夫婦の会話
Tea time


        



  適材適所…?(*ちょっとHかも知れません。まあ夫婦だし…。
おいおい


 鈍く光る切り紙を漉き込んだ雲母紙が張られた有明には、明るさを調節するために半纏が斜めにかけられてあり、うすぼんやりとした明るさがその周りにだけ小さく丸く広がっている。火皿にひたされた火芯が油を吸い上げて時折じじっと泣く音が拾えるほど静かな室内に、衣擦れの音や小さな口づけの響き、息を詰めては洩れ出
いでる切なげな声が、こぼれ落ちては夜陰の中に吸い込まれてゆく。
「…ん………っ。」
 眉を艶っぽく力ませるようにしてぐっとこらえていた何か。それが、ふっと堰を擦り抜けて逃げたらしくて、
「…っあ、ああっ。」
 途端に短い悲鳴のような声が上がり、小さな顎が宙を仰ぐようにのけ反った。夜具の上へ組み敷いた腕の中、薄い胸を上下させ、少しずつ萎えてゆく小さな身体を愛惜しげに抱き締めて、線の細いおとがいや首条へそっと唇を這わせる。その感触に気づいたらしく、
「…ん、んん。」
 軽く弾んでいる呼吸を何とか整えて、腕の中から見上げてくる火照った顔が、昼間のそれとはどこか違って随分と蠱惑的だ。
「ゾ、ロ。」
「んん?」
 睦み合う内に傾いてか、身体が布団には斜めになっていて。仄かに冷えた畳の上へぱたりと投げ出されていた小さな手。薄闇の中に白く浮かび上がっているそれを、包み込むように拾い上げ、その指先へも唇を寄せる。自分の雄々しい体躯にすっぽりと収まる、小さな身体のどこもかしこもが愛惜しくて堪らない。
「どうした?」
 まだ序盤もいいところ。ほっこりと温
ぬくもった"妻"の肌が甘く匂い立つのが"夫"の気持ちを煽ってやまない。前の合わせがすっかりはだけて、袖だけがかろうじて通されたままの格好になった白い夜着。片側の前立てが胸の半分ほどを覆っていて、裾は膝に軽くかかっていて。そんな風に、ところどころを包みかけている様が何となく可憐で、その上…却って煽情的かも知れなくて。
「う…ん。」
 声をかけて来たのはそちらだのに、何も言わぬまま…夫の頼もしい背へと回していた方の手を気怠げにずり下ろす。こちらも大きくくつろいだ夜着の襟の合わせ。そこから覗く逞しい胸板に小さな手のひらを這わせると、確かめるように撫でてみて。それから、なめらかで男臭いのに、ちょっと色っぽくもある首条へとその手をすべらせてゆく。三連のピアスが揺れる耳朶。少ぉし浮いた襟から肩へと潜り込んだ手が、二の腕の隆起にまで到達すると、それにつられて手首がつかえる格好で襟を更に外へと割り開いて。
「………。」
 まるで子供の悪戯を見守る大人のように、真下から伸ばされた小さな手の彷徨
さまよう様と、どこか無心な様子のルフィの表情とを、薄く微笑いながら黙って見やっていたゾロだったが、
"………ん?"
 その手が、ふと、するするっと胸板から腰へ降りてゆき、とある箇所へ達しようとしたから、
「こ、こらこら。」
 少々慌てて捕まえる。
「?」
 キョトンとする彼を腕の中に取り込んで、浮かせていた身を傍らへと横たえ、胸の中に掻い込んだ幼い顔を見下ろすと、
「何がしたかったんだ?」
「ん、あのな。ゾロの…。」
「…いや、判った。」
 じゃあ聞きなさんな。
おいおい
「どうしたよ、急に。」
 すぐ脇へと蹴り退
けていた掛け布団を引っ張って、とりあえず互いの体にかけながら訊くと、
「だって…いつも一杯一杯色んなこと"してもらって"ばっかりいるし。オレ、何にもしてないだろ? だからさ…。」
 ………色んなことって。
"奇抜なことをした覚えはないんだが…。"
 それはともかく。
おいおい この問答のペースからもお判りだろうが、なんでダメなの?なんで?とまるきり屈託のない顔なのが困りもの。何しろ、彼にはこの旦那様が"初めて"で"唯一"のお相手なので、比較対象はない。それこそ、唯一の参考対象もまた旦那様だけ。なので、同性でもあることだし、こうされるとこんな感じで気持ち良いらしいとか、我が身で得た蓄積を試してみたくなったのかも知れない。そう、依然として"お子様仕様"な好奇心から…。
「良いんだよ、お前は。」
 まったくもうという呆れ声をかけると、すかさず、
「なんで?」
「………なんでって…。」
 そりゃあ、場合によっては…直接触れてもらうのも、それはそれで"良い"のかもしんない。
こらこら けれどでも。まだまだ何かと拙くて初心ウブな奥さんであり、こちらからの愛撫・愛咬に困ったように身をよじったり、甘い悲鳴を上げて“イヤイヤ”をしながら逃げを打ったりする様子が何とも愛らしくて。こんなになってどうしよう、ここからどうなるの? …と助けを求めるような切なげな顔をする、そこがまた愛惜しいのに、そうそう物慣れて何でもかんでもこなせるようになられては…。
"まだ早いよな、うんうん。"
 おいおい。男って勝手よねぇ。…あ、両方とも男か。
(笑) 大体、そういう評論が出来るほどの豊かな経験があるのか、あんた。筆者の場外からの声はともかく、
「なあ、なんでだ?」
 胸元からも急っつくように重ねて訊かれて、
「あのな…。…う〜んと。」
 こういうことをさらっと誤間化せるほど器用な男ではないものだから、一応真面目に考えてみる。
「物事には"向き不向き"…じゃなくて、そうそう"適材適所"ってのがあるんだ。
 それは判るな?」
「"適材適所"?」
 ………て、適材適所ぉ?
「そう。例えば、力仕事は若い衆にでも出来るが、ツタさんが料理の味見をする係でないと、ご飯が今一つ旨くなかったりするだろう?」
「うんうん。昨夜ののっぺい汁、ちょっと薄かったもんな。ツタさんが味付けしたんじゃなかったんだろ? アレ。」
 それで理解出来ちゃうって…ツタさんが凄いのか、奥さんが相変わらずなのか。まあ、それはともかくとして、
「じゃあ、こう…俺の方が肩をすぼめて、だ。えっと…。」
 たとえを思いつくにもかなり大変なほどのえらいことだと、この時点で気がつくようなら苦労はなくて。じっと考え込む旦那様に付き合って、こちらもじっと説明の続きを待つ幼い奥さんに、
「…うん。」
 やっと思いついたらしい。二人しかいないのに、それでも憚られるのか、

  「       」

 そっと耳元で何事か囁く旦那様だったが、途端に、
「…っっっ!!!」
 自分の肩を抱くようにぶるぶるるっと震え上がって起き上がると、布団の中から逃げすさる奥さんだったから、
「…ルフィ、何も泣かなくても。」
 やはり身を起こして少々呆れた夫へ、有明の光が届かずぼんやり暗い、部屋の隅の方まで逃げ延びた妻は、ふるふるふると何度も首を横に振って見せる。
「いやだっ! そんなの言うゾロなんてっ!」
「だろうが。だから、適材適所なんだよ。」
「うん。もう余計なこと、絶対しない。絶対っ!」
 何度も何度も頷いて、誓いを立てる奥方だったが…ここまで怯えるとは、どれほどの違和感満杯なことを言った旦那様だったのだろうか。
「ほら…おいで。」
「…もう言わないか?」
「言わないって。」
 伸ばされた手に怖ず怖ずと、どこか…人慣れしていない猫みたく、畳の上を這うようにして近寄って、
「ホントに?」
「ホントホント。俺だって嫌だってばよ。」
 苦笑する夫の腕へと戻って、ぎゅうっと抱かれたその充足感と温もりへ、やっと一心地つく若妻で。
「何か白けちゃったね。」
「…誰のせいだ、一体。」
 はてさて誰のせいなのやら。まま、夜は長いのだ。見合わせた顔をちょこっと傾
かしがせて眸を伏せれば、それでもう優しい口づけが降って来て、肩を抱く腕に熱がこもる。
「…ん、好きだよ?」
「ああ。俺もだ。」
 お元気なことでお御馳走様です、はい。



  さて、ここで問題です。
おいおい
  若奥様が震え上がったほどの殺し文句?とは、次のうちの一体どれでしょう?

   @やさしくしてね?
   A痛いこと、しないでね?
   B今日はダ・メなの
   Cその他(    )


  「…ほほぉ。」

 あ、あはは…。そ、そんな、旦那様ったら、目一杯オドロな空気背負って、わざわざこんなところへいらっしゃらなくても…。大体、こういうことへ"適材適所"なんていう言葉を持って来たこと自体、間違ってたんだしさ。だから"獅子歌歌"で斬るのだけはやめて………(ぐわっ!)


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  〜Fine〜  01.12.25.〜12.29.


 *特にこういうアホなシリーズにするつもりはないんですがね。
  無理から笑いを取ろうとしちゃあいかんと、
  判ってはいるんですが、つい…。
(笑)


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