わが故郷は漆黒の闇


【二四】


「それじゃ、失礼して行ってきます」
 だいぶ長い間我慢していたのか、あからさまにほっとしたような表情を浮かべたカタンは床から立ち上がって、立体映像と同じように黄色の発光素子をまたたかせているドアに向かって歩き出した。
 カタンが壁際に立つと同時に、ドアになっている部分がすっと音もなく開いて、標準型の便器が垣間見えた。カタンがいそいそとトイレに入ると、やはり何の抵抗もなくドアが閉じる。
 そのまま一分少し経過して、もういちどドアが開いた。見るからにすっきりした顔つきのカタンがドアをあとにしてこちらに戻ってくる。
「あ、じゃ、私も」
 カタンと入れ違いに立ち上がったのはボビンだった。
「ボビンちゃん、大丈夫? 一人でちゃんとできる?」
 トイレに向かって歩きかけたボビンの背中に、特殊工作チームのコマンダーとしての顔から小さな子供の面倒をみる保護官の顔に戻ったケイトが、いくらか冗談めかした口調で声をかけた。
「うん、大丈夫。ボビン、もう年中さんだもん、一人でちゃんとトイレできるよ」
 ケイトの声にボビンはくるりと振り返ると、おどけたような表情で幼児の言葉遣いを真似て応えた。
「でも、本当に大丈夫かな? パンツ、一人でおろして一人で穿けるかな? ケイト先生が手伝ってあげようか?」
 ケイトが、いかにも優しい保護官という役割を演じて聞き返す。
「いいの、一人で。ボビン、年長さんのカタンお姉ちゃんみたいに上手じゃないかもしれないけど、年少さんのユリちゃんより上手だもん。ちゃんと一人でパンツおろしておしっこして綺麗綺麗してパンツ穿けるもん」
 ボビンは、保護官として面倒をみてやった幼女の顔つきと仕種を思い出しながら、少し照れながらも幼児の言いそうな言葉を選んで口にした。
「そう。じゃ、行ってらっしゃい」
 ようやく一人でトイレへ行けるようになったばかりの本当の幼児を見送るように言って、ケイトはボビンに向かって大げさに手を振ってみせた。
「は〜い。ボビン、トイレ行ってきまーす」
 ボビンもケイトに向かって手を振り返すと、カタンと同じようにトイレに姿を消した。
 そうして、こちらもやはり一分とちょっとして、いかにもすっきりしたという顔でドアから出てくる。
「本当にちゃんとできたの、ボビンちゃん?」
 トイレから出てきたボビンのもとにケイトが足早に駆け寄った。
「大丈夫だよ、ケイト先生。ボビン、年中さんのお姉ちゃんだもん」
 ボビンは、ケイトの顔を見上げて、本当の幼児らしく見えるような表情を真似てにっと笑ってみせた。
「本当かしら。パンツ、濡れてないかな?」
 ボビンの笑顔にケイトはわざとらしく首をかしげてみせると、床に膝をついて、ボビンが着ているセーラースーツのスカートの裾をぱっと捲り上げた。
「きゃっ! やだ、急に何をするんですか!」
 それまでは上手に幼児を真似ていたボビンだが、突然の予想外の出来事に、元の自分に返って思わず悲鳴をあげ、大人びた口調でケイトを非難してしまう。
「あらあら、困った子だこと。本当の年中さんはそんな声を出したりしませんよ。一応は恥ずかしがったりするけど、それは格好だけで、すぐにきゃっきゃっ笑って、アニメのパンツだぞ〜ってわざと見せたりするんだから。小っちゃい子の行動、もっとちゃんと練習しなきゃ駄目ね、年中さんのボビンちゃん」
 ボビンの慌てようにケイトはくすっと笑って言った。そうして、左手でスカートの裾を捲り上げたまま、左手をおじゃ魔女ドレミのショーツの股間にぴたっと押し当てた。
「やだってば! な、何をするんですか、ケイト保護官たら」
 二度目の予想外の出来事に、ボビンはさっきよりも大きな悲鳴をあげた。
「だから、小っちゃい子はそんな大人みたいな悲鳴はあげませんって言ってるでしょ。はい、おとなしくしてなさい」
 なんだか面白がっているとしか思えないような声でケイトは言って、右手の指でショーツの股間をまさぐった。
「や、やだ、保護官。ちょっと、そんなとこ触っちゃ駄目ですってば」
 ショーツのクロッチのあたりに中指の指先を突き立てんばかりにするケイトの手の動きに、ボビンは頬をかっと熱くして声を震わせた。
「ほらほら、小さな子供がそんな色っぽい声を出さないの。私は、ただ、ボビンちゃんのパンツが濡れてないか確かめてあげてるだけなんだから。年中さんのボビンちゃんがおしっこの後ちゃんと綺麗綺麗できたかどうか確かめてあげてるだけなんだから」
 ケイトは、突き立てるようにしてクロッチのあたりに押し当てた中指と人差指を、ゆっくりとショーツの上に這わせた。
 途端にボビンの体がびくっと震える。
 見た目は小柄な幼児でしかないボビンだけれど、その実、僅かに膨らんだ乳房と成熟した性器の持ち主だ。敏感な部分を二本の指でまさぐられて平静でいられる筈がない。それも、ショーツが濡れていないかどうか確かめるだけよと言いながらもケイトの指がショーツの様子を確認するためなどではなく、ただでさえ感じやすい部分をわざと狙って這いまわるから尚更だ。
「ほ、保護官、よしてください。それ以上は駄目です」
 ケイトの手から逃れようとして腰をひき、ボビンは喘ぐように言って、ケイトの手を力なく払いのけようとする。
「あらあら、ケイト先生と呼びなさいってユリちゃんには何度も言って聞かせたけど、ボビンちゃんにも何度も言って教えてあげないといけないのかしら」
 ケイトは逆にボビンの手を押さえこむと、ボビンの耳元に唇を寄せて甘ったるい声で囁きかけた。




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