●平成15年5月25日(日), 夜行日帰り ★ 総所要時間: 8時間40分 ★ ハイキング標高差: 776 m
日本の屋根・中部山岳において、三つの日本アルプスに次ぐ規模を誇り、知名度も高いの
が八ヶ岳連峰である。長野・山梨両県に渡り南北30km、東西15kmにおよぶ2000m級の山岳 の総称が八ヶ岳と呼ばれる。名前の由来には諸説があるようだが、一番わかりやすいのは山 麓から真横に見たとき、八つのピークがあるからだという説だろう。 その八つとは高い方か ら、赤岳(2899m)、横岳(2829m)、阿弥陀岳(2805m)、硫黄岳(2760m)、権現岳(2715m)、天狗 岳(2646m)、編笠山(2524m)、西岳(2398m)を指すそうだが、無論これだけではなく他に縞枯 山(2403m)、北横岳(2480m)、根石岳(2603m)、三ツ頭(2580m)をはじめとした多くの峰を含 み、北は蓼科山(2530m)までが、その仲間に入るそうだ。 その八ヶ岳連峰は、ほぼ中央に位置する「夏沢峠」を境にして北八ヶ岳と南八ヶ岳とに分け
られる。蓼科山から続く北八ヶ岳は穏やかな山容が特徴で、深い針葉樹林とコケの森。これに 対して主峰の赤岳を擁する南八ヶ岳では、荒々しい岩肌を特徴としたアルペンムードの漂う山 岳帯だ。登山に際して特に危険箇所の多い所は、やはり南側の赤岳、横岳、阿弥陀岳に集中 している。 ![]() 今回の「山登り」で選んだのは、ほぼ中央に位置する夏沢峠のやや北側にある「天狗岳」。
北八ヶ岳の一峰ではあるが、ちょうど南北八ヶ岳の両方の特色を合わせ持っており、二つの良 さを一つのコースで味わえるという、とても欲張りな山なのだ。その特徴は、この山の形にもは っきり表れている。 天狗岳は「双耳峰」とも呼ばれ、東西に二つのピークを持つ双子山の総称なのだ。南の特徴
(雄々しい岩肌を露出した山群)を持つ「東天狗岳」は、その赤い岩肌をむき出しにした岩峰か ら「赤天狗」。一方、北の特徴(苔むす針葉樹林と池の点在する山群)を持つ「西天狗岳」は、 頂上までハイマツが茂る穏やかな山容から「青天狗」とも呼ばれている。 なんだか、ややこしい話になってきたが(笑)、要するに、この山に登れば八ヶ岳連峰の魅力が
一度に堪能できるという事なのだ。 つまり、”インチキ山屋” お得意の、 ”オイシイとこ取り” … と、いう訳である。(^_^); しかしである。現実はそんなに甘くはなく、予定していた所要時間を大幅に超えてしまった。
長い急坂の岩場が多く、残雪の残った尾根道も歩きにくいし、我が家にとってはちょっとキツイ 山登りのコースであった。いや、今回は立派な「登山」と呼んでもいいと思う。 三人とも良く頑張った。特に、小6のマユが大人のペースで立派に完歩したのは、賞賛に値す
ると思う(〜親バカでしょうか?!)。 ![]() さて、前置きはこれくらいにして、全行程を振り返ろう。奥蓼科スキー場に近い「渋の湯温
泉」から周回する更に長いコースもあったが、起点として天狗岳登山口と銘打った「唐沢鉱泉」 を選んだ。標高1870mの鉱泉に建てられた山小屋風の宿泊施設で、もちろん日帰り入浴可。 登山後の入浴を楽しみに、唐沢鉱泉前の無料駐車場に車を止めて出発した。なお、鉱泉に至
る一本道の道路は、Pまでの手前約2kmが未舗装のダートコースである。 天狗岳周回の進行方向は、黒百合平に出てから東→西天狗岳の順で登り、西尾根から戻
るコースを採った。唐沢鉱泉の正面を過ぎ、唐沢に沿って歩いて行くとすぐに鉱泉の源泉が現 れた。湧き出した鉱物が積もり、目の覚めるような美しい黄緑色の分厚い苔と、白い湯の花と が日本庭園のように見事な池を造形し、そこに極めて透明度の高い鉱泉が滾々と湧き続けて いた。 ![]() ![]() 残雪と苔むす岩の、静かな樹林帯を進む 黒百合ヒュッテ前、天狗の奥庭登山口
唐沢から離れて登山道を先に進むと、ダケカンバやシラビソなどの原生林からなる静かな樹
林帯に入った。所々に雪が残っており、それが氷化して大変すべりやすくなっていた。苔むした 岩と、尾根で構成された長い登り坂が続く。90分弱で、唐沢鉱泉分岐点を通過。渋の湯方面 から登ってくる道と合流し、更に登り続けると、1時間ほどで森林限界を過ぎ、明るく開けた「黒 百合平」(2390m)に出た。ここまで誰にも会うことがなく、薄暗い樹林帯の登山路では何か大き な動物に出会いそうな雰囲気もあった。 黒百合ヒュッテまで来ると正面に大きな残雪の丘があり、ひととき目を奪われたが、ここで
長い休憩をとることにした。ヒュッテを利用したと思われる人たちが、外で何組かくつろいでい た。ここは、その名のとおりクロユリが群生する名所だそうだが、まだ時期が早い(7月上旬ごろ からとの事)。ちょっと小腹が空いたので、ヒュッテで「おでん」を注文した。これがまた、実に美 味い!! 感激ものだった。 ![]() ![]() 中山峠より、左側が東天狗岳(赤天狗) 黒百合平と天狗の奥庭を見下ろす
ここから東天狗岳に向かうには、先ほどの残雪の急坂を登って「天狗の奥庭」と呼ばれる台
地上の岩場に上がって「スリバチ池」経由で、ハイマツと岩が累々とする中を進むコースと、中 山峠から稜線上を進むコースとに分けられるが、ここでは多少の時間を稼げる後者のコース を採った。 ![]() ![]() 東天狗岳とその東側壁斜面 東天狗岳へ向かう稜線コース
黒百合ヒュッテからキャンプ指定地を通過して、約5分で中山峠に出た。ハイマツの中にある
岩道を登ると、見晴台から天狗岳の見事な双耳峰がドーンと視界いっぱいに入る。まだ距離 はあるが、いよいよ目的の地が眼の前に現れた事により、俄然と登頂意欲が増してきた。 この稜線コースは、眼の前を遮る物がなく見晴らしがよい。目指す山頂が見えており、次第
に近づいていく様子がわかるので、長くてキツイけど励みになって頑張れる。岩とハイマツ、急 坂に雪… と、ザレた所を注意深く歩き、やがて奥庭からの道と合わせると山頂が近い。 最後に岩礫の急斜面をよじ登り、ようやく東天狗岳山頂(2640m)に到着した。
![]() 達成感と相まって、頂上の風は実に気持ちがいい。ここからの展望は北八ヶ岳第一だそう
で、連峰の中央に位置しているから、南北の八ヶ岳全体を展望できるのは勿論。さらに、北・ 中央・南アルプスの高峰群もぐるりと展望できるビューポイントとなっている。 残念ながら当日は、天候は良かったが雲は多めで、特に北側の山が殆んど見られなかっ
た。しかし、南側の視界は比較的よく、アルペンムードたっぷりの南八ヶ岳の主峰群が、大迫 力で眼前に迫っていた。更にその奥の雲海の中から、南アルプスの北岳、甲斐駒ヶ岳と思わ れる高峰群も頭を出していた。 そして、すぐ隣に兄弟分の西天狗岳がある。本当に隣とは全く対照的だ。天狗岳の本当の頂
上は6mの差で西の方(三角点がある)なのだが、東のピークが縦走路コース上にあるため、登 山者でにぎわっており、人気も高い。ここの立て札にも「天狗岳頂上・2646米」と記されていた。 ヘンなの…、と思ったが、まあ確かにこちらの方が山頂っぽいか?! ![]() ![]() 東天狗岳・山頂(2640m) 対照的な西天狗岳を背にして
しばし休んだところで西のピークへ向かう。急坂の岩を下って、雪の残る西の斜面を登り返
すと、20分ほどで西天狗岳山頂(2646m)に到達した。こちらも展望は良いが、確かに訪れる人 は少ないようだ。平坦で静かな山頂で、のんびりとした雰囲気だ。 だが、かなり予定時間をオーバーしており、ゆっくりしている時間はない。足早に西尾根方向
へ下る。ところが、こちら側の斜面は大きな岩がゴロゴロした急勾配で、一つ一つの足場も遠く 難儀する。かなり慎重に進んだが、逆コースでこれを登ることを想像したら、一気に疲労がこ み上げてきた(笑)。 ![]() ![]() 西天狗岳・山頂(2646m) ハイマツと大岩がゴロゴロした急坂を下る
![]() ![]() 西尾根から、西天狗岳を振り返る 第一展望台(2416m)
あとは、西尾根をひたすら下るのみだが、これもけっこう長いコースだ。第二展望台を過ぎ
て、森林限界点の第一展望台(2416m)に着く。いずれも展望は極めて良く、下ってきた西天狗 岳が大きく迫っている。ここで南八ヶ岳の雄姿を見納めして、森林帯に入って行く。 滑りやすく雪の残る尾根道は歩きにくいし、疲れも出はじめていた。果てしなく続くかのような
林の道を2時間近く歩いて、ようやく唐沢の音が聞こえてきた。そして、最後の丸木橋を渡って 唐沢鉱泉に戻ってきたのは、すでに16時。 いや〜、疲れた。みんな良く頑張った。発する言葉は、みな一緒!! 「早く温泉に入ろうー!!」(笑)
すぐに荷を整え、唐沢鉱泉の日帰り入浴を利用した。疲れていたことを差し引いても、この
温泉はとても気持ちよかった。もっとゆっくりしたかったのだが、1時間ほどで引き揚げ、帰路へ 急いだ。ここは次の機会に是非、また利用したいと思った。 ![]() 今回のコースは、事前に調べた雑誌や初中級者向けのガイド本などでは、歩程5〜6時間程
度で、関東日帰り圏内の「一般向けコース」として紹介されていた。また、ネットで検索した登山 紀行文の中には半日コースとして紹介されたものもあった。歩程時間には休憩を含まないとし ても、実際に歩いたものとは大きな時間差がある。よっぽど、山慣れした人の数字ではないだ ろうか。唐沢鉱泉にあったパンフレットの中では、約8時間の一日コースとして紹介されてい た。一般的には、こちらの方が正しいというか妥当であり、これは「健脚向けのコース」だと思 う。 教訓として、ガイドなどに記載された所要時間には、相当のズレを含む場合があるという事
と、一般の人の紀行文などを参考にする場合も、筆者のレベルが自分達と比べてどうであるか を、良く見極める必要があると思った。もちろん、天候や体調の変動を考慮に入れた、ゆとり のある計画を立てるべきであることは言うまでもない。 2003.5.28(記) ![]()
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