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保育リスクマネジメントにおいて記録を取ることは、単に記録しておくことではなく、実践したことに対する改善や検証を目的としています。また、あるクラスで起こったこと、ある保育者のミスで起こったことなどを本人の記憶・記録にとどめるのではなく、施設全体として、これまで積み重ねてきた検討したこと、実践したこと、改善したことなどを共有する目的も存在します。
では、報告書を様式を検討するにあたって、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?当園で現在活用している報告書(インシデント・アクシデント報告書Ver11)を基に詳しく解説いたします。
当園の報告書の様式としては、大きく分けて5つの項目が存在します。
今では同じような報告書の様式を検討し、作成している施設も多くありますが、当園の報告書の大きな特徴は「1ヶ月後の状況」を記す点です。この項目は当園オリジナルであり、様々な問題を解決するにあたって出てきた課題を解消するために設けたものです。
また、報告書の名称の脇に「Ver11」とありますが、これは既に最初の報告書様式から10回も変更していることを意味しています。
現在、私たちは保育リスクマネジメント実践に関する研修会の講師を務めることも多くなりましたが、参加者からのご相談の中に「報告書を変更せずにそのまま使っている」ということを耳にします。しかし、報告書を最初に作成した保育の状況と、報告書を活用し続ける状況は必ずしも同じとは限りません。
私たちが報告書を最初に作成したのは平成22年でしたが、その間に法制度も変わり、保育所保育指針も変わり、更には内閣府が「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」を定めたりするなど、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変わります。
最初に作成した報告書で満足せず、活用していくにあたって使いづらい点や、より活用しやすい点などがあがれば、積極的に修正・加筆していくことをお勧めいたします。
ここからは具体的に大きな5つの項目について詳しく解説していきます。
まず、発生時の状況ですが発生場所や報告者(報告者の経験年数)などを記す必要がありますが、その他に以下の内容について検討してみると良いと思います。
報告した報告書が何を対象としているのか?そして、どれぐらい危険度が高いのか?といったことを報告者の主観で判断します。当園では「インシデント」と「アクシデント」という名称で分けていますが「ヒヤリハット」や「子どもの怪我」「事故」などに分類しても良いと思います。
さらに危険度レベルについても報告者の主観で判断します。
後ほど説明しますが、報告者の主観と客観的な視点を同じ報告書に掲載することで、報告者自身の主観を見直すきっかけにもつながります。このような報告書の種類、レベルを掲載する際は、必ず客観的な判断を掲載できるようにしましょう。
ヒヤリハットなどが発生した日時を多くの報告書では記していると思いますが、報告書を報告した日付もあった方が良いと思います。発生日と報告日に大きな差がある場合は、報告する流れや各担当者に何らかの問題が発生している可能性も考えられる。という問題を表出させることにつながります。
どのような場面においても保育士の人数が国の配置基準を下回ってはいけませんが、配置基準を満たしているからと言って怪我や事故が発生しないとは限りません。また、子どもの人数が多いからと言って、怪我などが発生しやすいとはいえません。様々な発生条件を分析する上においても子どもの人数や保育士(者)の人数を把握しておく必要があります。
ちどり保育園の報告書では備品、環境設定、怪我、食事、移動、与薬、忘れる・間違える、対応の不備、その他と9項目に分け、それぞれの細かな種類を選択するようになっています。しかし、この9項目はちどり保育園で起こりやすい事故の種類ですので、他の保育園で同様の項目である必要は全くありません。
保育リスクマネジメントを実践し始めの施設では、予め事故の種類を決めておくのではなく、報告者にある程度自由に記述してもらうことも良いと思います。
ちどり保育園もリスクマネジメントとして取り組む前は上図のように記述のみの報告書様式でしたが、使い続けるうちにある程度報告される事故、怪我の種類に傾向が現れ、その結果、現在の報告書に記されている「事故の種類」に至っています。
最初から当園で現在使っている報告書と同じような報告書を整えて実践するのも良いですが、使い慣れていない保育士が見ると「難しそう・・・」と感じてしまう可能性も考えられます。(現に他施設へ当園の報告書様式を見せたところ、門前払いされました)
少しずつ必要に応じて、項目を増やしたり、加えたりすればよいと思いますので、その施設、使用する、報告する職員の資質にあった報告書様式を整えて頂きたいと思います。
事故の種類でチェックした種類の詳しい内容を文章で記します。例えば、右図は事故の種類としては「忘れる・間違える」の「その他」にチェックされた報告の概要となります。
ホームページをご覧いただいている保育士や施設長の先生方にとっては「こんなことまで報告するの?」と思われるかもしれませんが、このような“些細な忘れたこと”も重大事故へ繋がらないとは言い切れません。
しばしば「どういった怪我だったら報告した方が良いですか?」というご質問を頂きますが、残念ながら明確な答え、報告する/しないの線引きについてはお答えすることが出来ません。どういった事例が重大事故につながるか定かではありませんので、どうしても保育リスクマネジメントの責任者(詳しくは報告の流れで解説)の判断、能力にとるところは大きいと思います。
Ver11の報告書より、原因分析の概要は5段階評価で記すようにしています。
これまでは「ゆとりがない」「注意力がない」「緊張していた」などの該当する項目にのみチェックする方式でしたが、「ある、なし」の2段階では測れない報告も実践していく中で課題として挙がり始めました。そこで5段階評価を取り入れ、数字が5に近づくほど“よくない”傾向とするため、質問の形式を工夫しています。
まだ、報告書数が少ないので統計結果を得ることが出来ませんが、5段階評価をスコア化し、ある一定以上の点数となった報告については“要注意”などと判別できるようにする方向です。
事故の種類と同様に原因分析を単にチェックするだけではなく、文章として纏める箇所も作成しています。
例えば、上図の報告は月案の提出が期日までに間に合わなかった報告の原因分析です。
これまでの該当する項目にのみチェックする方式であれば、この報告書を書いた保育士はおそらく「ゆとりがない」「「注意力がない」「思い込みはない」といった項目にチェックをしなかったと考えられます。しかし、5段階評価としたことで「ゆとりがある」には3、「注意力がある」には2をチェックしていることから、「ゆとりや注意力はあるかもしれないけど、他の先生から指摘されたらそうでもないかも・・・」といった心情を読み取ることが出来ます。
分析の項目などについては改善の余地がありますが、5段階評価を取り入れることで、より報告者の心情を知ることに繋がると考えています。
今後の対策についてはチェック項目などなく、上図のように文章で記すのみです。
本報告書を活用するにあたっての注目点の一つが、園長の評価を記すことです。今後の対策の下部へ「園長記入欄」がありますが「緊急性」「重大性」「頻度」「危険性」などを5段階で園長が評価します。この園長の評価と自己分析の評価(危険度のみ)に大きな差があった場合、報告者自身はもう一度報告書を確認し、再発防止策や今後の保育の進め方を検討するようにしています。
また、必要に応じて事故が発生した際の見取り図を記すことで、事故が発生した際の保育士の位置や“咄嗟に手が出せる”状況であったのかを視覚的に知ることが可能となります。もちろん、部屋だけではなく園庭などの見取り図を記すこともあります。
報告によって(保護者対応や電話対応など)は、見取り図を記さない場合もあります。
ヒヤリハットだけではなく、報告書のほとんどは一度書いたら、再度見直す機会を設けることはあまりありません。しかし、ちどり保育園のインシデント・アクシデント報告書は上図のように「その後の状況」を半ば強制的に報告するようにしています。
実践した再発防止策の効果がすぐに表れる場合もあれば、時間が経過することで現れる場合もあります。反対に時間が経過することで効果が薄れたり、逆効果をもたらしたりする可能性も否定できません。そのため、おおよそ1か月後を目安として報告者本人が改善されているのか?改善されていないのか?という自己評価を行います。併せて、客観的な意見としてリスクマネジャー、主任保育士、園長の評価を記すようにしています。
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講師・研修の依頼、見学に関するお問い合わせについては、おかげさまで近年多くのご依頼を頂くようになりましたので、専用ページ「講演・見学等依頼」を開設いたしました。そちらに研修会の内容やお申し込み方法など詳細を記しておりますので、ご確認下さい。
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