わが故郷は漆黒の闇


【三二】


「はい、袋のお口をこっちに向けてそのまま持っていてね」
 ケイトは、カタンが支え持つ保存袋にユリが汚した布おむつを収納してジッパーをしっかり閉めた。微かに立ちのぼっていた湯気が透明な保存袋の内側に付いて、うっすらと曇って見える。
「先生、ボビンもお手伝いする」
 カタンが保存袋をバッグに戻している間に、今度はボビンがケイトの前に立った。
「そう、ボビンちゃんもお手伝いしてくれるの。じゃ、バッグから新しい布おむつを取って来てちょうだい。六枚を重ねて一組にして用意してあるから、そのまま持って来てくれればいいわ」
 ケイトは、そっきそうしたようにバッグを目で指し示してボビンに言った。そうして、保存袋をしまい終えたばかりのカタンに向かって声をかける。
「カタンちゃん、おむつと一緒にしまってあるお尻拭きとベビーパウダーを持って来てね。ちゃんとしとかないと、ユリちゃん、おむつかぶれになっちゃうから」
「はーい、ケイト先生」
 二人は同時に声をあげ、ケイトに言われるまま、カタンはお尻拭きとベビーパウダーの容器を持ってケイトのもとに戻り、足早にバッグにのそばに寄ったボビンも少し遅れて新しい布おむつを手にして戻ってきた。
「はい、ありがとう。二人ともお利口さんね」 ケイトは本当の幼児にするみたいに二人の頭を順番に撫でて、カタンの手からお尻拭きの容器を受け取った。
「じゃ、新しいおむつをあてる前に、お尻を綺麗綺麗しましょうね、ユリちゃん。おしっこが残ってるとおむつかぶれになってお尻が赤く腫れちゃうからね」
 ケイトはあらためてユリの足首を差し上げ、空いた方の手でお尻拭きをユリの下腹部に押し当てた。
「んん……」
 ケイトがゆっくり手を動かすのに合わせて、消毒用のアルコールを含んだ不織布のひんやりした肌触りが下腹部を這いまわる。その感触に思わず息を荒げてしまうユリだった。
「あらあら、なんだか気持ちよさそうね、ユリちゃん」
 ケイトは笑いを含んだ声で言って、ユリの顔を見おろした。
「き、気持ちいいだなんて、そんな……」
 きゅっと両目を閉じていても、ケイトがこちらを見ている気配が伝わってくる。その視線を痛いほど感じながら、喘ぎ声でユリは言葉を返した。
「あら、だって、ここがこんなに濡れちゃってるのよ。これ、おしっこじゃないと思うんだけどな」
 ケイトはおかしそうに言って、お尻拭きをユリの秘部に押し当てた。
「や……」
 突然のことにユリの腰がびくんと震える。
「ほら、拭いても拭いても、ねばねばしたおつゆがいくらでも出てくるわよ。気持ちいいから、この恥ずかしいおつゆが出てくるんじゃないかしら?」
 ケイトは、掬い取るみたいにしてお尻拭きをユリの秘部に押し当て動かした。お尻拭きが触れて離れるたびに、ユリの秘部から溢れ出た愛液が、ねばねばした細い糸のようになってお尻拭きの表面から垂れ下がる。
 トイレでケイトにおむつカバーの上からいじられ、エレベーターの中ではシートベルトで責められた下腹部の疼きは、まだ鎮まってはいなかった。そんなところへ、本当の幼児みたいにおむつをおしっこで汚してしまったという屈辱感と羞恥とがないまぜになった、被虐的な、なんとも表現しようのない、奇妙な感覚がますます下腹部を疼かせているのだった。そうして、じんじんと痺れるみたいな疼きをいさめるようなお尻拭きのひんやりした感触が更に被虐感を掻きたてる。
「そう。そんなに、おむつにおしっこするのが気持ちよかったの。これなら、おむつに慣れるのに、あまり時間はかからないみたいね」
 うふふと笑いながら、ケイトは尚もお尻拭きでユリの秘部を責め続けた。


 ――そんなふうにして何度も何度もおむつへの排泄を強要され、それが日常化していって、ついには、尿意を覚えるとまるで我慢できずに知らぬまにおむつを汚してしまう体になってしまったユリ。ケイトに言われるまでもなく、今では一時もおむつを手放すことはできない。女児用のショーツを穿いたとしても、すぐにおもらしで汚してしまうのはユリ自身も痛いほどわかっている。その事実を突きつけられると、何も言い返せなくなってしまうのも無理はない。
「はい、この件はこれでおしまい。じゃ、ユリのおむつを取り替えてあげるから、カタンとボビン、いつもみたいに手伝ってちょうだい」
 ユリが渋々口を閉ざすと、ケイトはぱんと手を打って言い、コントローラーのボタンを押した。
 と、壁の一部が音もなく開いて、木製のベッドが滑り出てくる。それは、ユリが眠る時にいつも使っているベッドだった。ただし、就寝時だけではなく、おむつを取り替えてもらう時にも、ユリはこのベッドの上に横たわることになっている。
「はい、抱っこしてあげるから、おとなしくベッドにねんねするのよ」
 ケイトがユリの体を抱き上げるのと同時に、カタンとボビンが、ベッドの両側に付いている背の高いサイドレールを倒した。
「ありがとう、カタンとボビン。それにしても、おむつのユリにはベビーベッド本当にがお似合いね」
 ケイトは、ことさら『おむつのユリにはベビーベッドが』という部分を強調して言って、ユリをベッドの上に寝かせた。
 ベビーベッド。そう、ユリが横たわったのは、高いサイドレールの付いた木製のベビーベッドだった。カタンとボビンが眠る時に使うのは普通のベッドなのだが、ユリだけは、帰還準備室の居住エリアで眠りについた最初の日からベビーベッドを使うことが強要された。そうして、おむつを取り替える時にも、そのベビーベッドの上でというふうに強要されたのだった。




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