偽りの幼稚園児





               【二六】

「昨夜は、夕飯の時とねんねの時と、葉月がおっぱいをたっぷり飲んでくれたから、ママ、胸がだいぶ楽になったわ。でも、また張ってきたから、今朝のおっぱいもたくさん飲んでね」
 薫は甘ったるい笑みをみせて、豊満な胸を葉月の目の前に突き出した。
 薫の言う通り、昨夜は、寝かしつけられる時だけでなく、夕食も母乳だった。
 ――昨日の朝食は結局、薫がスプーンで掬い取ったスクランブルエッグとソーセージとサラダを一口ずつ食べただけで、あとは幼児用のコップに入ったミルクを飲み、薫の乳房にむしゃぶりついた直後に(薫がミルクに混入した睡眠導入剤のせいで)眠ってしまったから、殆どを残してしまっていた。それを口実に、「葉月はまだちゃんとしたご飯を食べられない赤ちゃんだから」と決めつけられ、夕飯時には、食卓の椅子に座った薫の腿にお尻を載せて横抱きにされ、ぴんと勃った乳首を口にふくまされて母乳を与えられたのだった。もっとも、幼女の装いに身を包んではいても実は十八歳の葉月が、母乳だけで空腹を満たすことはできない。そこで、母乳の後に与えられたのが、幼児用のコップに入れたミルクだった。ただし、それは単なるミルクではなく、必要な栄養を過不足なく調合して粉末状にした、非常時での飲用を想定して試作された特殊な粉ミルクを湯で溶いたものだった。母乳と粉ミルクを続けて飲まされる間、「葉月はまだ硬い物を食べられない赤ちゃんだから、これからずっと、ママのおっぱいと粉ミルクしか飲んじゃ駄目よ。お腹が空いたら、いつでもママのおっぱいをあげる。喉が渇いたら、どこでもママのおっぱいをあげる。これから葉月のご飯とおやつはママのおっぱいなのよ。わかったわね?」と薫に繰り返し囁かれ続けながらも、それに抗えない葉月だった。
 そんな夕食を終え、しばらくしてから『はづきのおへや』へ連れて行かれて真新しいベッドに寝かされた葉月。そのすぐ側に薫が体を横たえ、右手を伸ばして葉月に腕枕をしながら、左手だけでブラウスのボタンを外して胸をはだけ、授乳用ブラのカップを開けた。ピンクの乳首を目にした途端、身を焦がすような羞恥も胸を満たす屈辱も忘れ、むしゃぶりつく葉月。
 そうして葉月は、薫の乳首を口にふくんだまま、唇の端からこぼれ出る母乳が淡いレモン色のネグリジェの胸元に伝い落ちるのを感じながら瞼を閉じたのだった――。
 昨夜の出来事を思い出し、頬を赤くする葉月。
 しかし、その目は知らず知らずのうちに、エプロンの胸元を大きく張り出させている乳房に向いてしまう。
「おめめがさめてすぐなのに、もうママのおっぱいが恋しくなっちゃったのかな、葉月は。うふふ。本当に甘えん坊の赤ちゃんなんだから。でも、そんな可愛い葉月のこと、ママは大好きよ」
 薫は葉月の反応を楽しむように、自分の乳房を悪戯っぽく揺らしてみせた。
 それから、自分の人差指を葉月の唇にそっと押し当てて続ける。
「でも、朝のおっぱいは、おむつをちゃんとしてからよ。濡れちゃってるんでしょう?」
 眠っている間にしくじってしまったに違いないと断定する薫の口ぶりに対して、けれど、弱々しく頷くことしかできない葉月。
「じゃ、毛布をどけるわよ」
 昨日の昼間と同様、薫は葉月の体にかかっている薄手の毛布を手元にたぐり寄せ、手早くたたんでベッドの隅に押しやった。
 と、これも昨日と同様、ミニ丈のショートネグリジェがあらわになる。昨日の昼間と違っているのは、ショートネグリジェの裾から見えているのがかぼちゃ型ドロワースではなく、レモン色のおむつカバーだということと、昨夜の昼寝では目がさめた時には恥ずかしい粗相をしていなかったのが、今は、意識しなくてもはっきりわかるほど下腹部が湿っぽくなっていることだ。
「さ、今度はどれくらい濡れているかな。ぐっしょりかしら、びしょびしょかしら、それとも、ちょっぴりだけかな」
 薫は、『今度は』という部分を強調して言いながら、ネグリジェの裾をおへその上に捲り上げた。
「今度は……?」
 その部分が気がかりのようで、葉月は思わず聞き返してしまう。
「そうよ。葉月は、おねむの間に何度もおむつを汚しちゃったのよ。最初は、ママのおっぱいをちゅうちゅうしながらねんねしてすぐで、その後は、真夜中に様子をみてあげたんだけど、その時もたくさん出ちゃってたのよ」
 薫は面白そうに目を細めて言い、おむつカバーの腰紐を解いて前当てのマジックテープを剥がし、股ぐりのスナップボタンを外した。
「あらあら、今度もたくさん出ちゃってる。ぎりぎり横漏れはしてないけど、これからはもっとおむつを増やしておいた方がよさそうね」
 おむつカバーの前当てを広げると、水玉模様の布おむつがあらわになった。
 おへそのすぐ下あたりは濡れていないものの、お尻から股間にかけてはおしっこを吸って薄く黄色に染まり、ぐっしょり濡れているのが一目でわかる。それに、ほんの少し前にしくじってしまったのだろう、まだ生温かいらしく、エアコンの冷気に触れて微かな湯気が立ちのぼっているようにさえ見える。
「こんなに何度もおむつをぐっしょり濡らしちゃって、それでもおめめがさめないなんて、困った赤ちゃんだこと。でも、いいのよ。ママは、そんな困った赤ちゃんの葉月が大好きなんだから。いい子の葉月よりも、困った子の葉月の方がずっとずっと可愛いの。だから、いつまでもおむつ離れなんてできなくていいのよ。葉月はずっとママの赤ちゃんなんだから。ママがいないと何もできない、ママと一緒じゃなきゃどこへも行けない、小っちゃな赤ちゃんなんだから」
 薫はおむつカバーの横羽根をお尻の左右に広げ、横あてのおむつと股あてのおむつを、おむつカバーの横羽根と前当ての上に重ね置いてから、葉月の両足の足首をまとめて掴み、そのまま高々と差し上げて、おむつカバーを手前にたぐり寄せた。
「本当ならこのままおむつを取り替えてあげたいんだけど、夕飯の時に説明した通り、少しの間だけ葉月のお股を男の子に戻してあげる。その間に、パパにトイレへ連れて行ってもらいなさい」
 薫は、幼児用のお尻拭きで葉月の股間を拭い、差し上げていた足首をベッドの上に戻した。
 そこへ皐月が手を差し伸べ、葉月をベッドから床におり立たたせた。
 これから行われることを想像して、葉月の体が真っ赤に染まる。

 葉月のペニスはタックを施されて、亀頭が肛門の方に向けられている。しかもペニスの先端が外皮よりも僅かに外に出る状態で固着されており、そんな状態で排便をすると、便が尿道口に付着する恐れが強い。便には雑菌が無数に生息しているため、尿道口に付着した便を介して、葉月がなんらかの病気に罹患する可能性は決して低くない。そのような状態になるのを避けるため、皐月と薫が話し合った結果、日に一度だけ、朝を迎えて葉月が目をさました直後に限りペニスタックを解いてからトイレへ行かせ、排便させることにしたのだった。
 しかしそれで、葉月は本来の姿に戻れるわけではない。
 女児用のショートネグリジェを着せられたまま下半身は丸裸でトイレへ行き、排便の時こそ一人きりになれるものの、その後は、皐月の指示もと便器の洗浄機能でこれでもかというくらい念入りにお尻のまわりを洗らわされた上、便器のビデ機能でペニスの先端まで入念に洗わされ、しかも、きちんと洗浄できているかどうかを確かめるという名目で、実の姉である皐月の手で肛門の周辺をまさぐられ、アルコールをたっぷりしみこませたお尻拭きで下腹部を満遍なく拭き上げられるという屈辱が待っているのだ。

               *

「――はい、これでいいわ。今度も綺麗にできたわよ。自分の目で見てみる?」
 皐月に連れられてトイレへ行ってから部屋に戻ってきた葉月に再びペニスタックを施し、仕上がり具合を確認した薫は、満足そうに頷いて、エプロンのポケットから手鏡を取り出した。
 手鏡に映る自分の股間を目にして、葉月の頬にさっと朱が差す。
 けれどそれは、自分の下腹部が改めて童女のようにされてしまった羞恥のせいではなかった。
 むしろ、幼女そのままの自分の股間を目の当たりにして下腹部が妙に疼き、なぜとはなしに気持ちが昂ぶってしまったせいだ。
 ベッドからおり立ってすぐ薫の手で特殊な接着剤の効果をなくす中和剤を股間に塗布されてタックを解かれ、だらんと力なく垂れ下がる自分のペニスを目にした時も、便器に座って排便をしている最中に両脚の間で所在なげに垂れ下がっている自分のペニスを見た時も、葉月は、ようやく本来の下腹部を取り戻すことができたという喜びをおぼえることはなかった。それよりも、却って、自分のペニスが、どういうわけか、とても醜く思えてならなかった。自分のお尻のまわりに恥ずかしい汁を滴らせ、自分のお尻のまわりを生温かいおしっこでびしょびしょに濡らすだけの、醜悪な肉棒。そんなふうにしか感じられなかった。
 それが、薫の手によって再びタックを施されて醜い肉棒が見えなくなると、奇妙な安堵をおぼえてしまうのだ。

 はづき、おんなのこだもん、おちんちんなんていらない。
 おちんちんは、こわいんだよ。こわいおとこのひとが、おんなのこにわるいことをするときに、おちんちんがおっきくなるんだよ。
 はづき、おちんちん、こわい。おちんちん、どっかいっちゃえ。
 不意に、誰かの声が葉月の頭の中にこだまする。。
 しかしそれは、まるで聞きおぼえのない声などではなかった。
 たどたどしい幼児めいた口調のそれは、葉月自身の声だった。
 はっとして身をすくめる葉月。
「どうしたの、葉月? どこか具合がわるいの}」
 急に顔色を失い、ぱちぱちと何度も目をしばたたかせるばかりの葉月に向かって、薫が心配そうに声をかけた。
「とにかく、そのままじゃ風邪をひいちゃうから、ほら、ベッドにごろんしなさい。パパにトイレへ連れて行ってもらっている間に新しいおむつを用意しておいたわよ。だから、ほら、ふかふかのおむつの上にお尻を載せてごろんするのよ」
 薫は慌てて手鏡をエプロンのポケットにしまい、葉月の体をベッドの方に向けさせた。
 それに対し、突然、葉月が後ずさる。
「や、やだ。おむつをあてる時、ママ、葉月のお股を見るでしょ? お股を見たら、おちんちんも見えちゃうでしょ? そしたら、ママ、葉月のこと嫌いになっちゃう。おちんちんのある葉月のこと、嫌いになっちゃう。だから、おむつ、いやなの!」
 後ずさりながら、葉月は、頭の中に聞こえたたどたどしく幼児めいた口調で声を震わせ、いかにも悲しそうに訴えかける。
(な、なにをやってるんだ、僕は。いったい僕は何を言ってるんだ!?)
 自分が何をしているのか、自分が何を言っているのか、自分でもまるでわからない。わからないけれど、なぜだか薫に嫌われてしまうのではないかという思いが突然こみあげてきて、どうしようもない悲しみに胸が押し潰されそうになる。
 一方、こちらも葉月が何を言っているのか咄嗟にはわからない薫だったが、ふと思い当たることがあって、傍らで二人の様子を見守っている皐月の顔に目を向けた。
 薫の視線に気づいた皐月が、少し考えてから小さく頷いてみせる。
 それに力を得た薫は、のろのろと後ずさる葉月の体を力まかせに抱き寄せた。
「ママが葉月のことを嫌いになるなんて、そんなわけないでしょ!? 葉月はママの可愛い娘。可愛い可愛い、一人きりの娘。そんな葉月をママが嫌いになるわけなんて、絶対にあるわけないでしょ」
 薫は、抱き寄せた葉月の背中を何度も撫でながら、いかにも申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、葉月。ママがいけなかったのね。葉月がねんねしている間にママが変な話をしちゃって、それで、こんなに怖がってるのね。ごめんなさい、葉月。ママがいけなかったのよ。だけど、もう大丈夫。ママはずっと葉月のことが大好きよ」
 薫は、抱き寄せた葉月の後頭部を掌で包み込み、頬と自分の頬を擦り合わせて囁きかけた。
 昨夜、授乳しながら葉月を寝かしつけたのだが、葉月は寝入った後も無意識のうちに薫の乳首からなかなか口を離そうとしなかった。強引に離させるのも忍びなくて、葉月の口が自然と離れるのを待つことにしたのだが、待っている間、ついつい薫は、皐月に向かって自分の生い立ちを改めて語り出していた。




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