それから皐月は、葉月の耳元に唇を近づけたまま目だけを動かして薫に向かって意味ありげな視線を投げかけた後、再び葉月の耳たぶにねっとりと絡みつくような声で囁きかけるのだった。
「だけど、いつまでもそんな中途半端なままじゃ嫌だよね? イきそうなのにイけいなんて、そんなの困るよね。いつまでもあそこが疼き続けてちっともおとなしくならないなんて、気持ちがどうにかなっちゃうよね。うちの幼稚園でも、年少さんのちょっと気の弱い女の子だと、おしっこが出そうなのにトイレへ行くのを無理に我慢して、それでとうとう失敗しちゃうようなことがあるのよ。お家のトイレじゃなきゃできない子とか、おしっこが出そうなのはわかってるけど他の子供たちと遊んでる途中に抜け出せない子とか、トイレに入って便器に座るところまではできるのに外から聞こえる他の子供たちの声が気になっておしっこがなかなか出ない子とか、いろいろなのよ、小さな子供っていうのは。あんたも、そんな子たちと一緒なのかもね。白いおしっこと本当のおしっこの違いはあっても、出そうになっているおしっこを自分でちゃんとできないとこなんて、まんま、そんな子たちと同じだよね。――それでね、おしっこが出そうなのに出せない子たちには、私たちがちゃんとさせてあげるんだよ。幼稚園のトイレを怖がる子は私たちが手をつないで連れて行ってあげるし、遊んでいるお友達の輪から抜け出せない子は私たちが声をかけて連れ出してあげるし、トイレの外からドア越しに聞こえる友達の声が間になって仕方ない子は、おしっこが終わるまで私たちがトイレのドアのすぐ前に立って優しく話しかけてあげるんだ。だから、あんたにも私がちゃんとしてあげるよ。女の子の下着と女の子の制服が気持ちよくて女の子パンツの中に白いおしっこを出しちゃいそうなのに恥ずかしくてたまんなくて我慢汁しか出せない葉月ちゃんには、私が思いきりイかせてあげる。だから、心配しなくていいんだよ」
 そう囁きかけた皐月は、再び葉月の背後に戻り、それまで持ち上げていたスカートの裾から手を離した。

 空気をふくみながら、葉月のお尻の上にスカートがふわっと舞いおりる。
 けれど、それで下腹部が全て覆い隠されてしまうわけではない。前屈みでお尻を後ろに突き出す姿勢を取らされているせいで、スカートの裾はお尻の膨らみの中ほどの所に引っかかってしまい、脚の付け根のあたりから下はまだ丸見えのままだ。
「スカートの丈が短いと、葉月がパンツを濡らしてないかどうかを調べるのも簡単だし、その後の処置も楽にできるから本当に助かるわ。適切な指示を業者さんに出してくださった園長先生には幾ら感謝しても足りないよね」
 薫と葉月、どちらに向かってともなく言い、皐月は、葉月の両脚の間に右手を差し入れた。




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