ママは私だけの校医さん



   《10 見送りの時も》


 昼間にいろいろなことがありすぎた気疲れで、その夜は美幸におむつを取り替えられても一向に気づく様子もなく、結局、真衣が目を覚ましたのは日曜日の朝も九時近くになってからのことだった。それも、自分で起き出したわけではなく、朝食の用意を終え、洗濯も済ませてから部屋へやって来た美幸に
「もうそろそろおっきして朝ご飯を食べなきゃ駄目よ。十時になったらお父様を空港へ送っていかなきゃいけないんだから」
と言って体を揺すられてのことだ。
「あ、先生……ううん、ママ。……え? お父さんがドイツへ行くのって、明日じゃなかった?」
 瞼をごしごしこすってようやく目を覚ました真衣は、枕元に置いた携帯電話の液晶に表示されている日付を確認して不思議そうに聞き返した。
「本当はそうなんだけど、急に日取りが早まったんだそうよ。お父様もそろそろ着替えてダイニングルームに来ている頃だから、自分で聞いてみるといいわ」
 美幸はひょいと肩をすくめてそう説明し、真衣の掛け布団を優しく捲った。
 布団の中から現れた真衣は、シャワーの後で美幸に強要されたのと同じ、ナイティと紙おむつ、それにオーバーパンツにニットのソックスという姿だった。もっとも、紙おむつは、即日の夕方ベッドに腰をおろして美幸の乳首を吸いながらおしっこで汚してしまった後も夕食の後に入浴を済ませ、寝入るまでに三度おもらしをしてそのたびに美幸の手で取り替えられ、寝ついてからも、いつもの朝よりも目が覚めるのが遅かったせいで四度もおねしょで濡らしてしまったのを、やはり美幸の手で取り替えられたため、真衣がシャワーを浴びている間に美幸が脱衣籠に入れておいたものから数えると、今オーバーパンツの下に着けているので九枚目ということになる。
「……お父さん、夕べは遅かったの?」
 真衣は僅かに首を上げ、ベッドに横たわったまま胸元から爪先まで視線を走らせて自分がどんな格好をしているのか確認し、昨日のことが夢なんかじゃなかったんだとわかると、頬をピンクに染めてぽつりと訊いた。
「ええ。帰ってきたのは、夜中の十二時を過ぎてちょっとした頃だったかしら。玄関のドアが開く音が聞こえたと思ったらすぐ階段を昇る足音が聞こえて、ここ、真衣ちゃんのお部屋へやって来たのよ。よほど、真衣ちゃんのことが可愛くて仕方ないみたいね」
 美幸は穏やかな声で言った。
「私が真衣ちゃんに腕枕をしてあげている様子を見た時は随分びっくしていたけど、すぐに『おや、いつの間にか随分と仲良くなったんだね。これなら、僕が出張で家にいない間もうまくやってくれそうで安心したよ』って、嬉しそうに目を細くしていたわよ」
「え!? 私、ママと一緒に寝ているところをお父さんに見られちゃったの!?」
 真衣は、見るからに不安そうな表情を浮かべたが、
「ええ、そうよ。でも、お布団にくるまっていたから、おむつまでは見られていないわ」
という言葉が美幸から返ってくると、安堵の色を浮かべて小さな溜息をついた。
 その様子をおかしそうに見ていた美幸は
「でも、お父様、どうせなら、もう少し遅く帰ってくればよかったのにね。そうしたら、真衣ちゃんがママのおっぱいを吸って離さないところが見られかもしれないのに」
と冗談めかして言い、
「さ、本当におっきしましょうね。いつまでも愚図愚図していると、お父様が心配してお部屋に来ちゃうかもしれないから」
と起床を促した。
 この姿を優に見られるわけにはゆかず、慌ててベッドから床におり立つ真衣。
 それと同時に、美幸がすっかり慣れた手つきで真衣のクローゼットの扉を引き開け、紺のプリーツスカートとミルク色のブラウス、それにチェック柄のベストといった衣類を取り出してベッドに置いた。それと、整理箪笥からはブラスリップと、スカートと同じ色合いのハイソックス。
「お洋服はそれでいいわね? 真衣ちゃんが待っているスカートの中で一番丈の長いのはこのプリーツスカートみたいだし」
 優を空港まで見送るということで、美幸も少しは気遣ってたのだろう(もっとも、それは、真衣に対する気遣いではなく、見送られる側の優に対する気遣いなのは間違いないのだが)、なるべく裾が捲れ上がってしまいにくそうなスカートを選んでくれたようだ。もっとも、一番丈が長いとはいっても膝上十センチといったところだから、空港の展望デッキのような風の強い場所だとどうなることかしれたものではないが。とはいえ、ズボンの類は美幸によって全て捨てられてしまったから、真衣としても他に選択の余地はない。
「う……ん」
 いまひとつ乗り気でないふうに真衣は頷いた。いくら外見は普通のなりをしていても、下着が下着なだけに、なるべく丈の長いスカートを穿いたとしても外出は避けたいところだ。しかし、見送りに行かなかったら優が不審がるに違いない。体調がよくないからと言い訳をしようものなら却って心配をかけてしまいそうで、それもできない。
 と、そこまで思い迷ったところで真衣はふと気がついた。美幸が整理箪笥から持ってきたのはブラスリップとハイソックスだけだ。
「……あ、あの、ママ……パンツは?」
 真衣はおそるおそる尋ねた。
 それに対して美幸は不思議そうな顔で
「え? パンツって、おむつの上に穿いてるでしょ、オーバーパンツは。真衣ちゃん、今朝はお目々を覚ますのが遅かったから、ついさっきもおねしょしちゃってたのよ。その時におむつを取り替えてあげて、オーバーパンツもちゃんと穿かせてあげたわよ」
と聞き返してきた。
「ち、違う……パンツって、あの、トレーニングパンツのことで……お出かけの時はトレーニングパンツよってママが……」
 自分で口にした『お出かけの時はトレーニングパンツ』という言葉に頬を赤く染めながら、真衣はおずおずと言った。
「ああ、トレーニングパンツを穿かせてほしいのね、真衣ちゃんは。うふふ、おむつの赤ちゃんのくせして、お出かけの時はパンツのお姉ちゃんぶりたくて仕方ないんだから。でも、今日は駄目よ。今日はお出かけの時もおむつなの」
 ようやく美幸も真衣の意図を察したらしい。しかし、その口から返ってきたのは、思いもしない言葉だった。
「え……!?」
「だって、大きな旅行鞄を持ってかなきゃいけないから、車でお出かけするのよ。行きはお父様が運転して、帰りはママに交代してね。電車だったら途中の駅でトイレへ行くこともできるけど、お家から空港まで車でってことになったら、途中にサービスエリアなんてないから、トイレへ行けないのよ。普通でも一時間半くらいかかるけど、最近はお休みの日になると高速道路が混んじゃうから、二時間くらいはみとかなきゃね。その間、真衣ちゃん、おしっこは大丈夫? 二時間もパンツを濡らさないで我慢できる? いくらトレーニングパンツでも、昨日の玄関前みたいなことになっちゃわない? そんなことになったら、お父様、真衣ちゃんのおねしょのことは知っていても、おもらしまでしちゃうようになっちゃったのかって心配で心配で、ドイツに着いてもお仕事が手につかないんじゃないかしら。だから、今日はおむつのままなのよ。スカートが捲れてもおむつだってことがわからないよう、オーバーパンツも穿いたままにしとこうね」
 顔色を失う真衣とは対照的に、美幸は澄ました顔で言った。
「そんな……」
「さ、わかったら着替えようね。さ、お手々を上げて――」




 午前十時ちょっと過ぎ。
 家を出る直前に随分と久しぶりに感じられるちゃんとしたトイレを済ませた(とはいっても、便器に座る前後に上げ下げするのはパンツタイプの紙おむつとオーバーパンツなのだから、それを本当に『ちゃんとしたトイレ』と呼んでいいのかどうか甚だ疑問ではあるのだが)真衣と美幸を後部座席に乗せた車は、優の運転で快調に走り始めた。
 だが、それも束の間。一般道から高速道路に乗り入れてしばらくすると、美幸が言った通り車列の速度が落ちてきて、遂には渋滞につかまってしまった。優たちの車が乗り入れたのは、俗称として《高速道路》と呼んでいるものの、名神高速とか東名高速とかの本来の意味の高速道路とは違い、阪神高速や首都高のような都市高速と、有料の自動車専用道路を乗り継ぐような、いわゆるバイバス路線であるため、サービスエリアが殆ど設けられていない。家に最も近い入り口から乗り入れた場合、空港へ行くのとは反対車線側に一カ所あるものの、空港方面には、空港に近い出口を過ぎた所にしかなかった。

 結局、その渋滞を抜けることができたのは、家を出てから二時間近く経った頃のことだった。
「ふう、やれやれ、やっと流れ出した。このぶんだと、あと三十分ほどで空港に着くかな。余裕を見込んで早めに出発したけど、渋滞の中にいるときは流石にあせったよ」
 流れに乗ってスピードを上げながら、優が苦笑交じりの声で言った。
「ま、あせったと言えば、昨日の会議の途中で急に専務が『よし、出発を早める。社の命運を賭けたプロジェクトになるから、そのつもりで一日でも早く向こうで頑張ってくれ』とか言い出して、本当に航空会社へ電話して予定より一日早い便のチケットを押さえた時にはもっとあせったけどね」
 朝食の時にも優が二人に話して聞かせたそんな専務の独断専行ぶりこそが、出発日が繰り上がった理由だった。分析していた資料が想定していたよりもずっと重要なものだということがわかったとかで、交渉を更に有利な条件で進めるために、他のメンバーはともかくとしても、とりあえず優だけでも一刻も早くドイツへ発つよう命じられたらしい。そのため、予定が早まったというわけだ。もっとも、そういう緊急の命令を受けるということは自分が上から信頼されている証拠なんだよと、優は優で御機嫌なのも間違いないのだが。
「それにしても、向こうでは体調には気をつけてくださいよ。特に、生水は絶対飲まないように」
 ハンドルを握る優の顔をバックミラー越しに覗いながら、美幸がおだやかな声で言った。
「ああ、わかっているよ。これでも製薬会社の社員だからね、向こうの衛生事情はわかっているつもりさ」
 優は軽く頷いた後、ちらと視線を動かして後部座席の様子を確認し、微かに怪訝な表情を浮かべた。
「ところで、なんだか真衣の様子がおかいしみたいなんだけど。――真衣、大丈夫かい? 顔色が良くないようだけど、車に酔ったんじゃないのかい?」
 車の後部座席に二人が並んで座っているところへ運転席から心配そうな声をかけられるその状況に、真衣は昨日のタクシーでの出来事を思い出した。しかも、真衣が蒼褪めた顔をしているその理由まで、昨日とまるで同じなのだ。だが、おねしょの件は知っている優も、真衣が二時間くらいしかおしっこを我慢できない体だということまでは知らない。本人の他にその事実を知っているのは、澄ました顔で隣に座っている美幸だけだ。
「あら、本当。私が調べてみるわ。優さんは、事故を起こさないよう、ちゃんと前を見て運転していてくださいね。真衣ちゃんのことが気になるのはわかるけど、私にまかせておいて」
 真衣の顔色が良くないことどころか、その本当の理由さえ充分に知っていながら、さも今になって気がついたようにそう応じた美幸は、優に後部座席の方を見ないようそれとなく言い渡し、タクシーの中でそうしたのと同様に自分の額を真衣の額に押し当て、体ごと覆いかぶさるような姿勢を取ると、優に聞こえないよう声をひそめて真衣の耳元に囁きかけた。
「もう我慢できそうにないんでしょ? ううん、我慢できなくて出ちゃうんだったらまだいいけど、もう我慢できそうにないのが辛くて、いっそ出しちゃいたいのに出なくて、それで苦しいのよね?」
 美幸の言う通りだった。
 昨日、シャワーを浴びた後、おむつを着けられベッドに座って美幸の乳首を口にふくまされた状態でおしっこを溢れ出させた後、、真衣の体に(いや、正確には、精神に)少しばかり異変が起きていた。簡単に言うと、もうそろそろトイレへ行っておかないと不安だなと思う、尿意を感じ始めてすぐのタイミングで便器に座った場合はスムーズにおしっこが出るくせに、それを過ぎてぎりぎりまで尿意を我慢した後だと、もうこらえきれず下腹部にきりきりと痛みを覚えるようになっても、おしっこがなかなか出てこないようになってしまっていたのだ。人混みの中やタクシーの車内でパンツにちびってしまったことに起因する表現しようのない恥辱の念に加えて、おねしょという無意識の状態ではなく、まだ太陽の光が眩しい昼間にはっきり意識のある状態で義理の母親の乳首を吸いながらおむつをおしっこで濡らすという異様きわまりない行為を強要されたせいで、或る一線を超えて高まった尿意に体と精神がうまく対応できないようになってしまったらしい。もっとも、ベッドに座っておむつを汚してしまったことだけが原因だというわけではなく、その後もちょっとした事件があって、それらが相まって決定的な要因になったというのが正確なところなのだが。
 その『ちょっとした事件』の原因は、美幸がタクシーを遠回りさせて立ち寄ったホームセンターで買ってきた小物にあった。その小物というのは、一人で歩けるようになった幼児や、室内飼いの犬猫などが、ドアを閉め忘れていたトイレへ勝手に入って便器の中を覗き混んだり頭を突っ込んだりして不測の事故に遭うのを防ぐための、便器の蓋を簡単には開けられないようにするためのロック装置だった。便座と蓋とを同時に挟み込むような構造で、鍵を使わないと或る角度以上には動かないという仕組みになっている、一種の蝶番のような形の小物だ。普通は、それに合う鍵を、トイレの中でも幼児の手の届かない所に置いておけば大人が用を足すのには困らないわけだが、真衣がシャワーを浴びている間にそのロック装置を便器に取り付けた美幸は、その鍵を、自分しか知らない場所に隠してしまった。そのため、ベッドの端に座って美幸の乳房に顔を埋めたままおむつを汚してから二時間ほどが経ち、再び尿意を我慢できなくなった真衣が、今度はトイレで用を足そうとしたところ、便器の蓋を開けることができなくて、トイレを使わせてくれるよう美幸に懇願したものの聞き入れられず、その時はリビングルームの床に正座した美幸の太腿の上にお尻を載せた姿勢で横抱きにされて再び乳首を口にふくまされたまま紙おむつの内側をおしっこでじっとり濡らしてしまう羽目になった。その後も何度も同じような目に遭い、寝入ってから後は目を覚ますまでに幾度となく無意識のうちに美幸の乳首をネグリジェ越しに吸いながらおねしょでおむつを汚すという行為を繰り返した挙げ句、とうとう、尿意を感じてすぐの時はまだしも、尿意が高まった後は美幸の乳首を吸いながらでないとおしっこを出すのもままならないという状態になってしまったというわけだ。
 もっとも、真衣が寝入った後、優が帰宅する前に美幸はその小物を便器から取り外しておいたから、真衣が家を出る直前のトイレだけは辛うじて無事に済ませることができたため、優は真衣の身に何が起きているのか、いささかも気がついていない。それどころか、真衣の義理の母親として迎え入れた女性が経験豊富な医師だということで、海外への出張中も安心して娘をまかせておけるという安堵感を覚えているくらいだ。もちろん、真衣がトイレを済ませた直後に美幸が再びそのロック装置を便器に取り付けたことなど知る由もない。

「だったら、出させてあげる。昨日から何回もそうしているのと同じようにしてあげる」
 家を出て一時間ほど経った頃、尿意を感じ始めた時にこのまま出しちゃおうかと思ったものの、父親が運転している車の中でそれもできず、我慢に我慢を重ねてとうとうどうしようもなくなってしまった真衣の耳朶に、美幸の甘ったるい声がねっとり絡みついてきた。
「……」
 真衣は無言で躊躇いがちに頷いた。今の真衣には、それ以外にできることは一つもない。
「いいわよ。じゃ、おねだりしてちょうだい。昨日みたいに、『ママ、真衣、一人でおしっこできないの。だから、ママのおっぱいちょうだい。そしたら真衣、上手におしっこできるから』って、思い切り甘えた声でおねだりしてちょうだい」
 美幸はバックミラーに背を向けて、更に甘ったるい声で囁いた。
「で、でも……」
「嫌だったらいいのよ。どうしても嫌なら、ずっと我慢し続ければいいわ。我慢して我慢して、体がどうしても我慢しきれなくなるまで我慢なさい。でも、そんなにぎりぎりまで我慢した後だと、おしっこはとっても勢いよく溢れ出すでしょうね。それこそ、紙おむつが吸い取れる速さを超えて、ずっと勢いよく。そんなことになったら、おしっこが紙おむつのギャザーから横漏れしちゃうんじゃないかしら。横漏れして、オーバーパンツも濡らして、車の座席をびしょびしょにしちゃうんじゃないかしら。ううん、ひょっとしたら、車からおりた後かな。だったら、大勢の人がいる空港で横漏れしちゃうわね。別に、ママいいのよ、それでも」
 美幸はそう囁きかけながら、熱い吐息を真衣の耳朶にふっと吹きかけた。
 真衣の体がびくんと震えて、下腹部の力が抜けてしまいそうになる。
「……マ、ママ……おっぱい、ちょうだい。真衣、おしっこしたいのに出なくて……だから、ママのおっぱいが……」
 とうとう真衣は瞼をぎゅっと閉じて、か細い声を絞り出した。
「いいわ。本当はもっとちゃんとおねだりしてほしいんだけど、お父様に心配させちゃいけないから、今回はこれでいいってことにしてあげる。さ、こっちを向いて」
 美幸はジャケットのボタンを外し、ブラウスの胸元に手を突っ込んでブラのカップをずりおろした。昨日から着用している授乳用だから、雑作もない。
 真衣は躊躇ったが、それはほんの一瞬の間だけ。待つほどもなく自分から顔を美幸の胸に押し付け、ブラウス越しに乳首を咥えた。
「いいのよ、それで。ママのおっぱいを吸いながらじゃないとおしっこもできない真衣ちゃんだけど、恥ずかしがることなんてないのよ。ママはいつでも真衣ちゃんにおっぱいをあげる。だから、おしっこをしたくなるたびにおねだりするのよ」
 美幸は自分の乳房に手を添え、下から持ち上げるようにして囁きかけながら、空いている方の手を真衣の太腿に這わせた。
「ん……」
 真衣がくぐもった声で呻いた。
 美幸はそのままそろりそろりと手を伸ばし、股間に掌を押し当てた。
 オーバーパンツの生地と紙おむつの表地越しに、生温かい液体の流れがはっきり感じられる。
「そう、いいのよ、それで。真衣ちゃんはママのおっぱいを吸いながらおむつをおしっこで濡らしちゃう赤ちゃんなんだもの」
 真衣の唾液でブラウスの胸元が濡れるのを気にする様子もなく、美幸はもういちど満足そうに囁きかけた。




 空港に着いた後、優が手続きをしている間に、昨日と同じく女性トイレへ二人で入り、おむつを取り替えた美幸は、濡れた紙おむつをビニール袋に入れ、それを更に小振りの紙袋に入れて、真衣に持たせた。その後、待ち合わせ場所にやや遅れてやって来た優が、真衣の持っている紙袋に気がつき、「おや、それ、どうしたんだい? 家を出る時は持っていなかっただろう?」と尋ねると、美幸が澄ました顔で「お土産よ」と応じ、それに対して優が「早速、ショッピングかい。ま、空港の中にはいろんな店が入っているから気持はわかるけどね」と呆れ顔で頷くといった場面があったのだが、まさか『お土産』というのを、保育園や幼稚園でおもらしをしてしまった園児が濡れたパンツをビニール袋に入れて持って帰る行為を指すのと同じ意味で美幸が口にしているとは夢にも思わなかったろう。
 ともあれ、そういった小さなエピソードは幾つかあったものの、待ち合わせ場所の近くにあったレストランで軽い昼食も摂って無事に優の見送りを済ませた二人だった。

「……あ、あの、ママ……」
 見送りを終え、飛行機が離発着する様子を一望できる展望デッキからおりてくるエスカレーターの手摺りをぎゅっと握って、思い詰めたような表情で真衣が美幸に言った。
「ん、どうしたの?」
「……お、おしっこなんだけど……」
「あ、そうか。もうそんなに時間が経ってたんだっけ」
 頬を赤く染め俯きぎみに答える真衣の様子に目を細めながら、美幸はわざとらしく腕時計をちらと見て
「おもらしの後、空港までが三十分。それから、優さんの手続きが終わるのを待って、お昼ご飯を食べてから飛行機を見送って――二時間ちょっとってとこね、車の中でおむつを汚しちゃってから」
と応じた。
 その声が周囲の客に聞こえてしまうのではないかと真衣は内心ひやひやだが、美幸は平然としたものだ。 

 そんなやり取りがあって、二人がやって来たのは、空港に着いてすぐに入ったのと同じトイレだった。そうして、昨日と同様、予定外の生理のせいで下着を汚してしまった娘とその母親という態を装いつつ、揃って一室に入り、扉を閉める。
「車の中じゃお父様が一緒だったから簡単なおねだりで許してあげたけど、今度はそうはいかないわよ。さっきの分も合わせて、心を込めておねだりしてちょうだい」
 美幸はジャケットを脱いで棚に置き、これみよがしにブラウスのボタンに指をかけながら真衣に言った。
「……ママ、真衣におっぱいちょうだい。真衣、ママのおっぱいを吸わないとおしっこできないの。……だから、おっぱいをちょうだい」
 躊躇いの色が顔に浮かんだのは一瞬の間だけ。よほど切羽詰まっているのだろう、美幸の豊かな胸に両目を釘付けにして、真衣はすがるように言った。
「うふふ。昨日に比べると、おねだりのしかたが板に付いてきたじゃない。いいわ、そんなに可愛らしくおねだりしてくれるんだったら、たっぷり吸わせてあげる」
 もうすっかり慣れた手つきで美幸はブラウスの胸元をはだけ、授乳用ブラのカップをずりおろした。
 そうして、今にもむしゃぶりつきそうにする真衣の体を押しとどめ、便器の蓋を閉めてその上に真衣を座らせてから、改めて、ぴんと勃った乳首を突き出した。
 もう一瞬の躊躇いもなかった。真衣は蓋を閉めた便器の上に座ったまま、胸の高さを真衣の唇の位置に合わせて膝を折った美幸の乳房に顔を埋めるようにして乳首を口にふくみ、はばかることなくちゅうちゅうと音をたてて吸い始めた。
「すっかり赤ちゃんになっちゃったわね、真衣ちゃん。このぶんだと、かりそめの赤ちゃん返りなんかじゃなくて、本当の赤ちゃんになっちゃうんじゃないかしら。でも、ママはそれでもいいのよ。真衣ちゃんがママの本当の赤ちゃんになってくれたら、どんなに嬉しいかしら」
 美幸は、真衣が乳首を吸いやすいよう更に胸を前に突き出して、まるで飼い猫にするように真衣の喉元を二本の指で優しく撫で、冗談めかした口調で続けて言った。
「それにしても、扉の前の人たちがこの様子を見たらびっくりするでしょうね。生理のせいでパンツを汚しちゃって、その後始末をしてもらうためにママと一緒にトイレへやって来た高校生の筈の女の子が、本当はおもらしでおむつを濡らしちゃうような赤ちゃんだったなんて」
「……意地悪。ママの意地悪。真衣がこんなふうになっちゃったのはママのせいなのに……」
 くぐもった声で真衣が拗ねたように言った。
「あらあら、何を言ってるの、真衣ちゃんたら。真衣ちゃんがこんなふうになったのはママのせいなんかじゃないわよ。もともと真衣ちゃんが赤ちゃんになりたがっていたの。赤ちゃんになって誰かに甘えたがっていたの。でも、これまでは誰に甘えていいかわからなかった。そこへ私が現れた。だから真衣ちゃんは私にべったり甘えるようになって、そうして、念願が叶って赤ちゃんになっちゃったの。そう、真衣ちゃんはずっとずっと赤ちゃんのままだったのに、今までは無理してお姉ちゃんのふりをしていただけなのよ」
 美幸は、乳首をふくんでぷっくり膨れた真衣の頬を指先でつんとつついた。
「……意地悪。ママの意地悪……」
 美幸の言うことを認めるのが恥ずかしいのだろう、真衣は同じ言葉を繰り返すばかりだった。だが、さっきとは僅かながら口調が違う。顔にも、どこかうっとりした表情が浮かんでいた。
「いいわよ、意地悪で。だけど、その意地悪なママがいないとおしっこもできない赤ちゃんは誰なのかな」
 真衣の口調と表情の変化に気づいた美幸はすっと目を細め、便器に座った真衣のスカートの裾を両脚の付け根あたりまで捲り上げると、オーバーパンツの股ぐりと紙おむつのギャザーを僅かに押し広げて、人差し指と中指を紙おむつの中に差し入れた。
 様子を探るまでもなく紙おむつの内側はじっとり湿りっていた。

 しばらくしてようやくおしっこを一滴残さず出し終えたのだろう、真衣の表情が再び変化した。最初の頃の、おしっこをしたいのに出せない切羽詰まった表情でもなく、その後の、ようやくおしっこを出せるようになった安堵と、全てを美幸の手に委ねることへのうっとりした表情でもない、はっと我に返って自分が何をしたのかを覚った、羞恥に満ちた表情だった。
 真衣のそんな表情を目にした途端、いいようのない奇妙な悦びに美幸の体が疼く。
「出ちゃったみたいね。トイレに入って便器の上に座って、なのに便器におしっこをするんじゃなくて、便器に座っているのにおむつの中にみんな出しちゃったのよね、真衣ちゃんは」
 美幸は、おしっこを出し終え、おずおずと乳首から口を離す真衣に向かって、自分が何をしたのか改めて思い起こさせるように言った。
「……意地悪。ママの意地悪……」
「本当のことを言っただけなのに、何が意地悪なものですか」
 美幸は含み笑いを漏らし、ブラのカップとブラウスを元に戻して言った。
「次はおむつを取り替えてあげる番ね。わざわざトイレまで来てるのにおむつを汚しちゃうなんて、本当に手間のかかる赤ちゃんなんだから。――さ、お尻を上げて立っちしてちょうだい」
 家電量販店のトイレでそうしたように美幸は真衣の背中にまわりこんで脇の下に両手を差し入れて体を引き起こし、その場に立たせて、オーバーパンツに指をかけた。
「お腹が冷えないように穿かせているのはいいけど、やっぱり、おむつを取り替える時はちょっと手間ね。いちいち靴まで脱がせてあげないとオーバーパンツは脱げないし、パンツタイプの紙おむつも、脱がせる時はサイドステッチを破けばいいから楽だけど、穿かせる時はパンツと同じ手間がかかるんだから」 オーバーパンツを膝まで引き下ろし、紙おむつのステッチを破って真衣の皮膚から引き剥がしながら、独り言めいた口調で、けれど真衣の耳にもはっきり聞こえる声で美幸は言った。
 そうして、これまで何度も同じことを繰り返してきたのに違いない慣れた手つきでお尻拭きを容器から抜き出し、下腹部を拭き清める。
「はい、もういちどお座りしてちょうだい。それで、お靴を脱いだら、そのままオーバーパンツを脱がせてあげるから、あんよを上げたままにしておくのよ」
 ややあって、お尻拭きを汚物入れに放り込んで、美幸は真衣を再び便器の蓋に座らせた。
 薄いアルコールが染みこんだお尻拭きのせいですーすーしていたお尻から今度はひんやりした感触が伝わってきて、真衣は、自分が下腹部を剥き出しにして便器に座っていることを改めて実感させられる。
「いい子だから、そのままじっとしていてね。新しいおむつとオーバーパンツをあんよに通す間、おとなしくしているのよ」
 美幸は、真衣の靴を手早く脱がせ、オーバーパンツも完全に脱がせた後、バッグから取り出した新しい紙おむつを両脚に通して膝のすぐ下まで引き上げた。
「はい、じゃ、もういちど立っちして。もうすぐ終わるから、いい子にしていてね」
 紙おむつに続いて、いったん脱がせたオーバーパンツを再び両脚に通し、こちらも紙おむつの近くまで引き上げておいてから靴を履かせ、美幸はさっきと同じように真衣を立たせた。
「それじゃ、おしっこが出てくる真衣ちゃんの恥ずかしい所を隠しちゃおうね。最初はおむつで隠して、それから、オーバーパンツでないないしちゃうのよ。ほーら、できた」
 膝のすぐ下で両脚に引っかかっていた紙おむつを最後まで引き上げ、内側に巻き込んだギャザーを外側に引っ張り出してから、ニットのオーバーパンツも引き上げて紙おむつの上に穿かせた美幸は、真衣のお尻を二度ぽんぽんと叩いてから、スカートの裾の乱れを整えた。
「はい、いいわ。これで、真衣ちゃんのことをおむつの赤ちゃんだなんて思う人は一人もいないわよ。みんな、パンツのお姉ちゃんだって思ってくれるに決まってる。さ、トイレから出てお家に帰りましょう」
 美幸は真衣の体をじっくり眺めまわし、満足そうに頷いた。
 美幸の言う通り、紺のプリーツスカートに清楚なブラウス、それにチェックのベストという姿の真衣を見て、まさかスカートの下がまだおむつ離れできない赤ん坊そのままの格好だと思う者はいないだろう。しかし、少し強めの風でも吹いてスカートが捲れ上がったが最後、いかにも良家の子女然とした紺のスカートの下に着けている恥ずかしい下着が誰の目にもあらわになってしまうのだ。それも、車の中で汚した分と、つい今しがた便器に座って汚した分、おしっこに濡れた紙おむつを二枚入れた紙袋を『お土産』として手に提げた格好で。
 脳裏をよぎるそんな自分の姿に身震いしながらも、真衣には、美幸の言葉に従って扉を開け、順番待ちの客の列を横切って駐車場へ歩いて行くことしかできなかった。




 空港からの帰り道は渋滞もなく、一時間ちょっとで高速道路を出ることができた。ここから家まで、車なら十五分ほどで着く。
 しかし、そのまますんなりと家に向かう美幸ではなかった。高速道路をおりた美幸は、夕飯の材料を買うためといって、家とは反対方向にあるスーパーマーケットに向けて車を走らせた。

「真衣ちゃんはどうする? ママと一緒にお買い物に行く? それとも、車で待ってる?」
 スーパーの駐車場に車を駐めた美幸は、空港のトイレでおむつを取り替えられてからまだ一時間半も経っていないのに、もう顔色を失って肩で息をしている真衣に訊いた。
「たくさんの人がいる所へ行くのは嫌。……でも……」
 真衣は下腹部をぶるっと震わせて言葉を濁した。真衣がもう我慢の限界を迎えそうになっているのは一見して明かだった。「でも……」の後に真衣がどんな言葉を続けたがっているのか、美幸は充分に承知していた。
 普通なら、そんな状態になるまで、直前の排尿から二時間くらいはかかる。それが今回に限ってはこんなに早く限界ぎりぎりになってしまったのは、空港の駐車場に駐めていた車に乗ってすぐ真衣がスイッチを入れたクーラーのせいだった。
 四月も後半になり、日差しが強まってくると、立体駐車場の屋上階に駐めていた車の中は、むっとするような熱気がこもる。それでもまだ茹だるような夏ではなく、普段なら我慢できる場合が殆どなのだが、紙おむつの上にオーバーパンツを穿かされている真衣にしてみれば、とても耐えられるような状態ではなかった。昔に比べれば最近の物は通気性も考慮されているとはいえ、紙おむつの中はどうしても湿気がこもりがちだ。その上に、お腹が冷えないようにという口実で保温性のいいニットのオーバーパンツを穿かされているものだから、たとえ紙おむつの内側がおしっこで濡れていなくても、すぐに汗で蒸れてしまう。空港へ来る時はまだ午前中だったから幾分はマシだったが、太陽が高い所にある午後に二時間近くも屋根のない屋上階に駐めていた車にこもった熱気は、紙おむつとオーバーパンツに下腹部を包まれた真衣にはとても耐えらず、車に乗ると同時にクーラーのスイッチを入れたのも無理からぬところだった。しかし、ただでさえ通気性のよくない紙おむつとニットのオーバーパンツとの重ね穿きを強いられた下腹部と、ブラウスにベストという春にしては軽装の上半身とでは、感じる暑さがまるで異なり、紙おむつの内側の湿っぽい感じをどうにかしようとしてクーラーを強めにかけ続けた結果、体全体が冷えて、尿意が普段よりも早く高まってしまったというわけだ。
「いいわよ、お買い物はママ一人で行ってくるわ。ただ、その前に真衣ちゃんにおしっこをさせてあげなきゃいけないみたいね」
 下腹部だけを除いて体中が冷えてしまった真衣とは対照的に、クーラーの効きに合わせて薄手のジャケットを羽織って車を運転していた美幸は、なんともいえない笑みを浮かべた。
「……」
 胸の内をすっかり見透かされ、どう応じていいのかわからずに、真衣は無言で小さく頷くだけだ。
 美幸は、羽織っていたジャケットを脱ぎ、ブラウスのボタンを外し始めた。
「こ、こんな所で……!?」
 真衣の声が裏返った。
 しかし、美幸の方は落ち着き払ったものだ。しれっとした顔で
「あらあら、びっくりすることなんてないじゃない。だって、真衣ちゃんはおむつが外れなくてママのおっぱいが恋しくてたまらない赤ちゃんなのよ。ママが赤ちゃんに車の中でおっぱいをあげるのって、そんなにおかしなことじゃないわよ。ちょっと前までは、電車の中で胸をはだけて赤ちゃんにおっぱいをあげているお母さんだっていたくらいなのに。そんなお母さんと赤ちゃんのこと、変な目で見る人なんていなかったのよ。みんな、お母さんと赤ちゃんを微笑ましく見守っていたんだから」
と決めつけ、授乳ブラのカップをずりおろす。
「で、でも……私、赤ちゃんなんかじゃ……」
「やだ、まだそんなことを言ってるの、真衣ちゃんたら。だったら私も何度でも教えてあげるけど、真衣ちゃんは赤ちゃんなのよ。ママのおっぱいを吸いながらじゃないとおしっこもできない赤ちゃんなのよ。おもらしとおねしょで一日の間に何枚もおむつを汚しちゃう赤ちゃんなのよ。お出かけの途中でパンツを何枚も濡らしちゃう赤ちゃんなのよ。だから、さ、いらっしゃい」
 ブラウスのボタンを三つ外し、乳房を授乳用ブラのカップから放り出すようにして、美幸は運転席の背もたれを二段階ほど後ろに倒し、助手席のシートベルトの留め金を手早く外してしまうと、真衣の体を抱き寄せた。
「……」
 躊躇うそぶりをみせていた真衣も、そうなると観念するしかなかった。両側の車の持ち主がまだ戻ってきませんようにと祈りつつ、おそるおそる美幸の乳首を口にふくむ。




 いつのまにか寝入ってしまったらしい。
 ドアの開く音が聞こえ、車が僅かに揺れるのを感じた真衣が目を開けると、美幸が運転席に乗り込むところだった。
「あ、おっきしたのね、真衣ちゃん。もう少しゆっくりねんねしていてもよかったのに」
 美幸は、はっとしたように目を開ける真衣に向かってにこりと微笑みかけた。
 真衣は美幸の言葉に応えることなく、レバーを引いて座席の背もたれを起こした。と、助手席側の窓越しに見える隣の車が別の車と入れ替わっていることに気がつく。(ああ、先に来ていたお客さんはもう買い物を済ませて帰っちゃったんだ。私ったら、クーラーが効いていて気持ちいいからついうとうとして、結局、車の中でどれくらい眠っちゃってたんだろ)真衣は何気なく窓の外を見てそんなことを思いながら、背もたれに合わせて体を起こし、なぜとはなしに自分の下半身に目をやった。
 途端に、真衣の表情が凍りつく。眠りこんでしまっている間にスカートの裾が捲れ上がって、レモンイエローのオーバーパンツが半分ほど見えてしまっていた。
 美幸の乳首を吸いながらおむつを汚してしまった後、トイレでおむつを取り替えてあげるという美幸の言葉を頑として聞き入れず、真衣は独り車に残った。空港のトイレで二度も恥ずかしい目に遭った上、空港のトイレに比べれば狭く暑苦しいのに加えて防音性も劣るのが明かな、しかも夕方前で一日の中でも最も買い物客の多い時間帯のスーパーのトイレでおむつを取り替えられるなんて、到底受け容れられるわけがなかった。結局、その時は美幸も真衣の頑なさに呆れたような溜息をついて自分だけで店内に向かったのだが、空港と同じで屋根がなく直射日光が降り注ぐ駐車場ということを考慮して、クーラーを動かすためにエンジンをかけたままにしておいた。
 そのため、ほどよい冷気に体をまかせて真衣は知らぬ間に眠りにおち、ぐっすり眠りこけていたというわけだが、その間に隣の車が入れ替わっていたとなると、それぞれの車を運転していた買い物客たちは、エンジンがかかったままになっている車のことが気になって、車内を覗き込んだに違いない。そこで助手席の背もたれを倒して気持ち良さそうに寝入っている真衣の姿に気づき、買い物をしている家族を待っているのだなと思って立ち去っくれるなら問題ないが、スカートの裾が捲れ上がったせいで半分ほどあらわになったオーバーパンツに気づかないとも限らない。それでも、オーバーパンツのことを単に季節外れの毛糸のパンツくらいに思って済ませてくれればいいが、さほど注意深く覗き込まなかったとしても、おしっこを吸ってぷっくり膨らんだ紙おむつのせいで、その上に穿かされたオーバーパンツも、普通の毛糸のパンツとはまるで異なる丸みを帯び、真衣がスカートの中に何を着用しているのか容易に想像がついたことだろう。いや、隣の車の乗っていた人たちだけではなく、エンジンをかけたまま駐まっている車は買い物客の関心を例外なく惹くに違いないから、真衣のオーバーパンツは想像以上に大勢の目にさらされたかもしれない。
「いやぁ!」
 今更そんなことをしても既に手遅れだということは痛いほどわかっていながら、真衣には、慌ててスカートの裾を引っ張り、奇妙に膨れたオーバーパンツを隠すことしかできなかった。
「だから言ったのに。おしっこを出しちゃった後、ママの言う通り一緒にトイレへ行っておけばこんなことにはならなかったのよ。でも、これで、ママの言いつけをきいておけば間違いないってことがわかったでしょ? わかったら、これからは駄々をこねないで、ママの言う通りにするのよ。真衣ちゃんはお利口さんだもの、ママの言いつけを守れるよね? じゃ、お買い物も終わったし、お家に帰りましょうね。お家に帰ったら、真っ先に真衣ちゃんのおむつを取り替えてあげる。濡れたおむつのままだとお尻が気持悪いでしょうけど、もう少しだけ我慢するのよ」
 真衣の狼狽えぶりを横目で眺めながら美幸は澄ました顔でそう言い、滑らかに車を発進させた。



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