わが故郷は漆黒の闇


【五十】


「わかりました、おばさま。私たち、何をすればいいですか?」
 年長クラスの女の子がしっかりした口調でユ・ビヌキーの妻に訊いた。
「お手伝いといっても、難しいことはありませんよ。ケイト先生がおむつを取り替える間、ユリちゃんがむずがらないよう、あやしてくれればいいの。年少さんのユリちゃん、年長さんと年中さんのお姉ちゃんたちにあやしてもらえばおとなしくしているでしょうから」
 ユ・ビヌキーの妻は、ベビーベッドのサイドレールを倒し、ベッドの右側に年中クラスの子供を、左側に年中クラスの子供を立たせて言った。
「はい、これでいいわ。それじゃ、ねんねしましょうね、ユリちゃん。お座りのままだとおむつを取り替えられないからね」
 子供たちをベッドの両側に立たせたユ・ビヌキーの妻は、スカートの裾からおむつカバーを覗かせ両脚を開いてベビーベッドの上に座っているユリを、おねしょシーツの真ん中あたりにお尻を載せるようにして横たえさせた。
「大丈夫よ、ユリちゃん。お姉ちゃんたちが一緒にいてあげるから、ちゃんとおとなしくしてましょうね」
 年長の一人が、ベビーベッドの隅に手をついてユリの顔を覗き込んだ。
「そうだよ、ユリちゃん。年中さんのお姉ちゃんもいるから大丈夫だよ。あ、そうだ。おとなしくしてられるように、私、お手々を握ってあげるね」
 年中の一人も顔を覗き込むと、ユリの左手をきゅっと握った。
「よかったわねユリちゃん、お姉ちゃんにお手々をつないでもらって。これで寂しくないわね」
 ユ・ビヌキーの妻はにこっと笑って言い、再びユリの耳元に唇を寄せて囁いた。
「自分よりもずっと年下の子供たちにあやしてもらう気分はどう? この子たち、ユリちゃんのことを年少さんだと信じて疑わないのね。この子たちがユリちゃんの本当の年齢を知ったらどう思うかしら。そうならないよう、せいぜい頑張って、ちゃんと子供らしく振る舞わなきゃ駄目よ、おむつのユリちゃん」
 そう囁きかけてからユ・ビヌキーの妻はケイトのすぐ横に立って、さ、始めましょうと促した。
「……ユリちゃん、始めるわよ」
 ケイトは唇を噛みしめて頷くと、ユリのスカートをお腹の上まで捲り上げた。
「かっわいいおむつカバーなんだね、ユリちゃん」
 レモン色の生地に幾つものキャンデー柄をプリントしたおむつカバーが丸見えになって、年長の一人が歓声をあげた。その声に、ユリの顔がみるみるうちに赤くなる。
 ケイトがおむつカバーの前当てに指をかけて、さほど力を入れるふうもなく手前に引っ張った。布おむつをぐっしょり濡らしたおしっこの水分を感知したセンサーが働いて、フィールドキャンセラーを使わなくてもマジックテープが簡単に外れて、前当てが大きく開いた。ケイトは前当てをユリの両脚の間に広げて置くと、今度は左右の横羽根に指をかけてこちらも手早く外し、ユリの腰の両側に広げた。
「すっごーい。ユリちゃんのおむつ、びしょびしょだ」
 おむつカバーがすっかり開いて丸見えになった布おむつを目にするなり、年中の一人が驚きの声をあげた。
「駄目だよ、そんなに大きな声を出しちゃ。ユリちゃんが驚いちゃうし、恥ずかしがっちゃうじゃない。大丈夫だよ、ユリちゃん。ユリちゃんは年少さんの中でも小さいから、まだおむつでも恥ずかしくないんだよ。今はおむつでも、すぐにおしっこ言えるようになるから大丈夫だよ」
 年長の一人が年少の子をたしなめて、ユリを励ますように言った。ユリを気遣って励まして言うのだが、その言葉が却ってユリの羞恥を掻きたてる。見た目とは裏腹にれっきとした成人であるユリにとって、その年長の子供の言葉はあまりに屈辱的だった。
 続けてケイトは、ユリの下腹部の肌にべっとり貼り付く布おむつを丁寧に剥がすようにしてから、両方の足首をまとめてつかんで高々と差し上げた。コロニーのように低重力ではないものの、小柄なユリだから、両脚を差し上げるにしても、あまり力を入れなくてもいい。ケイトは、ユリのお尻とおねしょシーツとの間にできた隙間を使って、ぐっしょり濡れた布おむつを手元にたぐり寄せた。
「ふーん。大人とは違って、小さな子供のあそこって随分と綺麗なのね。余計なヘアもないし、真っ白な肌で眩しいくらいだわ」
 いつのまにかそばにやって来ていたハー・リヤマの妻が、おむつを外して丸裸になってしまったユリの下腹部をしげしげと眺めて感心したように言った。もちろん、ハー・リヤマの妻もユリたちが本当の幼児ではないことは知っている。知っていながら、ユリの羞恥心をくすぐるために言っているのがありありだ。
「でも、こんな綺麗なあそこだから、おむつが似合うのね。そうよね、大人におむつなんてまるで似合わないものね。おむつがお似合いなのは、ユリちゃんみたいな年少さんまでよね」
 意地悪な笑いを含んだ声でハー・リヤマの妻は何度も何度も『おむつがお似合い』という言葉を繰り返し言った。
 おねしょシーツに滲み出たおしっこのせいで表面の生地が濡れてしまったおむつカバーと汚れた布おむつを透明の保存袋に入れてから、ケイトは、備品バッグから新しいおむつカバーと布おむつを取り出した。淡いピンクのキルト地に小熊の顔のアップリケがついたおむつカバーと、大小さまざまな大きさの三色のハート模様をプリントした布おむつだ。ケイトは、フィールドキャンセラーを使って広げたおむつカバーの上に布おむつを重ね、それを一旦ベビーベッドの隅に置いて、新しいおむつと一緒に備品バッグから取り出したお尻拭きのパッケージを引き開けた。




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