月夜見
  
 
初夏緑条D “蒼夏の螺旋・後日談”


        5


 メールを寄越して来日した彼は、メールに呼ばれて離日することとなった。
『女の子だったって。髪はナミさんの方に似てて、でも瞳はサンジに似てるって。母子ともに健康で、早く会いたいって。』
 一緒にメールを見たらしいルフィが、やや興奮気味に職場に掛けてきた電話。少々面食らったが、
『…ちょっと待て。』
 やおら…課長に"サンジェストさんからの連絡なんです"と大嘘言って席を立って、やって来たのが就業時間中で無人の屋上。
『もしかして、今回のあいつの来日ってのは…。』
『えと…。』
 言い淀むルフィの声から感じ取れたのは"あ、気が付いた?"というよな含み。つまり…。

『奥方がいよいよの臨月を迎えて里帰りか何かしてて。ハラハラと落ち着かない手持ち無沙汰から、お前に会って、ついでに俺をからかって気散じしようっていう、ただそれだけの理由で日本へ来たんか、あいつは。』
『怒んないでよっ。俺も今訊いたんだってばっ!』


   ね? 大したオチじゃなかったでましょ?(…おいこら、自分。)


 とゆ訳で、ラストステージは帰国する彼を見送る空港。知らせを受けた本人よりもずっと嬉しそうに興奮し続けていたルフィであり、
「なあ、サンジは男のこと女の子、どっちが生まれると思ってた?」
「健康ならどっちだって良かったさ。」
「いや、そりゃそうなんだろけど。」
 口調はやさしかったものの、あまりにそっけない言いようなので、ふみみと面食らった少年へ、
「なんでそんなこと訊くんだ?」
 ぽそんと、つやのある黒髪の上へ手を乗っけてやり、わさわさ弄
いじりながら、どこかあやすように訊くサンジへ、
「だって女の子だったから、大きくなったらデートとかに誘えるし。」
 おいおいおいおい。この、絶対"親ばか"になりそうなお兄さんにそんな無謀なことを聞いてどうするんだと、筆者同様、ゾロもそうと感じて苦笑をこぼしたが、では当の本人はと言うと、

   「………。」

 思いもよらぬ何かしらに心奪われたという雰囲気であり、その表情が固まっていて。
「…サンジ?」
 ルフィの声に我に返ったか、そのまま"ぽん☆"と拳で手のひらを叩いて、
「そっか。その手があったか。」
「…ちょ〜っと待て。」
 相変わらずに察しがよくて言葉の要らない人たちである。とはいえ、読まれてらっしゃる皆々様にもそのズボラを通す訳には行かないので、ご説明をいたしますなら、お嬢ちゃんが生まれたから大きくなったらデートに誘えると言ったルフィに、
「そのお嬢ちゃんとルフィと、先々で結婚させようとか何とか考えたんだろが、お前。」
「構わんだろうが。ちゃんと男女の結婚だ。どこの国や地域に行っても成立する婚姻だぞ。」
 またそういうややこしい言い回しを。まあ、昨今では同姓同士の婚姻を認可する国が現れてますからねぇ。それによって、内縁関係としてでさえ認められていなかったものが、法規上の伴侶としての権利を、はたまた生活上の補助や補償などを、認めてもらえるようにもなったそうです。それはともかく、
「え? そしたら俺、サンジの息子だね。」
 屈託なく笑ったルフィへ、
「そうだぞ、良いだろうvv」
 サンジが同じくらいの屈託のなさで笑い返す。一番"良い"のはどう考えてもあんただろうに。ゾロが内心でそうと呟いたのは間違いない。
(笑)
「でもさ、その子と俺って凄い年齢離れてないか?」
 見た目だけでも15歳は離れていることになる。
"何だよ、見た目って。"
 だって、あなた、到底二十代には見えないし。
「構わないさ。ルフィはいつまで経ってもきっと可愛いままだろうしvv」
「…おいおい。」
 これにはさすがに、ゾロも…いちゃもんをつけるより何より、ただただ呆れるばかりであったのだった。………ちょんっ☆



 ほんっとに人騒がせだった"小舅"
おいおいが離日して。彼を乗せた飛行機が飛び立ったのをしっかりと見送ったのをキリに、何となくの解放感を覚えてか、強い風の吹きつける送迎デッキの北ウィングにて、ついつい"う〜んん"と大きく背伸びをしたゾロだったが、
「…ごめんな、ゾロ。」
「んん?」
 何を唐突に神妙な声を出すかなとそちらを見やれば、随分と真剣に打ち沈んでいるルフィであって。
「どした。」
 小さな肩へそっと腕を回してやり、引き寄せるようにして囁くと、
「…だって。俺、ゾロの赤ちゃん、生めないもん。」
「……………ま、まあ、そうだな。」
 あんなにはしゃいでいたくせに、今はもう、そんなことを思い詰めてしょげていたりする。この愛らしい少年をもう二度と傷つけないために、自分の大雑把なところを何とか改めようと思ってはいるゾロではあるが、
"この気まぐれさは、追いかけるのが大変なんだよな。"
 大変と言いつつ、そうまで嬉しそうな苦笑を浮かべているようなら、大丈夫だろうと思ったりする筆者だったりもするのだが。場外からの感慨はともかく。ゾロはその頼もしい腕で、小さめの少年の体を自分の脇へきゅっと引き寄せるようにして、
「…赤ちゃんはまだ早いだろ?」
 こそっと囁いた。
「え?」
 強い風の音と、発着する飛行機の出す轟音と、それらへと、まるでセレモニーでも見守るかのように歓声を上げる見送りの人たちのざわめきと。決して静かではない場所だのに、低められたゾロの声の響きはちゃんとルフィの耳にだけ届いて、
「まだ一度しか………ってないのに、気が早かないか?」
「あ…。」
 省略された部分が判った途端、真っ赤になって、
「んもうっ!」
 小さな拳を胸板へどーんと叩きつけたルフィだったが、憎々しいことには全然効いていないらしい。あははと笑ったゾロに、うう"…と悔しそうな顔をして、だが、
「あ、そうだ。」
 思い出したものがあったらしい。しかめっ面があっさりと弾けた。
「サンジがさ、もうすぐ俺の誕生日だからって、これくれた。」
 そう言ってルフィが差し出したのは、革のタグがホルダー代わりについた鍵束だ。割とごつい感じのが1本と、細っこくて透かし彫りのデザインの施された数本の組み合わせになったもので、
「…何の鍵だ?」
 あの、世界に(密かに)名だたるビジネス・エージェントのお兄さんが、この最愛の少年のお誕生日の贈り物として、わざわざ手づから寄越したものならば、ただの飾りや玩具ではあるまい。
「あのな、ゾロに車で連れてって貰えって。これが地図な。」
 そう言って差し出されたのは箱根の地図だったから、もしかしてそれって…。
「ホントはキャンピングカーの方が良いかなって思ってたんだって。でも、こないだゾロが車買ったよって話したから、ああそれじゃあダメかって、考え直して決めたって。」
 そういう規模な訳ね、やっぱり。
「サンジが面接して決めたっていう、ちゃんとした管理の人がいるから、普段の世話とかは心配要らないって。勿論、不動産税っていうやつも、先払いってやつでとりあえず50年分は処理済みだって。使う直前、2、3日前に管理人さんに連絡を入れなさいって。」
「…やっぱり?」
 ロロノアさんの苦労は絶えないようです、はい。



  〜Fine〜  02.3.22.〜4.30.


  *お騒がせお兄さん、サンジさんの逆襲。
   いつの間にか立派な
(?)シリーズと化しております『蒼夏の螺旋』ですが。
   ウチの唯一のパラレルが"サゾル"だってのが何ともはや…。
   ますますややこしいサイトになってくようでございます。
(笑)


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