TSUBAKURODAKE
燕岳 (2763m)

合戦尾根

燕山荘 (2710m)
      燕 岳 ( 2763m )
平成17年9月18日(日)〜19日(月), 一泊二日
   ★ 総所要時間:10 時間 15分
   ★ ハイキング標高差: 1310 m
   行程行程・ハイキング
   行程ルートマップ


 「燕岳」(つばくろだけ) は、北アルプスのどまん中。正確には常念山脈の北部に位置し、比
較的アプローチが良いことから、北アルプスで最も早く山頂に立てる山 (勿論、インチキなし
で! ) の一つとも言われる。 北アルプス入門コースとして、長野県内中学校の学校登山で登ら
れるほど、大衆的かつポピュラーな山の一つだ。 その一方で、北アルプス表銀座・槍穂高
連峰
を目指す本格山屋さんたちの「表銀座縦走コース」起点としても重要な山岳で、人気も絶
大だ。 ベテランのアルピニストで、この山を知らない人はモグリだとも言われるほどだ。
 山麓からはわからないが、稜線まで上がって見る山頂付近は、白い花崗岩と緑のハイマツと
が織り成す自然が創った見事な造形美で、凛として聳えて息をのむ美しさである。
白い花崗岩(新期花崗岩) の山は北アルプスでは特異な部類らしく、頂稜部ではそれらが奇異
な形の岩塔となってオブジェを形成している。
勿論、燕岳の美しさだけでは終わらない。ここからは、槍穂高を始めとした、北アルプス表銀座
の主脈を間近に一望できるのだ。 つまり “見るための山” でもあるわけだ。
実は30数年前、自分も中学時代の学校登山で始めて山小屋を体験した思い出深い山でもあ
る。 この時の感動と美しさを、同じ年齢に達した愛娘に写真ではなく肉眼で、是非見せたいと
いう思いがあった (本人や、付合わされたママには迷惑だったかもしれないが…… 笑)。

   燕岳と、連なる北燕岳、奥に餓鬼岳 

 とは言ったものの、この登山路「合戦尾根」は、「烏帽子岳」(2628m) のブナ立尾根、「鹿島
槍ヶ岳
」(2889m) の赤岩尾根とならび、”北アルプス三大急登”に数えられるコースでもある。
 大衆的とはいえ、決して簡単に頂上に立てるという訳ではない。 標高差1300m、登り所要時
間・約4時間半の行程で、インチキは通用しない(笑)。 日帰り登山も不可能ではないが体力的
にキツイし、ここはやはり山頂下の名物 (?) 山小屋・「燕山荘(えんざんそう)」に宿泊して、朝
の山岳風景を満喫してからゆっくりと戻る、一泊二日の行程がベストであると判断した。

   
       イルカ岩 (2日目・燕岳)             燕山荘より、常念山脈を眺める

 登山口までのアプローチが長いため、早朝に家を発ち中央高速から長野自動車道に入る。
豊科ICで降り、一般道を走ること約1時間で登山口のある中房温泉郷に到着。
土曜日も含めた三連休の二日目だったので、前日に山入りした登山者が多かったとみえ、駐
車場に至るまでの路上脇に停めた車列がかなり続いていた。 この日も多かったようだが、な
んとか町営の無料第三駐車場(一番下側で、国民宿舎「有明荘」のすぐ上) に停める事がで
きた。 この地へは車(タクシー)でなければ入れないのだが、駐車スペースは少なめで、人気
の高い山でもあるので、シーズン中は満車状態の事が多いそうだ。  
 駐車場に入れたのはいいが、登山口まではケッコウな距離が残っており、上り坂の車道を30
分弱歩いて、中房温泉の登山口にたどり着いた。 いつもながら、アスファルトの道を歩くの
はヤケに疲れる(笑)。 登山口は、山屋御用達の「中房温泉」に隣接しており、売店やトイレも
揃っている。 用を済ませてから呼吸を整え、いよいよ北アルプス三大急登に挑戦だ。

         中房温泉、燕岳・登山口 (1462m)

 笹の生い茂る樹林帯の中を、入り口からイキナリ急登が始まる。 この調子で標高2400m付
近の森林限界点ぐらいまで延々と急登が続くのだが、多くのガイド本にも書かれているように、
実際に登ってみると 2380m の「合戦小屋」までの間に、ほぼ30分間隔で 第一・第二・第三・ 富
士見ベンチといった順で休憩所が設けてあり、急登の割には登り易い尾根道だ。
これらが、ちょうど一息入れたいなあ と思う頃に現れてくれるので、各人のペースを保ってゆっ
くりと呼吸を整えながら登れば、そんなに大変な登山路ではない。 危険な箇所もないし、我ら
インチキ隊” でも踏破できたのだから間違いない!! (笑)。

               第二ベンチ (1820m) 

 登山口から30分ほどで最初の休憩ポイントである「第一ベンチ」に到着。 さすがに体がまだ
慣れてないのと、かなり蒸し暑かったせいもあって、汗だくとなり少々キツかったが、このベンチ
から右下へ少し降りた沢に、本コース唯一の水場があるので荷を降ろして給水に向かった。
疲れて乾いた喉に、冷たい湧き水がとってもオイシイ!! 一気にパワーを回復し先へ進んだ。 
 道は相変わらず曲がりくねった急坂で、蹴上げのキツイ梯子状の階段も随所にあったりして
グングンと高度を稼いでゆく。 体も慣れてきて、「第二ベンチ」、「第三ベンチ」と順調に休み
ながら進むと、この辺りから所々で視界が開けるようになり、アルプスの稜線やその手前にあ
る山々の展望が得られた。

      
        花崗岩の急登が始まる              合戦小屋 (2380m)

 第四番目の「富士見ベンチ」を過ぎたあたりから、花崗岩の大きな岩塊による急登が始ま
り、やがて五番目の休憩ポイントである「合戦小屋」(2380m) に到着した。 ここは宿泊施設で
はないが、売店やトイレを完備しており、本格コーヒーや冷たい飲み物、うどん, ソバも食べら
れる立派な休憩施設で、まさに登山者にとってはオアシス的な存在である。 その他に、オレ
ンジやモモ、ブドウなど、時節の果物が常に用意されており、特に真夏の冷たいスイカは、ここ
の名物となっているそうだ。 この日はリンゴとバナナが置いてあった。
 ちょうど昼時でもあったので、ここで昼食休憩をとることにした。 売店からは、冷たい缶飲料
と温かい山菜うどんとラーメンを注文し、持参した食料と共に腹を満たす。 こういう所で食べる
と何でも美味しく感じるのは、ホントに毎度の事ながらフシギである ( 実際、味も良かったのだ
が… )。
    
    合戦沢ノ頭から、燕岳(左)と北燕岳を望む        ガレ場をトラバースして進む 

 ここまで来れば、キツイ急登もほぼ終わりに近く「燕山荘」まで 残り1時間ほどの道のりだ。
充分に休憩して合戦小屋を出発。 植生は既にダケカンバやナナカマドに変わっており、20分
ほどの登りで三角点のある展望ピーク「合戦沢ノ頭」(2489m) に出た。 
この辺りで森林限界を超え、展望が広がる。 正面右手に、目指す燕岳から北燕岳に連なる
険しい岩稜がハッキリと見えている。 そして、正面左手には、「大天井岳」(2922m) に続く稜
線の奥に、ガスの切れ間から「槍ヶ岳」(3180m) の雄姿が現れ始めた。

    
    大天井岳の奥に天を貫く、槍ヶ岳(3180m)    尾根ピークから、合戦沢ノ頭と有明山を見下ろす

 しばし休憩して先に進むが、勾配はようやく緩やかになり、だいぶ歩き易くなった。 やがて
正面に、赤い屋根の燕山荘が見え始めたところで、尾根のピーク地点に達した。 振り返る
と、先ほど休憩した合戦沢ノ頭と、その背後には有明富士の別名を持つ「有明山」(2268m) の
大きな山容が見下ろせた。 
さらに登山路は緩やかに昇り続け、ガレ場を通過し山腹を右にトラバースして行くとテント場が
現れ、すぐ上の燕山荘に到着した。

  燕岳 (2763m) ・頂稜部

燕山荘・直下三叉路のザレた稜線に出た瞬間、燕岳の鮮やかで堂々とした頂稜部の姿が眼
に飛び込んできた。 誰もが思わず「うわー」と声を出すような光景である。
それだけではない、瞬きする間もなく、表銀座と称される北アルプス主脈の大パノラマが眼前
に広がっているのだ。 これを「素晴らしい!」と言わずして、何と言わんや!! 息もつけぬほどの
美しさだ。 
 燕岳の後ろには、白い花崗岩の岩塔と緑のハイマツとのコントラストが続く同系の「北燕岳
があり、両山を結ぶ砂礫地にはコマクサの大群落 (7〜8月) があることで知られている。 北
燕岳の更に後方には「餓鬼岳」(2647m) の姿も見えていた。
 そして、燕山荘の正面広場を通り過ぎて南側の丘に立つ、そこから南に脈々と続く稜線が表
銀座の縦走コースだ。 大天井岳を経由して槍ヶ岳〜穂高岳への縦走、あるいは大天井岳か
ら「常念岳」(2857m) に向かう縦走コースが大迫力で一望できる。
やや雲が多くなってきていた為、「奥穂高岳」(3190m) をはじめとする穂高連峰裏銀座の山
岳は見えなかったが、かろうじて槍ヶ岳の雄姿は見ることができた。 この方角からは「小槍
も確認できる。

   
  大天井岳へと続く稜線 (表銀座縦走コース)         燕山荘から望む、槍ヶ岳

 ここから燕岳山頂へは往復1時間程の距離だが、天候も良いし (この時点では、誰もが明日
も良い天気になると信じていたに違いない)、 疲れていたので山頂行きは明朝にして、さっそく
燕山荘にチェックインすることにした。
この燕山荘は、アルプス中でも歴史のある有数の山小屋の一つで、帝国ホテルの資金援助な
どもあり 山小屋としては驚くほど贅沢な造りとなっている。 外観からして立派で、風呂こそな
いが室内も清潔で掃除が行き届いている。 オーナーの人柄と、徹底した拘りが感じられる快
適な環境が人気を集め、多くのアルピニストから愛されているそうだ。
 部屋に荷を置いてデッキに出て、のんびりと燕岳を眺めながら喫茶した。 アルプスの稜線で
飲むコーヒーは格別だ。 
部屋に戻ると、同じく娘さん(小学6年生ぐらい?)をつれた親子3人と相部屋になった。 窓から
は燕岳がバッチリ見える、ラッキーポジションだ。 独自に開発したという、寝袋にも応用できる
オリジナル布団も、なかなかのスグレモノだった。 それにナント! この山小屋はトイレが臭くな
いのだ。 聞くところによれば、風の流れを利用して臭わないように工夫された簡易水洗式
という。 
感心する事ばかりだったが、さらに夕食後には、オーナー自らによるアルペンホルンの演奏
と、ちょっとした山の話しも聞くことができ (ほぼ毎日、行っているそうだ!!)、その人柄の一端を
垣間見せて頂き、ナルホドなあと思った(笑)。

      燕山荘裏側デッキからの眺め 

 とても良い気分で食堂を引き上げたあ と、外に出て夜空を仰ぐ。 ちょうど中秋の名月で満
月が出ていたが、雲が多くてすぐに隠れてしまい、星空もイマイチだった。 
どうもイヤな予感がして戻ると、テレビの前に集まった人達から洩れたタメ息に愕然とした。
明日の天気は最悪、頑張っていた高気圧が二つに分裂して前線が下がり 今夜から急変、明
日は朝からズバリ「雨」だと!! 
「そんなことなら今日のうちに (時間もあったことだし)、山頂へ行っておけばよかった!」……と、
思ったところでアトの祭りである (涙)。

         翌朝、濃霧の中を山頂へ向かう

 翌日、例によって本格山屋さん達が行動を始める早朝、窓の外を見てみる。 めずらしく天
気予報は大当りで、外は濃霧で真っ白!! どうやら霧雨状態のようである。 楽しみにしていた
御来光も、モルゲンロートに染まる槍ヶ岳の雄姿も、何もかも見ることができなくなってしまっ
た。
あの感動を…、まだまだ日本にも美しい大自然の芸術が残されている事を、是非とも美術志
向のマユに見せてやりたかったのだが……。 やはり、それだけ自然はキビシイ!! ということな
のであろうか!?  それとも、日頃のインチキのタタリだろうか!? (笑) 
まあ、いずれにしても見えないものは仕方がない。あきらめて、フテ寝することにした(笑)。

 山では遅めの(それでも6時)朝食を済ませ、視界はすこぶる悪いが、せっかく来たのに頂上
を踏まずに帰るわけにもいかないので、荷物を部屋に置いたまま燕岳の山頂へ向かった。
我らと同じ境遇の人達が沢山いたようで(笑)、みんな雨具をつけて数珠繋ぎ状態で山頂を目指
して進む。 視界は10m位だろうか、登山路を歩くのに支障はないが、周囲の山は全く見えな
い。 登山路は花崗岩の岩塔とハイマツの間を縫うようにトレールがついており、ジグザグに登
ってゆく。  歩きやすいが花崗岩は崩れやすく滑るので、岩場を登る箇所では梯子がつけられ
ていたり、進路方向の表示もわかりやすくて良く整備されている。

     
      自然が造った花崗岩の巨大彫刻群       随所に設置された、滑り止めの梯子

 白い花崗岩の岩塔・奇岩群は、見方によっては色々な動物や物の形に見えたりする。 有名
なところで、イルカ岩カエル岩メガネ岩などがある。 それらを実際に近くで見ると、表面
は風雨にさらされてすべすべしており、まるで丹念に研磨された石の彫刻のようにきれいだ。
自然が造った ”巨大なロックガーデン”, ”彫刻の山・美術館 (??)” とでも呼ぼうか…? (笑)
 30分ほどで、いつの間にか山頂に到着した。 周りの景色が殆ど見えないので実感はない
が、この山頂は狭い岩峰の頂であり、実際にはケッコウな高度感があるハズだ。 
そして、展望はモチロン最高であり、東側から北アルプスの主脈を眺望できるハズであったの
だが…(涙)。 重ね重ね残念ではあるが、登頂の証拠写真だけ撮って早々に下山した。
 唯一ラッキーだったことは、下山途中の砂礫で4羽の雷鳥に出会ったことだ。 驚かさないよ
うに、しばらく息を潜めて見守っていたら、ナント!! 山の上の方に向かって、飛ばずに歩いて去
っていった(笑)。

      
           燕岳・山頂 (2763m)             歩き去る、4 羽の雷鳥

 燕山荘に戻り、身支度を整えて燕岳に別れを告げる。 ガスはだいぶ薄くなってきたように感
じるが、時折パラパラと小雨が当ったりして不安定な空模様だ。 しかし、これ以上悪くはなら
ないような気もしたので、雨具を外して往路をそのまま戻る。 
下り一辺倒なので足早に進み、合戦小屋に到着。 おいしい朝のコーヒーを飲んで休憩してい
るうちに、天気は回復し始めた。 
 この先は長い急坂が続くので、膝を痛めないように注意しながら下るが、所々でどうしても加
速がついて小走り状態となる。 これは、ちょっと危ないなあと思っていたら案の定、第二ベン
チを過ぎたあたりから膝が痛み出して、最後はかなりペースを落として中房温泉の登山口に辿
り着いた。
                第三ベンチ にて

 中房温泉は、昔から山屋御用達の山峡の秘湯として名高い一軒宿で、広大な敷地には34も
の源泉が湧いているそうだ。 浴場も露天だけで6つ、内湯も4箇所と充実しているが、日帰り
入浴については、下山してきた登山者だけを受け入れてくれる事になっている。
 我らも当初は、ここで汗を流してから帰るつもりでいたのだが、ここから一旦車に戻って着替
えなどを取りにいく必要がある。 昨日は近くの駐車場は満車で、一番下の第三P に留めてい
るので、かなりの距離を往復 (しかも急坂) しなければならない。 三人とも足が疲れきってい
たし、ちょうど第三Pは 「国民宿舎・有明荘」 (一般の日帰り入浴も可能) の真上でもあったの
で、そちらの温泉を利用することにした。
 下の天気は、すっかり回復しており陽も射していたが、高い山の山頂付近は依然としてガス
に覆われたままであった。
                                    ( 2005.10.5 記 )

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