偽りの幼稚園児





               【十九】

 オマルでのおしっこが終わった葉月を待っていたのは、ちょっぴりだけどショーツも濡れちゃっていて穿き替えさせなきゃいけないから、ついでに体操服の寸法合わせも済ませちゃいましょうという薫の言葉に従って、体操服の試着だった。
 それまで跨がっていたオマルの傍らに立たされ、食事用のエプロンとスモックを脱がされ、オーバーパンツとショーツも脱がされてキャミソールとソックスだけを身に着けた葉月。そんな葉月の足を皐月が片方ずつ上げさせて薫がショーツを穿かせ、ショーツの内側に新しい布おむつを二枚重ねにしてあてがった。その後、ひばり幼稚園の園章が描かれた紙箱から薫が体操服の上着を取り出して、葉月の頭からすっぽりかぶせ、裾を引っ張って、皺になっているところを綺麗に伸ばす。
 体操服の上着は、丸首の首まわりと三分袖の袖口を明るい色のラインで縁取りしてあるのだが、これも制服と同様、他の園児たちの体操服を縁取るラインがマリンブルーなのに対し、葉月が特別年少クラスに属していることを示すために特別に使われる淡いピンクになっていた。しかも胸元には、「とくべつねんしょうくらす ひよこぐみ みさきはづき」と平仮名で書いた名札がしっかり縫い付けてあった。

「よかった、さすがは園の指定業者さん、体操服も葉月ちゃんにぴったりに仕立ててくれているわ。ほら、自分で見てごらんなさい」
 体操服の上着は、正確にぴったりというわけではなく、少し余裕をもたせて幾らか大きめに仕立ててあった。が、それが却って幼児めいていて可愛らしい。薫は満足そうに目を細め、皐月が脱衣場から運んできた姿見の鏡の方に葉月を向き直させた。
 キャラゴムで結わえたツインテールの髪に、パステルピンクのラインが入っただぶつきのぎみの体操服と、ショーツの前後のウエストゴムの上から布おむつの端をはみ出させた、ちょっぴり恥ずかしい格好をした幼女。
 大きな鏡に写るそんな自分の姿に、葉月は慌てて目をそらそうとするのだが、なにかに魅入られでもしたかのように、凝視してしまう。すんでのところで絶頂を迎えられなかったペニスがいやらしく脈打ち、感じやすい部分が柔らかい布おむつに擦れて、ねっとりしたおつゆがじわっと溢れ出す。
 ショーツの中の布おむつがじっとり湿る感触に下腹部をぞくりとさせながら、葉月は、鏡に写る自分のショーツ姿から目を離せないまま、浅い呼吸を何度も繰り返すばかりだ。
「ね、お似合いでしょ? じゃ、次はこれを穿いてみようね。制服やスモックの時はショーツの上にオーバーパンツだけど、体操服の時はこれを穿くのよ」
 葉月が姿見の鏡から目を離せないでいる間に、皐月がもうすっかり手慣れて様子で足を上げさせ、薫が、なにやら厚ぼったい生地でできた体操着の下を穿かせる。
 それは、全体が厚手の生地でできたブルマーだった。それも、下半身にぴったり密着するブルマーではなく、だぶっとした、かぼちゃ型のブルマーだ。
「幼稚園のお友達が体操服の時に穿くのはハーフパンツだけど、特別年少クラスの葉月ちゃんは、このブルマーなのよ。どうして葉月ちゃんだけブルマーなのか、わかる?」
 かぼちゃ型ブルマーのウエスト部分をキャミソールの裾よりも上の位置に引き上げ、体操服の上着の裾をブルマーの外に出して引っ張り、乱れを整えながら、薫が意味ありげに訊いた。
 ペニスから溢れ出る我慢汁を吸った布おむつが太股にじとっと触れる感触に心あらずといった様子の葉月は何も答えられない。
「普通のショーツの上に穿くのなら、ハーフパンツでいいのよ。でも、特別年少さんの葉月ちゃんは、いつショーツを濡らしちゃうかわからないでしょ? 現に、ショーツの中に布おむつをあてがってなきゃいけないんだものね。今はショーツが濡れるのを防ぐためにあてがっているおむつは二枚だけど、ひょっとしておちびりが増えちゃったら、おむつの枚数を増やさなきゃいけないかもしれない。そうなると、ショーツが膨らんで、ハーフパンツだと窮屈になっちゃうの。だから、だぶっとしたかぼちゃ型のブルマーなのよ、葉月ちゃんがショーツの上に穿くのは。――さ、できた。うん、お尻がぶっくり膨らんで、とっても可愛いわよ。ほら、見てごらん」
 薫は、ふっくら膨らんだブルマーの上から葉月のお尻を二度三度と右手で撫で、その様子を、エプロンのポケットから左手で取り出した手鏡を合わせ鏡にして姿見に写した。
 なかなかおとなしくならないペニスがブルマー越しに刺激されて、行き場を失って両脚の間に固着されたまま、ひくひく蠢き、むなしくのたうちまわる。
 手鏡に映し出される薫の右手の執拗な動きが、今の葉月には、ただ恨めしかった。

               *

 体操服に着替えさせられた葉月は、再び特製の幼児用の椅子に座らされ、幼児用の食器を使っての食事を強要された。椅子のすぐ近くには、綺麗に洗った白鳥型のオマルが置いてあって、その作り物の物言わぬ唇が、葉月ちゃんはトイレでおしっこをできない小っちゃな女のだから私が近くにいなきゃ駄目なんだよと囁きかけているかのようだ。
 長年にわたって一人暮らしを続けてきた薫がつくる料理だから、美味しいのは間違いない。けれど、幼児用の食器を使わされるのが屈辱で、葉月はなかなかプラスチック製の先割れスプーンを手に取れずにいる。
 しかし。
「自分じゃ食べられないのね、葉月ちゃんは。いいわ、ママが食べさせてあげる。さっきはパパが食べさせてあげようとしたけど、パパみたいに叱って怖がらせてばかりじゃ駄目よね。だから、今度はママが優しく食べさせてあげるわね」
 薫が葉月の左隣に座ってスプーンを掴み、ソーセージを掬い取った。
「はい、あーん」
 皐月が演じる厳しいパパとは対照的に、薫が、いかにも優しいママ然とした甘い声で言い、スプーンを葉月の口元に近づけた。
 葉月がおずおずと口を開く。
 いくら切羽詰まっていたとはいえ幼児のように自分でオマルに跨がり、オマルでおしっこをするという恥ずかしい行為を見られた上に、しかもその手でおしっこの後始末までされるという恥辱きわまりない行為の相手だ。今更なにを拒んでみせても、なにほどの意味もない。葉月の胸には諦観しかなかった。――いや、諦めるしかないのだと自分に言い聞かせているのかもしれない。おしっこの後始末と称していたぶられたペニスは絶頂寸前にまで昂ぶりながら、結局はすんでのところで放置され、痺れにも似た下腹部のじんじんした疼きだけが虚しく残った状態が、実は今も続いている。ペニスが強引に後ろ向けに固着されているせいで精通も思いにまかせず、絶頂を迎えた際にも猛々しい射精とはほど遠く、精液をじくじくと溢れ出させることしかできず、我慢汁を間断なく溢れさせ続けるという惨めな状態に置かれているせいで、下腹部がいつまでも未練がましく疼いたままだ。
 その疼きをおさめてくれるかもしれない、絶頂を迎えるまでペニスをいたぶってくれるかもしれない、その優しい手が、スプーンを持って目の前にあるのだ。
 葉月には、その手を拒むことはできなかった。
 気がつけば、いわれるまま葉月は口を開け、薫が持つスプーンでソーセージを食べさせてもらっていた。
「うふふ。お上手よ、葉月ちゃん。ちゃんと食べられて、とってもお利口さんだこと」
 薫は、本当の園児に対してそうするかのように甘ったるい声で褒めそやし、スプーンにスクランブルエッグを掬い取る。
 従順でありさえすれば、ペニスを満足させてくれるかもしれない。
 葉月は大きく口を開いて、スプーンが近づくのを待った。
「あらあら、よほどお腹が空いていたのね。でも、大丈夫よ。全部ママが食べさせてあげるから」
 薫は優しく微笑みかけ、サラダのミニトマトを掬い取った。
 女の子みたいにおしっこでお尻のまわりを濡らしたら、優しく後始末してくれて、ペニスの一番感じやすいところを撫でてくれるかもしれない。
 葉月はスプーンが近づくのを待ちきれず、自分から口をスプーンに近づけた。
 そのせいで幼児用の椅子が揺れ、すんでのところで、ミニトマトがスプーンからこぼれ出て、食事用エプロンの立体ポケットに落ちてしまう。
「あ……」
 思わず声が出てしまう。
 皐月にスプーンを押し当てられた時はただ頑なに拒むだけだったのに、薫が手に持つスプーンなら拒むことなく、それどころか、薫が持つスプーンから上手に食べられないと、妙に悲しくなってくる。
「駄目よ、そんなに急いじゃ。葉月ちゃんは女の子なんだから、おとなしく待ってようね」
 薫はくすっと笑い、葉月の頬を人差指の先で優しくつついて、代わりのミニトマトを掬い取った。
 女の子らしくしていたら、下腹部が疼くのを鎮めてもらえるかもしれない。
 葉月は特製の幼児用の椅子の背もたれに体を預け、薫がスプーンを口に近づけてくれるのをおとなしく待った。
「えらいえらい、今度は、ママが食べさせてあげるのをちゃんと待てたわね。時々お転婆さんになっちゃうけど、本当は葉月ちゃん、おとなしくてお利口さんなのよね」
 薫はいったんスプーンをテーブルに戻し、左右両方に取っ手が付いていて、ゴムの吸い口が付いたプラスチック製のコップを持ち上げた。
 小っちゃな女の子らしくしていたら、最後までしてもらえるかもしれない。
 葉月はゴムの吸い口をおずおずと口にふくんだ。
「ミルク、上手に飲めるかな。ちゃんとちゅうちゅうできるかな?」
 葉月が吸い口を咥えたことを確認して、薫はコップをゆっくり傾けた。
 田坂先生のおっぱい、どんなだろう。姉さん、言ってたっけ。僕が赤ちゃんの時、おもしろがって姉さんが自分のおっぱいを僕に吸わせたって。おぼえてないけど、柔らかかったんだろうな、子供の頃の姉さんのおっぱい。それと比べて、今の田坂先生のおっぱい、どんなだろう。
 葉月はゴムの吸い口に舌を押し当て、ちょっと舐めてみてから、唇に力を入れた。
「最初は難しいけど、頑張るのよ。赤ちゃんの頃、ママのおっぱいを吸ってた時のことを思い出してちゅうちゅうしてごらん」
 薫は、傾けたコップの牛乳の表面にできる小さな泡の様子を確認しようとして、葉月の頬と自分の頬を触れ合わさんばかりに近づけた。
 ママ? ママって誰のこと? 僕の母さんのことだったら、僕は母さんのおっぱいなんて飲んだことがない。いつも姉さんが準備してくれた哺乳瓶だった筈だ。ママって誰のこと?
 葉月は、すぐ目の前にある薫の乳房の感触を想像しながら、ゴムの吸い口を舌の上で転がし、甘噛みするようにして吸ってみた。
「そうよ、それでいいのよ。上手に飲めるようになったわね、葉月ちゃん」
 コップを満たす牛乳の表面にぶくぶくと無数の細かな泡が立ち、ゴムの吸い口から牛乳が流れ出る。
 ゴムの吸い口から牛乳が溢れ出した瞬間、羞恥に満ちた姿で屈辱の食事を強要されているというのに、 葉月の顔がぱっと明るくなった。
「おいしいでしょ? ママに飲ませてもらうミルクは本当においしいでしょ?」
 薫は片手でコップを支え持ち、もう一方の手で葉月の髪を優しく撫でつけた。




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