偽りの保育園児



「さ、葉月ちゃんのここ、綺麗にしようね。じきに、おっきなお兄ちゃんのお股を小っちゃな女の子のお股に変えてあげるからね」
 皐月は、葉月の下腹部に押し当てたブラシを丹念に動かし、ひくひく震える肌に純白の泡を執拗に塗りたくってゆく。
「や、やだよ……やめてよ、姉さんったら……」
 びくんと腰を震わせ、体を起こそうとする葉月。けれど、いつのまにか膝をつく場所を変えていた園長の手で膝と肩を床に押さえつけられ、思うにまかせない。
「ほら、また私のことを姉さんって呼んでる。そんなに聞き分けが悪い子だから、年相応のお股にしてあげるのよ。先生の言いつけをちゃんと守れない、お転婆な小っちゃな女の子にお似合いのお股に」
 皐月は再びブラシをソープカップに浸し、無数の泡を掬い取ると、目の端で葉月の表情を窺って言った。
「ご、こめんなさい。姉さ……先生のこと、ちゃんと御崎先生って呼ぶ。僕……わ、私、約束する。だから、もう許して」
 ペニスのまわりに広がる柔らかな泡の感触とお尻の下に広がるおねしょシーツのすべ
すべした肌触りとに下腹を包まれ、さらさらの髪を絨毯にこすりつけながら首を振って、葉月は今にも消え入りそうな声で懇願した。
「忘れない? ちゃんとするって約束したこと、絶対に忘れない?」
 懇願というよりも哀願と表現した方がふさわしい葉月の訴えに、皐月はブラシを持つ手をふと止めて、涙目になっている弟の顔を見おろした。
「忘れない。絶対に忘れない。だから……」
 念を押す皐月の言葉に一縷の望みを託して、小刻みに震える声で葉月が喘ぐ。
「だったら――」
 なんとも表現しようのない笑みをたたえて、皐月はブラシをソープカップに収めた。
 そんな皐月の行動を目にして、葉月の顔に微かな期待の色が浮かぶ。
 だが、それは束の間のできごとに過ぎなかった。床から僅かに頭を浮かせて葉月が注視する中、ソープブラシを手放した皐月は、代わりに剃刀を握りしめたのだ。
「だったら、葉月ちゃんが絶対に約束を忘れないよう先生も手伝ってあげる。葉月ちゃんが約束を忘れないよう、腕によりをかけて、葉月ちゃんのここを綺麗にしてあげるね。お風呂に入ったりトイレに行ったりしてパンツをおろすたびに、つるつるになったお股を自分の目で見て、そのたびに約束を思い出すといいわ。これなら、葉月ちゃんがつい忘れそうになっても大丈夫だよね。指切りげんまんの代わりに毛を切っちゃうの。せっかく葉月ちゃんが約束を忘れないようにしてるんだから、先生も手伝ってあげないといけないもんね」
「やだったら! わ、私、約束を忘れない。御崎先生との約束も園長先生との約束も絶対に忘れない。だから……」
「だから、忘れないようにしてあげるんじゃない。忘れかけても、小っちゃな女の子のお股になった自分のここを見るたびに思い出すように」
 皐月は剃刀の刃を葉月の下腹部、だらしなく縮こまってしまっているペニスのすぐ横にすっと押し当てた。
「ひ……」
 エアコンの冷気で冷やされた薄く鋭い金属のぞくりとするような感触に、皐月の唇が僅かに開いたまま固まってしまう。
「おとなしくしてるのよ。暴れたりしたら、カミソリの刃で大事なところをちょん切っちゃうかもしれないんだからね。でも、それで葉月ちゃんが本当の女の子になれるなら、それはそれでもいいかもしれないけど」
 どこまで本気でどこからが冗談かわからないような口調で言って、皐月は剃刀をつっと滑らせた。
 言われなくても、こうなってしまっては、葉月としても身動きの取りようがない。今はただ、羞恥と屈辱にまみれつつも、剃刀の刃が一刻も早く自分の肌から離れてくれることを願うばかり。
「でも、子供たちのプール遊びのお守りをする時に水着にならなきゃいけないからって持ってきたお手入れの道具がこんな形で役に立つなんて思わなかったわ。まさか、自分のあそこの手入れだけじゃなく、弟のここを綺麗にするのに使うことになるなんて」
 剃刀を念入りに動かしながら、皐月がぽつりと呟いた。独り言のようにも聞こえるが、その言葉を葉月にも聞かせて反応を楽しもうとしている様子がありありだ。
「……」
 それに対して投げ返せるような言葉を葉月が持ち合わせている筈がない。胸の内を満たす屈辱と羞恥に必死の思いで耐え、歯咬みしながら、変に動いて大事な部分を剃刀の鋭い刃によって切り刻まれないよう体を硬くするので精一杯なのだから。
 その間にも、細い飾り毛が一本、また一本と剃り落とされてゆく。
 みだしなみとして黒い茂みの形を整えるためになどではなく、ただでさえまばらにしか生えていない飾り毛を全て剃り落とし、幼い子供のそれとまるで変わらぬ下腹部に変貌させられるために。
 剃刀はなんの抵抗も受けていないかのように、ひたすら滑らかに滑り続ける。己の下腹部を数え切れないほどの飾り毛が覆っているのなら、ぞりぞりした感触が葉月の神経にも伝わってくるだろう。けれど、どうにかすると産毛とも見紛ほどの細く短い縮れ毛がまばらにしか生えていないため、石鹸を塗りつけたすべすべの肌の上を滑るかのごとくといった感触しか覚えない。それがまた葉月には惨めでならなかった。

 その上、それだけでは飽き足りないとでもいうふうに、園長が更に葉月の屈辱を煽りたてるような行動に出る。
「さっきまでむずがっていたのが嘘みたいにおとなしくなったわね、葉月ちゃん。じゃ、この間に靴下も履き替えさせてあげるわね。こんな灰色の靴下じゃせっかくのシナモロールのパンツに合わないから、可愛い靴下に替えようね」
 股間に鋭い刃を押し当てられて身をすくめる葉月の様子をしばらく眺めていた園長だが、もう暴れることはないだろうと判断すると、足首と肩を押さえつけていた手を離し、すっと立ち上がって、セーラーワンピースや女児用ショーツが入っていた紙袋に右手を突っ込み、今度はソックスを取り出した。
 絹だろうか、やや光沢のある純白の素材でできたソックスは、ぱっと見、葉月の爪先からくるぶしのすぐ上あたりまでを包み込むくらいの長さで、くるぶしの上に当たる端の部分には、やはり純白の細かなフリルのレースで縁取りがしてあった。それだけだといかにも上品で清楚なお嬢様っぽい感じになってしまうのだが、フリルのレースの少し下に縁取りと同じレースでできた小さなリボンが縫い付けてあるため、小さな女の子向けの可愛らしい印象も強調されて、エレガントさとキュートさが絶妙に混じり合った絶妙のプリティ感を醸し出しているといった、そんなソックスだ。
「あ、御崎先生はそのまま続けていていいわよ。ほんの少し足を持ち上げれば履かせてあげられるから、こっちのことは気にしないで続けてちょうだい」
 園長は、ちらとこちらの様子を窺う皐月に向かって鷹揚に頷くと、ショーツをそうしたように、紙袋から取り出したばかりの女児用ソックスをこれ見よがしに葉月の目の前に突きつけてから、最初に右足の足首をつかんで僅かに床から浮かせた。
「さ、パンツの次は靴下を脱ぎ脱ぎしようね。これを脱いだら、さっき見せてあげた可愛いソックスを穿かせてあげる。シナモロールのパンツとレースたっぷりのソックスで可愛らしい女の子になるのよ、葉月ちゃんは」
 言うが早いか、園長は葉月の右足から地味なグレーの靴下を脱がせ、続いて手際よく左足の靴下も脱がせてしまった。
 続いて園長が、靴下を脱がせたのと同じ順番で先ず右足に女児用ソックスを履かせると、葉月の口から、いかにも恥ずかしそうな
「や……」
という喘ぎ声が漏れ出た。
 園児のおしっこの跡がシミになって残っているおねしょシーツの上にお尻を載せ、実の姉の手で飾り毛を剃り落とされながら、勤め先である保育園の園長の手で小さな女の子用のソックスを履かされる屈辱と羞恥。そこに、おねしょシーツとは微妙に異なる絹のソックスのすべすべした肌触りに爪先からくるぶしの上までを包み込まれる感触とが相まって、いいようのない被虐感が胸を満たしてゆく。
「うふふ、可愛い声を出すのね、葉月ちゃん。とてもじゃないけど大学生の男の子だなんて思えないような、本当に可愛い声だわ。これなら、セーラーワンピの制服がお似合いの可愛らしい保育園児になれるわね。保育園に通う小っちゃな女の子になって、遠藤先生にたっぷり甘えるといいわ。そうやって、遠藤先生を元気づけてあげてちょうだい。もちろん、遠藤先生のためだけじゃなく、遠藤先生のことが大好きな葉月ちゃん自身のためにもね」
 右足に続いて左足にも女児用ソックスを履かせ終えた園長は、ついさっきまで唯一つ身に着けていた男物の靴下を脱がされ、その代わりに女児用の純白のソックスを履かされた屈辱に顔を歪める葉月に向かって、艶然と微笑みかけた。
 それとほぼ同時に剃毛の方も終わったようで、剃刀をブラシと並べてソープカップに収めた皐月も、頬にかかった髪を振り払おうともしない葉月の顔をじっと見おろした。
 二人の視線を浴びて何も言えず、ただ回数ばかりが多いだけで殆ど空気を吸っていない浅い呼吸を繰り返すばかりの葉月。
 葉月の顔と股間と両脚のソックスとを交互に無遠慮な視線で舐め回す園長と皐月。
 だが、葉月に対する二人の仕打ちがそれで済まむことはなかった。



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