ファミコンショップに着きました。客は３〜４人はいるでしょうか。本当は誰もいな
い状態がベストなのですが、まあ、わがままは言いっこなしです。
知っている人間がいないだけラッキーと思い、購入に望みましょう。
廻りにある『ファイナルファンタジーX』や『天外魔境』なんか見ていると、自分
の行いが恥ずべき事の様に思えてくる（実際そうなのだが）ので、なるべく『パワー
アスリート』とか『バツ＆テリー』などを見て自分を慰めましょう。店員は何もしら
なさそうなオバサンならいいのですが、ちょっと若めのニイちゃんだと、なまじゲー
ムを知ってるだけに軽蔑されるでしょう。まあ顔には出さないかもしれませんが。
いい店員だと「こちらの『２０２０スーパーベースボール』の方が面白いですよ」
とか言ってくれますが、わるい店員だと「こちらの『バーニングファイト』の方がつま
らないですよ」とか言ってくれます。ただし、どちらが親切なのかは一考を要します。
ともかく、店員に意志を伝えなければ売買はなりたちません。
ここでは正々堂々としてはいけません。
「．．ボ．．アー．．ミ」と、うつむきながら聞こえない程度に言います。あくまで
も低姿勢を貫きましょう。
「．．ロボ．．アーミ．．．」と、もういちど小さな声で言います。
「は？」店員は顔を近付けて聞き直してくるでしょう。
「．．ロボ、アーミー、下さい。」
「ネオジオの、ですか？」店員は妙な顔をしてあたりまえの事を聞き返してきます。
あなたはうつむきながら肩を震わせて首を振り、おもむろに顔を上げます。その目に
はいっぱいの涙をためながら、くしゃくしゃの千円札をカウンターに広げて、そして
「ロボアーミー下さい！」と店員の目を見て叫びます。
そしてうつむいて肩を落とします。
廻りの客も一瞬こちらをみて、また視線を戻すでしょう。都市生活者とはそういうも
のです。店員は黙って袋に入れてくれるでしょう。中の透けて見えない厚手の袋に。
あなたは小さく礼をして、小脇に抱えて逃げるように店を後にすると、それっぽくて
GOODです。店員も店員で今日のことは忘れてくれるでしょう。
そして今度出会ったときは二人手にとって微笑みあうことができる事を夢を見て、
強く生きて下さい。でなければさっきのは単なる悪夢で終わってしまうからです。
さて、購入に５年分の精力を使ってしまったあなたは、棒のようになった足を引き摺
りながら帰途につきます。もうゲーセンに立ち寄る気力もありません。
とにかく一刻も早く家に帰って『ロボアーミー』を．．．やると．．．思うだけで力が抜
けていきます。「俺の今日一日は何だったんだろう」そんな疑問があなたの頭を
していきます。
「９千円あったら対戦９０回はやれたんじゃないかな」そんな打算的考えもありま
すが、ゲーセンでプレイするのと家庭でするのとでは違います。そんな考えは不毛で
あります。
家庭で『ロボアーミー』。
そう考えれば気分も変ってくるでしょう。
「変んねーよ。」
そうですか。