KISO-KOMAGATAKE
宝剣岳 (2931m)

千畳敷カール

木曽駒ヶ岳 (2956m)
  千畳敷カールと宝剣岳
平成15年8月22日(金)〜23日(土), 現地1泊2日
   ★ 総所要時間: 7時間30分  
   ★ ハイキング標高差: 344 m 
  行程行程・ハイキング
  行程ルートマップ


 長野県南部の伊那谷木曽谷の間、南北約90kmにわたり屏風のように連なっている山脈
が、中央アルプス(木曽山脈)である。その最高峰で盟主ともいえるのが、北端に位置してい
木曽駒ヶ岳だ。日本百名山の一員で、駒ヶ岳(本岳,2965m), 中岳(2925m), 伊那前岳
(2883m), 宝剣岳(2931m)などの総称である。
 伊那谷を挟んで向かい合っている南アルプス甲斐駒ヶ岳(2967m)が、甲斐駒とか東駒と
呼ばれるのに対して、こちらの駒ヶ岳は木曽駒または西駒と呼んで区別している。全国各地に
数ある駒ヶ岳の中でも、この両山は正に将棋の駒でいう 飛車・角 に相当するのではないだろ
うか。(!?)

         
               千畳敷カールと木曽駒ヶ岳(宝剣岳 :中央のピーク)

 木曽駒ヶ岳は本岳よりも、駒ヶ根高原側に広がる千畳敷カール(圏谷)と、そこから天を突く
ようにそびえる岩峰・宝剣岳が織り成す絶景のほうが、一般的には有名である。それは、
2612mもある千畳敷までロープウェイが架設されているおかげで、誰もが簡単に行く事ができ
る一大観光地となっているからだ。
そんな訳で3000m級の高峰でありながら、千畳敷から駒ヶ岳〜宝剣岳へと登っても、日帰り登
山が可能なのだ。つまり、究極のインチキ山屋向けコースと言える(笑)。 だが今回は、ゆっくり
行動したいのと "日本一高所にあるホテル" に惹かれて、山小屋ではなくホテルを利用して
の、"快適な高山一泊コース" (!?) を選択した。

 ところで、カール(圏谷)とは、かつての氷河跡である。長い歳月を費やして、氷河によって削
り出された すり鉢状の地形を指す。千畳敷のカールは、約2万年前の氷河拡大期に形成さ
れたと言われている。
 大人気の観光スポットでもあるので、シーズン中は大混雑となり8分のロープウェイに乗る為
に2〜3時間の人渋滞(待ち)が発生するとの事だったので、前夜にママの実家(山梨県小淵沢)
に泊まり、早朝から行動する事にした。

        八丁坂分岐より、千畳敷駅(ホテル)

 朝5時に出発して、約1時間で起点となる駒ヶ根高原に到着。菅の台から先はマイカー乗り入
れが禁止されているので、登山バスに乗り換えて約30分で、駒ヶ岳ロープウェイしらび平駅に
到着。金曜日で、まだ時間が早いせいか、混雑はしていたが、比較的スムーズに乗り継ぐ事
ができた。このロープウェイは、950mもの標高差を秒速7mの速さで一気に駆け上り、2612mの
千畳敷へ7分30秒で運んでくれる。いずれも日本最高記録の保持者だ。そして、終点の千畳敷
駅舎がそのまま「ホテル千畳敷」と一体になっている。
 この時点で、まだ午前7時30分前だというのに前回の「唐松岳頂上山荘」と、ほぼ同じ高さに
立っているのだ。なんと、インチキな山登りであろうか‥(笑)。

             
              千畳敷より、南アルプスと富士山(中央奥)を望む

 冷夏といわれた今年(2003年)だが、二度目の梅雨明け(?)直後で、天気は最高である。ロー
プウェイの車窓からも見えていたが、雲海に浮かぶ南アルプスが遠くまですっきりと見渡せ、中
央には富士山も頭を出している。そして駅を降りた正面には、千畳敷カールが目前に大きく広
がっており、素晴らしい景観だ。山頂方面にもガスや雲がないので、変わりやすい山の天気が
ヘソを曲げないうちに山登りを決行することにした。

    
         八丁坂の急坂を登る             稜線凹部の乗越浄土まで、あと少し

 まずはカール内の奥の登山道を北上し、八丁坂分岐点へ出る。ここから八丁坂と呼ばれる
急登が始まり、頭上に見えている稜線上の凹部(乗越浄土)に至るまでの長い急斜面を、ジグ
ザグに高度を稼ぎながら登っていく。当然、すでに森林限界を越えているので今回の山登りで
は陽射しを遮る物がない。汗だくになって、ようやく稜線に出た所が、広大な尾根の乗越浄土
(2853m)である。涼風が気持ちよく、一段と高い場所から見た南アルプスの景観も美しい。

          乗越浄土(2850m), 後ろは伊那前岳

     
          乗越浄土から、宝剣岳                 中岳へと向かう

 宝剣岳も間近に迫り、右手には伊那前岳への稜線も続いている。そして、ここに上がって初
めて中岳が姿を見せるが、駒ヶ岳の山頂(本岳)はちょうど中岳の裏に隠れていて、まだ見る事
ができない。
 小休憩の後、乗越浄土から宝剣岳方向に進み、宝剣山荘裏手の展望台に出た。ここでルー
トは二手に分かれ、左が宝剣岳、右が中岳と山頂へのルートだ。まずは、丸い形の中岳へと
向かう。ロープの張られた砂礫の道を緩やかに登っていくと中岳の山頂(2925m)に着く。

    
         中岳・山頂(2925m)            中岳山頂より乗越浄土方面を振り返る

         中岳山頂より駒ヶ岳(右)、左奥は御嶽山

 山頂には、大きな岩場があり、ここからの眺めも360度、良好だ。そして、ここではじめて駒ヶ
岳が、その穏やかな山姿を見せてくれる。その奥には、木曽の御嶽山(3067m)の大きな姿も見
えるし、振り返ると宝剣岳から空木岳へと続く中央アルプスの展望も良好である。
 中岳からは、いったん下って駒ヶ岳との鞍部に下り、再び正面から駒ヶ岳本峰へと直登す
る。駒ヶ岳・山頂(2956m)は広くなっており、伊那と木曽、二つの社の奥ノ院が並んで建ってい
る。勿論、頂上からの眺望は、天候も幸いして実に素晴らしかった。
 南アルプスに加えて、御嶽山や、北アルプス乗鞍岳槍・穂高連峰をはじめとする高峰
群。浅間山に、八ヶ岳連峰。遠くは加賀白山に至るまで、中部日本を代表する第一級の山岳
が、360度の大パノラマとして広がっていた。

    
          駒ヶ岳・山頂 (2956m)         山頂より、乗鞍岳(左), 槍・穂高連峰(右)を遠望

 駒ヶ岳からの復路は、中岳との鞍部まで戻ったあと、中岳を乗り越えずに巻道を通った。こ
のルートは「危険」の表示があるように、一部に切り立った崖を通過する箇所があるので、充
分に注意しながら進む。確かに下を見ると、渓谷に引き込まれそうな感じがして怖い。確実に
足場を確認しながらこれを乗り切ると、中岳を過ぎて先程の宝剣山荘裏手まで戻った。

    
      中岳の巻道、宝剣岳が見えている            巻道の危険箇所を通過する

    
       巻道を抜け、宝剣岳を望む               いよいよ、宝剣岳に向かう

 しばし休憩した後、呼吸を整えて、いよいよ難所とされる宝剣岳 (剣ヶ峰, 2931m) へと向か
う。ここは完全な岩稜の道で、危険な鎖場があり転落事故も数多く発生しているので、先の巻
道以上に注意が必要だ。少しでも恐怖を感じたり、危険を察したら、たとえ頂上を目前にしても
引き返す事を確認して、奇岩・天狗岩の左側から登りはじめる。さすがに登ってくる人の数は
少ない。
 少し下ったところで、山頂部の岩壁に取り付く。三点支持のスタンスを忠実に守り、赤ペンキ
の矢印に従って一歩ずつ慎重に登っていく。山頂直下の最も危険な鎖場をクリアして、極めて
狭い岩峰の頂に三人とも無事に登頂した。

    
        宝剣岳山頂部の岩壁を登る           山頂直下の危険な鎖場を慎重に渡る

    
        宝剣岳(剣ヶ峰)・山頂(2931m)            宝剣岳山頂の最頂部に立つ

 真下には千畳敷カールとホテルが、とても小さく見える。さっき、八丁坂の下から見上げた時
に、まるで天を貫くように尖って見えていた宝剣岳の、最先端に立っているのだと思うとゾクゾ
クしてきた。ママは、例によって膀胱がキュッとしたそうだ(笑)。無論、ここからの眺めも最高で
あるに違いないが、落ち着いてゆっくりしていられる場所でもない。一息ついたところで、早々
に下山する。
 ここから更に、南側(空木岳方面)へと尾根伝いに降り、極楽平を経由して千畳敷に戻るルー
トもあるそうだが、そこは極めて危険な痩せ尾根であり、遭難事故による悲報の絶えない所だ
という。もちろん、これ以上の冒険(挑戦)は無謀である。登ってきた足跡をたどって着実に引き
返すことにした。むしろ、下りの方が危険であり、更に慎重に進まなければならないからだ。
 なんとか無事に、乗越浄土の手前まで戻ることができた。極度の緊張が和らいだところで、
三人とも必然的に腹が減ったので、ここで昼食をとることにした(笑)。フー!!

    
    宝剣岳山頂より、千畳敷カールを見下ろす     山頂より、極楽平と空木岳方面への主稜線

 充分に休憩をとったところで乗越浄土に戻る。まだ時間的にも余裕があったので、伊那前岳
にも登ってみることにした。緩やかな坂の稜線ルートで、標高差もさほどないので気楽に進む。
途中、和合山(2911m)のピークを越えて、先に進んだところが伊那前岳(2883m)だが、山頂を
示す道標が何もないので、知らないうちに通り過ぎて記念碑の建つ「勒銘石」に到達した。
 帰路は、同じ道を元に引き返すわけだが、宝剣岳を正面に見ながら左側に千畳敷カールを
見下ろして進むこのルートは、とても気持ち良く歩ける道であった。

    
   乗越浄土から伊那前岳(2883m)へと向かう         伊那前岳より、宝剣岳方面

 ふたたび、乗越浄土に帰ったところで駒ヶ岳に別れを告げ、八丁坂の急坂を下って千畳敷に
戻る。長く滑りやすい砂礫の急坂は、登りよりも下りの方が足にこたえる。千畳敷駅(ホテル)に
辿り着いたときには、足がクタクタに疲れてしまった。

 午後2時、まだ早かったが、ホテルのチェックインを済ませて早速、部屋に入る。下界にある
立派なホテルとは比べものにならないが、少し狭くても "個室" である。布団も快適だし、騒音
も少ない。そして何よりも、このホテルは日本一高い所に建つホテルであり、全室の窓から千
畳敷カールと宝剣岳の絶景が丸見えになっているのだ。
こんな贅沢な時間はあるまい‥‥と、ミョーに悦に浸った 我ら "超インチキ山屋" は、
ナント!! この後。 窓の景色を眺めながら、三人揃って昼寝をしてしまったのだ!! (笑)。

         千畳敷駅前より  (ホテルの窓からもこの景色が見える)

 4時ごろ、小腹が空いたので散歩がてら外に出て、ホテルに併設されている野外デッキのあ
る喫茶店に入った。絶景を見ながらのコーヒーは格別においしい。すぐ横が、ロープウェイの
発着駅でもあるので人が多い。特に、この時間帯は下りロープウェイの順番待ちが発生してお
り、整理券をもった人達であふれ返っていた。一泊二日の日程にしたのは、あらゆる意味で正
解だったと思う。
 水が貴重な山頂のホテルでは、風呂の時間も5時から9時までに限定されている。5時すぎ、
待ちわびた宿泊客達が夕食前の入浴を狙って一斉に風呂に繰り出した為、狭い風呂場が混
雑した。まあ、風呂に入れて汗を流せただけでもマシか(!?)。
 外は、夕暮れ前あたりから次第にガスがかかり始め、残念ながら夕焼けに染まる宝剣岳の
姿は見られなかった。また、夜の星空にも期待していたのだが、こちらも残念であった。

 翌朝、5時24分頃。南アルプス方面の空からご来光を眺める。少し山の陰になってしまった
が、雲海に浮かぶように見えるアルプスの稜線が、オレンジ色に浮かび上がって美しかった。
ちなみに、ここでは元旦の日の出が、ちょうど富士山の山頂から上がるそうで、ご来光ツァーで
も賑わうそうだ。

           翌早朝、南アルプス方面からご来光

 朝食を済ませてホテルを出る。今日も朝から良い天気である。早朝5時台の始発ロープウェ
イから、次々と観光客や登山者達がたくさん登って来ている。土曜日でもあるし、大混雑が予
想される。
 我らは、昨日のうちに山登りの方は済ませているので、千畳敷カールの遊歩道をゆっくりと
散策することにした。中央の広場にある剣ヶ池を通る、一周約1時間のコースが設定されてお
り、高山植物の宝庫であるカール内のお花畑を巡る。花のピークはすでに過ぎてはいたが、幾
種類もの小さな花たちに出会えた。また、朝日に照らされた千畳敷と宝剣岳も、色が鮮やかに
映えてとても綺麗だ。元々、夏の駒ヶ岳は花崗岩の白い岩肌とハイマツの緑とのコントラストが
とても美しい山岳なのだ。後方に広がる南アルプスも、真っ白い雲のじゅうたんを敷き詰めた
ようで、一段と美しい。

    
       千畳敷カール、剣ヶ池広場           南アルプスと雲海を背に、お花畑を巡る

 一周して、千畳敷駅に戻ったのはまだ9時前だったが、下り線が混雑する前に早々に引き揚
げることにした。とても名残惜しかったが、天候にも恵まれ、我らにしては充分に堪能できたと
思う。超満員の上り線を横目に、ゆとりの下り線は快適であった。下山のバスも、殆んど待つ
事なく、空席を残した車内でゆったりと、良い気分のまま山を降りることができた。
おまけに、バスでの下山途中に「カモシカの滝」と名づけられた場所があったのだが、ちょうど
その辺りの所で、車道を野生のカモシカが横切ったのだ。道路脇の林の中に駆け上がり、しば
らくバスの方を見ているではないか。バスの運転手さんも気を配ってくれ、カモシカが見えてい
る間、停車してくれた。けっこう人馴れしているようにも思えたが、子供達は大喜びだった。

                 野生のカモシカに遭遇

 余裕の日程で、菅の台バスセンターに到着。マイカーに乗り換えて、登山用の身支度を解
き、早速、地元の日帰り温泉に向かう。この地、信州駒ヶ根高原には早太郎伝説なるものが
あって、その名をとった早太郎温泉がある。駐車場所から僅か5分の所にある早太郎温泉
「こまくさの湯」を利用した。

 この麓からも、中央アルプス・駒ヶ岳(千畳敷)が良く見える。この地は、反対側に南アルプス
も遠望できるので、東西の二大駒ヶ岳を一緒に見る事のできる、とっても贅沢なところだ。そん
な訳で、こまくさの湯では、男湯と女湯をそれぞれ「東駒の湯」、「西駒の湯」として、1ヶ月交代
で運用しているという。最後まで、駒ヶ岳のように雄大な気分で温泉に浸かり、アルプスの里・
駒ヶ根高原をあとにした。

       麓の駒ヶ根高原より

                                                         (2003.8.30 記)
立寄り温泉情報


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