フルトヴェングラー資料室

フルトヴェングラーこの1枚


[shin-pHPフレーム版] ●F資料室について

戦前・戦中のディスクから


○1943年11月3日(10月31日)ベートーヴェン/交響曲第7番 BPO 旧フィルハーモニーホール RRG収録→1945年ソ連軍接収→1989年SFB返還→DG427 755-2('89)→メロディアM10ー49727('93)
▽LP時代は録音も悪く、終楽章の管楽器の咆哮がなんとなく「狂ったヒトラー帝国」を思い起こさせるようなヒステリックさであまり好きではなかったのだが、SFB返還のテープ(実際にはマスターテープのコピー)から作ったDGのCDでは細部がよくわかるようになり、印象はかなり変わった。(自分も10歳年をとっていた!)特に2楽章は聴くたびに泣けてくる、特別な意味での名演。これだけ1つ1つのフレーズに思い入れをした演奏は、巨匠の全記録の中でも見つけられないだろう。そして、この演奏は「戦争」を避けて語ることはできない。最近私はNHKの海外ドキュメンタリーでドイツのTV局が作った「ヒトラー」を見た。ヒトラーは美大生を志したが、2度失敗した。そして自分が支配者になった後は自分の好む芸術のみを「真の芸術」と強制したそうだ。しかし、音楽に関しては、ナチスの支配者たちも何をもって「ナチスの音楽」とするかはわからなかったようだ。(確かに、ワーグナーの楽劇あたりには効果があがるものも多そうだが・・)2楽章が「反体制」4楽章が「体制」という簡単な図式ではないだろうが、それほど2楽章と終楽章の聴いた後の印象には異なる種類のものがある。いい悪い、好き嫌いでは語れない、歴史の大きな証言者としての「第7」である。 1943年11月3日のディスコグラフィーへ


戦後のディスクから


○1951年10月27日 ブラームス/交響曲第1 北西ドイツ放送響 ハンブルク・ミュージック・ハレ NDR(北西ドイツ=現・北ドイツ=放送)収録 仏フ協会SWF8201-2('83)→レジェンド・オブ・ミュージック(日本ビクター'84=LP)→TAHRAFURT-1001('94)
▽52年のBPOに比べると熱気はあるものの音楽的には落ち着いた印象が残る。切れのあるアクセントよりは温かいメロディーを聴かせるブラームスといえる。このブラームスは「イッセルシュテットがブラームス1番をこのNDR響と演奏したものに酷似している」という演奏評を読んだことがある。確かに巨匠が手兵のBPOと演奏したものに比べれば他人行儀だし、このオケを育てた(72年まで)イッセルシュテットの影響を感じさせる場面もある。しかし最後まで音楽の造形を崩さずに、それでいて巨匠のエッセンスを所々に覗かせて演奏していることから、WF・ファン以外の方にも安心して聴いてもらえる名盤ではないだろうか。レジェンドオブミュージックのLPでは今一つの音質だったが(CDは未聴)THARAのCDは音質がよく、繰り返し聴くだけのクオリティを持っている。レコ芸新譜評では「2楽章などで管楽器奏者が巨匠の指揮でハリキリすぎて、いただけない」という趣旨の評をしていたが、私にはそれほど気にならなかった。
1951年10月27日のディスコグラフィー
○1954年5月15日 モーツアルト/ピアノ協奏曲第20番 ルフェビュール(P) BPO ルガノ・テアトロ・アポロ スイス=イタリア語放送収録→EMI(LP)→エルミタージュERM120('93)
65年シェルヘンのベートーヴェン交響曲全集でもわかるがスイスの放送局の録音の水準は高い。WF関係でもこの最後の年(54年)のルツェルンの合唱の録音に圧倒されたが、このルガノのモーツアルトもピアノが透明で輝いており、弦の鋭く瑞々しい響きの録音には感動する。この演奏会の開かれたテアトロ・アポロ(Teatro Kursaal=アポロ劇場)については以前、NHKが小沢&ロストロポーヴィッチの共演の放送の際に余った時間で「ルガノ放送管」のモーツアルト/ピアノ協奏曲(確か21番だったと記憶するが・・)を放送していたことがあり、それがこのアポロ劇場からの中継録画だった。TVで見たところ、あまり広くない中規模の古風なホールで、客席も1つ1つの間が狭くぎっしりと詰まっているという感じだった。(実際行ったことがある方はメールください)そして肝心の演奏については、交響曲40、39番やアイネクライネなど巨匠の実力からすれば、どう考えても「不出来」としか言いようのない他の録音に比べて、(33年のフィガロは驚くほどの名演!)ほんとうに奇跡的な名演である。ピアノの独奏の部分では巨匠がメロディを口ずさんでいるのが聞こえる。当時ほとんど耳が聞こえなくなっていたと伝えられるが、ピアノのパートを自分で口ずさ(というより「うめく」という表現の方が合っている・・)みながら間を取って伴奏する様子は胸を引き裂かれそうな思いである。2楽章中間部の「せつない」旋律もすばらしい。私はモーツアルトでは特に「ジュピターの終楽章」が好きだが、この録音のようなすばらしさで聴けたらどんなにいいかと残念でならない。(それでも別の意味ですばらしい「ワルターのステレオ盤」が存在するのは不幸中の幸い?!)巨匠最後の年のレコード(CD)では、ルツェルンの「第9」の感動を上回る巨匠最高のモーツアルトだ。1954年5月15日のディスコグラフィーへ

以下次回更新をご期待ください
(今後は、51年のブラームス1番、26年の魔弾の射手などを掲載する予定です。ご期待ください!)
[shin-pHPフレーム版]
●F資料室について