月夜見 ホワイト・クリスマス C


 いつの間にやらくうくうと眠ってしまったチョッパーを膝に、和んだ顔をしているルフィへ、こちらもどこか和んだ表情を向けていたのだが、
「なあ。」
 ふと…確かめたくなって、声を掛けていたゾロで。
「ん?」
「もしかしたら、お前、雪の積もったツリーが見たかったってのはチョッパーのためだったんじゃねぇのか?」


『ギリギリまで粘ってよね。チョッパーのお誕生祝いでもあるんだから、完全に支度が終わってから帰って来てほしいのよ。』


 出掛ける時にナミがこそっとルフィへ囁いていたのが彼の耳にも届いていて、どうやら今日は、この小さなトナカイ船医殿の誕生日でもあるらしいのだと、ゾロもまた知ってはいた。そこで…珍しいものが好きな奴ではあるが、急に柄にないことを言い出したのはそのためではないのかと、そう思ったのだ。
「ん〜。」
 そうと訊かれた船長殿はといえば、
「俺も見たかった。それはホントだ。」
 正直者だこと。とはいえ、
「そういうゾロだって、ずっと面倒がんないで付き合ってくれたよな。」
 ルフィの思惑に気づいて、その柄にない気配りに加担してくれたのではないかと。そうと察しがついたからこそ、いつものような無頼そのものな乱暴な態度でもってそのやさしい心遣いのほんの縁でさえ欠けさせては悪いと思い、いつになく丁寧な態度を取って見せた彼でもあったのではないのか? だとするなら、柄にないところはお揃いだぞと言いたげな彼に、
「俺も見たかったからな、ツリーを。」
 おいおい。余裕でにんまり笑った彼に“むう”と膨れて唇を尖らせるルフィだったが、ふと、顔を寄せて来られて、


 「……………。」


 唇が離れて…そのまま、胸板へそっと凭れさせらて、
「これも良いことがあるようにっていう"おまじない"か?」
 …そういえば。ハロウィンの時にそんな話をしましたね。訊かれた剣豪は、
「まあ、そんなとこだな。」
 行為といい言い訳といい、結構気障っぽいことだったのに、珍しくもくすくすと微笑う余裕があるのは、特別な日ならではな小さな優しさに心が和んで、自然と素直になれたからだろうか。…そういや、随分と前に"予約"してなかったですかね?(『もう幾つ寝ると…』参照) キスだけで良いんだろうか? これは『蜜月シリーズ』じゃ…なかったっけか?
おいおい
「………。」
 ぽそんと凭れて来る小さな重み。小さいけれど、それはそれは大切で、愛しい存在。さりげに背中へと腕を回して、
「好きだぞ。」
 轍の音に消されぬよう、耳元で囁けば、
「知ってる。」
「…かわいくねーな、こら。」
 あ〜あ、暑い土地でのクリスマスだってのにまあ。相変わらず、御馳走様だこと。



        ***

 さて、こちらはゴーイングメリー号。甲板への飾り付けもほぼ終わりかけていて、たった4人という頭数での作業にしてはなかなか手際のいい、見事な出来栄えだ。みかんの木へも電飾の豆電球コードを巻き付けようとしていたナミは、
「あら、ウソップ。それって何なの?」
 またまた珍妙な機械を持ち出した発明家に声をかけた。
「ふふふ、聞いて驚け。これこそ雲製造マシン、クラウディア1号だっ!」
「…綿あめ製造機ね。」
 あやや、あっさり見抜かれましたな。移動しやすいようにとキャスターがついていて、その傍へサンジが一抱えはある袋をドサッと降ろした。
「ザラメで良いのか? 封切ってないのがあったから丸ごと持って来たが。」
「おうっ、ありがとなって、うわったっとぉっっ!」

 一体何が起こったのか。現場にいた人間たちは揃って"詳しくは分からない"と後々に語った。

「ちょっと、ウソップっ! 止めてってばっ!」
「そ、それが…っ。」
「くわぁ〜〜〜っ!」
「カルーっっ! 止まりなさいっ! カルーっ!!」



        ***

 ごとごと揺れる荷台は心地よくって、チョッパーに釣られたかルフィまでもが、ゾロの胸板に凭れてうとうとと舟を漕ぎかけていた。その腕からトナカイが転げ落ちては大変だからと、苦笑混じりに剣豪が取り上げようとしかけた時だ。
「…なんだ、ありゃ。」
 御者台から口ひげ主人の声がして、そちらへと振り向いたゾロもまた、
「………なんだ、ありゃ。」
 同じ台詞を口にしていた。馬車は町並みの外側を港への近道を選んで走っていて、轍が踏み敷く石畳は海岸線に沿って続く見晴らしの良い道へと入っていて。丁度正面に波止場が真っ直ぐ見通せる道筋の果て、一番端っこの桟橋に泊まっていた小さなキャラベルの、その輪郭を把握出来るまでに近づいていたのだが、
「…えっと。」
 朝方出掛けた時とは随分と様子が異なっていたから、ゾロとてこれは驚いた。いくらクリスマス&バースデイパーティーだからとはいえ、そこまで盛大に飾り付けてどうするんだという変わりようであり、マストの上部で畳まれた帆を巻きつけた横桁やら、そこから下方へと張られた索具綱を大ぶり小ぶりな"枝"だと例えれば、まるで大きな樹のようなそのシルエットへ、ぼやぼやとした何かをまといつけている様が…


 「でっかいツリー…だよな、あれって。」


 思いつきのピントがそうと絞られた途端、じわじわと愉快そうな笑みが口許へ浮かんでくる。
「チョッパー、ルフィ。起きろ、ほら、雪だ。」
「ふにゃ?」
 肩と帽子をそれぞれにぽんぽんと軽く叩かれて、目許を擦りながら起き出した二人のお子様たちにも、
「ほら。あっち、見てみな。」
 指さしたゾロの言いたいことが分かったらしく、
「わぁ〜、でっかいツリーだなぁ〜。」
「ホントだ。電球もキラキラも一杯ついてるし、雪も沢山積もってるぞ。」
 風に乗ってこちらにまでもほろほろと飛んで来た"雪"は、近くで見ると…どちらかと言えばクモの巣か綿ぼこりのようにも見えたが、それより何より、
「わっわっ…良い匂いだな。甘いもの、お砂糖の匂いだ。」
 鼻の良いチョッパーが真っ先に気がついて。それに続いて、
「綿あめだな、これは。」
 御者台の若主人が、自分の鼻先、口ヒゲにくっついたそれをペロリと舐めて、その正体が明らかになった。
「甘い雪だぞ、こりゃ。」
 可笑しそうに言い立てた彼へ、荷台の客人たちもあはは…と明るく笑い出す。
「早く食べたいな、あれ。」
「えっ? ルフィ、食べれるのか? あれ。」
「ああ、砂糖で作ってある綿だからな。」
 ゾロがにんまりと笑って見せて、
「大方、ウソップの作った機械か何かが、加減を知らん量の綿あめを作った結果じゃねぇのかな。」
 おお鋭い。正解は、キャスターも絶好調に回ったお陰様で大暴走した綿あめ製造機と、それに驚いたカルーが電飾のスモールランプの束を翼の先に引っかけたままマストを駆け上がるほど走り回ったこととで、甲板中が綿あめだらけとなり、とんだ"お菓子の船"と化していたゴーイングメリー号、です。…後片付けが大変だろうなぁ。
「わっわっ、食べれるのか♪」
「おお、着いたら競争しよう。どっちが早く頂上まで行けるか。」
 船上でのパニックぶりがまだ伝わらない呑気さで、無邪気な企みにわくわくするお子様たちの会話に、"一日保父さん"も和んだ眸をする。
"遠くでなくて自分チにあったなんてな。そういうおとぎ話がなかったか?"
 さて、ここで問題です。
"………よせって。"

            ◇

「神父様、神父様。」
 町から戻って来た酒屋の若主人が、わざわざ庫裏まで足を運んで神父様に手渡したのは、一枚のポラロイド写真だった。そこには昼下がりにこの教会を訪ねてくれた若い旅人たちが写っていて、雪化粧した大きなツリー…のような船のマストを背景に"にっか"と笑っている。楽しそうな笑顔たちへ"おやおや…"と眸を細め、小さく微笑った神父様である。




  〜Fine〜   01.11.10.〜12.16.



   *本誌では"アラバスタ編"の最終決戦のクライマックス中だというのに、
   アニメ組はまだまだこんなところです。
   (やっと火拳のエースが出て来てくれたばかり。)
   そういえば来春の劇場版はチョッパーが中心になったお話だそうで、
   『ねじ巻き〜』の時にサンジさんが結構美味しかったようなものかしら?
   ビビちゃんは出るのかな? なんか微妙な時期ですよね。
   ポスターにはいなかったしなぁ。(カレンダーには居るのに…。)
   あ、でも、同じ東映アニメーションの『ドラゴンボール』は
   劇場版は全てTVアニメの進行に合わせていたから、
   こちらもそういう構成になるのかもね。

   …話が逸れましたが、
   ハッピーバースデイ、トニートニー=チョッパー!
   あ〜んど、メリークリスマス!


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