第4回(2月25日)シャンパーニュ、アルザス

1.シャンパーニュの生産地

1)シャンパーニュ地方とは
 行政上のシャンパーニュ・アルデンヌ地方とはアルデンヌ Ardennes 、マルヌMarne 、オート・マルヌ Haute-Marne 、オーブ Aube の4県で、ワイン産地としてのシャンパーニュ地方もこの4県にまたがるが、畑のかなりの部分はマルヌ県にある。
 何れにせよこの地方の中心都市はランス Reims で多くの有名メーカーが集中しているが、他にエペルネ Epernay やアイ Aye などの町にも幾つかのメーカーがある。この地方は白亜質土壌で、町を造るために石を切り出した跡を地下蔵として使用しているメーカーが多い。

2)ブドウ品種と栽培地
 シャンパーニュに使用できる品種は赤品種が2品種( Pinot Noir、Pinot Meunier)、白品種が Chardonnayのみの合計3品種で、Chardonnay のみからつくられたものは Blanc de Blanc(白品種でつくった白ワインの意味)と表示することが出来る。
 良質なブドウを産する産地として以下の3つが挙げられる。

・Montagne de Reims
 ピノ・ノワール、ピノ・ムニエが主。
 主な村:Bouzy、Verzenay
・Vallee de la Marne
 ピノ・ノワール、ピノ・ムニエが主。
 主な村:Dizy、Cumieres、Chatillon/marne
・Cote des Blancs
 シャルドネが主。
 主な村:Avize、Cramant

 畑は村毎に格付けされていて、数字(%)で評価される。100 %の村はグラン・クリュー Grand Cru、90%以上がプルミエ・クリュー Premier Cruとなり、それ以外の村も通常80%以上の評価がついている。シャンパーニュをつくるときには通常複数の村のワインをアサンブラージュするが、各村の評価を加重平均した数字が90%以上なら Premier Cru、全部が特級の村のワインなら Grand Cru を表示することが出来る。

2.シャンパーニュの製法

1)収穫・圧搾
 ブドウは全て手収穫、畑の近くの圧搾場で圧搾されるが、他の産地とは異なり縦型の圧搾機を用いる。ブドウ4tを基本単位とし、除梗・破砕は行わずそのまま圧搾機に入れ、流れ出る果汁を順番に取り分ける。この地方で用いられていた伝統的な樽(現在では Krug などで用いられているだけである)は容量 205 lで、これを1単位として果汁の量を量る。最初の10樽分(2,050 l)をテット・ド・キュヴェ tete de cuvee あるいは単にキュヴェと呼び、高級なシャンパーニュはこれだけを使っていることを売り物にしたものが少なくない。次の2樽分をプルミエール・タイユ 1ere Tailleと呼び、ここまでがシャンパーニュに使用できる。

2)発酵・アサンブラージュ
 果汁は醸造場に運ばれ、通常の辛口白ワインと同様に発酵される(ロゼをつくる時は、ロゼワインとして発酵させたものを使う場合と、赤ワインをつくっておいてブレンドする場合とがある)。発酵は産地毎に分けて行われ、後で混合される。この作業をアサンブラージュ assemblage と呼び、大手メーカーでは数十の村のワインを混合することもある。また、毎年均質な製品を作るため、前年あるいはそれ以前のワインをストックしておいて混ぜることが多い。
 良質なブドウが収穫された年には、その年のワインを主体にアサンブラージュした上級品のミレジメ milesime をつくることがあるが、これは3年後以降でないと発売できないなどの規制がある。前年のワインを少量混合してもミレジメとすることは出来るので、実際にはミレジメは長期熟成に耐える上級品としての性格が強い。また、特別な畑だけでつくったもの等も存在するが、何れも通常品よりも高価である。

3)第二次発酵・貯蔵
 アサンブラージュしたワインにショ糖と酵母を溶かしたリキュール・ド・ティラージュ Liqueur de tirage を添加し、ビール瓶に付いているような王冠キャップをする。これを地下蔵などに寝かせ、10℃前後で発酵させると、生成した炭酸ガスがそのままワインに溶け込む。これをこのまま貯蔵すると、炭酸ガスは徐々にワインに馴染んで、注いだときに繊細な泡になるようになるし、酵母の死骸からアミノ酸などの旨味成分が溶出してくる。最低9ヶ月が規定で、比較的安価なものは1年程度で出荷されるものもあるが、通常2〜3年貯蔵される。

4)オリの除去・成分調整
 発酵・貯蔵が終わった瓶の中には酵母の死骸が沈殿していて、そのまま供すると濁ったシャンパーニュになってしまう(昔は細長いグラスの底にこれを沈殿させてから飲んだ)。これを取り除くために以下のような作業を行う。

・ルミュアージュ Remuage
 丸い穴が多数あいた棚板 pupitreに瓶をほぼ水平に差し込み、毎日瓶を少しずつ回しながら少しずつ立ててゆく。数ヶ月後に瓶が垂直に近い角度まで立ち上がった頃にはオリは完全にキャップのそばに集まっている。なお、近年はジロパレットという機械でこの作業を代用するメーカーも多い。

・デゴルジュマン Degorgement
 瓶を逆さにしたまま−20℃程度の冷却液(昔は氷水に塩化カルシウムを混ぜたものを使用)に漬け、オリの部分を凍らせる。この瓶を立て、栓を抜くと氷となったオリの部分だけが飛び出す。この作業はマグナム(1.5 l すなわち通常の瓶2本分の大瓶)迄は機械化されていることが多い。

・ドザージュ Dosage
 デゴルジュマンによってオリの氷の分だけワインが目減りするので、これを補うためにワインを加えるが、この際通常ワインに糖分と少量のブランデーを溶かしたリキュール・デクスペディション Liqueur d'expedition を加える。この糖分によって、辛口・甘口が決まるのであり、通常のワインのように発酵を途中で止めて甘口にすることはない(瓶が完全に密閉されているので、経時的に分析して発酵を調整することは困難である)。

5)打栓・出荷
 3層に張り合わせた特殊なコルク栓を打ち込み、針金で留める。なお、デゴルジュマンから打栓までは、炭酸ガスの損失を最小限にするために迅速に行う必要がある。通常はその後もかなりの期間熟成してから出荷する。出荷前にラベルを貼り、コルクをアルミフォイルのシールで覆う。
 なお、極端に大きな瓶(例えば 9l 以上)や、逆に小さな瓶(200 ml 以下)の場合には、別の瓶で発酵させたものを移し替えてから打栓することも認められている。

3.シャンパーニュの規格等

1)シャンパーニュの表示
 Champagne の文字は全体の表示の中の一番大きい文字の少なくとも半分以上の大きさでなければならない。コルクには Champagne の焼印を押さなければならない。また Champagne はAOCではあるが、Appellation Controlee は表示されない。なお、従来フランスに限らず世界中でシャンパーニュと同様に瓶内発酵した発泡性ワインにはシャンパーニュ方式 Methode champenoise と表示されていたが、現在はこの表示は禁止され、Methode traditionnelle と表示する。

2)格付け
 前述のように、グラン・クリュー、プルミエ・クリューの表示が認められているが、規格に合っているからといって必ず表示しているとは限らない。またブルゴーニュなどと異なり、グラン・クリューであるからという理由だけで価格が数倍になるとは限らない。

3)生産者の種類
 ブルゴーニュなどのワインは mis en bouteille au Domaine(ドメーヌ内にて瓶詰め)などの表示でドメーヌの自家園ワインかネゴシアンのブレンドものかが分かるが、シャンパーニュの場合、小さな略号で表示されていて、これを知らない一般の人が見ても先ず気づかないようになっている。

・NM Negociant-Manipulant
 比較的大手のメーカーが自家園の他に、農家からブドウを購入してつくる。ブルゴーニュの Negociant-eleveur に相当。
・CM Cooperative de Manipulant
 協同組合での製造販売。
・RM Recoltant-Manipulant
 農家が自家園のブドウでつくったもの。ドメーヌものに相当。
・MA Marque d'Acheteur
 買い手の銘柄。
・RC Recoltant Cooperateur
 個人の栽培家が加盟している組合での製造。
・SR Societe de Recoltant
 同族の栽培家が集まって作った会社の製造。

4)甘辛表示
 ドザージュ後の残糖分によって以下のように分類される(これはEUの発泡性ワイン共通の規定で、他の国でも綴りが若干異なる程度で同じ表示をする)。数値が重複するところはどちらでも表示できる。現在では大半がブリュットないしは低めのセックまでにつくられる。

・Extra Brut (Brut 0 etc.):0〜6 g/l
・Brut:6〜15 g/l
・Extra-Sec:12〜20 g/l
・Sec:17〜35 g/l
・Demi-Sec:33〜50 g/l
・Doux:50 g/l 以上

5)瓶のサイズ
 シャンパーニュの瓶には様々なサイズがありそれぞれ名前が付いていて、ソムリエ試験などでは丸暗記することになっている。しかし、日本で普通に生活している分には、あるいはワインの仕事をしている人でさえも、殆ど必要のないものも多い。取りあえずは他の産地でもよく使う以下のサイズの名前を覚えれば十分であろう。

・Quart:187.5 ml、シャンパーニュではしばしば 200 ml
・Demi-bouteille:375 ml
・Bouteille:750 ml
・Magnum:1,500 ml

 大容量の名前を一応記しておくと、Jeroboam:3 l、Rehoboam:4.5 l、Mathusalem:6 l、Salmanazar:9 l、Balthazar:12 l、Nabuchodonosor:15 l。
 なお、3 l は他産地では double-magnum ドゥブル・マグノム と呼ぶことも多い。

4.アルザス

1)アルザス地方とは
 ドイツとの国境、ライン川左岸の上流側のオー・ラン Haut-Rhin、下流側のバ・ラン Bas-Rhin の両県がアルザス地方で、歴史的にドイツとフランスの間を行ったり来たりしたため、町並みや地名などはドイツ的なものが少なくない。今日でこそ若い世代は教育によって完全にフランス化されているが、元来むしろドイツ的な地方である(有名な小説「最後の授業」はフランス人の勝手な創作であるというのが一般的な評価である)。アルザスの人々は歴史的な背景もあって国際感覚に優れているが、ストラスブールに欧州議会が置かれるに及んで、ヨーロッパで最も「欧州人」の自覚が高い住民であろう。
 ワイン用ブドウ品種やワインの瓶の形は対岸のドイツと類似しているが、ワインの醸造法や基準はかなり異なる。

2)アルザスのブドウ品種
 アルザスワインは他の産地と異なり、地区・村・畑よりも使用するブドウ品種や熟度をより問題にする。以下にアルザスで使用される品種を記す。

・Gewurztraminer:香草と表現される独特の香りを持つ。
・Pinot gris:Tokay とも呼ばれる。コクがあるタイプ。
・Riesling:花の香りと表現される。ドイツでも代表品種。
・Muscat:いわゆるマスカットの1種。若いものを食前酒にする。
・Sylvaner:少しミュスカデに似た印象がある、爽やかな辛口ワイン用。
・Pinot blanc:比較的格下の扱いを受ける。クレマンにもよく使われる。
・Pinot noir:赤、ロゼ用。ブルゴーニュを思わせるものも出来るが玉石混淆。
・Chasselas:かつて安ワインのブレンド用であったが、あまり見掛けない。

 今日アルザスでは殆どのワインが単一品種でつくられ、ラベルに品種名が表示されている。複数の品種をブレンドした Edelzwicker などの規定もあるが、殆ど見掛けない。ごくごく安価なものでは単に Alsace AC で、何をブレンドしているか定かでないものが出回っているようである。

3)アルザスワインの格付
 特定の指定された畑で、より厳しい基準を満たしたものは Alsace Grand Cru を名乗ることができる。その他のものは単に Alsace AC である。 またどちらのAOCでも糖度が高いものは後述の特別な表示が許される。
 以下にこれらの基準について記す。

・Alsace Grand Cru
 使用できる品種は Gewurztraminer、 Pinot gris、 Riesling、 Muscat の4品種のみで、ha当たりの収穫量の基準が厳しく、果汁の最低糖度も温暖な地域と同じくらいのレベルが要求される。単一品種でつくり、品種名を表示しなければならない。
・Vendanges Tardives
 遅摘みの意味で、ブドウが十分に熟して糖度が高まってから収穫するという意味であるが、実際には最低糖度で基準が定められており、Grand Cru よりも更に2割程度厳しい。
 使用できる品種は Grand Cru と同じで、品種名と収穫年号を表示しなければならない(収穫日まで表示しているものも多い)。
・Selection de Grains Nobles
 貴腐粒選りの意味で、ブドウが貴腐化するまで待って収穫するという意味であるが、これも実際には最低糖度で定められており、更に基準が厳しい。
 これも使用できる品種は Grand Cru と同じで、品種名と収穫年号を表示しなければならない。

4)アルザス地方のリキュール、ブランデー
 アルザス地方では様々な果実の栽培が盛んであり、これらを原料としてオー・ド・ヴィー(フルーツ・ブランデー)やリキュールの生産が盛んである。有名なワイン生産者がこれらの生産もしていることが少なくない。
 以下に記す果実の多くはオー・ド・ヴィーとリキュールの両方に使用される。

・Kirsch キルシュ(サクランボ)
 フランス語では cerise であるが、ドイツ語式に命名している。
・Framboise フランボワーズ
・Poire William ポワール・ウイリアム(洋梨の一品種)
・Prune プリューヌ(スモモ)
・Mirabelle ミラベル(黄色いスモモの一種)
・Myrtille ミルティユ(コケモモ)

 また、Marc de Gewurztraminer もよく生産される。

ワインリスト

1)Piper Heidsieck Cuvee Brut
  Cepage:Pinot Noir, Pinot Meunier, Chardonnay
  約4千円

2)A. Jacquart et Fils
  Cuvee speciale Blanc de Blancs Brut Grand Cru
  Cepage:Chardonnay  約5千円

3)Pommery Louise 1998
Cepage:Pinot Noir, Chardonnay
  15,000 円

4)Alsace Tokay Pinot Gris 1990 Reserve Personnelle
  Kuentz-Bas
  非市販品、レストラン納入価約2千円 (375ml)

5)Alsace Grand Cru Riesling Schneckelsbourg Vendanges Tardives 1986
Auguste Hurst
  約8千円

6)Liqueur de Mirabelle
  Theo Preiss
  約 2,500 円

フロマージュ他

1)オリーヴ、赤ピーマン詰め
 食前酒の時のオードブルとしてよく用いられる。

2)Feta フェタ
 本来はギリシャのチーズで、フランスではサラダの材料によく用いられる。使用する前に塩抜きする必要があるが、これはデンマーク製の塩抜きしてハーブと一緒に油に漬け込んだもので、そのまま使用できる。

3)Cambozola カンボゾーラ
 ドイツの高脂肪青カビチーズで、表面は白カビに覆われている。



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