偽りの幼稚園児





               【二十】

 不意に、葉月がコップの牛乳を飲むのをやめる。
「どうしたの? もう、お腹いっぱいになっちゃった?」
 薫は気遣わしげに訊いて、コップをそっと葉月の口から離した。
 しかし、葉月は何も答えない。
 何か言いたそうにするのだが、けれど何も言わずに、すぐ目の前にある薫の乳房をちらちら見ては、弱々しく首を振るといったことを何度も繰り返す。
「いいわ、わかった。葉月ちゃんがしたいようにしてあげる」
 察するところがあるようで、薫は、手にしたコップを食卓に置き、幼児用の椅子に作り付けになっているテーブルの上のプレートとスプーンも食卓に移してテーブルを撥ね上げると、ブラウスの上に身に着けているエプロンを脱ぎ捨て、ダイニングルームの床に正座で座りながら、皐月に目配せをした。
 皐月は軽く頷き返し、椅子のベルトを外して葉月の体を抱え上げ、お尻を薫の腿の上に載せさせた。
 その葉月の首筋から背中にかけてのあたりに薫が右手をまわして体を支え、横抱きにする。
「コップのミルクじゃいやなんでしょ? ママのがいいのよね?」
 薫は、葉月のお尻を腿の上に載せ、右手で横抱きにしたまま、左手だけでブラウスのボタンを外した。
 若い女性にはあまり似つかわしくないベージュの地味なブラジャーがあらわになる。
「すぐにあげるから、ちょっとだけ待ってね」
 あやすように薫が言い聞かせ、ブラジャーのカップに指先を触れると、カップの一部が開いて、ぴんと勃った綺麗なピンクの乳首が現れた。
「葉月ちゃんに飲ませてあげやすいように、少し前から授乳用のブラにしているのよ。さ、思い切りちゅぱちゅぱしていいのよ、ゴムの作り物なんかじゃない、ママの本物のおっぱいを」
 薫は、葉月の背中と首筋を支えている右手に力を入れた。
 葉月の体が抱き寄せられ、乳首が目の前に迫る。
 一瞬だけ迷った後、葉月は薫の乳首にゆっくり口を寄せ、おずおずと唇を開いた。
 その時、葉月はもういちど、乳首を見た。乳首が濡れているのがわかる。汗とは違う、もう少してらてらした濡れ方だ。
「さ、いらっしゃい」
 薫は乳房の下に左手を差し入れ、葉月が吸いつきやすいように支え上げた。
 葉月は一度だけ大きく息を吸ってから、乳首の先をちろっと舐め、両目をぎゅっと閉じて、おそるおそる乳首を咥えた。
「いいのよ、それで。コップの吸い口をちゅうちゅうしていた時のことを思い出して、ママのおっぱいを吸ってごらんなさい」
 薫の言葉に従って、葉月は、舌と唇を使って乳首を吸い始める。
 びちゃびちゃと、子猫がお皿のミルクを舐めるような音がいやらしく響く。
「そうよ、それでいいのよ。葉月ちゃんはおっぱいが大好きなんだもんね、たくさん吸っていいのよ」
 薫は葉月に甘く耳打ちした。
 と、突然、葉月が薫の乳首を吸うのをやめ、乳房から口を離した。
「どうしたの、急に。何かびっくりするようなことでもあったのかしら?」
 どうしたのと訊きながらも、その答えを既に知っているのがありありの口調で薫は言った。
 それに対して葉月は無言で、驚きのあまり唇を半開きにしているのだが、その唇の端から顎にかけて薄く白い条ができて、うっすら白い雫が顎先から食事用エプロンの表面に滴り落ちていた。
「まさか本当に出るとは思ってなかったのに、おっぱいが出てびっくりしちゃった?」
 薫は悪戯めかした表情を浮かべ、エプロンの表面を立体ポケットの中へ伝い流れる白い雫を大きな瞳で追いかけながら言った。
 葉月がおそるおそる頷く。
「葉月ちゃんと一緒にプロジェクトを進めることが決まった時に、ママ、思ったのよ。可愛い葉月ちゃんにママのおっぱいをあげたいって。プロジェクトの間だけの家族だけど、でも、ママのおっぱいを飲んでほしいって。短い間だけの家族ごっこだからこそ、ママのおっぱいをあげて絆を深めたいって。それで、ママ、園長先生のお知り合いのお医者様に相談したの。そしたら、そのお医者様が素敵なお薬を用意してくださったのよ。妊娠していなくてもおっぱいが出るようになる、とっても素敵なお薬を。もらってすぐのみ始めて、しばらくしたらおっぱいが大きくなってきて、それで、出るようになったの。その時から、授乳用のブラに替えたのよ。これだと、溢れ出しちゃったおっぱいを吸い取ってくれるパッドがブラの内側に付いてるし、今みたいに、すぐ葉月ちゃんにおっぱいをあげられるから。うふふ、びっくりさせちゃったね。でも、もう大丈夫。ほら、ここを見てごらん。葉月ちゃんに飲んでほしくて、吸わなくてもどんどん出てきちゃってるのよ。こぼれちゃったら勿体ないから、さ、吸ってちょうだい」
 薫は、葉月の体をもういちど抱き寄せ、乳房を口に押し当てた。
 本人は全く気がついていないけれど、選択性筋弛緩剤の作用によって筋力が弱まっている葉月は、いとも簡単に薫の乳首を口にふくまされてしまう。
「葉月ちゃん、ママのことが大好きだよね? 大好きなママのおっぱい、ちゅぱちゅぱできて嬉しいよね? 葉月ちゃんがちゅぱちゅぱしてくれて、ママも嬉しいのよ。さっき、コップのミルクを飲む時、ママのおっぱいのことを考えながら飲んでたでしょ? じっとママのおっぱいを見ながらミルクを飲んでたんだもん、すぐにわかるわよ、そんなこと。だから、ほら、今はママのおっぱいをしっかり飲んでちょうだいね」
 言われて、最初は躊躇いがちだった葉月の唇の動きが、次第次第に強くなってゆく。
「いいわよ、その調子。葉月ちゃんがママのおっぱいを吸っている間、ママは葉月ちゃんのおっぱいをいじってあげる。明後日からやっと幼稚園の葉月ちゃんのおっぱい、どれくらい可愛らしいのかな。それとも、もう大っきいのかな。さ、どんなかな」
 葉月に乳首を吸わせながら、薫は左手を体操服の上着の裾からそろりと中へ差し入れると、ブルマーのウエストを少し引き下ろし、更に、キャミソールの裾から中へ差し入れ、薄い胸板に指を這わせた。
 やがて、探り探り這ってゆく指先に、乳首が触れる。
 葉月の乳首は、色づく前のサクランボのようなこりっとした感触で、決して柔らかくはなかった。薫の乳首と比べれば成育具合は劣るものの、それでも、薫の乳首に負けないくらいぴんと勃っていた。
 薫は、こりっと固い葉月の乳首を親指と人差指でつまみ、きゅっとひねった。
「ん、むぅ……」
 葉月の肩がびくんと震え、体がのけぞる。
 それを薫が引き寄せ、決して自分の乳房から葉月の口を離させない。
「おませさんなのね、葉月ちゃんは。まだ幼稚園にも行っていない小っちゃい子なのにおっぱいがこんなに感じやすいなんて、本当におませさんだこと」
 薫は、葉月の乳首の先端に中指の腹を載せ、つっと擦った。
「ひぃぅ……」
 葉月は幼児がいやいやをするように首を振るのだが、すぐに薫の手でおとなしくさせられてしまう。
「それに、やっぱり、葉月ちゃんは女の子だったのね。制服のサイズ合わせで初めて裸を見たときは大事なところが腫れちゃって男の子みたいに見えたけど、園長先生のお知り合いのお医者様から教えていただいた方法できちんとしてあげて、そのお医者様がくださったお薬をつけてあげたら、腫れがひいて、ちゃんと女の子らしいお股に戻って。よかったわね、葉月ちゃん。いつかお医者様に会ったら、きちんと礼を言わなきゃね。それに、だいいち、男の子だったら、こんなにおっぱいが感じやすいわけないもの。おっぱいがこんなに感じちゃうんだから、やっぱり、葉月ちゃんは女の子なのよ」
 薫は葉月の乳首を掌で包み込み、乳輪を五本の指で揉みしだいた。
「や、やだ……」
 葉月は弱々しい声をあげて、だらしなく口を開いた。
 口の中の母乳が流れ出て白い条になり、食事用エプロンに伝い落ちる。
「駄目よ、お口を開けちゃ。せっかくのおっぱいがこぼれちゃうでしょ」
 薫はますます強く自分の乳房を葉月の唇に押し当てる。
 もういちど薫は、葉月の乳首を親指と人差指でつまみ、きゅっとひねった。
「あ……!」
 乳房で塞がれた葉月の口から短い声が漏れ出て、下腹部がびくんと震えた。
 薫は、葉月の乳首をいたぶっていた左手を体操服の裾から抜き、ブルマーの股ぐりから更にショーツの股ぐりの中に差し入れ、様子を探った。
 ショーツの内側にあてがった布おむつ越しにペニスが脈打つ様子が感じ取れ、ペニスの先端があるあたりの布おむつがじっとり湿ってくるのがわかる。
「出ちゃったのね、白いおしっこが。ママのおっぱいを飲みながら白いおしっこでおむつを汚しちゃうなんて、まだまた葉月ちゃんは赤ちゃんね。あ、そうか。明後日から幼稚園へ行くのは楽しみだけど、特別年少クラスの葉月ちゃんは、年少クラスのお友達に追いつけるかどうか心配なのね。自分じゃパンツも穿けなくて、ご飯もママに食べさせてもらわなきゃいけなくて、ショーツの中におむつをあてがってないといけない葉月ちゃんは、年少クラスのお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに何でも一人でできるようになれるかどうか心配で、それで、幼稚園へ行くのがちょっぴり心配になってきちゃって、赤ちゃんのままでいたくなってきたんだ?」
 薫は、まるで幼児をあやすように、湿っぽい布おむつの上から、タックのせいでいきり立つことができず弱々しくとくっとくっと脈打つペニスを中指と人差指の腹でとんとんと優しく叩いてやる。
「いいわよ。だったら、赤ちゃんのままいさせてあげる。あ、ううん、ちゃんと幼稚園には行くのよ。昼間は幼稚園へ行くんだけど、お家に帰ってきたら赤ちゃんに戻してあげる。いいわね? 幼稚園じゃ、特別年少クラス・ひよこ組の園児で、お家じゃ、赤ちゃん。幼稚園で頑張って疲れちゃっても、お家で赤ちゃんに戻ってママにたっぷり甘えたら元気になって、次の日はまた幼稚園で頑張れるわよ。――それでいいわね、葉月ちゃん?」
 乳首をいじられてペニスが絶頂を迎え、弱々しいながらも精液を溢れ出させたことでようやく下腹部の疼きも癒えたのが理由なのか、葉月の目がとろんとしてきて瞼が閉じそうになり、乳首を吸う力が弱くなる。
 と、自分でそのことに気づいた葉月は瞼をぱちくりさせて再び乳房にむしゃぶりつくのだが、それも長くは続かない。
 しばらくすると、また、唇を動かす力が弱くなって、再び瞼を閉じそうになる。
 そんなことを何度か繰り返す葉月の手に、ブルマーの股ぐりから抜いた手を絡めて、薫は葉月の耳元に
「幼稚園じゃひよこ組で頑張って、お家に帰ったら赤ちゃんに戻って甘えて、次の日はまた幼稚園。ママと一緒に頑張ろうね。約束よ、葉月ちゃん。はい、指切りげんまん、嘘ついたら針の〜ます」
と囁きかけて、絡めた手を軽く振った。
 それから薫が指切りの手を離すと、葉月の手がだらりと垂れ下がり、今度こそ瞼が閉じてしまう。それでも口はは薫の乳房から離さず、微力ながらも唇は乳首を吸うことをやめなかった。
「あらあら、おねむかな、葉月ちゃんは。そうね、昨夜は考え事をしていたとかであまり眠れなかったみたいだし、今日は朝からいろんなことがあって疲れちゃったよね。いいわ。ゆっくりねんねなさい。晩ご飯の用意ができたら起こしてあげるから、それまでたっぷりねんねするといいわ」
(それにしても、あのお医者様からいただいたお薬は本当によく効くこと。カップのミルクにちょっと混ぜただけなのに、こんなに気持ちよさそうに眠っちゃうなんて)頭に浮かんだその言葉は口に出さずに、薫は甘い声で囁きかけて、葉月の背中をとんとんと優しく叩いて葉月を寝かしつけるのだった。。

               *

「――ちゃん、おっきしなさい。もうすぐ晩ご飯の用意ができるから、おっきするのよ。おっきして、パパにお風呂に入れてもらって、お目々をぱっちりさせてからご飯にしましょう」
 耳元で声がする。
 葉月は瞼をこすり、ゆっくり息を吸い込んで、ベッドに寝たまま伸びをした。
 まだ焦点の合わない瞳に、見慣れない室内の様子が映る。
「え……?」
 葉月は少し慌てた様子で目をぱちくりさせ、上半身を起こした。
 体にかけられていた薄手の毛布が滑り落ちて、胸元からウエストまでがあらわになる。
 ベッドのすぐ横に玩具の鏡台が置いてあって、あらわになった上半身が写っていた。
「え……!?」
 葉月はもういちど目をぱちくりさせ、鏡に写る自分の上半身を見つめた。
 葉月が身に着けているのは、いつものグレーのスウェットパジャマではなく、広く開いた首まわりから胸元にかけてと、パフスリーブになっている三分袖の袖口にフリルをあしらい、クリーム色の柔らかな生地でできたネグリジェだった。




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