●平成15年9月14日(日)〜15日(月), 1泊2日 ★ 総所要時間: 8時間 25分 ★ ハイキング標高差: 535 m
関東最北の地、栃木県から福島県にかけて連なる2000m弱の山々が那須連峰である。 日本百名山に数えられる「那須岳」とは、噴煙を上げる火の山で那須連峰の盟主「茶臼岳
(1915m)」と、アルペン的岩峰で人気の「朝日岳(1896m)」、最高峰の「三本槍岳(1917m)」の総 称である。これに、南方の「南月山(1776m)」、「黒尾谷岳(1589m)」を加えて「那須五岳」と呼 ぶ。また、那須岳とは、そのままシンボルである茶臼岳の別名として呼ばれる場合もあるようで ある。 那須岳の三山は一日で縦走することも可能であるが、今回は少し離れている三本槍岳を除
いて、人気も高くそれぞれに魅力的な茶臼岳と朝日岳への山登りを敢行した。麓の那須湯本 温泉に宿を取り、天候しだいでいずれか一日を山登りに充てる計画で臨んだ。 茶臼岳は那須連峰唯一の活火山で、過去に激しい噴火を繰り返し、今でも絶えず白い噴煙
をあげている。カブトを伏せたような特異な山容は、一度見たら忘れられないであろう。1500m 付近まで車で上がれるので、ロープウェイを使わなくても登頂に苦労することはない。すぐ隣に 位置する朝日岳も、茶色い山肌をむき出しにした岩稜の険しい山容が印象深い。まるで、北ア ルプスの穂高岳を連想させる豪快な姿から「ニセ穂高」の異名を持つほどだ。 ![]() 早朝に家を出発し、那須岳山麓には午前9時30分頃到着した。この日は朝からとても良い天
気で絶好の "山日和" だったので当然、山登りを決行した。山麓駅前の無料Pに車を停めて 出ようとすると、強風で車のドアが重い。 すると、駐車場係員のおにーさんが「只今、ロープウェイは強風のため運休しています。再開
の見通しは今のところありません。」と、ドリフのメガホンでおっしゃるではないか!! こんなに良い晴天なのに、何という事だ。そういえば、来る途中の首都高・湾岸線でも、風の抵
抗が凄くてハンドルが取られがちだった。ちょっとアゼンとしたが、確かにこの風は物凄い。 幸いこの山はロープウェイを使わなくても、容易に登れる山なので、更に車を先に進め、登山
口に近い「峠の茶屋P」へと向かった。多少時間が多くかかるが、予定していたルートを変更し ても、充分に一日で周回が可能である。 ‥‥と、ここまでは良かったのだが‥‥
![]() ともかく、峠の茶屋Pから身支度を整えて出発する。遊歩道から登山口に入り、しばらくは灌
木帯の中のちょっと歩きづらい階段状の道を登る。この辺りでは森林限界がかなり低く、 1500m位の地点ですぐに灌木帯を抜けた。 すると、遮る物が無くなったとたんに猛烈な向かい風が襲ってきた。前に進めないどころか、身
体ごと吹き飛ばされそうなくらいの突風も来る。眼にはゴミ(砂)が入るし、周りの景色 (とっても 壮観で綺麗だったのだが) を見る暇もない。考えてみれば、あの重たいロープウェイが止まっ ているのだ!!、凄いわけである(苦)。 ![]() 周りの人たちも皆、立ち止まっては数歩進み‥‥を繰り返して少しずつ進む。すれ違う追い
風の下山者たちだけが、サッサと歩いてゆく(笑)。 この道は、茶臼岳と朝日岳の鞍部にある「峰の茶屋跡」へと続く高低差の少ない一本道で、 ちょうど茶臼岳と朝日岳の切れ目の谷部に沿って、茶臼岳北側の山腹を横切る景観の素晴ら
しいルートである。特に、右手に間近にそびえる朝日岳の姿は、このルートから見るのが最も カッコいい。 標高はアルプスにはとおく及ばない1896mであるが、その岩峰は本当に北アルプスの盟主・穂
高岳を彷彿とさせる堂々としたもので、アルペンムードたっぷりである。「ニセ穂高」とは、よく言 ったものだと思った。 ![]() ![]() 猛烈な風の峰の茶屋跡、奥に朝日岳 鞍部から茶臼岳に向かう
やっとの思いで、ようやく鞍部の「峰の茶屋跡(1718m)」に到着した。ところがまた、ここが一
段と物凄い風で、まともに立っていられない程だ。この場所は元々、会津方面からの風の通り 道になっており、『普段でも風が強く、特に初冬の北西季節風の日は強烈なので注意せよ。』 と、ガイド本に書いてあった。 三人とも、殆んど無口状態に近かったが、少し休んで、左側に見える茶臼岳へと向かった。 火山礫がゴロゴロした、道なきガレ道をペンキの矢印を頼りに進む。ここでも風との闘いだ。 やがて外輪山を越えて、旧火口である御釜の淵に出た。ここの御釜には水はなく、今は単なる
窪地となっているだけだ。 ![]() ![]() 茶臼岳の外輪山を越え、火山礫の中を登る 茶臼岳・御釜より、朝日岳方面
ここまで来れば、山頂はすぐそこである。鳥居をくぐると、大岩が散乱したような茶臼岳の山
頂に到達した。那須岳神社の祠があり、大岩の間からは360度の展望が開けている。 北側には、茶色の岩肌が険しい朝日岳から、その先に続く三本槍岳、赤面山などの那須連峰
北部の山々。南側に、南月山と、白笹山、黒尾谷岳などの南部の山々と、那須連峰全体が見 渡せるほか、遠くは日光の山々も見ることができた。 強風による音に混じって、山頂の西側からは爆裂火孔からのゴーゴーと噴煙が上がる音も聞
こえてくる。 継続的に続く強風のために、思うように進むことができず、ここまでにかなりの時間のロスが
出てしまった。加えて、精神的にも疲れが来ていたし、強風にさらされっ放しの為に身体も冷え 切っていた。岩陰に腰を下ろし、昼食と休憩をとることにした。 茶臼岳・山頂(1915m)
![]() 依然として風は強く、収まる気配もないので、この先の行程を中断し、残りは明日もう一度挑
戦することにする。往路をそのまま引き返して下山した。 峰の茶屋跡まで戻ると、そこは相変わらずの強烈な風である。休むまもなくサッサと引き返す。
今度は追い風なので、歩行速度は早い。それよりも、早くこの強風から逃れたくて、3人とも必 死で歩いていた(笑)。 峠の茶屋Pの車に戻り、ようやくホッとする。身体がじわじわと温まっていく様子がわかった。
本日の宿、ボルケーノハイウェイ(有料道路)内の高台にある「那須ホテル」に入る。老舗で自 家源泉を持ち、展望バツグンの露天風呂が自慢のホテルだ。 このホテルが建つ場所は、後になって公園法の網がかけられ、今では自然保護の為に新築・
増改築が禁じられている場所だそうだ(支配人のお話)。 つまり、それ程に景観の良い場所ということだ。確かにここは、那須湯本温泉の中でも "オス
スメ" の宿である。 ![]() ![]() 牛ヶ首に続く、茶臼岳南側斜面の巻き道 噴煙が流れる、山頂部を見上げる
翌日、早めの朝食を済ませてホテルを出て、再びロープウェイ山麓駅に向かう。今日も天気
はまずまず。そして、風は強くない!! 今までの山登りでは、一番気になるのはその日の天気だ ったが、風の心配をしたのはこれが初めてだ。よっぽど、懲りたのだろう(大笑)。 ロープウェイが利用できたので、一気に茶臼岳の山頂付近まで到達する。山頂駅からは、 山頂方面には登らずに、左方向に直進して茶臼岳の南側を巻く緩やかな道を進む。下から茶
臼岳山頂を見上げると、西側火口から大量に出ている噴煙が、山頂部でハチ巻き状のリング を形成していた。 ![]() ![]() 牛ヶ首(1730m)より、進行方向を見下ろす 無間地獄の噴煙
やがて、「牛ヶ首(1730m)」と呼ばれる小高い丘の分岐点に着く。 左は南月山へと続く稜線上の道で、右は茶臼岳を更にトラバースして、峰の茶屋跡、朝日岳へ
と続く山腹の巻き道である。ここは、進路を右にとり朝日岳へと向かう。 少し下ると、茶臼岳の西面にある噴気孔「無間地獄」を通過する。盛んに白い噴煙を上げて
おり壮観な眺めだ。場所によってはガス臭も激しく、長居はできないので足早に通過する。 茶臼岳をほぼ一周するこの巻き道は、長い距離だが高低差は殆んどないので楽に歩けるし、
アルペン的な山岳風景と山麓下方に広がる緑の台地は、夏であれば一面のお花畑となってい るので、気持ちの良いハイキングコースである。 ![]() やがて、昨日から数えて三度目になる、恐怖の(!?) 峰の茶屋跡に着いた。やはり、この場所
の風は強めだが、昨日よりはずっとマシだった(笑)。 上空の青空が少なくなり、グレーの薄雲が一面にかかってきている。山の天気は変わりやす
い。今度は天気が心配になってきた。 休憩はそこそこにして、メインである朝日岳へと向かった。
![]() 峰の茶屋跡を直進して、まずは正面にある剣ヶ峰(1799m)の右を巻いて、朝日岳への登り口
に入る。山肌を剥き出しにした、本当にアルペンムード満点の山だ。 途中に鎖のついた岩登りもあり、幾つもの峰を乗り越えてガレ道を歩くので、変化があって登り
応えも充分にある。 とりわけ、高度な技術を要するわけでもなく、体力的にもキツクはないので、小学生の集団登
山学習の場ともなっているようだ。 しかし、もちろん油断は禁物である。随所に滑りやすいところや、すれ違いが狭かったり、崖の
上を通過するところもあるので注意を怠らずに進む。 幾つもの峰を乗り越えて行く
![]() ようやく山頂下の「朝日の肩(1840m)」に着いたところで、突然山頂方向からガスがかかり始
めた。せっかくの山頂を目前にして、今回はツキに見放されたか‥、これでは山頂からの展望 は望めそうにない。 しばし休憩したのち、最後の岩山を登り詰めて、朝日岳の山頂(1896m)に到達した。 やはり、ガスの為に展望は殆んどきかなくなっていた。そればかりか、写真を撮って少し休んで
いたら、ついに雨が降り出してきた。どうやら、今回は完全にツキに見放されたようである。 すぐには止みそうもないので、急いで下山した。足元が非常に滑りやすくなっているので、慎重
に下る。 ![]() ![]() 山頂への最後の岩山を登る 朝日岳・山頂(1896m)
峰の茶屋跡に戻り、昨日と同じ経路で茶臼岳の山頂方面へと登る。それは、ロープウェイ山
頂駅に戻る為であり、山頂付近を経由して反対側に下りる必要があるからだ。 激しくはないが、依然として雨が降り続く岩だらけのルートを、ペンキの印を頼りに登って行く
と、大きな道標が立つ山頂下の分岐点に出た。ここから、ロープウェイ山頂駅方面に下る。 ![]() 岩だらけの地帯を抜けるとロープウェイの支柱と、緑の台地が見え始めた。同時に雨も弱ま
り、上空に明るさが戻ってきた。まもなく山頂駅という処で、皮肉にも青空が出現!! そして、みるみるうちに陽が射してきたではないか!(怒) 山頂駅の構内で、上着などを乾かしつつ昼食をとった後、ロープウェイに乗り込んだ。 山麓駅Pの車に戻った時には、暑いくらいの陽射しが出ていた(怒!怒!!)。 まあ、『山の天気は変わりやすい。』を実感した次第である(笑)。 今回の山登りは、天候がらみの小さなアクシデントがあった(‥と言っても、この程度の事は
"本格山屋さん" にとってみれば、当たり前の事なのだろうが‥)が、 このコースは比較的楽に登れるし、変化に富んでいて、低いながらも山岳気分を充分堪能で
きる、とても良いコースだと思う。ファミリー登山としては、うってつけではないだろうか。 (2003.9.27 記)
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