KARAMATSUDAKE
唐松岳 (2696m)

八方池 (2060m)

八方尾根 (2086m)
  唐松岳(1日目、午後)
平成15年8月3日(日)〜4日(月), 現地1泊2日
   ★ 総所要時間: 9時間55分
   ★ ハイキング標高差: 861 m
   行程行程・ハイキング
  行程ルートマップ


 日本を代表する山岳帯である北アルプス。その北部に位置するのが、「後立山連峰」と呼
ばれる山群である。それは、黒部渓谷を挟んだ富山県側から見て、立山(連峰)の後ろにそび
える山々であるからだという。 主な山岳を北から順にあげると、小蓮華山(2769m),  白馬岳
(2932m),  杓子岳(2812m),  白馬鑓ヶ岳(2903m),  天狗ノ頭(2812m), 唐松岳(2696m),  五竜
(2814m),  鹿島槍ヶ岳(2889m) などである。 更に、この内の白馬岳, 杓子岳, 白馬鑓ヶ岳
は、まとめて「白馬三山」と呼ばれる。

         
                    北アルプス・後立山連峰、北部

 今回はこのエリアで、最も登りやすい山である唐松岳に挑戦した。また、我が家としては初の
「山小屋」体験を通して、山岳における夜と朝の美しい景観の移り変わりと、北アルプスの雄大
な自然のごく一端を垣間見る事ができた。
 唐松岳を選択した理由は、標高2696mとアルプスの主稜線上にある山としては低めの山であ
る事と、1998年の長野冬季五輪の競技場となった八方尾根が唐松岳の東側まで伸びている
ので、ここからアプローチすれば1835m付近までゴンドラとリフトが利用できるからである。
特に危険な箇所もなく、学校登山などにも利用されているので、言わば ”インチキ山屋向け”
と、いったところか(笑)。その八方尾根の、標高2070mにある八方池までのコースは、先のリフ
トなどの恩恵もあって観光客が大勢訪れるところである。
後立山連峰の中でも、南の五竜遠見尾根と並んで最も広く長いボリュウムを誇り、高山植物
の宝庫でもある。

          唐松岳(2日目、朝) 

 帰省中の長野市内から、白馬・長野オリンピック道路(県道31号)を走る事、約1時間で白馬
村に到着。天候はまずまずで、雄大な後立山連峰が間近にそびえており素晴らしい景観だ。
冬季五輪のおかげで、道路や町並みもきれいに整備されており、およそ「村」という感じがしな
い「街」になってしまった(苦笑)。
 八方尾根への登り口は、その冬季五輪で感動の舞台となった白馬ジャンプ競技場のすぐ隣
にある。白馬駅前から八方へと向かい、八方尾根ゴンドラリフト山麓駅前の有料駐車場に停
める。一泊二日であることを告げ、二日分の駐車料金を払い、荷を整えてリフト乗り場に向か
う。
      リフトを降り、八方尾根の湿原コースを進む

 午前8時30分頃だったが、すでに順番待ちの列ができていた。ここから、3本のリフトを乗り継
いで、1835mの第1ケルンが置かれている八方池山荘駅まで労せずして登る。天気は良かっ
たのだが、3本目のリフトあたりから行く手に白いガスがかかり始めていた。
リフト終点から、いよいよ八方尾根ハイキングを開始する。すでに団体の観光客を中心に、か
なりの数の人が来ている。列をなして登山道を少し登ると、八方山分岐に出た。
ここでルートは二手に分かれる。山の展望を見るならば尾根コース、高山植物を見るならば湿
原コース。辺りはガス巻いており既に展望はないので、迷わず湿原のコースをとる。
木道が整備されており、可憐な花達が競うように咲いている。代表的な花には花名のプレート
が添えてあるのでシロートにも優しい(笑)。ガスがなければ、この辺りの湿原からも五竜岳や鹿
島槍ヶ岳が見え、尾根コース上からは白馬三山の雄大な景観が見えているはずである。
聞くところによると、八方尾根は濃霧(ガス)の発生しやすい場所だそうだ。白馬大雪渓をはじ
めとする幾つもの雪渓から、気温の上昇に伴って大量に沸きあがった蒸気が、上空で集まっ
てガスを形成するらしい。

     
        第2ケルン手前の雪田を通る           第2(息)ケルン (2000m地点)

 やがて木道は大きな雪田の脇を通り、尾根コースと合流する。ここには(最後の)トイレがあ
り、そのすぐ上に第2ケルン(息ケルン) が建つ。しばし休憩をとり、先へ進む。
階段状になった道を登ると、2035m地点の八方ケルンを過ぎ、さらにガレた尾根道を歩くとよ
うやく稜線に出て、八方池 が見えた。このまま稜線を進めば、池を見下ろす格好の展望台とな
り、その先に八方尾根ハイキングコースの終点を意味する第3ケルンが建っている。
一般の観光客が訪れるのはここまでで、八方尾根は更に唐松岳へと続いてゆくことになる。
ここでは、まず稜線から外れて下り、八方池の畔に着いて長い休憩をとることにした。残念な
がらガスは晴れず、白馬三山を池に映す絶景を堪能することはできなかった。

     
          八方ケルン(2035m)                八方池 (第3ケルン方面)

 さて、ここから先が本格的な(?) 山登りの始まりである。軽装な人の姿はなくなり、静かになっ
た八方尾根の稜線を緩やかに登っていく。
やがてコースは、稜線から下ノ樺(したのかんば)と呼ばれる林に入る。ここは白いダケカンバ
の巨木が点在する、ちょっと神秘的な感じの美しい緑の林である。

     
       いよいよ唐松岳方面へと向かう          下ノ樺 にて、ダケカンバの巨木

 これを抜けると、南側に回り込む形となってお花畑が広がる脇道を進む。さらに、上ノ樺(うえ
のかんば)の林道を過ぎると、広大な雪田が残る扇雪渓に出た。
雪渓からの蒸気と相まって、いちだんとガスが濃くなってきた。何組かの登山者達が休んでい
たので、こちらも小休止する。
 ここまでの道程の間に、かなりたくさんの下山者達とすれ違った。

          扇雪渓 (下山時の写真より) 

 扇雪渓を過ぎると、勾配がきつくなりハイマツ帯の急斜面を登り詰めて、丸山ケルンに 辿り
着いた。今回の山登りの中では、唯一のガンバリ所であった。広々とした稜線で、この辺りが
山岳展望のビューポイントとなっている場所だ。唐松岳から続く不帰ノ嶮(かえらずのけん)の
岩峰群が、迫力のある山岳景観を楽しませてくれていたはずである。

     
            丸山が視界に入る             鎖場や落石しやすい箇所が続く

 稜線は次第に細くなり、落石しやすい箇所や鎖場を通過する。濃霧で先の見通しが不良な事
もあり、やや緊張が続くが、目的地に近いという “手ごたえ” も感じていると、眼の前のガスの
中から赤い屋根の建物が現れた。
唐松岳頂上山荘の裏側に出たのだ。もう一段登ってグルリと表側に回ると、唐松岳の姿をよ
うやく見ることができた。
 八方池から約3時間、標準的タイムでの到着だ。山荘のすぐ横手には牛首岳の赤茶けた岩
峰も見えるが、それ以外はガスに巻かれていて見ることができない。
唐松岳山頂へは、ここから片道20分ほどで登れる距離にいるのだが、本日の山頂行きは止め
にして、まず宿泊の手続きをした。

            唐松岳頂上山荘に到着

 割振られた寝場所(部屋?)に荷を降ろし、一息つく。山小屋の経験は自分が中学生の時に一
度あるだけで、事実上3人とも初体験状態である。特に、お嬢様育ち(?)で潔癖症(?)のママに
とっては、今日着ていた衣服のままザコ寝する事自体が “驚異的” な事の様である(笑)。
 割当てられた部屋(?)には、布団は6組だがマクラのようなものは12個並べてある。
聞くところによると、昨夜(土曜日)は混んでいて、かなり詰め込 まれたようだったが、今日は空
いているだろう‥‥、との事だった。どうりで、たくさんの下山者とすれ違ったわけである。
さて、今夜はどうなる事やら、ちょっと不安顔のママであったが、“本格山屋” のK子さんに借り
てきた「寝袋」という強い味方があったのだ(!!)。

 まだ3時台なので、夕飯までのあいだ外に出る。空は時折明るい部分を見せてはいるが、依
然としてガスが取れず景色はイマイチだ。だが、空気は清々しくおいしい。
 山荘前のベンチで休憩した後、隣の牛首岳へと向かった。赤茶けた岩だらけの鋭い岩峰で、
頂上部分では足がすくむ程の緊張感がある。ガスがなければ、眼の前に五竜岳が丸見えにな
るビューポイントである。

           夕食前、牛首岳に登ってみる

 夕焼けの時刻頃、再び外に出る。宿泊者たちが大勢集まってきており、カメラを構えている
人も目立つが、このガスではあまり期待はできそうもない。それでも、幾分ガスが薄くなってき
ており、辺りがほんのりピンク色に染まる頃、唐松岳の右に続く不帰ノ嶮がその不気味な姿を
現した。

    
   ほんのりと夕焼けに染まる、唐松岳と不帰ノ嶮          夕焼けの唐松岳

 山に日が落ちて、山小屋での初めての夕食を済ませる。こんな高い場所に、食料や水など
の物資をどうやって運んでいるのだろう‥、と素朴な疑問が浮かぶ。
寝場所の方は、我らの他に1組のご夫婦が相部屋(?)となった。つまり、6組の布団に5人。どう
やら、今夜はこれで済みそうだ。これならOK!! と一安心したが、布団はちょっと湿っぽいし、周
りからは既に高イビキも聞こえてきている。まあ、熟睡は出来ないだろうと思った(笑)。
 消灯の9時までには時間があるし、少し蒸暑くてすぐに眠れそうにもない(‥て言うか、我が家
ではこんな早い時間に寝たことがない!!) ので、マユと二人で夜の散歩に出た。
ガスは殆んど消えていた。昼間は見えなかった遠くの山々が、黒いシルエットとして見えてい
た。明日の朝が楽しみである。明日も天気が良さそうだ。
 それよりも何よりも、マユが感動していたのは星空だ。殆んど雲がなく、満天の空にたくさん
の星が大きく輝いている。
「まるで降ってきそうな位に近く見える。来て良かった。」と、マユ。
自分も、天の川を見たのは何十年ぶりだろう‥‥と、懐かしいような気持ちになった。すごく悔
しかったのは、子供の頃よく覚えた星座の位置と名前を、殆んど忘れてしまっていたことだ。
マユに教えてあげられていたら、きっと “理科の先生” の免許を持つ父としての “イゲン” も示
せていたのになあ‥と、思った(大笑)。

    
      翌、早朝 ご来光を待つ唐松岳               五竜岳(2814m)

 寝たのか寝ないのか判らないうちに、周りがドタバタと騒々しくなる。時計を見ると、まだ4時
前である。ご来光を山頂で迎えようとする人達が活動を始めたのだ。これが “本格山屋” さん
の生活パターンなのだと、3人とも顔を見合わせた。
みんな、当たり前のように支度を始めている。勿論、ご来光は見るつもりだったが、朝の5時位
と聞いていたので、もう少しゆっくりしていたかったのだが、とても寝ていられるような状況では
ない。だが、山頂までは行かずに、山荘の裏の主稜線上で見れば充分なので、ギリギリまで布
団に包まっていた(笑)。

         北信五岳方面の空から ご来光

 さすがに朝の外は寒い。山荘前に出て最初に眼に飛び込んできたのが、昨日ガスで隠され
ていた山岳展望の素晴らしさだった。「はー、こうなっていたんだー。」と、ママの弁。
主稜線上に登って、みんなが見ている方向の空を見る。午前5時過ぎ、北信五岳(妙高山, 黒
姫山, 斑尾山, 戸隠連峰, 飯縄山) 方面の空から太陽が昇った。
オレンジ色に輝く日輪の光がまぶしい。また、その朝日を浴びてピンク色に染まる、剱岳
山連峰
の姿も美しい。

    
   朝焼けに染まる、唐松岳頂上山荘と牛首岳        朝日を浴びる、剱岳と立山連峰 

 一旦、山荘に戻って(ここでは遅い方の)朝食を済ませ、身支度を整えて二日目の行動にはい
る。午前7時、周りの人達は殆んどが出発した後だった(!?)。
 天気はすこぶる良く、ガスもない。どの山も朝の陽射しを受けて、色鮮やかでとても綺麗だ。
まずは早速、唐松岳の山頂へと向かう。
間近で見る、不帰ノ嶮の峰々と不帰キレットの鋭さが大迫力で迫る。ここを渡っていく人もいる
のだから、すごいと思った。20分ほどで2696mの山頂に立つ。出た時は寒かったのだが、もう
汗ばんできた。

     
          唐松岳山頂を目指す                唐松岳・山頂(2696m)

 山頂の風はとても気持ちがいいし、周囲の山々が遠くまで見わたせた。とりわけ、近場の白
馬三山、五竜岳、剱岳、立山連峰は、クッキリと見えて美しい。五竜岳の先には、鹿島槍ヶ岳
が顔を出し、更にその奥には、槍ヶ岳などの北アルプスの銀座が連なって見える。
 本当に朝の山岳風景は格別だ。

    
   山頂より、五竜岳の遥か後方に槍ヶ岳を望む       山頂から見た、剱岳と立山連峰

    
    不帰ノ嶮、天狗ノ頭への稜線を見下ろす        白馬三山方面 (鑓ヶ岳が見えている)

 しばし休んでから、山頂を降りて山荘前のベンチに戻る。貴重な水(500ml、300円)を補給し、
登ってきた道と同じ経路で下山する。
昨日はガスで巻かれて見えなかったので、同じ道でも景観は新鮮だ。始めのうちは桟道の鎖
場や崩壊地の通過があるので、登り以上に気を使って慎重に下る。あとは危険な箇所は殆ん
どないので、雄大な景観を充分に楽しみながら下る。
 丸山ケルン手前の展望箇所で一休み。振り返ると、唐松岳と不帰ノ嶮の峰々が一段とダイナ
ミックに見えた。

    
       丸山へと向かう稜線上のコース       稜線展望台から、唐松岳と不帰ノ嶮・キレット

          
         白馬三山(右奥から、白馬岳, 杓子岳, 鑓ヶ岳)と、天狗ノ頭(中央)

 八方池まで戻ると、早くもガスが沸き出してきているが、かろうじて山はまだ見える。昨日残
念だった分も、これで全て取り戻すことができた。
 今日も続々と観光客達が登って来ている。それらに混じって、リフト終点の八方池山荘駅ま
で戻る。
ずっと下り道ばかり歩いてきたせいか、ふくらはぎのあたりに軽い筋肉痛が出ていたが、それ
は大人の二人だけ、マユは健在だった。

    
         八方池まであと少し            ガスが増えてきたが、白馬三山は見えている

 リフトを乗り継いで、愛車の待つ駐車場へと帰って来た。山歩きでお約束の温泉に直行して、
早く二日分の汗を流したいところだ。
 麓の白馬村も温泉の充実したところで、日帰り温泉施設の数も多い。八方温泉, 塩の道温
, 姫川温泉, かたくり温泉など、泉質も趣も異なる地域に幾つもの施設があったが、今回は
白馬塩の道温泉の「エコーランドの湯」を利用して、帰路についた。

         雄大な八方尾根 

 今回の山小屋体験を契機に、我らインチキ山屋も遂に “本格山屋” の世界に足を踏み入れ
ることになるのだろうか‥‥‥!? それは、きっと、絶対に「ない!!」と思う。(大笑)
 それは、次(に予定している)の山行きで証明することになるであろう。(含笑)

                                            (2003.8.16 記)


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