第10回(11月19、20日)フランスワインと食文化

ワインリスト

1)Kir
 酸味の強い白ワイン(本来はBourgogne Aligote)にCreme de Cassis(カシスを漬け込んだリキュール、Dijonが本場)を1/5〜1/7程度加えたカクテル。今回は3)のミュスカデとオランダ産のクレム・ド・カシスで作ったもの。

2)Chateau de Rayne-Vigneau 1994
  Sauternes 1級
  Cepage:Semillon, Sauvignon Blanc
  定価 8,676円

3)Muscadet 1996
  (Baron Bernard)
  Cepage:Muscadet
  定価 850円

4)Alsace Gewurztraminer 1994
  (Kuentz-Bas)
  Cepage:Gewurztraminer
  非市販品、レストラン納入価格 3,689円

5)Cotes du Luberon 1995
  (Bichot Meilleur La Bichette)
  Cepage:Grenache他
  非市販品、レストラン納入価格 825円

6)Nuit-St-Georges 1er Cru Les Porets Saint-Georges 1990
  (Domaine Michel CHEVILLON)
  Cepage:Pinot Noir
  非市販品、レストラン納入価格 5,534円(750ml)、3,107円(375ml)

本日のオードブル、フロマージュ

1)Puree de Foie d'Oie
 日本で入手できるガチョウのフォワ・グラのピューレの缶詰である。パリの大きなスーパーでは惣菜売場で缶詰だけでなく、生のフォワ・グラで作ったテリーヌが100g千円程度で手に入り、クリスマスにはソーテルヌとともに楽しむ習慣がある。また、高級レストランでは自家製のテリーヌが自慢の店も少なくないが、パリやボルドーではソーテルヌとあわせて楽しまれる。

2)Roquefort AOC
 フランスの中・南部のかなり広い範囲がAOCに指定されていて、ボルドーワインの産地であるジロンド県の一部まで含まれている。今回はロックフォール村にある小さなメーカーの製品である。
 羊乳を原料とする青かびチーズで濃い味わいのため、コクのある赤ワイン全般に良く合うが、塩味が強いため、ボルドーの甘口ワイン、ソーテルヌの上級品にも良く合う。シャンベルタンに合うとか、コート・デュ・ローヌの重い赤に合うなどの話がよく語られるが、勿論ボルドーの赤にも良く合う。

3)Munster Gerome AOC
 マンステールは本来アルザス地方で作られるものであるが、これはロレーヌ地方のもの。ウォッシュタイプだが比較的まろやかで、エポワスのように柔らかくはなく、ポン・レヴェックよりも柔らかい。アルザスのゲヴュルツトラミネールとの組み合わせが名高いが、個人的な意見としては他産地のワインでも、赤ワインでも必ずしも悪くない。

フロマージュの分類

 フランスのフロマージュにはワイン同様AOCの規定があり、現在33種類が認められている。AOC以外でも様々な種類があり、フランス全土で数百種類に及ぶ。その製法も多岐にわたり、日本では通常、以下の8種類に分類されているが、フランスで全部のタイプが一般的であるとは言い切れない。

1)フレッシュタイプ
 熟成させていないチーズ。クリームチーズなどの総称。
 例:フロマージュ・ブラン
2)白カビタイプ
 白カビを繁殖させて表面から熟成させたタイプ。
 例:ブリー、カマンベール
3)ウォッシュタイプ
 表面を塩水や酒で洗いながら熟成させるタイプ。
 例:エポワス、マンステール、リヴァロ、ポン・レヴェック
4)シェーヴルタイプ
 山羊乳から作られるもので、製法は様々なものを総称して分類。白色。
 例:サント・モール、クロッタン・ド・シャヴィニョール
5)青カビタイプ
 青かびを混ぜ込んで内部から熟成するもの。
 例:ロックフォール、フルム・ダンベール
6)セミハードタイプ
 やや固めのチーズでロウなどに包んで熟成させる。熟成は細菌の作用により、カビは関与しない。フランスでは少ない。
 例:サン・ネクテール、ゴーダ
7)ハードタイプ
 より硬質で保存がきく。すりおろして料理に使うものも多い。
 例:コンテ
8)プロセスチーズ
 加熱したものの総称で、かつて日本では輸入した安価なセミハードタイプに国産のチーズを混ぜて溶かしたものがチーズの大半を占めていた。

フランス料理(高級店)の流れ

1)アペリチフ Aperitif(食前酒)
 席に着くとアペリチフの注文を取りに来るから、好きなものを注文し、アペリチフが届く頃から飲みきる前くらいまでの間に料理の注文を終える。アペリチフを飲みたくない場合には注文しなくても構わない。
 シャンパーニュ(グラス売りune coupe de champagne)、キール kir、キール・ロワイヤル kir royal、シェリー xeres、ウイスキー(ストレート)など。ボルドー地方のレストランや、1皿目をフォアグラのテリーヌで始める場合にはソーテルヌも良い。
 好みによってはビールや様々なカクテルなども注文することもできるが、これらはあくまでもアペリチフであり、食事中にビールを飲むのは特殊な場合(例えばアルザス地方の名物料理でいかにもビールが合いそうなものを食べる場合)に限られる。
 アペリチフの際には簡単なオードブルが無料でサービスされることが多い。

2)料理とワインの注文
 ア・ラ・カルト a la carte の場合には通常2皿しか注文しない。定食 menu で選択肢がある場合にはどの料理にするかを指定するが、この場合でも料理は2皿か3皿が普通である。ムニュー・デギュスタシオン menu degustation といって、お勧め料理を少量ずつ出す定食の場合、4皿程度出ることもある。
 ア・ラ・カルトのメニューは通常アントレ(かつてはメインの肉料理を意味することもあったが、今日ではメインディッシュの前に食べる料理の意味に使われることが多い)、魚料理、肉料理、デザートに分かれているので、アントレから1品、魚または肉料理から1品選ぶ。胃袋に自信がある人はアントレの代わりに1皿目を魚料理の欄から選んでも構わない。なお、今日ではスープを出す店は極めて少ない。
 デザートは料理を食べ終えてから注文するが、手の込んだデザートを売り物にしている店では下ごしらえに時間がかかるため、最初にデザートを注文させることもある。
 料理の注文を終えるとすぐにワインリストを検討し、1皿目が運ばれてくる前にワインを注文する(逆にワインを注文するまでは料理を運んでこない)。ワインを飲みたくなければ注文しなくても構わないが、高級店ではかなり奇異な感じがする。2人くらいの場合にはワインは1種類しか注文しないのが普通である。4人程度なら2種類、例えば白ワインと赤ワインを頼んでも良いし、1種類のワインではじめて、なくなったら同じワインを追加してもらっても良い。
 フランス人の食事を見ていると、料理に合わせてワインを何種類も注文するのは少数派である。しかしワインのことがある程度分かっていて、6〜8人程度の食事で数種類のワインを注文すればソムリエに歓迎されることは確かであるから、普通の中流以上のフランス人はそれほどワインにこだわりを持っていないということであろう。
 ミネラルウォーターeau mineraleの注文も同時にするが、注文しなくても良いし、普通の水を頼んでも構わない。ミネラルウォーターの場合、銘柄を指定しても良いし、ガス入りかガスなしかを指定するだけでも良い。ガス入りの場合、日本でも売られているペリエのようなガスの強いものではなく、バドワBadoitという微発泡で弱アルカリ性の水が好まれる。

3)料理とワインのサービス
 先ずソムリエがワインと水を持ってくる。ワインはホストが味見をしたらすぐに全員のグラスに注がれるが、2種類注文した場合、1種類は横に置いておく。赤ワインの場合予め開栓し、あるいはデカントしておくこともある。
 水は冷やしてない場合もあるし、冷やしてあってもそのままテーブルの上に放置して温まるに任せることが殆どで、白ワインのように冷やすことは稀である。
 店によっては注文した料理が出る前に簡単なオードブルがサービスされることもあるが、これは無料である。
 銀器はそれぞれの料理を運んでくる前に必要なものを並べてくれるのが一般的であるが、多人数で予約した場合など、予め数本並べてあることもある。

4)フロマージュとデザート
 料理を食べ終わるとデザートを注文するが、その前にフロマージュを食べることが多い。何も言わなければワゴンで運んでくる店も多い。ここでもしワインが既になくなっていて、肝臓と財布に余裕があればもう1本ワインを注文しても良い。勿論チーズに限らずデザートも食べたくなければ断って構わない。
 デザートと一緒にプチフールが出される。デザートワインをグラスで注文できる店もあるし、人数がいれば1本頼むのも良い。

5)コーヒー
 デザートが終わると大抵はコーヒーを飲むかと聞かれる。伝統的にはコーヒーで、紅茶を飲むことは少ない。夕食が終わるのは大抵11時過ぎになるので、コーヒーを飲むと寝付きが悪くなると言って、最近は脱カフェインのコーヒーや、アンフュージョンを飲む人も少なくない。
 高級店ではデザートのプチフールの他に、ここでチョコレートなどが追加されるが、最初から兼用で盛り合わせて出してくる店も少なくない。
 コーヒーを飲みながら、あるいはコーヒーが終わってから、好みによってブランデー(コニャック、カルバドス、マールなど)やリキュール(コアントローなどのアルコールの強いもの)、あるいは葉巻を注文する。

フランス料理の変遷

 フランス料理という決まったものがあるわけではない。フランス料理は常に変化しているし、それぞれの地方にはそれぞれの料理がある。極言すれば、その時代にフランス人が食べているものは(中華料理など外国料理と銘打ってあるものを除き)すべてフランス料理であるということもできるのである。ここでは我々のフランス料理のイメージに近いところで、以下のように時代を大雑把に区切ってみよう。

1)19世紀まで
 革命以前はフランス料理は宮廷料理であり、つまり貴族達のものであった。当時の貴族達にとっても食事は有効な外交手段であり、贅を尽くした料理とワインが供された。しかし革命以後、職を失った料理人の多くは貴族の許を離れ、自分で店を開業するようになったので、一般市民にも外食が一般化し、今日のフランス料理の基礎が作られていった。
 なお、この時代には現在の1日3食とは異なり、朝夕の2食+夜食という形態であった。朝食がdejeuner、夕食がdiner で、夜食はsouperと称した。

2)20世紀前半
 エスコフィエAuguste Escoffier が今日の古典料理の基礎を完成させた。その大著Le Guide Culinaireを見れば、当時の料理を完全に再現することが出来るし、今日でもフランス料理の基礎として厨房にこの本を置くシェフは少なくない。通常昔の料理の本は入手が困難であるが、この本に限っては今なお版を重ねて売られている。
 この時代の料理は宮廷料理の伝統を引き継いで完成されたもので、じっくり煮込んだ重厚な味わいの料理が多い。肉や骨で取った濃厚な出し汁(フォンfond)や魚の出し汁(フュメ fumet)がソースの基本になるが、これらも今日使われているものよりも濃いものが使われていた。Le Guide Culinaireに載っている料理と一見同じものでも今日では遥かに軽く作られているので、レストランで料理の名前だけを見て当時の料理を想像してはいけない。
 電灯が普及するにつれ夕食が遅くなり、今日のように朝食petit dejeuner、昼食dejeuner、夕食diner の3食となって、souperは消滅した。しかし、今日でもオペラや演劇がはねた後の夜食をsouperと呼ぶ。

3)20世紀後半
 より軽いものが好まれるのと、どこでも新鮮な素材が手にはいるようになったことから、素材の味を活かした軽い料理が広まっていった(これがいわゆるヌーヴェル・キュイジーヌnouvelle cuisineであるといわれているが、実際のところヌーヴェル・キュイジーヌの定義も評価も曖昧である)。古典料理の基礎と美味しさを保ったまま極限まで料理を軽く作ることに成功したのがフェルナン・ポワンFernand Point であり、ポール・ボキューズPaul Bocuse ら、門下のシェフ達であろう。何れにせよ、今日では濃厚なソースの味で勝負するシェフはほとんど見かけなくなってしまった。
 なお、ヌーヴェルより先進的と称してモデルヌmoderne という言葉も使われたが、軽く火を通しただけでろくに味付けもしていないような極端な料理は淘汰されていった。

サービス、マナー、食器の変遷

 フランス料理はマナーが難しいと思っている日本人が最近までは沢山いたが、これは明治時代にアメリカ・イギリス経由で伝わった西洋料理の作法と混同しているからで、普通の人がフランスのレストランで食事する分には、3つ星であろうと、シャトー・ホテルであろうと難しく考える必要はない。以下の歴史を知れば難しく考える気もしなくなるであろう。
 フランスではかつては貴族でも時折フォークを使う程度で、料理を殆ど手づかみで食べていた。イタリアから銀食器が伝わっても、庶民は手づかみで食べることが少なくなかったようである。また、宮廷や貴族の晩餐では、今日のような1皿ずつサービスする方式ではなく、テーブルの上に様々な料理を盛りつけて、各自手の届く範囲の料理を取る方式であった。温かい料理は今日レストランのサービスで見られるアルコールランプと同様、蝋燭の火で温めてはいたが、これでは料理が冷めてしまったり、煮詰まりすぎたりしてしまったようである。
 18世紀には、それぞれの料理を1皿ずつサービスするロシア式サービスが伝わり、温かい料理も冷たい料理も一番良い状態の時に味わうことが出来る長所が認められて普及していった。
 銀器も料理に合わせて様々なものが使われるようになり、その発達は今日まで続いている。例えば最近よく使われるソース用のスプーンも、一般化したのはここ数十年のことである。

 以上のように、料理そのものも、その食べ方も、決まったものが続いてきたのではなく、常に変化しているのである。

ミシュランとゴー・エ・ミヨー

 フランスではホテル・レストランのガイドブックが多数出版されているが、歴史があり、広く使われているものとして、赤い表紙にタンクタンクローに似たキャラクターのミシュランと、黄色い表紙にコックの帽子をかぶった鶏のキャラクターのゴー・エ・ミヨーがある。これらについて記すことによって、フランス料理の現状を考えてみたい。
 ミシュランでは店の格はホテルの場合は屋根、レストランの場合にはナイフとフォークが交差した印(以下単にフォーク何本と呼ぶ)の数で評価し、料理に関しては星印で評価していると一般には理解されている。前者に異論はないが、後者即ち星印が料理の質、つまり味に対する評価であると云うのは多少誤解がある。 百聞は一見にしかずで、ミシュランの凡例を訳して見よう。
 3つ星:最高のテーブルの一つ、旅行の価値あり。ここでは常に非常に良いものが食べられ、しばしば驚嘆させられる。偉大なワイン、素晴らしいサービス、上品な内装…。然るべき値段。
 2つ星:素晴らしいテーブル、廻り道の価値あり。名物料理とワインのチョイス…。然るべき値段を覚悟されたし。
 1つ星:このカテゴリーでは非常に良いテーブル。星印はあなたの旅程表で良い訪問先となろう。しかし、デラックスで高い店の星と、リーズナブルな値段の小さな店の星を比べてはいけない。どちらも高品質の料理を出す。
 つまり、星印の評価はテーブル(食卓、つまり食事する場所)に対する評価であって、料理の内容だけで評価して居る訳では無いのである。したがって、どんな3つ星レストランよりも美味しい料理を作っても、小さな小汚い店では1つ星が付くか付かないかが関の山なのである。
 94年迄はフォーク1本の店でも星が付いたが、95年以降2本以上の店しか付けなくなった。また、2つ星は3本以上に限定されてしまった。また97年には2本の1つ星もかなり落とされたので、ますます店の格を星印の評価基準にしている事が分かる。これは取りも直さず、フランス料理が変化し、ソース作りの微妙な腕を競うよりも素材と店の豪華さを競うようになった結果であろう。
 一方、ゴー・エ・ミヨーはジャーナリストだけあって、独自性を出す事に腐心しているが、やや空回り気味であると言わざるを得ない。そもそもヌーヴェルを囃し立てたのは彼らである。ここでは概して斬新な料理が高い評価を受ける。彼等にとってはポール・ボキューズさえ既に古典なのである。もし今、エスコフィエの料理をほぼ完全に再現した3つ星レストランが出現したとすれば、彼等は全く相手にしないか、さもなくば、今日ではこれも斬新なやり方だと言って高く評価するかのどちらかであろう。
 ここではハーブを大胆に使った料理や、東洋的要素を取り込んだものが評価される傾向にある。したがって古典的なフランス料理の真の美味を追求しようとする者はしばしば絶望させられる事になるのである。しかし、これも今日の高級フランス料理の一つの行き方であり、それなりに理解すれば楽しめるものである。

魚料理について

1)金曜日
 フランスの牛肉消費量は周辺諸国の2倍であるといわれているし、牛肉以外にも豚、鶏はいうまでもなく、羊、ウサギ、野生鳥獣など、様々な肉を消費する。フランス人の通常の食事は肉料理であり、庶民の日常の食事に魚料理は一般的ではない。ところがフランスはカトリック教徒が多く、彼らは本来宗教上の理由で金曜日には肉食が禁じられている。また復活祭前の1ヶ月半ほどの間(四旬節)も、日曜日を除いて肉食が禁じられている。今日ではこれらの戒律を守る人は少ないが、しかし金曜日にはどんな店でも魚料理が出され、宗教上の理由にかかわらず、魚料理を楽しめる日のようになっていて、魚を好む日本人滞在者にとってはありがたい日である。しかし魚料理が売り物の店は金曜日の夜には混雑するので、早めに予約することが必要である。

2)専門店
 パリだけでも魚料理専門の高級レストラン(ミシュランで星がつく程度)が10軒以上あり、庶民的な店も含めると百軒は軽く越えるであろう。これらの店で出される料理は古典的な魚料理ではない。
 まず必ず置いてあるのが生ガキや、生ガキを中心とした海の幸の盛り合わせである。加熱した魚料理の場合でも、軽くポシェしてバターやオリーブオイルをかけた程度のものが多く、濃厚なソースを掛けたものは出されない。古典的な料理としてはソール・ムニエルやブイヤベース程度である。
 ワインも含め、高級店で1人あたり1万円ちょっと、庶民的な店でも5千円くらいはかかるので、庶民にとってはかなりの贅沢である。
 <お勧めの店> Port Alma
 ミシュラン1つ星で、ワイン込み1万円くらい。昼のサービス定食なら5千円程度。料理・雰囲気ともかなりのレベル。

3)古典料理
 濃厚なソースを使った古典的な料理は今日では殆ど姿を消した。稀に一流のシェフがエスコフィエの料理を軽くアレンジした料理を見ることがあるが、これはあくまで少数派である。しかし、かつてヌーヴェル・キュイジーヌの代表と考えられていた一流のシェフ達の料理は何れもエスコフィエを基礎にしており、ある意味では新古典ともいうべきものであろう。日本でも有名なポール・ボキューズPaul Bocuse の鱸のパイ包み焼きや、トロワグロTroigrosの鮭のオゼイユ風味などがそれである。何れにせよ、濃厚なソースを使った魚料理は通常の高級レストランでなければ味わえないようである。
 <お勧めの店> La Petite Tour
 ミシュランで評価を下げられた古典料理の典型的な店。肉も魚も濃厚な味付けで、これが病みつきになってしまった常連客が多い。ワイン込みで1万円程度

パリの庶民の外食

 今までは主に高級レストランについて述べたが、ここでは中流以下の庶民が日常的に利用するレストランについて述べる。

1)フランス料理(庶民的な店)
 庶民的な店でも基本的には高級店と同じ流れであるが、サービスのオードブルやプチフール等は期待できないし、飲み物を色々と注文することも少ない。簡単なアペリチフをサービスで出す店もあるが、それ以外では注文する客は必ずしも多くはない。アペリチフに飲むものも上流階級と庶民は違っていて、パスティスのような香りの強いクセのある酒が好まれる。
 料理はやはり2皿が基本であるが、昼食の場合には1皿にすることもある。デザートは省略することも少なくない。
 ワインはパリの場合大抵安い赤ワインまたはロゼワインで、白ワインが置いてない店もある。最近ではワインを飲まずに、ビール、コーラ、ミネラルウォーターなどで済ませる客も多い。特に若い世代のワイン離れが著しい。
 簡単な昼食で済ませた場合にも、食後にコーヒーを飲む客は多い。
 もっとも、少し気の利いた店ならば、アペリチフ、アントレ、肉料理(魚料理は金曜日以外はないことが多い)、フロマージュ、デセール、コーヒーとやって、ワインとカルバドスくらいを注文することは出来るが、これをやると、比較的安上がりな高級レストランへ行ったくらいの勘定になってしまう。
 全国チェーンのイタリア風ファミリーレストラン、ビストロ・ロマンが有名であるが、フランス料理を食べるのならパリのチェーン店、バティフォールがお勧めである。

2)セルフサービス
 セルフサービスのレストランでも、店によってはフランスの庶民の基本的な料理が色々と出されるところがあり、参考になる。ここでも簡単なサラダと温かい料理、デザートとコーヒーくらいを取る人が多いが、ワインを飲む人は少なくなっている(ワインを飲む人の平均年齢はかなり高い)。
<お勧めの店> 店名は失念、クリシー広場の8区側の角。

3)イタリア料理
 イタリア料理でも星が付くような高級店もあるが、庶民的な店ではイタリア風のビストロ、パスタを中心にした店、ピザを中心にした店など様々である。安い店でもイタリアワインが置いてあることが多い。

4)ファストフード
 マクドナルドやクイックなどのハンバーガーショップが全国にあり、若者に限らず簡単に食事を済ませたい人で賑わっている。ここでも必ずサラダがあって、サラダ、ハンバーガー、デザートとコース料理風に食べることが出来る。コーラの嫌いな人はビールやミネラルウォーター等を取ることもできるが、ワインは通常置いていない。

5)中華料理
 小さな町でもよく中華料理店を見掛けるし、大都市では街角に立って四方を見回すと必ず1軒は見つかるくらい沢山あるが、どこも健康志向で重いフランス料理を避けようとするフランス人で賑わっている。ヴェトナムやタイの料理もこのカテゴリーに含まれる。
 庶民的な店では日本のあるいは中国の方式とは異なり、フランス式にサービスされる。すなわち、簡単なオードブルやサラダで始めて、メインの料理が出てくるのである。炒飯Riz cantonnaisや炒麺Nouille sauteeはメインの料理の時にパンの代わりに一緒に食べる事が多いが、炒麺を独立した料理として出している店もある。デザートは中国風のものが多いが、アイスクリームなども置いている。
 通常はワイン、特にロゼを飲む。紹興酒などはまず置いてないが、青島ビールは殆どの店に置いてある。食後に白酒(パイチュー)を飲むことは多い。

6)その他
 北アフリカ料理の店の中には1つ星を保っている店さえあるが、通常は庶民的な店でクスクスなどが好まれる。ここでもワインが飲まれるし、マグレブ諸国のワインがあることもある。
 日本料理店は日本人がやっている完全に日本式のものから、東南アジア出身の人がやっている怪しげなものまで各種ある。鮨や焼き鳥、ラーメンなどに特化した店もあるが、何れにせよ値段は高い。日本人の滞在者が多いのは当然であるが、意外にもフランス人も多く食べにやって来る。したがって、ワインは必ず置いてある。
 ヨーロッパの他の国の料理の専門店は少ないが、パエリアを食べさせる店はかなりある。デンマーク料理で1つ星を取っている店がデンマーク大使館のビルの2階にあるが、ここでは完全にデンマーク風に食事をしてビールを飲むこともできるし、殆どフランス料理を食べてフランスワインを楽しむこともできる。そこの1階に庶民的なレストランがあるが、シャンゼリゼ通りという場所柄、観光客が多いようである。
 インド料理などは、その国の人がやっているものが多い。




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